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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 はい、学校が始まってからもう一週間近く経ってしまいました。相変わらず更新の期限が守れません。期限決めた意味がない! 次は守ります。 あぁ、そうそう、バイトがね、ついに決まりましたよ!
四月の初めに決まって、昨日で五回目のご出勤となりました。地元の飲食店のホールです。急に毎日が忙しくなって、もう体がだるいだるい。まぁ、季節柄ということもあるのでしょうが……。そして残念なのが、休息日になったはずの木曜日がなぜか一番だるいということ……。 だるい上に、何もやる気がしないのって、今までなら一日や二日続いても平気だったのになぁ……。忙しくなると、一日あるだけでしんどい……。誰か、木曜空いてないかな? お出かけじゃなくてもいいから一緒にお話しようぜぇー。一人ってすごく暇&寂しい。 みんな学校だからなぁ……、無理っぽいか。
  
 まぁ私事のことは置いておくとして、遅くなりましたが第七幕です。

 
第七幕   『おめでとう』と『ごめんなさい』
 
  ユウイの声に隣に座っていた二人も目を開けたらしい。デビは目を覚ましてすぐ自分の膝の上に、広辞苑が傷一つない状態であるのを見つけて、うれし涙を流している。ザラは辺りをキョロキョロと見回してから、火の消えてしまった蝋燭を見つめた。長い間燃えていたらしく、二人の蝋燭は溶けて、もう殆どないも同然になっていた。
「この蝋燭……」
「……消えてるってことは不合格って場合もあるな」
「なっ、なんでだよ? ちゃんと迷路ぬけたのに?!
「ギリギリの所で時間切れだったって可能性もあるってことだ」
 蝋燭を見ていたディアンがそう呟くと、横でザラがそれに答えるように呟き返した。そんなことになっていたら、本当にすべてが水の泡である。ディアンは恐る恐る、前に視線を戻した。教壇の上に座っているマサの表情が、やけに険しいように見える。それとは反対に、隣に立っているユウイは笑顔で、なにやら鼻歌を歌っているようにも見えなくもない。続いてその壇上の前に教師陣がずらりと並んでいて、その前には他の受験者が……。
「? あれ?」
「何班かいないな……」
 一列につき、三人ずつ座っているはずの前列(ディアン達は九班なので、前には八列ある)に、所々空席、いや空列があった。それが全部で四つある。これは一体どういうことなのだろうか……。
「あんた達、ぎりぎりだったのよ!」
 背後からの声に、パッと振り返ると「たく、心配させるんだから」と呟くレイがいた。
「でも良かったわね、どうにか間に合って」
「レイっ! それってどういう……」
「はいは~い。皆、前に注目~! やぁ、驚いたなぁ。まさか予定にしてた六班全部埋まっちゃうなんてね~」
 その時前方から明るい声が響いてきた。マイクも持っていないのに、大教室に響くユウイの声は、やはりどこか楽しげだ。そのユウイの言葉に、マサがマイクを取った。
「今この場にいる全員、試験合格だ。これだけ残るとは、案外やるではないかお前達」
「ご、合格……?」
 嫌味を含んだ笑みでマサがそう言う。ディアンの頭は一度フリーズした。決してそれが嫌だったわけじゃない。むしろ、嬉しいし、おおー!っと、騒ぎたくなるのだ。なんとなく先ほどのレイやユウイの言葉で分かってはいたし、デビやザラとでも手をとって喜びたい。しかし何故だが微妙に……嬉しくない。
「みんな~! 合格、おめでとうー! これで今日から、みんなも戦教生~! 明日に煌け! 夢に輝け! 未来の英雄は君達だ!」
「!」
