紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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ぼちぼち試験のことを考えなければならない時期になってまいりました。でも今は部誌の編集でそれどころではないです。語学系が心配すぎる。なんかウチは口頭試験やるらしいので。
昨日まですごく寒かったですね。耳当て付き帽子とかぬくぬくマフラーとか防寒グッズを充実させたいですが、良い物はやはり値が張ります。ここ最近は結構しっかり防寒してたので、厳重すぎると笑われました。英語の先生に見た瞬間笑われて、ちょっと恥ずかしかったです。やはりヨーロッパの人は寒いの慣れてるんでしょうか。
近況はこの辺にして、続きから鬼子流離譚です。姉さんの独壇場。
昨日まですごく寒かったですね。耳当て付き帽子とかぬくぬくマフラーとか防寒グッズを充実させたいですが、良い物はやはり値が張ります。ここ最近は結構しっかり防寒してたので、厳重すぎると笑われました。英語の先生に見た瞬間笑われて、ちょっと恥ずかしかったです。やはりヨーロッパの人は寒いの慣れてるんでしょうか。
近況はこの辺にして、続きから鬼子流離譚です。姉さんの独壇場。
男の後ろ姿を見送ってから、女は小屋の戸をくぐった。中にいた二人の子供は最初に見た場所から一歩も動かないまま、茫然と女を見ていた。
「今晩和」
再度挨拶の言葉を女は朱唇に乗せた。二人とも反応は示したが、返事はなかった。
構わず女は上がりこむ。そうしてちょうど小屋の真ん中近く、二人の少年のどちらからも同じく三歩程の距離になる位置に立った。
「私は青蓮(しょうれん)。初めまして。あんた達は?」
実に、当たり前の挨拶だった。架楠が家族と共に暮らしていたとき、幾度か使ったし、使われた決まり文句。そんな当たり前の挨拶も久しぶりだった。
「は、はじめまして……」
か細い声で、「鬼」の子は漸くそう答えた。
自分の名前。ずっと名乗っていない。そう言えば。何だったか、上手く言えるか、少し不安になる。最後に呼んでくれたのは勿論母で、それも随分前のことに思える。
「…か、カナン。架楠です」
少しどもったけれど、ちゃんと返せたことに安堵した。当たり前のやり取りが、自分を人間だと証明してくれた気がしたのだ。
「そう。架楠ね。そしてあんたは?」
青蓮は架楠に微笑みを向けて、それから黙って座り込む鬼の仔に顔を向けた。
「寄るな人間!!」
凄まじい形相で、鬼の仔が叫んだ。全身が殺気立ち、触れたら突き刺さりそうな空気を身に纏っている。
青蓮はゆったりと笑んで見せた。
「何を怖がる必要があるのさ。そっちの子はともかく、あんたは子供とは言え、仮にも鬼だろう?私一人、その気になればどうとでも出来るじゃないか」
自分が害される可能性を示唆しつつも、まるで焦ったところのない表情は余裕を感じさせ、鬼の仔は警戒を強めた。その口から出てきた鬼という単語に反応したのかもしれない。
そしてもう一人、架楠は、そうっと声を上げた。おそるおそる、しかしはっきりと。
「あの、僕は、「鬼」じゃないんですか?」
架楠はずっと気になっていたのだ。自分も母も人間だと、自分では思っていた。けれど何度も何度も人から言われる度、だんだんと自信がなくなっていった。
一人になってからも考えて、その度否定して、けれど日に日に否定の言葉は弱くなっていった。
誰かに否定して欲しかった。いっそ肯定でも良かった。他の人と、自分や母が違うものなのは見れば分かる。ならば人間の区切りとは何だろう。どこからが人間で、何からが鬼。
何も分からなくて、山の中で木の根本に座り込み、抱えた膝に頭を押しつけて架楠は考えてきた。何度も何度も。繰り返し。たった一人で。
「あんたは鬼じゃないよ。もしそうなら私は見れば分かる」
望んだ答えはひどくあっさりとしたものだった。
「で、でも。村の人たちは僕を鬼と呼びました」
欲しかった答えをもらったはずなのに、架楠は何故か反論していた。思わず腰を浮かせて距離を詰める。本人もよく分かっていない意図を酌み取って、青蓮は重ねてその言葉を否定してやった。
