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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 昨日言ってた第六幕です。面白いかどうかといわれれば、あんまり面白くないかも。自信ない。
でもやっとここまで書き直せたし、これから先の展開はだいぶ決まってるからさくさくいけるような気がする……。  授業始まる前に、次の七幕くらいはupしたいな……。

  
第六幕  喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない
 
 彼らが去った後、ディアン達は呆然の突っ立っていた。と言うのも、最後にピードが角を曲がり、姿を消した途端、彼らの前の景色がたちまち変わったからである。気がつけば目の前にあったはずの道は壁に塞がれていて、後ろに伸びていた道は、T字路に変化していた。
 そして、それとともに、彼らの脳裏にはピードの最後の言葉が回っていた。鸚鵡に……、何か得体の知れない力があるって?
「つついいたり、ひっかいたりするだけだったのに?」
 ディアンがそうつぶやくと、ザラもうーんと首を捻った。それが得体の知れない力だというのは、微妙に違う気もする。では一体、ピード達は何を見たのだろうか……。
「やっぱり、鸚鵡に何かあるのかもしれねぇな。となると、鸚鵡を探して調べたほうが良さそうだ」
 ザラの言葉にデビも、そう言えばと首を傾げた。
「どうして群れてるのが鸚鵡だけなのかな? いやまぁ、現段階での話になるけど群れる、集団でいるなら闘鶏……というか、鶏の方があり得るんじゃないかと思うんだ」
「……もしかしたら、見張りの役目は鸚鵡なのかもしれねぇな」
「見張りってなんだよ?」
「空中から生徒を監視する。その役目。つまりは、ここでの状況を超音に伝える役割だ」
 それならば、何匹もいた方が効率がよく、且つ広いエリアを見て回る必要がある……。そのためには、長時間飛べない闘鶏よりも、鸚鵡の方がいいだろうし、数は増やせばいい。ザラはそこで時計台へと顔を向けると、一度チッと舌打ちした。
「もう十一時か……。時間はねぇが、鸚鵡が何かしらヒントを持っている確立は高い。急いで南のエリアに行くぞ!」
「さっきの白デカ鳥は?」
「放っとけ今は! デビ、地図だ」
「うん!」
 広辞苑に挟んでいた地図を広げ、デビはまず地図がきちんと書き換えられていることに驚いた。そして、目で現在地から南へ抜ける道を探す。彼の目がいくつものルートを追っていき、行き止まりに当たってはすぐ違うルートを導きだす。やがて、南に抜けるルートを見つけたのか、デビは声を上げた。
「ここから一度広場に出た方が近いかも」
「広場?」
「うん。時計台のちょうど真下になるんだけど、大きく開けた場所があるんだ。そこから、南に下るのが一番早いルートかな」
 まず左に行って……と説明し始めたデビに従い、三人は広場へ向かって走り出した。あまりに急いでいたので、後ろから誰かがそれを追っていることにはまったく気づいていなかった。
 
 少し時間、戻って十時半頃……。
 
「さぁ、これで合格よ!」
 そう言ってレイは嬉しそうに後ろの二人を振り返った。チーム一〇の、レイと同じメンバーの二人はそれぞれに良かったと胸を撫で下ろしている。
「いろいろあって大変だったけど、合格できて何よりだっぺな!」
「本当に……、本当に良かった……」
 帽子を目深にかぶった背の低い少年の隣で、大粒の涙を流しながら金髪の少女が言う。放っておくと、そのままその場に座り込んで泣き続けそうなその泣き顔に、レイは慌てたように彼女の服の袖を引っ張った。
「ほら、リコ姉。早く行かないと、出口閉じちゃうかも! 急ぎましょう! 泣くのは後!」
