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そして今日は学校が休校です。
新型インフルエンザが遂に京都でも発見されましたので。朝早くにクラブの人から連絡貰わなかったら、普通に学校行っていたと思います。情報遅い。
兵庫、大阪ときて、京都くる京都くるって言ってたら、飛んで滋賀、ついで東京・神奈川ときて、あれ~?と言っていたら、ようやく京都です。
とりあえず自宅謹慎とのことで、今日一日は引きこもるつもりですが、それとも引きこもるための食料買いだめをしておくべきかしらん?ひきこもるなら徹底的に、と言いたいところだが、まあ無理でしょう。
皆も気をつけて!
翌朝、サンタは架楠の元ににぎりめしを持って行ってやった。旅用の日持ちする食料ばかりでは、味気なかろうと思ったのだ。
昨晩と同じ場所にサンタが行くと、架楠の声が木の上から降ってきた。
「おはようございます。昨日の夜は、結局お星様見つかりませんでした」
そう、挨拶と報告をしながら声に続いて降りてきた架楠に、サンタはにぎりめしの包みを渡してやる。
「別にそんなに簡単に見つかるとは思ってないし、本当に会えるかどうかなんてわからないしさ」
だからそんなにまじめに探してくれなくて良い、と伝えるサンタに、架楠は「でも、」と声を上げる。
「約束の星が流れたのでしょう?あの星なら僕も見ました」
「そうはいっても、まだ二日有る」
昨夜不可解な台詞を放った架楠に、どういう意味かと問うと、家族に鬼がいるのだと架楠は言った。人の多いところが怖くなっていて、おまけに目立つ自分は、町に家族が寄っている間、ここで待っているのだという。
不思議な彼の話につられたのか、子供相手で気がゆるんだのか、サンタは父が自分にしてくれた話を語った。
父の話によれば、お星様は、尾を引く星が流れたら三日以内にこの山に再び訪れる、その時また会おうと告げたのだそうだ。
ちょうど三日ほどはここにいる予定だから、お星様を探すのを手伝いますと申し出た少年は、果たしてどの程度までサンタの話を信じているのだろうか。
「君の家族って、何しに町に行ってるんだ?」
「お金を稼ぎに。それから頭巾とか買ってきてくれるって言ってました」
僕はご覧の通り目立つ外見ですから、と架楠は続ける。
「彪は角を隠すだけだから、頭に布巻いてればいいんですけど」
彪というのは例の鬼なのだそうだ。この話に関しては、サンタは真偽はどちらでも良いと思っていた。聞いていても実感が湧かないし。
それから、やはり星は夜でないと見つからないものだろうか、とか高いところに引っかかっていたらどうしよう、なんて話をした後、サンタは仕事に向かった。
仕事が終わって、家に帰る前にもう一度架楠に会いに行くと、丁寧ににぎりめしの礼を言われた。添えていた漬け物がえらく気に入ったらしい。
闇の中、色の薄い架楠の目は、わずかの光でもよく見えるようで、帰りは道まで危なげのない足取りで先導してくれた。
明日もまた来ることを約束してサンタが家に帰ると、父は朝出掛けに見た時と同じ場所に座っていた。
「父ちゃん…?」
その場の空気がまるで壊れ物ででもあるかのように、そっと声を掛ける。
壁にもたれた父の顔をのぞき込む前に、本当は分かっていた。
次の朝、サンタは架楠の所には行かなかった。
近隣に親戚はいなかったので、納骨に集まったのは、サンタ以外は皆近所の人間だった。簡単に経をあげてもらい、土中に埋めてしまえばそれで終わりだった。
全部終わって、はげましや慰めの言葉を掛けてくる近所の人間が全員去ってから家に帰っても、まだ夕暮れにもなっていなかった。
納骨の前にひとしきり泣いて、いつのまにか涙は乾いていた。なんだかやたらとだるかった。
予感はしていた。だからといって準備が出来ているわけもなかった。
準備をしていたのは父の方で、彼の使っていた棚の引き出しに、いくらかの金子が包んであった。以前から、自分が死んだらこれで葬式を出してくれと言っていたものだ。
