紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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新たな更新ではなくて、前に言ってた第四幕の修正をしたよっておしらせです。でも修正を大幅にしすぎたのか、続きに書ける分量を大幅にオーバーしてしまい、二つに分けざるを得ない状況に……。で、それと同時に第五幕にも多少の変更が必要になったのでこの一つ前に更新していた分、確か題名は「Walia(6)」だったやつは消去しました。で、ここの続きで第四幕の続きを載せてます。 これの前半は、「Walia(5)」ってやつの続きを見れば見れます。こっちの続き読む前にそちらを優先して読むよう……。 そして、来週には第五幕の修正版を載せるという……。うわー、ややこしいことしてすいません! ごめんなさい! 大体、私が書いた文は多くて読み難いんだよな! すまん! もっとこれからはコンパクトにできるよう、精進します!
ほんと、ややこしいことしてすいませんでした。
ほんと、ややこしいことしてすいませんでした。
北側の出口があると思われる場所に着いたのは、その三十分後である。この角を曲がれば出口だと、三人は意気揚々と最後の角を曲がったのだが、目の前は再び行き止まりで、南の時と同様、四体の像がその前に並んでいるのみだった。がっくりときたディアンは、地べたに座り込むと「もうなんなんだよ!」と大声を上げた。
「出口はここなんだろ?! なのになんで行き止まりなんだよ? これじゃぁ進めないじゃん!」
「確かに妙だな……。出口は行き止まりで、またこの像が置いてあるだけ。もしかしたら、この迷路内で何かしないと開かない仕組みなのかもな」
「そうなのかもしれないね。でも、まだ僕たちがここに来てから鳥には一羽も遭遇してないから、そのせいかも知れない」
「出口はどこだー!!」
躍起になったのか、ディアンがそう叫ぶ。だが、それで出口があくはずもなく、ディアンはがっくりと肩を落とすと、しぶしぶ立ち上がった。デビがあることに気づいたのは、その直後である。彼は置かれた四体の像をじっと見ていたが、南の時と同様鸚鵡の像だけがほかの三体の像と比べて大きいことに気がついた。
「(……北と南で特に違いが見られないのはいいとして、なんで鸚鵡だけあんなに大きいんだろう……)」
実際のサイズから言えば、鷲が一番大きいんじゃないだろうか、と思案を続けていたデビだが、「デビ、早く来いよー!」と言う声に、彼が振り向くとすでにザラとディアンが来た道を戻ろうとしているところだった。
「何やってんだよ~。早く行かないと時間なくなっちゃうだろ?」
「東を諦めるにしても、時間がねぇんだぞ」
「うん。ごめん、何だがあの像が不思議だなぁと思って」
地図を広げて先頭を歩き始めたザラの後に続き、三人はとりあえず来た道を逆戻りし始めた。地図とにらみ合いを始めたザラに代わり、ディアンが「何が不思議なんだよ?」とデビに尋ねた。
「別に南の奴と変わんなかったじゃん?」
「うん、そうなんだけど。だから不思議だなって。ほら、鸚鵡の像だけなぜか大きいでしょ? あれ、なんでなんだろうと思ってさ。だって普通、大きさからいえば鷲が一番大きくなるんじゃない?」
すると話を半分聞いていたらしいザラが地図から目を離して「確かに妙だな」と呟いた。
「実際にいた鸚鵡は、あの像よりかなり小さかった。ならなんで大きくなんか……」
「もしかしてあの像に何か秘密があったり……」
「そうは言っても、鸚鵡に何かあるっていう確証がないんじゃ、調べたって時間のロスだ。今はとりあえず西に向かってみよう。鷲の奴も出てきてないから、鷲と闘鶏、両方いっぺんに出てきてくれれば楽なんだが……」
「それなんか面白そうだな。挟み撃ち! みたいによ」
「止めようよ、そんな想像!」
雑談をしながら三人は迷路を進んでいく。ここからだと時計台が左側に見える位置だ。時計の下には「S」の代わりに「N」の文字が彫ってあるのが見えた。
「(南がサウスで「S」だったから、北がノウスで「N」なわけか。なるほどなぁ)」
グリグリグリ……
のんびりとじゃぁ、東と西は何になるんだっけと一人で考え始めたディアンの耳に、聞きなれない音が聞こえてきた。
グリグリグリグリグリグリ……、ガラガラガラ……。
何かが岩を擦るような、嫌な音が聞こえてくるのに混じって、瓦礫が落ちるようなそんな音も聞こえてくる。ディアンはそんな気がした。まだ距離が遠いのか、はっきりとはしていないが、明らかにこの迷路を形作っている壁を擦る音だ。いや、むしろ削ってる……?