「うん、うん。そうね」
 手を引かれて歩きながら、尚もそう言って泣き続けるリコ姉と呼ばれた少女の後ろに、帽子を目深にかぶった少年が続く。通路の先に現れた、大きな門を目指して走りながら、レイは「ディアンは合格できたのかしら」と思っていた。自分よりも意気込んでいたディアンが、今どこでどうしているかは分からないが、「とにかく頑張りなさいよ」と彼女は心の中からそうエールを送って、門をくぐり現実世界へと帰っていった。
 
 そしてそのディアン……。現在時間は十一時半。レイ達の班が合格してから一時間後、彼らは中央の広場にいた。三人は中央の時計台の下で一度地図を広げ、ここから南の出口への通路を確認している途中だった。
「じゃぁ、ここからは……」
「まっすぐ行って、右に曲がってそこから右、左、左、右に行ってまたまっすぐで、それから」
 鉛筆でこれから行くルートをなぞりながら唱えるデビを見ながらディアンも復唱するが、すぐに右と左がこんがらがって難しい顔をする羽目になった。また見直して同じはめに陥るを繰り返しているディアンを見て、ほかの二人は呆れた様にため息をついた。
「どうせ覚えるのは無理だ。確認できたんだし、急ぐぞ。あと三十分しかない」
 ザラの言葉に急いで二人は立ち上がると、南へと繋がる通路へと走って向かう。最後に地図を持ったデビが通路に入りかけた時、ひょいと誰かの足が通路に飛び出してデビの足を引っ掛けた。
「! うわっ!」
 前方に大きくこけたデビは、とれてしまったメガネをかけ直してから自分の手に地図がないことに気づいた。「大丈夫か?」と声を上げながら、ディアンが走って戻ってくる。
「大丈夫か、デビ?」
「うん。けど、地図が……」
「おい、何やってんだ!」
 先に進んでいたザラがそう怒声を上げる。だが、二人はどうしようという顔をしたまま、一向にこちらに走ってこないのだ。仕方がないので、ザラは渋々二人の下へと向かう。
「なんだってんだよ?」
「地図がねぇんだ……」
「はぁ?」
「ごめん。 僕がこけた時に、うっかり落としちゃったみたいで」
 申し訳なさそうな顔をしてザラに謝った後、「急いで探すから」と言ってデビは再び地図を探すために中腰になる。それを見たディアンも、一緒になって探すが、地図はどこにも見当たらない。
「……いい加減にしろよ」
 低い声が背後から聞こえたので、二人は後ろを振り向いてみる。ザラが顔を怒りに歪ませて、デビを睨み付けていた。それをみて、デビが一歩後ずさる。ザラは益々顔を歪ませた。
「鳥に銜えられるわ、地図は落とすわ……、てめぇのせいでどれだけタイムロスしてっと思ってんだ! 足ひっぱりやがって!」
 「この役立たず!」とデビに向けてザラが言い放つ。時間がないという焦燥感と、頂点に達してしまった不満とが彼にそう言わせているのだ。
強く握られた拳を見て、デビは泣いてしまいそうになるのを隠すため、下を向く。謝っても、償えないと言うことは分かっている。自分の失敗のせいで、自分はともかくディアンやザラの夢は潰れてしまうのだ。ザラが怒って自分を殴っても、それは当然のことなのだ。しかし、それを自分が一番恐れていることも事実……。
「役立たずはねぇだろ、ザラ! デビは頑張ってんだろ!」
「……ディアン?」
「頑張ってたらいいってもんじゃないだろうがよ!」
 殴られることを覚悟していたデビと怒り心頭のザラの間に、ディアンが割ってはいる。てっきりディアンにも責められると思っていたデビは驚くしかなかった。
「地図のルートで一番時間がかかんないルートを見つけたのはデビだ。デビが役に立ってないって言うのは間違ってる!」
「そのことを考慮しても、足ひっぱてる方が断然多いっつってんだ! そいつが足ひっぱるせいで、俺も、お前も合格できないかもしれねぇってことがわかんねぇのか?!