今座り込んだら立ち上がれなくなる、という確信だけあった。
土間に立って、小さな部屋をぐるりと見回してから、サンタは家を出た。
他に向かうべき所も思いつかなかったので、山に向かう。足取りが重たくなるのが嫌で、振り切るように足を前に出すと、今度は早足になる。
普段、どうやって歩いていたのかが分からなかった。
いつも、何をどんな風に見ていたか分からなかった。
しかしいつもの場所に架楠の姿はなかった。焚き火の後もきれいに消されている。
常にこの場所にいるはずがないと分かっていたが、途端に寂しくなった。
捜せばまだこの山に居ると思うが、それすら確かなものではないのだ。
ぐるりと周囲を見回す。
夕日の色に染められた風景。影は長く地の上で引き伸ばされている。
その場に座り込むこともせず、かといって架楠を捜しに向かうわけでもなく、サンタは唯その場に佇んでいた。
頭が働かない。その方が良かった。
考えることが怖かった。その先に必要のない恐怖を見出しそうだったから。だが思考を放棄したことで、正体の分からない、その先にあるかもしれない何かに対する不安は背筋に残った。
ぼうっ、と、馬鹿みたいにその場にたっている間に日は沈み、あっという間に景色は暗くなっていく。
どこかで適当に区切りをつけて帰ろう、と思っているのだが、何となくきっかけがつかめないまま立ち続けている。
その空気を断ち切ったのは、生き物の気配だった。
サンタが来たのと同じ、つまり道のある方向から、一人の少年が姿を見せたのだ。
サンタの立っている開けた場所に出てきた少年は、サンタを見て、きょとんとした顔をした。
一瞬、架楠かと思ってそちらを向いたサンタと目が合った。健康そうな赤銅色の肌をして、頭にはぶかぶかの頭巾を被っている。
頭の働きの鈍っているサンタには、それが誰だかすぐには思い当たらなかった。
「お兄さん、この辺で俺と同い年くらいの子供見なかった?」
その台詞を聞いて、遅まきながら気付く。
「きみは、彪、くんか?架楠の家族だという…」
鬼の、という言葉は飲み込んだ。
「架楠に会ったのか?今どこにいるのか分かる?」
彪は質問には答えなかったし、どこまで聞いているのかも尋かなかった。
「分からない。オレも、会いに来たんだが…」
「どこ行ったんだろ」
彪は首を傾げる。サンタはようやく、もしかして架楠は星を探しに行ってくれているのではないか、という可能性に気付いた。
何となく、沈黙が立ち込める。
「サンタさん?…彪!」
木々の間から出て来たのは、今度こそ架楠だった。
「架楠、明日の朝出発だ。山の麓まで迎えに来るから、その時はこれ被って来いよ」
そう言って、彪は架楠に長い垂れの付いた頭巾を渡す。たしかにそれなら髪も目も隠せるだろうが、少々目立ちやしないかとサンタは思う。
「分かった。ありがとう。…サンタさん、そう言うわけで、朝は早く発つことになるので、今日でお別れですね。その、お星様は、まだ見つかってないですけど、今日いっぱいは探してみるので」
「それは、もういい」
「え、まだ時間はありますよ」
大きな目をぱちりとしばたたかせて、架楠は言う。
「父ちゃんが、死んだんだ。だからもう、お星様を探す必要はない。…意味がないんだ」
静かに、二人の少年が息を呑んだのが気配で分かった。サンタはさっきから目を地面に向けている。
ちょうど、その頭上に、降るように、声がした。
「なんじゃ。のうなったか」
三人が声の発生元を探して上を見上げると、サンタの真後ろの木上に、白い人が居た。
闇の中、浮かび上がる白はそれ自体が発光している。
ふわりと広がる量の多い髪は、かかとまであるだろうか。
白い着物、白い肌、白い髪。
どれをとっても太陽に照らされている真っ最中の雪のように光っている。
明らかに人間ではなかった。
「まさか。………本当に、父ちゃんの言っていたお星様なのか?」
