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「………彪(ひゅう)。…俺の名だ」
ぽつりと、短く、鬼の仔は名乗った。それは手続き。あるいは契約。いっそ儀式と言ってもいい。
名を告げ、それに応える。
そこに何かが生じるのを、鬼である彪は知っていたし、人間である二人よりはっきりと感じていた。そしてその二人の人間も、やはり無意識にそこに何かを感じていた。
「よろしく、彪」
先程と全く変わらない笑みを、青蓮はして見せた。そうしてゆうるりと子供達に話しかける。
「ねえ、私と一緒に来るかい?」
「…え?」
「あてがないなら、面倒見るって言ってるのさ」
架楠と彪は目を丸くして青蓮を見つめた。
「…一緒に?」「本当?」
「嘘ついてどうするんだい。私もね、連れが欲しかったんだ。…片目では何かと不便でね」
そう言って、青蓮は軽く右目を瞑ってみせた。
「こっちの目はね、ほとんど見えないんだ」
瞑った右目の瞼を人差し指で一度押さえて言う。
よく見れば、開かれ、暗闇に光るその一対の目は、右と左で色味や光が違う様に見えた。
「一緒に来て、私を助けてくれないか」
再度頼まれ、子供達は二人揃ってこっくりと頷いた。
「じゃあ、僕たちは家族になるんだね」
「家族…?」
無邪気な架楠の言葉に、今度は青蓮が目を丸くする番だった。
彪はなんだかくすぐったそうな顔をしていた。青蓮は少し困ったような目をして、微笑み、そうだねぇ、と言った。
翌夕、青蓮は手甲をはめた手で漆塗りの笠を被り、背後を振り返った。そこには幾ばくかの報酬と共に、村人から譲ってもらった布を頭から被った、二人の子供が居た。
「どこかで衣と頭巾を買ってやらなきゃね」
今朝早く、単身山に分け入り鬼をしとめた巫女は笑う。
「どこに行くんだ?」
布で角を隠しながら、そこから顔を覗かせて彪が問う。
実際に「鬼」をしとめたのは彪だ。
「鬼」の正体は巨大な熊だった。人食い熊だ。そして獣相手の単純な力比べなら、当然鬼である彪が勝る。
青蓮は「鬼」の正体については予想していたようだ。と言うより、可能性の一つとして考慮していたということらしい。自分一人の場合でもそれなりに策はあったようだが、今回は彪に任せた方が早かった。
「別に目的があるわけじゃないんだけど、とりあえず町に出ようか。大概の物は揃うから」
歩き出しながら青蓮は答える。彪と架楠はその後をひょこひょことついて歩く。
「そうだ、僕たち貴方のことを何と呼んだらいいかな」
架楠の問いには素っ気ない返事が返ってきた。
「好きに呼んだらいいよ」
「じゃあ、……そうだな、お母さんと呼んで良い?」
しばし考えてから、示された案に、青蓮はびっくりして振り向いた。
「だって家族に為るんでしょう?」
続く言葉に、彪もそうだなと応じている。
「それは、まずいよ。私は巫女なんだから。なんだいもっと良いのは思いつかなかったのかい。…とにかくそれはまずいよ。」
そう言って、それでも青蓮は面はゆそうに、-そして心底嬉しそうに苦笑したのだった。
私一太郎使って打ち込んでから、ここに写すかたちを取ってるんですが、ルビとか傍点とか打っても反映されないのが不便です。後ページ設定みたいなのが出来ないので、行間つまってて読みにくいことないですか?やろうと思えば方法があるのかもしれませんが、分かりません。