 『おめでとう』。一番今、聞きたかった言葉だ。やはり、その言葉がないと合格したという感じが出ない。それ騒げ! とばかり、紙ふぶきを降らせるユウイに、静かだった教室は祭り会場のごとく騒がしくなった。わーと教室中のあちこちから歓声が上がるのにつられて、ディアンも思わず立ち上がっていて、気がつけば残った生徒全員(ザラ含む、幾人かはやってなかったけど)で万歳していた。ユウイも加わり非常に盛り上がっていたが、それを見るマサの目はとても冷ややかだった。さっさと事を進めたいのに、たかが合格ごときではしゃぎすぎだろうとか彼は考えているのだが、生憎誰もそんな気持ちは読めない。
 騒ぎが粗方落ち着いたころ、「では早速班決めを行う」と半ばユウイのことを睨み付けながらだが、マサは再びマイクを握っていた。「班メンバーは、試験前に言ったとおり、現在座っているメンバーが、これからもメンバーということになる」と、前へと席をつめた生徒、総勢十八人を前にマサは続ける。
「試験中、メンバー内で仲違いなどがあったなら、今なら変更が可能だ。そのような班はいたら手を上げろ」
 班それぞれのメンバー達が顔を見合わせる。どうやら、それらしいことがあった班はなかったようだ。ディアンはちらりとザラとデビを交互に見る。喧嘩をした二人が手を上げるかもしれないと思ったが、デビが一度ディアンの方を見ただけで、二人共手を上げはしなかった。
「ないなら、話を先に進めるぞ。 班の担当についてだが」
「超音先生……、あっ、超音ですか?」
「超音先生でも、マサ先生でも好きに呼べ。「様」はいらねぇ。で、なんだ?」
 話の途中で手を上げた生徒の一人にそう答えてマサが尋ね返すと、その生徒は「では超音先生、お聞きしたいんですが」と気をつけの姿勢をとってしゃべり始めた。
「この場所から消えた生徒ですけど、どういう理由があってそうなさったのか教えてもらえますか?」
「……ふむ。 確かに、説明するのが先だったな。忘れていた。どこかのバカのせいで」
「なんで僕のこと見るのさ~」
「なんてことはない。単純に、ここにいてもらったら追い出さなきゃならなくなるだろう? 後日合格者のみ通知みたいな面倒なことしていられるか。それに、元の世界に帰してやるとは言ったが、必ず同じ場所にとは言ってない」
 口を尖らせるユウイを無視する形でマサは話を続ける。ペーパーテストではなく、実技のテストなのだからその日、すぐに合否がでるのは当然といえば当然かもしれない。
「奴らがこの試験不合格だったのは、単純にゴールすることができなかった班が二班あったのと、残りは規則違反をやらかした班が二班。誰だったかな、あぁ、その後ろの赤茶の髪した女生徒。お前がメンチ切ったあの坊ちゃんだ。結局あの後、紙を交換しやがったらしい」
 指差されたレイは、「あぁ、そう言えばそんなのいたわね」という顔をし、ディアンとデビはあの時のカップルのことを思い出した。ということは、あの坊ちゃん一人が紙を交換したがために、他の四人も不合格になったのだろうか。
「確かに交換したのはその坊ちゃん一人だ。ならば他の四人は許せばいいのか? それは違うだろう? 交換に応じたやつ、それを止めなかった奴。結局は共犯と同じだ。止めてさえいれば、こんなことは起こらなかった。よって、全員不合格としたまでだ」
 そして、この場所ではなくこの世界の違う場所に試験後、送ってやったというわけだ。
まるで生徒の心を見透かしたように、マサは得意げにそう言うと、満足か? とばかり、質問をした生徒を見る。その生徒は、「じゃぁその不合格の生徒は今どこに?」と尋ねると、「職員室で説教中だ」という答えが返ってきた。
「ゴールに間に合わなかった奴らは単純に実力や運がなかっただけとして、些細なルールさえ守れん奴には必要だろう」
 他に質問はないかとばかり辺りを見回したマサは、なければ今日一番重要なことに移るといって指を鳴らした。パチンッ! という音とともに、ディアンのズボンから一枚の紙が目の前に飛び出してきた。試験前に配られたあの紙である。