「何の音かな?」
デビもその音に気づいたらしい。あたりをキョロキョロと見ていることからもそれが分かる。三人はふと足を止めて、辺りを見回してみた。相変わらず黒い息がつまるような壁が両サイドにあるだけで、ほかには何も見えない。しかし、確実に壁を削る音だけは、こちらに近づいてきている。
「……。こっちの方じゃねぇか?」
ザラが三人の左側を指して言った。三人が何だろうと、思案を巡らせながら壁を見つめていると、壁がペキッを小さな音を立てた。続いてペキペキと、ひびが走っていく。
「危ない!!」
ベキベキと壁が鳴り出した時、ディアンはそう思いっきり叫んだ。
次の瞬間、ひびが走っていた壁に大きな音をたてて、何かが突き刺さってきた。黄色い、やけに太いドリルのような奴だ。それがちょうどデビとディアンのいたあたりにまで突き出てきたので、慌てて二人は脇に避けた。一体こいつはなんなんだ!? 二人はそれぞれドリルを避けた先でそう思った。
「なんだこりゃ……」
飛んできた瓦礫をヒョイと避けて、ザラは土煙をあげている壁の方をみる。土煙が収まっていく中、黄色いドリル(?)はピクリと動いた。
「動いた……。ってえ? 開くの!?」
クパァとまるで鳥の嘴のようにドリルが二つに割れて、開き始める。所々に突起が突き出たドリルは、徐々に開いていき……と、途中で動きを止めた。
キギャー!
きちんとした音に直すとこんな音だろうか。甲高い声が、次の瞬間辺り一面に響いた。まるで叫び声のような、鳥の鳴き声のような、耳をつんざく音が、開いたドリルから発せられたのである。思わず耳をふさぐ三人の前で、ドリルがゆっくりと持ち上げられて、持ち主が姿を表した。
バサバサッ。
羽音とともに現れたのは巨大な嘴を持った鳥……。耳をふさいでいた手を離し、代わりに三人はあんぐりと口を開けた。そうあのドリルは、その鳥の嘴だったのだ。
「な、なんだよこいつ!? 気色悪ッ!!」
「鷲……なのかな?」
「それ以前にこいつは鳥なのか?」
三人はそれぞれそう述べると、広げた翼をしまう鷲(?)を凝視した。その体は確かに鷲だった。翼や足など、よく図鑑に出ている鳥と大差ない。問題は……嘴だった。そいつはなんと顔の大部分が嘴ではないかと思われるほどの嘴をしていたのである。しかもドリルのように突起や、溝が入っているし、やけに太いのだ。
「……マサ先生が言ってた、変わった姿ってこのことなのかな?」
「……確かに気に入るかどうかは、別だな……」
デビとザラは呆れたようにそう言い、ディアンは一人黙って鷲を見続けていた。最初は気色悪いと思ったのだが、こうしてみるとなかなかかっこいいのである。ディアンはヒョイと、鷲の後ろ側を見てみた。壁に開いた大きな穴の先には、同じようにして掘られたのだと見られる穴が、延々と続いていた。
「こいつすっげ―! 今度こそ、こいつ連れてこう! 壁に穴開けて楽々進めるぜ!」
大声を上げて喜ぶディアンを無視し、立ち上がったザラはなんにしろ、攻撃してみるかと呟いて構えた。
「ちょっ、なんでだよ! こいつ、おもしろいから連れてこーぜ? なぁ、デビ?」
「えぇ!?」
「馬鹿か。鳥共と戦ってみなきゃ、出口がわかんねぇってさっきも言ったろ? 能無しか、お前は」
「出口に案内してくれるかも……」
「それもねぇってさっき言ったろうが。たく、なんも頭に入ってねぇんだな、このタンポポ頭!」
「誰がタンポポだ! バカ蜥蜴!」
「蜥蜴じゃねぇ! 「と」にアクセントつけろっつってんだろ!」
「分かりません―! 俺バカだから―」
その時、言い合いをする二人の声も、それを止めようとするデビの声さえかき消す高い声が、再び辺りに響きわたる。鷲が今一度あの太い嘴を開いて鳴いたのだ。翼をはためかせ、鷲は嘴を閉じると壁に押し当てた。とたんに嘴がドリルのように回転を始め、グリグリペキペキと音を立てて、鷲は来た方向とは逆の壁の中へと消えていってしまった。
「あの像の大きさとは逆サイズで出てくるってことだな」
「? どういうことだよ、ザラ」
「鳥の大きさだよ」
鷲が行ってしまった方向に開いた大きな穴を見つめ、ザラがそうディアンに返すと、デビもそれに加わる。
「確かにそう考えることもできるけど、断定するのは早いんじゃないかな?」
「確かに断定はできねぇが、後の「闘鶏」も、「孔雀」も、大きい可能性は十分に高い」
だとすればと、ザラは立ち上がると壁を指差した。
「壁をよじ登って、そこから鳥共を捜した方が早いんじゃないか?」
でかい奴らなら、簡単に見つかるはずだと、ザラが指差した方にある黒い壁を、しばしの間ディアンは見つめる。確かに、それができればどこに鳥がいるのかが分かってもっと楽に進めるかも知れない。しかし、壁の高さは最初の頃と同じ、三人が肩車しても届くか届かないかくらいの高さである。