「『かもしれねぇ』だろ! ならまだ決まったわけじゃない!」
 二人がそれぞれを睨み合って口を閉じる。これはいつもと同じただの口喧嘩ではない。それどころか危機だ。チームが崩壊する、その寸前……。
 ディアンにも、それは分かっていた。自分が口を挟めば余計にことが深刻化することも。けれど体が勝手に動いていた。生まれた時から一緒と言っても過言ではない相方を、ディアンは見殺しにすることができなかったのだ。だからと言って、この状況は非常に良くない……。ディアンは、ザラを睨み付けたままどうしようかと考え始めた。このままじゃ、本当に……合格できなくなるかもしれない……。そんな気がした。
「おやおや、仲間割れかい?」
 聞いたことのない声が、後方から聞こえ三人はそちらに目を向ける。見たことのない三人組が嫌味を含んだ笑顔をこちらに向けている。その手にある地図からして、自分たちと同じように南に向かうチームであることが予想できた。
「時間も少ないのに、いいのかなぁ? 足手まとい君がいると大変だね~」
「まぁ、俺たちには関係ないけどな!」
 ヒヒヒヒヒと笑いながら、その三人はディアン達の隣を走り抜けると「お先~」と手を振りながら行ってしまった。その背中を、ザラは恨めしそうに睨み付ける。
「……本当にごめん……。僕……、足手まといにしかならなくて……」
 今から迷ってたりしたら、間に合わないのに……。
 肩を落として泣き始めたデビに、ディアンは「大丈夫だって! デビ、記憶力いいんだから、思い出したら大丈夫だって!」と慰めている。ザラは背を向けて、やはり三人が行った方を睨み付けていた。
「……ザラ、もういいだろ! デビは悪気があってやったわけじゃねぇんだ! まだ間に合うかも知れねぇ! 進もうぜ! ザラ?」
 ディアンがそう言うとザラが、顔に手を持って行き、まるで流れた涙を拭うようなしぐさを見せた。まさか、ザラが……泣いているのか?
「……、なんだよぉ、ザラまで泣くなよな! 俺まで泣きそうになるじゃんか」
「誰が泣くか! ちげぇよ!」
 再び怒りに顔を歪ませてザラがディアンを振り返る。その顔には泣いた後などない。代わりに盛大に歯軋りをするザラに、ディアンは訳が分からず立ちすくむ。泣いているデビの腕をザラが引っ張るのを見て、ディアンは急いで止めるために大声を上げた。
「な、暴力するな! デビは暴力振るわれるのが嫌いなんだ!」
「ちげぇよ! さっきのやつ等追いかけんだ!」
 ディアンは再び訳が分からなくなって立ち尽くし、デビは下に向けていた顔をザラに向けた。「急げ!」と、ザラがそんな二人を急き立てる。
「ちょ、ちょっと待てよ、ザラ! どういうことなのか、説明しろよ!」
「さっきのやつ等、地図を二つもってやがったんだ! 最初、見間違いかとも思ったが違う! 奴ら、もう一つ地図を隠し持ってやがった!」
「え? もしかして……」
「あぁ。あいつらのと、お前が鉛筆でルートなぞった俺らの地図だよ! あいつ等人の地図盗みやがったんだ!」
 走るぞ! と号令をかけてザラが先頭に立ち、走り出す。ディアンとデビは急いでその後を追った。一つ目の角に出たところで三人は止まって、先ほどの三人の姿を探すが、やはりその姿はなかった。これでは追いかけることもできない。
「チッ」
「ザラ、もしかしてあいつ等……」
「あぁ。俺達の後つけて、俺等がゴールしそうになったら妨害するか、一緒に入り込むかする気だったんだろうな。 畜生!」
 後をつけられてたなんて気づかなかった。とザラは呟くと、デビを見る。今度は遅れることなくついてきていた彼を見て、ザラは頭を下げると「すまん」と謝罪した。
「……、そ、そんなザラいいよ。地図を取られたのは僕のせいなんだから!」
「取られたのと、失くしたのじゃ違うだろ? もしかしたら、お前がこけたのもあいつらのせいだったのかも知れないんだぜ? だとしたら、それはお前の責任じゃなく、やつ等が責任をとるべきだ」
 役立たず呼ばわりしてすまなかったとザラが再度謝罪すると、少しの間黙ったデビだったがややあって、僕こそごめんねと言って笑顔をザラに見せた。
「よっしゃー! あいつ等追っかけるぞ!」