「珍しいからだよ。単純にね。自分たちとは違う、よく分からないもの。それが鬼なのさ。その村の人たちにとってみればね。本当の鬼がどういうものか知らないから。この村の人間だってそうさ。それが本当に何であるか見た者は居ないのに、鬼退治だなんて騒ぎ出す。得体の知れないもの、それを「鬼」と彼らは呼ぶんだ。あんたは本物の鬼とは似てもにつかないよ。安心しな」
落ち着かせるようにそう言ってから、青蓮は鬼の仔に向き直った。
雷が鳴った。少年達は体を強張らせる。鬼の仔を見て、青蓮は黒目がちの目を細めた。
「鬼のくせに雷が怖いのかい。雷神さんなんてよく鬼のような姿で描かれるもんなのにねえ」
人間の描いた雷神の絵など鬼の仔は見たことがなかったので、言っている意味はよく分からなかったが、とりあえずからかわれているのだと思った。
「さっきの言葉を訂正した方が良いかもね。今のあんたはただの怯えた子供だよ。鬼も人間も関係ない。そんな子供には何にも出来ない」
「なんだとっ!」
激昂し、立ち上がった鬼の仔の向かい端で、架楠は目を見開いていた。鬼の仔の剣幕に驚いたからではない。鬼も人間も関係ないなんて、そんなことを言う人が居るとは思ってもみなかったからだ。
「…人間のくせに、俺たちのことなんか分からないくせに!」
それこそまるきり子供のだだのように、鬼の仔は叫んだ。
「分からないさ。だけどそれはあんたが鬼だからじゃない。あんたと同じ立場に私が居ないからで、鬼だ人間だという問題じゃない」
だから、人間同士でも想像し、推測し合うことしか出来ないのだ。
「だ、だから何だよ。‥‥分からないんだったら、偉そうにするんじゃねえ!」
もはや訳も分からず、鬼の仔は唯吼える。
「理解されないことを責めるのかい?それはお門違いってものだ。あんたの言った通りそんなもの分かるわけないんだから、あんただけのものとして大事にしてれば良いんだよ」
稲妻が閃いた。
それに合わせるように、青蓮が一歩踏み出す。浮かび上がる巫女姿。
鬼の仔は一歩下がる。見開いた目に浮かぶ怯えは雷に対してか、目の前の女に対してか。
「……なんの、つもりだ。俺を殺す気か。父ちゃんの様に、…殺す気なのか」
それでも睨みつけてくる鬼の仔の言葉を女は表情を変えずに受け止める。
「俺たちが何をした。俺も父ちゃんも、人間には関わらずに生きてきたのに。害をなしたことなんか無いのに、人間は……!」
何様だと吐き捨てた。
架楠は目を伏せた。架楠は人間だったけれど、それでもそれは何度も思ったことだった。目の前の鬼の仔と自分を重ねてしまう。理不尽に奪われた大切な人を想い出す。
「鬼は人間に害をなしたんだよ」
「それは俺達じゃねえ!関係ない!!」
「そう、そしてあんたの父親を殺したのも私じゃあない」
ぐ、と鬼の仔は言葉に詰まった。それでもしゃべってる内に上がり続けた興奮の熱は収まらず、今や危うい均衡の上にある。
そして雷、-光と音はほぼ同時。
大きな音がした。どこかに落ちたようだった。
緊張と恐怖は最高潮に達した。
「うあ……ぁあ、あぁあ……」
鬼の仔の、悲鳴じみた、ひきつった声が、意味のない叫びに変わる。
「あぁああああぁ…!」
その叫びに共鳴するように、架楠の声も重なる。雷が怖いのか、呼び起こされる過去に怯えているのか、鬼の仔の叫びに触発されただけなのか、本人にも分からなかった。
雷と共に、頭の中で何かがはじけた気がした。
頭を抱え、うずくまる。
頭の中は真っ白で、胸の中には何かが詰まっているようだった。
唯啼いた。
「鬼」の子は哭いていた。鬼の仔は號いていた。
恐怖を唏いた。
孤独を泣いた。
悲しみに嗁いた。
悼みに慟いた。
そして別離を喪失を哀惜を憎悪を、幼さ故の、制御される前の衝動に任せて涙いた。
暫くそれを黙って眺めていた青蓮はすいと動いた。まず近くにいた架楠を。それから鬼の仔にも手を伸ばす。
そうやって青蓮は二人の子供を抱いてやった。驚いたのか、叫びは徐々に収まった。