「どうやってだよ? 俺達三人で、肩車してもこの高さじゃ届きそうもねぇし」
「それに、もし反則だったらどうするの?」
「……。じゃぁ、歩くか? またこの何の変哲もない迷路を? そんなもん、なんの面白みもねぇ。それに、反則があるんなら、始まる前にそう言うだろ?」
始まってから反則だのなんだの言うなら、逆に先に言わなかったことを責めてやればいい。と、ザラは得意げに言うと、後はどうやって上るかだなと腕を組んだ。
「確かに、こりゃ三人で肩車しても届かないかもな」
「だろ? 他に上れそうなとこなんてねぇしよ」
「……、全員上れなくていいんだ。一人上れりゃそれで……。 !」
ふとデビの方を見たザラは、その手の中の広辞苑を見て前の時と同じようにニヤリとした。
デビは一つため息をついた。今日は本当に……、本当に広辞苑を持ってこなければ良かったと後悔していた。いつも、大事なら学校には持っていかない方がいいなんじゃない?と兄に言われ続けてきたことが、今になって当たったらしい。当の広辞苑は、今ザラの手の中にあった。
「心配するな。今回は、ボロボロにしたりしねぇから」
「当たり前だよぉ。それ以上ボロボロになったりしたら壊れちゃうよぉ!」
泣き声交じりに声を上げるデビだが、ザラはそれを無視して準備を続行する。先ほど使った紐を取り出すと、それをまた硬く広辞苑に結びつける。
「そういや、なんでお前そんな紐持ってるんだ?」
「なんだっていいだろうがよ」
「それって、独楽買うとついてくる紐みたいだね? ザラって独楽まわしたりするの?」
「なんだぁ、お前もまだまだ子供だなぁ」
「うるせぇ!」
周りで囃し立てる二人を一喝して、ザラは紐がきつく絞られているかを確認すると、紐を手に立ち上がった。
ザラの考え付いた策は至極簡単である。まず、壁に広辞苑を錘にして紐を投げ、向こう岸に渡す。そして鷲が壁に開けてくれた穴を通って二人が壁の向こう側へ向かう。残った一人が、紐を伝って上り始めたら、向こう側へ回った二人が紐が引っ張られすぎないよう抑えて、上に登らせ、辺りを伺う。
とまぁ、こういう策を思い立って実行に移すことになったわけである。ディアン達が独楽回しに使う紐のようだといった紐は、見た目以上に丈夫で多少なら伸縮するという変わった紐らしくおまけに長い。ザラはそれを二人に説明すると、広辞苑を壁の向こうへ投げ込んだ。ドスンと広辞苑が、壁の向こうの道に落ちた音が響く。
「というわけだから、安心して登れ。途中で切れたりはしないはずだから」
「はずだからとか付け足すなよな。 不安になるだろうがよ」
上に登る役になったディアンは、苦々しい顔でザラを見る。この高い壁をよじ登っている途中で紐が切れることなど、考えたくもなかった。
「やっぱり止めるとか言うなよ? お前がやりたいって言ったんだからな」
「分かってるよ! 気に障る言い方すんな!」
「まぁまぁ、ディアン。ほら、僕も向こうで頑張って引っ張るからさ」
ディアンを宥めるようにデビが言う。自分が危険な役目をしなくて済むと分かって少し機嫌がよくなったのだろう。 壁から垂れた紐をザラがディアンに手渡すと、二人は鷲が壁に開けた穴を通って向こう側へ。やがて、準備が整ったらしく、「いいぞー」というザラの声が聞こえてきた。
それに対して、ディアンは「おーう」と返事をして、紐を握りしめた。別に怖いというわけではない。これぐらいの高さの木登りなら、楽々とやってのけるのだ。そう、木登りなら。でも、木登りと垂直の壁は違う。落ちて、大怪我したらどうしよう……。ディアンは、生唾を飲み込むと、紐を握る手に力を込め、そして登り始めた。始めはゆっくりと、やがて早く。
「よい……しょと」
頂上についた頃には、すっかり掌が熱くなっていた。壁で擦った第一関節辺りがヒリヒリするし、腕もジンジン痛む。でも、登りきれた。まずはホッと胸を撫で下ろし、下にいる二人にも登れたと合図を送る。二人も安心したようだった。
「ディアン! そんじゃ、西の方を見てみてくれ! なんか見えねぇか?」
「西だな。 よし!」
そう言ってディアンは壁の上にバランスをとりながら立つと、まずは真正面を見た。えーと、北から引き返してたから、今向いてるのは南……、だよな。じゃぁ、西は……
「こっちだな!」
ディアンは意気揚々と左に顔を向ける。特に何も見えなかった。
「ディアン! それ、東だよ! 逆、逆!」
「え? あぁ、そっか!」
デビの言葉に、ディアンは慌てて逆を見る。しかし、こちらも特に何も見えるものはなかった。途中から黒から白へと、壁の色が変わっているくらいである。……?