「そういや、蝋燭も持たせたままだったな。回収する」
 そう言って再びマサが指を鳴らすと、左手に持っていた蝋燭と蝋燭立ては跡形もなく消え去ってしまった。目を丸くしたまま、ディアンは目の前の紙へと視線を戻した。一応知ってはいたのだ。超音マサが、超能力者であることは……。だが、やはりただ読んだり聞いたりするのと、実際目の前で見るのとは違う。実際、今も目の前の紙はまるで生きているかのように空中でひらひらと動いていた。
「何するのかな?」
 隣に座っていたデビは不安そうにそう呟く。紙にいきなり字が現れて、次はペーパーテストだとも言われかねない。その考えをディアンがデビに話すと、その隣にいたザラは「さっき担当がどうだと言ってただろ? さらにテストはありえねぇよ」と小声で返してきた。
「でも本当にそうだったら……!」
 ディアンが反論しようとザラに顔を向けたとき、目の前の紙に変化が現れた。何故か自分達の名前が、次々と紙の表面に浮き出てくる。そして、その下に大きくの字が現れると後には何も出てこなくなってしまった。
後ろにいたレイの前でも同じことが起こったらしく、息を呑む音が聞こえてくる。あちこちで同様の反応が起こる中、壇上の上にいるマサは「それがお前達の正式な班番号だ」と告げた。
「これから先、お前達を纏めて呼ぶときにはその班番号を使う。忘れることはないだろうが、忘れるなよ。 そして」
 言いながらマサがクイッっと指を動かすと、目の前にあった紙が壇上のほうへと飛んでいく。
「これが貴様らの担当ということになる」
 パチンッと乾いた指を鳴らす音と共に、前に並んでいた人の教師達の頭上へと落ち着いた紙は、三枚だった紙から一枚の大きな紙に変化し、何かがゆっくりと浮かび上がってきた。あれは……数字だ。その中に「」の番号が見えたところを見つけ、ディアンは唖然とした。
「名前を発表していこう。第1班、守元リーズ。第2班、輪超パズ。第3班、針闘コル。第5班、砂地サト。第7班、人影レム。そして第8班、南澪都真幸(なみおと まさき)」
 最後に呼ばれた自分の班、そして担当者の名前。ディアンは一度目を擦った。信じられなかった。あれが、あの人がそうだと……。まさか、当たってしまうなんて……。8の番号の下にいたのは、あの行方をくらましていた教師だった。いつの間に帰ってきていたのかなんてそんなことはもう今更過ぎてどうでもいい。どうしても、彼が自分達の担当だと認めたくなかったのは、その雰囲気と見た目だった。
 銀色の髪に隠れて目元と表情は分かりにくい。遠目からして少し小柄なようで、他に並んでいる教師達と比べれば頭一つ分くらいは小さい。そして問題の雰囲気は……、誰の目からみても分かるくらい暗かった。別に雰囲気は目に見えるものではないし、ディアンに人のオーラが見えるという能力があるわけではない。だが、感じるのだ。じめじめとした感じというか、暗い雰囲気を……。
「……か、変わった人みたいだね……」
 苦笑いしてそう言うデビの隣で、ザラはその教師をジッと睨み付けていた。
「以上がこれからお前達を担当することになる者達の名だ。しっかり覚えておけ」
 そう言ってマサが終わったとばかりマイクを置くと、それをサッとユウイが掠め取った。
「それじゃぁ、今からみんなにはこれから第五学年が使用する教室に移動してもらいまーす! 学校の授業は、主にそこで受けることになるよ~! あと、クラス担任と班担任は別に用意してあるからね!そんじゃサト、よろしく☆」
 久々に口を開けたことがうれしかったらしく、ユウイは嬉しそうな顔で手振りを加えながら話すと、ちょうど前の所にいた茶髪の教師・砂地サトにマイクを手渡した。ちなみにもなにもないが、デビの兄貴である。
「はいはい、マイク変わりまして。僕が第五学年のクラス担当、砂地サトだ。以後よろしく。君達の教室は、このちょうど真上だから先に移動してもらおうかな。詳しい話はついてからってことで」