 仲直りした二人を見て、ディアンが思い切り叫ぶ。チーム崩壊の危機が去って、無償に叫びたくなったのだ。先ほど思った、「合格できないかも」と言う考えが嘘のように消えて、今は「絶対に合格できる、いや、する!」という思いに変わっていた。
「それができないから、こうして止まってんだろ、マヌケ」
 その思いを折るようにザラがズビシッと言い放ち、出鼻を挫かれたディアンは、その場に反動で倒れこむ。……やっぱり、ザラのことは好きになれそうにない……。
「最初に曲がる方向は……、右だったか?」
「違うぞ、ザラ。左だ!」
「右だろ?」
「左!」
 案の定、口喧嘩になってしまった。
 その様子にデビは口元を綻ばせる。元に戻ったのだ……。なんだか、それが無償に嬉しかった。……今はまだ、自分が戦士になりたいかどうかは決められない。けど、僕は――。
「待って、二人とも。僕に……、任せてくれない?」
 喧嘩の最中だった二人がデビを見る。分かったと、二人は承諾するとデビが目を閉じて、懸命に思い出そうとする様子を見守っていた。少しでも合っているルートを思い出してもらうために、私語はせず、静かにデビが目を開けるのを待っていた。 そして……
「……たぶんだけど、最初は右だよ」
「その先も思い出せたか?」
「うん。とりあえず……」
 とりあえずでもなんでも上出来だとザラは言うと、デビの指示通り右に曲がって歩き出す。「やったな、デビ!」とデビの肩をバンバン叩きながら、ディアンが続く。ニコニコとした笑顔でそう言ってきたディアンに、デビが「ありがとう」と返すと、ディアンはなんで? と言うように首を傾げたのだった。
 
 その後、三人はデビが出す指示通りに角を曲がり、ちゃくちゃくと歩を進めていた。と、不意にゴーン、ゴーンと言う鐘の音が鳴り、三人が何事かと時計台に目をやると、長い針が九を指していた。
「試験終了十五分前を告げる合図ってことか。 本格的にいそがねぇとな」
「デビ、あといくつ角曲がるんだ?」
「あと、三つくらいかな。合ってれば……」
 よっしゃー!とその言葉に励まされたのか、ディアンが奇声を上げて走り出す。角に到着すると、「どっち?」とデビを振り返るその様子に、「本当の役立たずはあいつだったな」とザラは呆れたように呟いた。
「ん?」
 デビに言われたとおり、左に曲がったディアンは向こうから何かが走ってくるのを見て立ち止まった。あれは……。
「さっきのやつ等だ!」
 その声に後から曲がってきた二人も反応する。確かに前方から先ほどの嫌味な三人がすごい勢いで走ってきていた。しかし、その後ろには赤い大きなものが見えた。何かに、追われているようだ。まだ小さいが、何か音も聞こえる。あれは……
「鸚鵡だ!」
 ザラが叫ぶと、なんの音か分からなかった音がやっとディアンの耳に鳥の羽音として聞こえてきた。たくさんの赤に囲まれたあの時を思い出す。赤と嘴と、爪しか見えなかった世界……。このままここにいたら、確実にまたあの赤に囲まれてしまう。
「どうしよう、ザラ? 引き返す?」
「いや、あいつ等が同じ方向に来たら同じだ」
「じゃぁ、どうすんだよ! 俺、もう嫌だぜ! 囲まれるの!」
 あれはお前が勝手に突っ込んだんだろ! とザラが叫び返すのさえ聞き取りづらくなるほど羽音が近づいてきた。本当に、これはピンチだ。諦めて引き返すか……。その時、ディアンはある物の存在に気がついた。右側の壁に、大きな穴が開いていたのだ。これってもしかして……。
「どうしよう! やっぱ引き返すしか……」
 デビが泣き声にも似た声を上げたとき、その服の裾をディアンはひっぱると「こっちだ!」と穴を指差した。ピンと来たのか、ザラもパニックに落ちかけているデビを穴の奥に押し込んだ。羽音が大きくなってきた。その中に、人間の叫び声らしいものも微かに聞こえる。穴を潜り抜けた三人は、穴の両脇から通路の様子を見ていた。だんだんと、近づいてくるのが音の大きさで分かる。そして、ギャーという叫び声が一瞬だけ聞こえた後、バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサババサババサバササッ!!!