「……あれ、なんだ……?」
白い壁の一点に、壁とは違うようなものが見えた。しかし、それも白いため、それが何なのかは分からない。特に移動しているわけでもないようだが……。ほんの少し、他の壁よりは高いようにも見える……。
「どうした? なんかあったのか?!」
下でザラが叫んでいる。これは……伝えるべきだろうか?
「……、なんか変なもんが見える……」
「はぁ?」
「なんなのかはわかんねぇけど、壁っぽくはないものが」
「……それ、どこにあるのか分かる、ディアン?」
「ここから……、えーと大体通路六つ分くらい……」
「六つってどういうことだよ?」
「ちょっと待って、ザラ。ディアンの目から見てる景色と、地図をリンクさせれば……」
デビは筆記用具を取り出すと、紐にくくりつけた。
「ディアン! 紐引っ張って!」
「え? なんで?」
「地図と筆記用具だよ! それで、どこら辺にそれが見えるのか、印できるでしょ?!」
おおそうか、とディアンは納得したらしく、紐を手繰り寄せて筆記用具と地図を広げた。そしてその何か分からない物がある方向だと思われる所にマークを入れる。
「できたぞ! デビ!」
「ちゃんと方向間違えないで書いた?」
「失礼だな! 二回も間違えないよ!」
ディアンはそう怒声を上げると、行くぞと行って筆箱の中に地図を入れ込み、デビに向かってそれを投げた。
「よし、ディアン、降りて来い!」
デビがそれを受け取ったのを確認し、ザラが上にいるディアンにそう言うと、ディアンは「分かったよ」とつまらなさそうな顔を一瞬して、紐を手に取った。
その時だ。何かがディアン目掛けて物凄いスピードで飛んできていた。真っ赤な色をしたそれは、紐を握り降りようとしていたディアンの頭上すれすれを、ピュッと通り過ぎると、手の届かない空中でストップする。
「何だ! 何かが頭の上こすった!」
あまりの速さに何が起こったのかわからず、ディアンがそう叫ぶ。下から様子を見ていた二人にも、何か赤いものが通り過ぎたように見えた以外は何が起きたのかよく分からない。分かっていることは、急いでディアンをおろさなければ危ないということだけだった。
「何でもいい! ディアン、早く降りろ!」
「お、おう」
「見て、ザラ。 あれ、さっきのオウムだよ!」
再び紐を手に取るディアンの遥か上空を指差し、デビがそう言うと、鸚鵡はそれに気付いたのか、止まっていた空中から急降下を仕掛けてきた。
「なんで、鸚鵡がここにいるんだよ!」
慌てた様子でディアンは、壁に向かって四つん這いになってそれを避ける。
急降下していた鸚鵡は、避けられたと知ると、今度は急旋回し、再び遥か上空へと逃れた。
「広辞苑が投げ込まれても安全なとこまで逃げてやがるな、あいつ。ちゃんと学習してやがんだ」
「ディアン、急いで!」
ディアンが先ほど上ったときのように、紐が持っていかれないよう引っ張りながら、デビはそう叫ぶ。鸚鵡は今度は、二人に狙いを定めたらしい。空中から再び急降下する姿勢をとった。
「下りた! 下りたぞ!」
ディアンが叫んだその瞬間、鸚鵡は一気に急降下し、二人に迫った。紐を手放し、二人が素早く地面に伏せると、鸚鵡はそのまま真っ直ぐ飛んで行き、通路の向こうへと消えていった。
南に出るはずの鸚鵡が、どうしてこの北エリアに現れたのか……。最初の見当が外れたのだろうか……。三人にそんな不安が過ぎるが、今は時間がない。とりあえず、何かが見えた西の方へ行き、そこの像で何かを調べることした三人は、ディアンが地図にマークした場所に向かっていた。どうやら、さすがのディアンでも何度も「西」と「東」をとり間違えることはなかったらしく、そのマークの場所へときちんとたどり着くことができた。
そして今、その場所にいるわけだが……。
「なぁなぁ、見ろよこれ。ふわふわだぞ」
「得体の知れないものによく触れるね、ディアン」
