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これは本来考えていた話の、番外として書いた話です。本編の約五年前という設定で、主人公が本編の最初の方に出会う予定の人たちの話となっています。本編の方はまだ書いてないんですけどね。
それでは主と嘘つきとちょっとした運命(仮題)第一話です。続きからどうぞ。
あとタイトルセンスは無いですすいません。
主と嘘つきとちょっとした運命
活気づき値切りにかかる者と、少しでも高く買わせようとする者の間で、当の“商品”はただ静かに座っているだけだった。反抗するでもなく、泣きわめくでもなく、逃げ出そうという意志すら見せず、不幸な自分の境遇をただただ受容するだけで、自我の見えない、恐ろしいほど澄んだ瞳で、自分の売られていく様を呆然と映していた。
異常なほどに静かなモノと、反対に興奮しかけたモノ達の作り出す異様な空間─。それがここ、フルト帝国の帝都、ミラグにおける、定期奴隷市場の様子だった。
私は魔術師の名門エムブラ家に生まれ、帝都にある魔術師組合の養成機関で魔術師になる為の教育を受けてきた。そして、見習い期間を経て、明日からようやく一人前の魔術師となり、組合内に自分の研究室を与えられることになった。
だから私は、その前に、自分のすることになる仕事を見にここに来た。暫くすれば私にも与えられるであろう、その仕事を見に。
私が先程見ていた子─そう、商品達のほとんどは子供なのだ─は、売られることが決まったらしく、店員と客が連れ立って、この市場の所々にある、紫の垂れ幕で覆われた仮設所にその子を連れて行った。
その子はそこで、新しい主に絶対の服従を誓わされ、以後主の命令には逆らえなくなる。
そこはその為の儀式の場。
そして、その儀式を行うのは私たち魔術師。奴隷達の首に、戒めと服従の呪文を描き、呪を掛けるのだ。そうして奴隷となった者は、主に逆らうことが出来なくなる。逆らえば、掛けられた呪によって、激しい苦痛、もしくは死を、与えられる。そしてそれをコントロール出来るのは、呪を掛けた魔術師と主と定められた者だけ。
呪は主と奴隷との間に、一方的な絆を作る媒介だ。
客が求めるのは、大人しく、言うことを聞く、働ける“モノ”。だから奴隷商人達は、売りに出す前に、商品を大人しくさせる。大人は自我が強いと調教しにくいので、適度な年齢の子供を選んで連れてくる。国の外の、力ない小さな村々や国から―。
ふと、刺すような視線を感じて振り向いた。そして、その視線を放っている少年に気づいて、意外な思いで彼を見た。
その少年は、商品、すなわち調教されたはずの奴隷であったのだ。
その子は、その目つきの所為か、買い手のついていない様子だった。と言うより、むしろ避けて通られていた。
そしてその子の瞳は、私だけに向けられたものではなかった。
少年はは敵意のこもった眼差しで、この場にいる全ての人々を睨みつけていた。
その、青く深い瞳は、確かに悲しみに彩られていたけれど、他の子には無い、憤りと、決して諦めない、という意地のようなものがあったから、例え何度捕まっても、どれだけ苦しい罰を受けても、きっと逃げだそうとするだろうと思わせられた。
商人の方は、他の子を売るのに忙しくてその子のその瞳には気づいていないようだった。けれど、もし彼がそれに気づけば、その子がひどい目に遭わされるのは確実だった…。
明確な考えが頭に昇る前に、私の足はその子の方に向かっていた。
私が前に立つと、その子は思い切り私を睨んできたので、とりあえず屈んで微笑みかけてみた。
「ねえ、君…」
こんな風に話しかけられるのは、久しぶりだったのだろうか。その子はあからさまに戸惑った表情をした。
「名前は何ていうんですか?」
「……名前…?」
「はい、名前です。何ていうんですか?」
「……………ラキ。…ラキ・ティール」
不審そうなそうな顔をしながらも、とりあえず答えてくれたことに安堵しながら、私は続けた。
「私は、サフレイ・エムブラと言います。ラキ。私と一緒に来ませんか?」
ぼさぼさのオレンジの髪をしたその子、ラキは、そばかすの浮いた顔にきょとんとした表情を浮かべ、しばし私を見つめていた。
そうして、私がじっと待っていると、小さく一つ、首肯を返した。