 爽やかな笑顔でサトがそう告げると、生徒は一斉に席を立った。
 
 教室は二階のかなり広いスペースを使って作られていた。十八人の生徒と、六人の教師が入っても悠々としたスペースがあるほどだ。机といすは木製で、机の引き出しにはすでに教科書が収納されていた。
 班の番号順に座ってと言うサトの指示に従い、とりあえず最高尾の列に三人は座った。そしてその後ろの壁に、一言もしゃべることなくあの教師がもたれかかる。 ここに来るまでの間、何度かしゃべりかけてみたが反応はまるでなかった。
「さて、ここが第後学年の教室だ。これから君達のクラスでの活動では、僕が担当させてもらう。教える科目は社会ね。じゃぁ、僕の自己紹介はこれくらいにして、みんな気になってるだろう班担当の先生と、今から自由に話してください。そうだね、とりあえず自己紹介ってことで三十分くらい」
 教卓を離れ、自分の班へとサトが近づいていくと、途端に教室のあちこちで自己紹介を始める声があがった。
 ディアンは後ろを振り向いた。相変わらず担当になった真幸は、一言もしゃべらずうつむいたままだった。
「(なんなんだよ、この先生は……)」
「えっと、先生? 自己紹介しないでいいんですか?」
 ディアンが不満そうな顔をするのを見て、デビが真幸にそう尋ねるが反応はない。両目を閉じて、口を一文字に結んで、両手は黒い上着のポケットの中に入れたまま、微動だにしないのだ。
「……」
「……あ、えっと、僕たちから言った方がいいですよね? 僕は砂地デビって言います」
 デビはこの静かな空気をどうにか明るくしようとそう切り出し、横にいたディアンを軽く肘で小突いた。自己紹介をしろと言っているらしい。
 ディアンはする気などちっとも起きなかった(何せ向こうはこっちを見さえしないのだ)が、しぶしぶ真幸を見た。
「俺は守元ディアン。先生は知ってるかもだけど、俺の父さんも兄さんも兄ちゃんも戦教出の戦士なんだぜ」
 自慢げにそう語ってみるが、やはり真幸の反応はなかった。ちらりとこちらを見さえしないのである。
「なんなんだよ、先生! こっち見てくれたっていいだろ!」
 ディアンがそう怒声をあげても、やはり反応はなかった。
「……はぁ。……俺は人影ザラだ」
 ため息を吐いて、とりあえずという感じにザラが自己紹介を繋げる。やはり反応もなく……、いや反応はあった。と言っても、こちらの自己紹介が終わったのに気づいてやっと正面を向いただけというようだったが。それでもこれは進歩だ。チャンスとばかりディアンは口を開く。何か話しを繋げればもしくは……。しかしそうする必要はなかった。
「ご入学おめでとうございます。しかし、残念ですが俺は君達の担当を受け持つつもりはありません。 ……ごめんなさい」
 小さい声だった。それこそ聞き取れるか取れないかギリギリの小さくて低い声だった。それがやっと真幸から話された言葉だった。愕然として、三人は真幸をみる。目の下から鼻の先を覆うように二三回ほど、包帯を巻いた顔には笑みの一つもない。そしてやっと三人に向けられた瞳は、黒く変色したような緑で、まるで見ているとぶくぶくと沈んでいきそうな沼のようだった。
「……俺が言いたいことは以上だ、じゃなくて……以上です。君達の担当は、そのうち来ると思うので、それまでは代理、それ以降は「いなかったもの」として扱ってください」
光のないその目は何も映していない。それこそ、今目の前にいる彼ら三人の姿さえ。再び真幸は斜め右を見て俯く。三人に目を向けたのは、どうやら先ほどの台詞を言うためだったようだ。
「ふざけるな」
 ザラが低い、子供とは思えないようなドスの聞いた声で言う。ディアンがそちらを見ると、彼の紫の瞳はギロリと真幸を睨んでいた。鋭く、苛ついたようなその視線が、じっと俯いた顔を見やる。が、真幸は、意に介する様子なくまた黙り込んだままだった。目は、遙か遠い所を見ているに違いない。