 
 鼓膜を破らんばかりの、大きな音だった。バサバサなんて聞こえるのは最初だけ。後は、その音がたくさんかぶって文字じゃ表しきれないような音になっていた。目の前は一瞬にして赤一色となり、また一瞬にしてレンガの赤茶と、土の茶色、そして空の黒色とに戻った。自分たちを追ってきたときの数とは、桁外れに多い鸚鵡が、あの三人を追いかけていたのだ。はっきりと見てはいなくても、音と視界だけでそれが十分に判った。巻き込まれていたら、ただでは済まなかっただろう。
「……助かった……」
「こいつは……、鷲の奴が開けた穴か……」
 放心状態になって呟くデビを尻目に、ザラが穴の表面を見てそう呟く。それは北エリアで見た、鷲が開けた穴とよく似ていた。
「もしかして……、鳥が一匹ずつ一つのエリアを守るとか、別に決まってたわけじゃないってのか……」
「ま、とりあえず助かった!」
「ディアン、よくこの穴見つけたね……」
「ま、まぁな! 俺だって、やる時はやるんだぜ!」
 誉められて顔を赤くしたディアンは、それよりも早く行こう! と二人を引っ張り、ゴールを目指して歩き始めた。
 
 
 次に出た角を左へ。そして、その次の角を右へ。曲がりきった三人の眼前には、あの四体の像と行き止まり。ここは迷路が形を変える前と変わっていない。どうにかタイムオーバーする前に、ここまでたどり着けた。問題は、ここからである。鸚鵡を調べるのは先ほどの集団行動を見て不可能に近いと分かった今は、像を調べて答えを見つけ出さなければ合格できない。いや、それ以前に読みが外れていれば不合格だろう。だが今は、これにかけるしかなかった。
 三人はゆっくりと像へ歩み寄ると、鸚鵡の像を調べ始めた。ついでに他の鳥の像も調べたが、大きさが違う以外は特に変わった所は見られない。
「ザラー、何も見つからないぞ?」
「……外れだったか……」
「そうだとしたらもう、時間は……」
 もっとタイルの方とかもよく見てみるんだとザラが二人に告げ、三人は再び像を調べ始める。ディアンはタイルをじっと見た。黒、青、赤、白をしたタイルは土をかぶったのか、所々茶色い砂で汚れている。黒は特に目立っていないが、白は特に顕著だ。 ……ん? ディアンは白のタイルと赤のタイルをそれぞれ見比べ始めた。何かが違った。汚れ方が……。白のタイルは像の輪郭に沿って、土の線がついている。赤は、その線が微妙に……ずれてるような……。
「ザラ! これ、見てくれよ」
「どうした?」
「これ、土の跡二重になってねぇか?」
「?」
 ディアンに言われた箇所を見るため、ザラが座り込む。そして、うーんと唸るとその体を起こした。その様子にデビが「どうしたの?」と尋ねると、ザラはもしかしてと鸚鵡の像を見上げた。
「……動かせんのか、これ……」
「えっ?」
 そう呟いたザラにディアンとデビは同時に驚きの声を上げる。試しに、他の像もちょっと見てみるか……と、ザラは隣にあった孔雀の像を押してみた。すると、スッ。ほんの少しだが、像が動いた。
「お、動くんだ。……でも、俺が最初持ち上げようとした時はうんともすんとも」
「それは持ち上げようとしたから余計だったんだろ。いくつかのタイルの淵には、土が少しだが盛り上がってるところがあるし、この中の像のどれかをタイルの上から動かせば、もしかしたら合格できるのかも知れねぇ」
 ポンポンと鸚鵡の像をザラが手で軽く叩きながらそう言う。じゃぁ後は、どの像かってことだねとデビが言った。