動揺に揺れる目でその白を見つめ、かすれた声でサンタが問うた。他の二人は声を挟まない。自分たちが部外者であることを承知しているからだ。
「わしが四十二年前に約束した男が、お前の言う父ならな。よう似ておる。きっとそうじゃろう。しかし、せっかく来たというのにのう。のうなってしもうたんではしようがない」
やれやれとでも言いたげに、つまらなさそうに『お星様』はそう言った。
「一日で良かった。もう少し、早く来てれば…」
「お前らの都合なぞ知らん。こちらは約束通り三日以内に来たのじゃぞ」
「父ちゃんは、あんたに会いたがってた」
「わしもじゃ。でなくば再会の約束なんぞせんわ」
「じゃあ、なんでそんな何でもなさそうに言うんだよ!なんでそんな平気そうなんだよ!」
叫んだ。突然現れたものに対しての怒りは、半分くらい理不尽なものであると、サンタだって思っている。八つ当たりに近い。けれど抑えられなかった。
「八つ当たりをするな」
そんなサンタの心中を見透かして、『お星様』はにやりと笑った。口が頬の半分以上まで裂ける。
「会えないのは残念だが、しかしまあどうと言うこともない。お前ら人間の寿命が短いことなどよく知っておる。そんなものにいちいち痛痒を感じたりはせん」
サンタは言葉をなくした。
くくくと、喉をふるわせ笑って、『お星様』は、彪に顔を向けた。
「お前も、まだ若かろうがそんなことくらいは分かっていよう?」
鬼の仔は顔を顰めた。
「同族か」
「そうじゃ。そこの人間の父親には星などと呼ばれたがな。こんな所で何をしているか知らんが、お前もすぐに、その横の坊やと別れることになる。分からんということはあるまい?」
彪は架楠の顔を見やって、困ったような表情をした。
「だけど、」
架楠が声を出した。
「そんなのは、人間同士だって、同じです」
言って、真っ直ぐに彪の目を見る。
「ああ、そんで俺達だって、同じだ。別れは来る」
彪も、彼の目を見てそう返す。
今まさに、一人の人を失ったばかりの人間が、そこにいる。
「だから俺は、今架楠と一緒にいるし、別れるときは悲しむぜ」
「僕も、別れるたびに悲しむよ。何度別れを体験しても、きっと」
あなたは悲しくないのですか、と見上げた架楠の青い目に問いかけられて、『お星様』は首を傾けた。
「そう、それもありじゃろう。悲しめるんならな」
そしてまた笑う。
「わしはもう行く。あ奴に会えんのなら、ここにおっても意味はない。単なる戯れではあったが、わしもこの日を楽しみにしておったよ」
後半は、間違いなくサンタに向けた言葉だった。その真意は、人間であるサンタには測れなかったけれど。
それからすぐに、彪はもう一人の家族が待つ宿に帰っていった。
サンタは何となく、その場に残って、焚き火をおこして晩飯の支度をする架楠を手伝って、そして、結局朝までそこで過ごした。
「おはようございます」
サンタが目を覚ますと、架楠はもう旅の支度を調え終わっていた。
「僕もう行きますね。おにぎり、本当にありがとうございました。それでは、さようなら」
そう言って、立ち上がる。サンタも一緒に立った。
「ああ、またな。…家族によろしく」
「はい。また」
そう言って、朝日の下できれいな笑顔を見せた後、すっぽり被った頭巾で、架楠の顔はすっかり見えなくなってしまった。
胸まである布ごしに、架楠はサンタを見て、軽いお辞儀をした後、山を下りていった。
その後、サンタは父の墓前に真っ白な花を見る。えらくかわいらしいそれを見て、サンタは顔をほころばせた。
「お、来た来た」
「お待たせ、行こうか」
「ああ、架楠、その布、前が見えにくくはないかい」
「大丈夫、薄い生地だから。ありがとう、青蓮さん」
「いや、いいさ。そう言えば、星にあったんだってね」
「うん。山の中で野宿してたら、突然知らないお兄さんが来て…」
青空の下、巫女と少年と鬼の仔の家族は楽しそうに寄り添って言葉を交わす。
星に願いを─
─そして星の願いは?
了
念のため、尾を引く流星=彗星です。