「……無視する気か?」
「…………」
「それが教師の取る態度かよっ!」
 ザラがさらに責め立てるように真幸に突っかかると、真幸は反応して顔を上げた。
「……俺は担当でもないし、教師でもないです……」
「じゃぁ、なんだってんだ?」
「何でもない」
 先ほどと同じ、小さい声でザラに返答する真幸。その声は、先ほどよりもざわつき始めた教室内でさらに聞こえにくくなっていた。わざとなのか、元からそうなのか……。異様な声の小ささに、不思議そうに真幸を見ていたディアンは、次の真幸の声に目を見張った。
「俺は何でもない。それはつまり、存在していないということ。存在していないものに、役職などいらない。だから、俺はなんでもない」
 ざわついた教室内でその声だけははっきりとしていた。光の指していない瞳が、今だけは三人をしっかりと捉えていた。ディアンは向けられた目を、まっすぐ見ていた。正直な所、気味が悪かった。初めて会った人間に、こんなことをぶつぶつと言うような人間は見たことがない。世に言う変態か何かじゃないかと思った。大体顔の中心に、包帯を巻いた人間がこんなところに来るだろうか。まずその時点からして怪しいのだ。
 なのに……、今見上げている目は何かを伝えているような気がした。何かなんて分からない。そんなもの伝わるはずがない。いや、伝わるかどうか以前に……、ディアンはそれを知っていた。知っているのに、思い出せないのだ。
「新しい担当が来るまでの間は、一応「先生」ということになるが……。俺は決して「教師」じゃないことを忘れないでください。ただの「代理」ですから」
 小さな声に戻り、真幸は言うと、再び俯いて黙り込んだ。どうやらこの時間中、こうやって言うべきこと以外には堅く口を閉ざす気らしい。会話を盛り上げようなんて気は全くのゼロだ。
 先ほど感じた何かはひとまず置いておこう。まずはこの先生が代理だと言うなら、本当の担当はどんな人物なのかを聞き出さなければ……。ディアンはそう決めて口を開いた。
「俺たちの本当の担当ってどんな人?」
「…………」
「なぁ、先生? 教えてくれよ」
「…………」
「その人は強い方なんですか?」
 デビも興味をもったのか、真幸に質問する。が、帰ってくる答えは無だった。ようは真幸が本当にしゃべらないのである。石像か何かにでもなってしまったのだろうか。
「なんだよ~、先生。もしかして、何か呪文を言わなきゃ起きてくれないとかか? 開け、ゴマ! 違うな……。しゃべれ、ゴマ!」
「なんか飼い猫に話してるみたいだよ、ディアン」
「放っとけよ、もうそんな奴」
 ふざけて遊び始めたディアンを見てか、ザラが苛ついた声でそう言った。反応の薄い上、扱いが粗雑な教師を構う気は彼にはない。腹の底からフツフツと怒りが沸き上がるほどだ。
 俺たちのことなんてどうでもいいんだろ、ザラはそう続けると真幸を指さした。
「言っとくが、俺の方こそてめぇなんてどうでもいい。そんな訳のわからねぇこと言ってる奴に付き合ってる時間はねぇんだよ」
「戦士になるためにですか?」
「!」
 ザラが真幸を見る。また唐突に彼がしゃべったからだ。それも、はっきりした声で。光のさしていない目でザラを見、同じようにディアンとデビを見ながら、君達もか?と尋ねる。ディアンはもちろん!、と元気よく返し、デビはまぁと遠慮しがちに答えた。
「俺の父さんも兄さんも戦士だったし、兄ちゃんもそうだからな! ここで俺だけならなかったらおかしいじゃん!」
「……そんな理由?」
「?」
「たかが家族がそうだから……、そんな下らない理由で人殺しの仲間入りをするの?」
「人殺しって」
「それはつまりバカにしてるのかよ? てめぇも戦士のくせして!」
「バカにする? 違う、嫌いなんだ。戦士のくせに? それも違う。戦士だからだ」
 嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。