一転して優しく、落ち着かせるように青蓮は二人の子供に声をかけてやる。
「寂しかったろう。独りは寂しいもんだ。特にあんた達みたいな年齢は、本当はまだ親が必要なんだ」
よしよし、とあやすようにしてやれば、それは簡単に嗚咽に変わった。
泣いて良いんだよと、優しく包み込む様にしてやると、手放しの感情が、衝動となって涙と声に姿を変えて吹き出してくる。
うわああん、あああんと年相応の泣き声が小屋の片隅に満ちた。
青蓮は黙って、しがみついてくる二人の子供が泣きやむまで抱き留めてやっていた。
若干字で遊んでいるところがあります。全部「なく」という漢字ですが、意味の違いが気になる方は辞書をお引き下さい。
「今晩和」
再度挨拶の言葉を女は朱唇に乗せた。二人とも反応は示したが、返事はなかった。
構わず女は上がりこむ。そうしてちょうど小屋の真ん中近く、二人の少年のどちらからも同じく三歩程の距離になる位置に立った。
「私は青蓮(しょうれん)。初めまして。あんた達は?」
実に、当たり前の挨拶だった。架楠が家族と共に暮らしていたとき、幾度か使ったし、使われた決まり文句。そんな当たり前の挨拶も久しぶりだった。
「は、はじめまして……」
か細い声で、「鬼」の子は漸くそう答えた。
自分の名前。ずっと名乗っていない。そう言えば。何だったか、上手く言えるか、少し不安になる。最後に呼んでくれたのは勿論母で、それも随分前のことに思える。
「…か、カナン。架楠です」
少しどもったけれど、ちゃんと返せたことに安堵した。当たり前のやり取りが、自分を人間だと証明してくれた気がしたのだ。
「そう。架楠ね。そしてあんたは?」
青蓮は架楠に微笑みを向けて、それから黙って座り込む鬼の仔に顔を向けた。
「寄るな人間!!」
凄まじい形相で、鬼の仔が叫んだ。全身が殺気立ち、触れたら突き刺さりそうな空気を身に纏っている。
青蓮はゆったりと笑んで見せた。
「何を怖がる必要があるのさ。そっちの子はともかく、あんたは子供とは言え、仮にも鬼だろう?私一人、その気になればどうとでも出来るじゃないか」
自分が害される可能性を示唆しつつも、まるで焦ったところのない表情は余裕を感じさせ、鬼の仔は警戒を強めた。その口から出てきた鬼という単語に反応したのかもしれない。
そしてもう一人、架楠は、そうっと声を上げた。おそるおそる、しかしはっきりと。
「あの、僕は、「鬼」じゃないんですか?」
架楠はずっと気になっていたのだ。自分も母も人間だと、自分では思っていた。けれど何度も何度も人から言われる度、だんだんと自信がなくなっていった。
一人になってからも考えて、その度否定して、けれど日に日に否定の言葉は弱くなっていった。
誰かに否定して欲しかった。いっそ肯定でも良かった。他の人と、自分や母が違うものなのは見れば分かる。ならば人間の区切りとは何だろう。どこからが人間で、何からが鬼。
何も分からなくて、山の中で木の根本に座り込み、抱えた膝に頭を押しつけて架楠は考えてきた。何度も何度も。繰り返し。たった一人で。
「あんたは鬼じゃないよ。もしそうなら私は見れば分かる」
望んだ答えはひどくあっさりとしたものだった。
「で、でも。村の人たちは僕を鬼と呼びました」
欲しかった答えをもらったはずなのに、架楠は何故か反論していた。思わず腰を浮かせて距離を詰める。本人もよく分かっていない意図を酌み取って、青蓮は重ねてその言葉を否定してやった。
「珍しいからだよ。単純にね。自分たちとは違う、よく分からないもの。それが鬼なのさ。その村の人たちにとってみればね。本当の鬼がどういうものか知らないから。この村の人間だってそうさ。それが本当に何であるか見た者は居ないのに、鬼退治だなんて騒ぎ出す。得体の知れないもの、それを「鬼」と彼らは呼ぶんだ。あんたは本物の鬼とは似てもにつかないよ。安心しな」
落ち着かせるようにそう言ってから、青蓮は鬼の仔に向き直った。
雷が鳴った。少年達は体を強張らせる。鬼の仔を見て、青蓮は黒目がちの目を細めた。
「鬼のくせに雷が怖いのかい。雷神さんなんてよく鬼のような姿で描かれるもんなのにねえ」