「もうここまできたら鸚鵡なんじゃない? 像もこれだけ大きいし」
「……俺もそう思いたいが、根拠がねぇだろ?」
「根拠なんか気にせず、やっちまおうぜ。 もう時間ねぇし」
 そうディアンは言うと、時計台へと目を向ける。試験終了まであと十分を切っていた。不服そうな顔をザラは一瞬にすると、しゃーないかとばかりため息をついて像に手をかけた。その時だ。バサバサッ。何かが三人の頭上で羽ばたく音が聞こえた。あまり聞きたくはない音だ。バサバサッ。そっと顔を上げた三人は、そこに赤い鸚鵡が一羽いるのを見た。最初に見た、あの一回り小さい鸚鵡である。三人と目があった鸚鵡は、一度空中で一回転すると三人に向かって急降下してきた。鋭くとがった嘴の先を、三人に向け勢いをつけて文字通り飛び掛ってくる鸚鵡を避けるため、三人は像から一度離れる。鸚鵡は避けられたと知るや、また一回転して地面に着地した。
「てめぇ、あの時はよくもやってくれたな! チビオウム!」
 ディアンが大声でそう叫ぶと、それに返すように鸚鵡は「アアァ」と声を上げた。それから笑うように「ケケケケケケ」と鳴き声を上げる。バカにしやがってと意気込むディアンの前で、鸚鵡はまた一回転した。そして、またもすごい勢いで三人に向かって飛び掛ってきた。狙いは、真ん中に立っているザラだ。分かっているのにわざわざ当たってやる必要はないとばかり、ザラは横に避けようとパッと移動する。すると、また鸚鵡が空中で一回転したかと思うと、今度は足を突き出して蹴りかかってきたのだ。
 突然の方向転換に、ザラは足元をすべらせて仰向けに転倒する。が、そのおかげで鸚鵡の蹴りを回避することができ、鸚鵡はそのまま壁へと突っ込んでいく。
「ラッキー! そのまま壁に激突しやがれ、チビオウム!」
 ディアンがそう叫ぶと、一瞬鸚鵡がニヤリと笑ったように見えた。壁がいよいよ迫ってくると、鸚鵡はまたも空中で一回転した。すると、うまい具合に壁に足が着き、そこから足で壁を蹴って飛び上がると、まるで三人をあざ笑うかのように空中に静止した。
「あー! あの野郎、鳥のくせに!」
「むしろ、鳥だからだと思うけどね、身軽なのは……」
「……」
 起き上がったザラは鸚鵡を睨み付ける。その様子を見て、ディアンも先ほど思ったことを思い出したのか、鸚鵡を睨み付けて尋ねた。
「おい、さっきの蹴り……」
 ディアンがザラを見る。ザラはコクリと頷いた。鳥が蹴りなど入れてくるはずがない。できるはずもないのだ。人間と同じフォーム、ザラと全く同じフォームでとび蹴りしてくるなどありえない。しかし、二人が見た鸚鵡の蹴りは、翼を手に見立てれば、そっくりそのままザラと同じ方だったのだ。デビはザラのとび蹴りを見てはいなかったが、明らかに鳥の動きではないことに気がついたらしい。三人は目を丸くして鸚鵡を見る。鸚鵡は次の攻撃態勢に入っていた。
「アアァー!」 
 そう鳴いて鸚鵡は、今度は足に引っ掛けていた何かを三人に向かって投げつけてきた。きれいな回転のついた、その何かは鸚鵡が投げたとは思えないスピードでディアンに迫ると、ディアンの腹部に命中した。うわっと声を上げてディアンは後ろにしりもちをつく。その手に握られていたのは、ディアンの履いているものと全く同じ靴の片割れ。しかし、ディアンは靴を両方、きちんと履いているのだ。なぜこんなものが……。
「あっ」