 真幸は繰り返してそう言うと、兵士は生きる時代が合えば英雄だが、間違えれば殺人鬼も同じだ、と三人を睨みつけた。
「人を殺して生活の糧を得る。何も違わないじゃないか。なんでそんなものになりたいんだか。なった所で、得るものなんかこれっぽちもない。失うものの方が断然多い。それとも君達の周りには、失っていいものしかないのかな?」
 シュッ! 何かが空を切る音がした。ザラが拳を真幸に向かって繰り出していた。力一杯握りしめた拳を、思い切り腕をのばして、その今にも消えそうな色をした顔を殴ろうとした。のだ……。
 ザラの攻撃は早かった。真幸が言葉を言い終わらないうちに、もう肘を曲げていた。だから当たるだろう。ディアンはそう思ってた。止める気は微塵も起きなかった。だって本当は、自分だって殴りかかってやりたいぐらいだったから。でもそれもできなかった。真幸が表情一つ変えずに、ザラの拳を避けた。それを見て、無駄だとすぐに分かったからだ。
「! ……」
「あくまでこれは俺の意見、見方、考え方。君達が気にする必要はない……。気に食わないならそれでよい。忘れろ、全部。俺に会ったことから、俺の言ったことまで全て」
 いずれはそうなるのだからと真幸は言うと、避けるついでに捕まえたらしいザラの腕をパッと放した。三十分のお話会が終わったのはちょうどその時で、再び前の教壇にサトが立つ。彼は、八班の面々が揃って棒立ちしているのを見つけると、「そこー、席についてー」と明るい調子で言った。渋々、三人は席に着く。その後ろで、真幸はやはり指一本動かさなかった。
 そして静かにそのまま、始めてのホームルームが始まる。前で、サトが校内施設の説明や、諸注意を話している間も何も頭に入ってこない。ただ、後ろばかりが気になっていた。一体、真幸は何者なのか……、それを知りたいと同時に、これ以上近づいちゃだめだという気が強くしていた。こんな変な奴、もう放っておけと頭の中の危険を察知する部分が伝えている。逃げたいような……、そんな気分がした。
「それで、この班で行動する際にはってあれ?」
 説明の途中、顔を上げたサトが発した一声で教室がざわめく。一体何事だろうと騒ぐ声に、ディアンは目が覚めたようにキョロキョロとした。
「どうした、サト?」
 とりあえず、一番近くにいたリーズがそう尋ねると、サトは教室中を一度見てから「真幸がいなくない?」と返した。
「あ?」
「そういや、いないぜぃ」
 そう言われて気づいたのか、それぞれ壁際に立っていた教師達は教室内を見回し始める。八班の三人は、真幸がいたはずの後ろを振り向いてみた。が、誰もいない。まるで最初から誰もいなかったようにも抜けの殻だ。
「また脱走かよ!」
「レム! なんでみとかないのさ!」
「なんで俺に言うんだよ? みんなして。 大体、ドアの開く音なんかしなかったぞ!」
「またこのままいないってことになったら、マサ先生の雷が落ちるんだぜぃ! それはとてもヤバイんだぜぃ!」
「分かってる! 貴様は騒ぐな、木偶の棒が!」
 どたどたと慌てた様に、役割を決め、教師達は真幸を捜しに行く者と、ここに残って説明するものとに別れたらしい。一つ咳払いをして、サトが再び話し始めた頃には、八班の三人の心の中である事が決まっていた。
 
 
 
「んー! 今日は意外に面白い一日だったわ!」
 帰り道、一緒に帰っていたレイがそんな風に言って一度伸びをした。その表情からして、悪いチームメイトや悪い先生に当たったなどということはないようで、きっとこれからが楽しみといった具合だろう。一方、ディアンははぁとため息をついたり、はたまた荒っぽくなったりを繰り返していた。どうしてあんな先生に当たったのかと思うと、不満でしかたない。
「元気ないわねー。せっかく合格できたってのに……」
「うっさいなぁ。 悪いかよ」