「ふわふわ気持ちぃ~」
ふわふわとした、得体の知れない部分を気兼ねもなく触っていたディアンを、ほかの二人は心配半分、呆れ半分に見ていた。好奇心旺盛なことはまぁ、確かに良い事ではあるがもう少し慎重になることも、ディアンには知ってほしいものだと二人が思っていたことはさておき、確かにこれはまた妙なものである。壁の一部のようだが、なぜかふわふわとしていて、しかも妙に盛り上がっている。言うならば、通路の真ん中に小山ができたような状態で、完全な通行止めである。しかし、肝心なことはそこでもない。地図に、こんなものが存在していないことが一番の問題である。地図によれば、この先はT字路になっているはずで、行き止まりではない。とすれば、これはなんなのか……。
「さっぱり分からないね……」
「わからねぇものに一々悩んでも、時間の無駄だ」
「全くだな! 別のルート探すか?」
「悩んでもねぇ奴に言われても説得力に欠けるが、まぁそうなるな」
出口でもないところで立ち止まっていても意味がない。折角の作戦は水の泡になってしまったが、それも仕方ないだろう。三人は、もう一度だけその妙な壁を見上げた後、背を向けて歩き出した。
ズシリ……。
背後で何かが動いたような気配を感じ、デビが振り返ってみる。が、そこには白い壁が見えているだけだ。首を傾げながらも、デビは前を向いて歩き出す。前を歩いている二人に追いつこうと、足を早めた時だった。
ズシ……。
もう一度、サッと振り向いてみる。心なしか、壁がこちらに近づいているような気がした。
「どうした、デビ?」
「な、なんだかあの壁がこっちに近づいてきている気がして……」
気のせいかなと首を傾げたデビは、壁を見上げてみる。見間違いだって~と、ディアンはけだるげに言った。
「もう早く行こうぜ~。時間ないし、早く出たいしさ」
「いや、待てよ。……あんなとこに、模様なんてあったっけか?」
急かすように言ったディアンに、ザラはある一点を指さした。ディアンがそちらに目を向けると、白いだけだったはずの、ちょうど天辺あたりに目玉模様のような、黒い点がみえた。それがこっちを睨んでいるようにも見える。
「……さっきまで真っ白だったよね?」
デビも同じ方を見て、そう思ったらしい。確かに……。あんなところに黒い点などなかったはずだ。しかし、なぜ右側だけに……。そう思っていた矢先、三人の前でもう一つ、黒い点が先ほどのとは反対の、左側に現れたのだ。それはもう、人の目が瞬きをするような、ほんの一瞬にである。
パチリ。
無言で考えていた三人の前で、黒い点は一度消えてまた現れた。
パチリ。パチリ。
「壁に……、目?」
「馬鹿だな、デビ。壁に目なんてあるわけないじゃん」
「そうだけど……」
デビが不満げにディアンに返した時、黒い点が現れた壁の天辺辺りがもこもこと動き……、いや、壁全体が動き出したかと思うと、大きくてたくましくて太い幹のようなものが壁の下から二本、飛び出してきた。続いて、鋭い爪のついた指がしっかりと地面をつかむ。真っ白な壁は今や、壁ではなかった。これは生き物だ。おそらくあの足と思われるものから考えるに、羽毛だろうと思われるふわふわした部分を逆立て、先ほどよりも大きく見えるようになったその生物は、真っ白な中、一際目立つ黒い目で三人を見下ろした。
「壁じゃねぇ……。 こいつは、鳥なんだ!」
ザラが叫ぶと、その鳥はもう一度パチリ、と瞬きした。
これは第四幕の後半です。前半は「Walia(5)」って題名のものを見れば読めます。ややこしいことしてほんとすいませんでした。
これは第四幕の後半です。前半は「Walia(5)」って題名のものを見れば読めます。ややこしいことしてほんとすいませんでした。
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