 何かを思い出したようにディアンが声を上げる。闘鶏に、そういえば靴を自分が蹴りつけたような……。まさかまさか……。
「アアァー!」
 鸚鵡がもう一度泣き声を上げ、像の方へと移動する。そして翼を広げると、そこには何本もの医療器具・メスがギラリと光って並んでいた。どこからあんなものが……。
「やっぱり! あいつ、俺らがやったのと同じことしてくるんだ!」
「道理で道具やフォームまで同じなわけだ!」
「もしかして、鸚鵡返しにって意味で?……」
 鸚鵡が翼を一度羽ばたかせる。すると、空中に並んでいたメスは、ちょうど岩山サクラが投げたそれと同じように、ギラリと光りながら三人に一直線に向かってきた。
「曲がり角に逃げろ!」
 三人は急いで後戻りすると、迷路の曲がり角に逃げ込んだ。壁にメスが突き刺さる。一本が、ディアンが逃げ込んだちょうどその後に、地面に突き刺さった。
「あぶねぇ!」
「……くそ、最初の時にただ群れになって追っかけてくるだけだったのは、まだ何も俺らがやったこと見てなかったからか!」
「もう爪や嘴だけで十分凶器だと思うんだけどな……。広辞苑、ズタズタにされたし……」
 デビが嘆く傍ら、ザラは状況を整理しようと角から鸚鵡の様子を伺った。鸚鵡は鸚鵡の像の上に止まって、あちらもこちらをじっと見つめている。 
 ザラはその鸚鵡が止まっている鸚鵡の像を睨み付ける。あの像を動かせば、もしかしたらゴールに着けるかもしれない。しかし、なぜなのか、根拠が分からない。
「デビ、鸚鵡返しって怖ぇな!」
「普通は言葉だけだってば……。あんなもの返してこないよ」
「あー、もう! 時間がないって言うのに! どこが出口なのか、いい加減教えやがれ、この真っ赤鳥!」
「まんまだね」
 大声でディアンがそう叫んだ時、ザラの頭にあることが浮かんだ。まさか、そんな簡単な……?
「鸚鵡返し……。まんまってことか……」
「? どうした、ザラ? 何か分かったのか?」
「……そうか!」
 ザラの唖然とした表情に、デビも何かを感じたのかポンと手を打った。
「鸚鵡返し。『返し』の字を変換すれば、『帰し』になる……」
 ザラがそう言うと、ディアンもなーるほどとポンと手を打った。なーんだ、そんな単純なことかとディアンが笑い始めると、それにつられてか他の二人も笑い声を上げる。が、その笑い声が止むと三人はハァと疲れたようなため息をついた。
「……今の今まで迷路を走り回ったのは一体なんだったんだろうな?」
「思い出さすな、タンポポ。 ……とりあえず、この問題作った奴は許さねぇ。ぶん殴りたい……」
「ふ、二人共……、そこまでがっかりしなくても……」
 三人が肩を落とす中、ゴーンゴーンと再び鐘が鳴った。見れば、時計台の時計は十二時の五分前を指していた。
 
 鸚鵡は三人が逃げ込んだ角をジッと睨み付けていた。ここを守るのが、彼の仕事である。守ると言っても、ただ生徒を脅かせばいいだけだが、答えを知った生徒の邪魔をすることも仕事の一つである。そうやってじっと角を見つめている鸚鵡に向かって、何かが投げ込まれてきた。鸚鵡が反応して飛び上がる。飛んできたそれを威嚇し、鸚鵡は襲い掛かると地面にたたきつけた。さらにその上に、鋭い爪を食い込ませて押さえ込む。それは息をしていなかった。
「今だ! 走れ!」