「悪いとは言ってないでしょ。先生のことはともかく、合格できたことは素直に喜んだらどうなのって言ってるの」
「喜べるかよ! あんな先生じゃ、成れるものも成れなくなるかもしれないんだぜ?」
 憤慨して大声を出すディアンに、レイははぁとため息をつく。確かにあの先生は、他の先生に比べればかなり大変かもしれない。そんなことぐらい、彼女にもすぐ分かった。大体、生徒を持つ前に失踪すること自体おかしい。まるでやりたくないっと、子供がダダをこねているようではないか。
「戦士なんて嫌いだとか言うし、ならなんで戦士なんかしてんだよって話で……」
「でも、だからこそ嫌いって言われたんでしょ?」
「……だぁかぁら、なんで戦士を続けてるのかが気になるんだよ!」
 私に怒ったところでどうなるのよ?とレイはそっぽを向くと、なんだったら調べてみれば?と付け加えた。
「確か、学校の図書室に卒業アルバムみたいなのが置いてあったはずだし」
学校の卒業アルバムなんて、勝手に見てもいいものなのだろうか。ディアンはそう考えるが、生憎レイにはそんな考えはないらしい。彼女は、私はそんな心配いらないしと行って足を早めた。
「そりゃそうだよな。お前の担当、俺の兄ちゃんだし……」
「まぁ、だからこそちょっと不安なんだけどね……」
 お姉ちゃんは死ぬほど喜ぶでしょうけど……と付け加え、レイは、明日は遅刻ぎりぎりに来ちゃだめよと手を振って、角を曲がっていってしまった。
「うっせーな、あいつは。俺の母ちゃんか……」
 手を振りながら、ディアンはそう呟いて、自分も家に向かって歩き始める。先生のことはともかく、合格したことは両親と義兄に伝えようと考えながら。
 
 ドサッ。
 部屋に入った途端、ベッドの上に倒れこむ。今日は、いろんな意味で疲れた。試験で体が疲れたことはもちろん、あの人にあったことでなんだか妙に疲れた。
 ディアンはそのまま少しの間、寝転がったまま目を閉じていた。あの時、真幸の目を見上げた時に思った感情はなんだったんだろう……。同じ顔を、どこかで見た気がする。あれは、自分がずいぶんと小さい頃だったはずだ。考えても、どうしても思い出せない。
 しょうがないので上半身を起こしベッドの上に座り込むと、今度は棚の上においてあるし二つの写真立てへと目を向ける。自分がまだ生まれていない頃に撮られた家族写真、両親と兄であるリーズしか写っていない写真が入った方を手に取る。心なしか、両親の顔がいつもよりにっこりしているような気がした。
「……父さん、俺やったよ! 合格した! 今度、墓参りに行ったときに、詳しく話すよ!」
 そうディアンが言うと、写真の中の父の顔がさきほどよりも笑って見えた。母の顔も、それにつられて笑っていくように見える。写真立てを元の場所に戻し、その隣にあったもう一つの写真立てを手に取った。こちらには自分の姿も映っている。義兄の腕に抱かれている自分は三歳ぐらいだろうか……。
 義兄もにっこりと微笑んでいる。ただ、こちらはいつも以上に笑っては見えない。記憶されている義兄の、笑顔と褒めてくれる時の声、優しく頭を撫でてくれる手……。全部、思い出せるからだ。きっと、今この場に義兄がいたならそうしてくれているだろう。「入学おめでとう」って言って、自分の好きな料理でも作ってくれたのだろう。
 泣き言を言うつもりない。実際はいないのだから、そんなこと想像したところで意味はないし、彼がやらなくても、もうすぐ帰ってるだろう実兄が褒めてくれるに違いないからだ。ただ、直接口で言いたい。まだ、彼は死んでいないはずで、生きているはずだからだ。
「兄さんには、次会った時に言うな? 俺、忘れないようメモしとくから!」
 写真に向かってそう言うと、両親の写真の時と同じように元の場所に戻した。報告し終わると、なんだか急に寂しい気持ちになった。何事もなければ、五人で住んでいただろう家に一人というのは、この上なく寂しい。ガチャという音が下から聞こえたので、急いで部屋を出る。リーズが帰ってきたのだろう。きっと、今日は豪華な食事を作ってくれるに違いない。これでやっと寂しくなくなるだろう。
 