人間の描いた雷神の絵など鬼の仔は見たことがなかったので、言っている意味はよく分からなかったが、とりあえずからかわれているのだと思った。
「さっきの言葉を訂正した方が良いかもね。今のあんたはただの怯えた子供だよ。鬼も人間も関係ない。そんな子供には何にも出来ない」
「なんだとっ!」
激昂し、立ち上がった鬼の仔の向かい端で、架楠は目を見開いていた。鬼の仔の剣幕に驚いたからではない。鬼も人間も関係ないなんて、そんなことを言う人が居るとは思ってもみなかったからだ。
「…人間のくせに、俺たちのことなんか分からないくせに!」
それこそまるきり子供のだだのように、鬼の仔は叫んだ。
「分からないさ。だけどそれはあんたが鬼だからじゃない。あんたと同じ立場に私が居ないからで、鬼だ人間だという問題じゃない」
だから、人間同士でも想像し、推測し合うことしか出来ないのだ。
「だ、だから何だよ。‥‥分からないんだったら、偉そうにするんじゃねえ!」
もはや訳も分からず、鬼の仔は唯吼える。
「理解されないことを責めるのかい?それはお門違いってものだ。あんたの言った通りそんなもの分かるわけないんだから、あんただけのものとして大事にしてれば良いんだよ」
稲妻が閃いた。
それに合わせるように、青蓮が一歩踏み出す。浮かび上がる巫女姿。
鬼の仔は一歩下がる。見開いた目に浮かぶ怯えは雷に対してか、目の前の女に対してか。
「……なんの、つもりだ。俺を殺す気か。父ちゃんの様に、…殺す気なのか」
それでも睨みつけてくる鬼の仔の言葉を女は表情を変えずに受け止める。
「俺たちが何をした。俺も父ちゃんも、人間には関わらずに生きてきたのに。害をなしたことなんか無いのに、人間は……!」
何様だと吐き捨てた。
架楠は目を伏せた。架楠は人間だったけれど、それでもそれは何度も思ったことだった。目の前の鬼の仔と自分を重ねてしまう。理不尽に奪われた大切な人を想い出す。
「鬼は人間に害をなしたんだよ」
「それは俺達じゃねえ!関係ない!!」
「そう、そしてあんたの父親を殺したのも私じゃあない」
ぐ、と鬼の仔は言葉に詰まった。それでもしゃべってる内に上がり続けた興奮の熱は収まらず、今や危うい均衡の上にある。
そして雷、-光と音はほぼ同時。
大きな音がした。どこかに落ちたようだった。
緊張と恐怖は最高潮に達した。
「うあ……ぁあ、あぁあ……」
鬼の仔の、悲鳴じみた、ひきつった声が、意味のない叫びに変わる。
「あぁああああぁ…!」
その叫びに共鳴するように、架楠の声も重なる。雷が怖いのか、呼び起こされる過去に怯えているのか、鬼の仔の叫びに触発されただけなのか、本人にも分からなかった。
雷と共に、頭の中で何かがはじけた気がした。
頭を抱え、うずくまる。
頭の中は真っ白で、胸の中には何かが詰まっているようだった。
唯啼いた。
「鬼」の子は哭いていた。鬼の仔は號いていた。
恐怖を唏いた。
孤独を泣いた。
悲しみに嗁いた。
悼みに慟いた。
そして別離を喪失を哀惜を憎悪を、幼さ故の、制御される前の衝動に任せて涙いた。
暫くそれを黙って眺めていた青蓮はすいと動いた。まず近くにいた架楠を。それから鬼の仔にも手を伸ばす。
そうやって青蓮は二人の子供を抱いてやった。驚いたのか、叫びは徐々に収まった。
一転して優しく、落ち着かせるように青蓮は二人の子供に声をかけてやる。
「寂しかったろう。独りは寂しいもんだ。特にあんた達みたいな年齢は、本当はまだ親が必要なんだ」
よしよし、とあやすようにしてやれば、それは簡単に嗚咽に変わった。
泣いて良いんだよと、優しく包み込む様にしてやると、手放しの感情が、衝動となって涙と声に姿を変えて吹き出してくる。
うわああん、あああんと年相応の泣き声が小屋の片隅に満ちた。
青蓮は黙って、しがみついてくる二人の子供が泣きやむまで抱き留めてやっていた。
若干字で遊んでいるところがあります。全部「なく」という漢字ですが、意味の違いが気になる方は辞書をお引き下さい。
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