 三人は脱兎のごとく、角から走り出すと鸚鵡の像に手をつけて力いっぱい押し始めた。思っていたよりもズシリとくる。三人で押しても、なかなか動く気配の見えない像を、三人は力いっぱい押した。そばで先ほどの鸚鵡が、広辞苑を離して騒ぎ始める。とたんに、三人の周りをたくさんの赤が覆い尽くした。
「おい、一匹だけじゃなかったのかよ?」
「あの三人を追っかけてた奴らが帰ってきたんだろ。気にすんな! 押せ!」
「う、わ……」
 あまりの赤さに像を押す力が弱まる。最初に出会ったときとは比べ物にならない数の鸚鵡が、三人を取り囲んでいた。それが一斉に鳴き声を上げ、三人に向かって突っ込んできたのだ。凄まじい攻撃に、三人は一度像から手を離して追い払おうと、腕を振り回す。しかし、それは逆効果で鸚鵡達を怒らせるだけだった。
仕方なく、三人は像を押すことに集中することにする。しかし、像を押す手を鸚鵡達が集中的に狙ってくるので、なかなか力が入らない。
「とりあえず押せ! これが鍵なんだ!」
「でも重すぎだろ、これ!」
「タイルの上からずらすんだ! 少しでもずれれば問題ない! はずだ!」
「あと2分切ったよ!」
三人はつつかれて血が出始めた手にグッと力を入れた。鸚鵡達は攻撃を止めない。きっとあちらも躍起になっているのだろう。どうにかしてここを守ることが、彼らの仕事なのだから。
 血がさらに激しく出始めたのを見て、デビが一瞬力を緩める。像がタイルの上からやっと半分ずれた時だった。
「……」
「おい、何やってんだよ!?
「……デビ?」
 押し黙ったデビに、ザラが怒号を上げる。ディアンはそれを少しの間見た後、あと少しだぞと呟いた。
「もうちょっとだからさ、一緒に頑張ろうぜ、デビ!!
「……うん!」
 三人そろって、グッと像を押す。像の土台が少しずつ浮かび始めたので、さらに力を込める。
「あと1分!」
「「押せ―!!!」」
 グググ……、だんだんとバランスを崩した像がタイルの上を離れ、ガコンと音を立てて倒れた。と同時に、ボコンとタイルが持ち上がる。三人が何だという顔をする中、向こうで行き止まりだったはずの壁が二つに割れるのが見えた。そして……、光が差し込む門がその奥から現れたのだ。
「あ、開いた?」
「急げ!」
 三人は急いで走り出す。あと三十秒……。
鸚鵡達が攻撃して来なくなった道を、一目散に駆ける三人。目の前に大きく口を開けた門に向かい、三人は勢い良く飛び込んだ。
 
 
 ガヤガヤと周りが騒がしいことに気づいて、閉じていた目を開いてみる。前の席にいた女子とたまたま目があって、慌てて反らした。
 ディアンは辺りを見回した。試験を開始した時と同じ、教壇の上にはマサ先生が仁王立ちしていて、傍らにユウイ先生がいるのが見えた。兄ちゃんがホッとしたような顔をしているのが見えて、自分もホッとする。
「か、帰ってきたぁ~!! やった~!」
「試験しゅ~りょ~!!」
 思わず声を上げたその時、それよりも大きなユウイの声が部屋中に響きわたった。

 謎が少し簡単すぎるだろ(汗 と思ったら、作者がバカなんだと思ってください。バカでアホです。下らないことしか考え付きません。辻褄があってないだろ(汗 と思ったら、今回だけは見逃して下さい。とりあえず先進めないと、この話、一生終わらない気がするので。でも、こうした方がいいんじゃないとかあれば教えてね。参考にします。
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