「お前の言いたいことはよく分かった」
 回転椅子に深く座り込み、マサは目の前の人物にそう言った。夕暮れの校長室。マサと、その目の前に座っている小柄な人物以外、室内には誰もいない。マサにそう言われた人物はコクンと頷くと、立ち上がろうと椅子の肘掛けに手をかけた。
「ただし、条件がある」
 そう言われて動きを止め、その人物はマサに問いかけるように視線を向ける。条件とはなんだと言いたげな表情で。
「お前が辞めたい理由は十分には分かった。だが、そんなすぐに代わりが用意できるわけではない。よって、後最低でも一週間は奴らの担当でいてもらうぞ」
「……普通科から人事異動してきた神空先生ではダメなんですか?」
「奴にはすでに違う生徒の受けもちが決まっている」
 そう返されると、諦めたのかマサの前に座っていた人物は、分かりましたと告げると今度こそ立ち上がった。
 ドアに向かい歩き始めた人物の背をマサは黙って見つめていた。一つ言いたいことがあったのだ。ちょうどいいことに今は、二人以外誰もいない。校長室だから、誰かが不意に入ってきたりもしないだろう。
「全て諦める気か?」
 相手の肩がビクリと震えた気がした。立ち止まったまま、質問には応じる気配のない相手に、マサはさらに尋ねる。
(チーム)を組む……、それがお前の夢じゃなかったのか? ……レス」
 レスと呼ばれた相手は、黙ったまま立ち尽くしている。俯いていた顔の中央に、包帯を巻いたその人物は、南澪都真幸その人だった。
「……俺の夢は一生叶わないよ。諦めるとか、諦めないとかそれ以前に、まずそれが現実になること自体が悪いことなんだもの」
「そうやって悲観することを諦めと言うんだ。悪いというなら、認めさせてやればいい。何事もやらなければ、可能性はゼロのままでそれこそ変わりはしない。だが、やってみれば可能性は一にも百にもなる」
「……マサは、俺が南澪都真幸でずっとやっていけると思ってるの?」
「……いや」
「いつかはばれるでしょう? 軍の調査が入ればそれこそ明日にでも。俺の正体がばれた時、みんなどんな反応をすると思う?」
「……」
「……非難されるなんてまっぴらだ。嫌だよ。マサにもユウイ先生にも、あいつらにも迷惑がかかる。南澪都真幸としていなくなる方が、ずっと楽なんだ」
 最悪の先生だったって思われていなくなる方が、俺には幸せなんだよ。
 その小さな願いは口に出されずとも、マサには十分伝わっていた。わかったと伝える代わりに、小さくため息をつく音が聞こえると、真幸、基レスはドアの取っ手に手をかけた。
「すまない……」
 後ろから聞こえた声は、心からの謝罪だった。 マサは椅子を回して、真幸に背を向ける。表情を、見られたくないためだろう。
「……ごめんなさい……」
 力なく、だが同じく謝罪のこもった声で真幸はそう告げると、小さくドアを開けて校長室を後にした。

 はいはい、やっと問題教師のご登場です。作者の贔屓対象です。でもできるだけ贔屓してないつもりなんだよ、これでも。 これから先ちょっとの間は『真幸』と呼ばれるので、混乱しないようにね。
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無題
予想以上に最低な登場ですね、「真幸」先生。これから楽しみにしてるぜ!
 あ、誤字がありましたよ。サトが二回目に第五学年って言ったときの五が後になってる。

 なんで君がフリーなのが木曜なんだ!月曜なら午後から、水曜なら午前中が丸ごと空いてるのに!
 バイトお疲れ様です。
黒巳 2009/04/18(Sat)19:20:18 編集
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