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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 久しぶりですね~ってこれ二回目だね。もう随分前にテストも終わってた(7月の終わりにはもう終了していた)ってのに、今頃更新とかふざけてるね。暇とか言ってるなら書けよって話です。

 最近免許取るために、教習所に通い始めました。今日、初めて実物の車に乗って運転します。
うん、はっきり言って怖いです。車ってもとから嫌いだし。 とりあえず、免許取れるように頑張るぜ!

 まぁ、そういう雑談はおいといて続きです。一応、この幕で第一章は終わり。次からは二章になります。で、この幕はかなり長いので二三回くらいにわけて載せると思う。ややこしいね、長いの書いちゃってごめんね、ほんと。

サト達五班が雑談に花を咲かせていた頃、八班の面々は校舎の中庭を歩いていた。戦教の校舎はロの字状に作られており、真ん中は巨大な吹き抜け空間になっている。そのため、運動場以外に中庭が存在するのだ。その真ん中を堂々と横切っていくと、校舎の裏側に出る出口が見えてくる。どうやらマサキはそこに向かっているらしかった。
「裏庭になんかあるのか、先生?」
「……」
 ディアンがマサキに話しかけるが、予期していた通り返答はない。やっぱ無理かとディアンは頭の後ろで腕をくむと、黙ってマサキについていくことにした。デビは、何かを警戒するようにマサキから少し距離を置いて歩いている。ザラに至っては、嫌々後についてきているのが丸分かりだ。よっぽど嫌なのか、正面にいるマサキの方さえ向こうとしない。
 マサキの側にいるのは、唯一ディアンだけだった。別にディアンもマサキが嫌じゃないというわけではないのだ。ただ、やはり今朝ぶつかったことについては謝っておくべきだと思ったし、ペンダントの礼も言わなければならない。そう思って先ほどからいろいろと話しかけてみているのだが……、結果はご承知の通りだ。一行に相手にされない。もういっそ、前に飛び出していって大声で言ってやろうか。相手がいくら人間味がない奴とはいえ、少しくらいびっくりするはずだ。
 そう思ってディアンが準備を始めると、マサキがふと立ち止まった。チャンスとばかり構えるディアンだったが、そこはもう扉の前だった。例の裏庭に通じるという扉である。小さなのぞき窓がある以外は、周りの壁と同じ色をしているその扉のドアノブをマサキが握る。
 よし、とディアンは考える。このドアが開いたら、前に飛び出してやろう。びっくりさせてやるんだ。
 もうすでにディアンの中で、前に飛び出すと言うことは決定していたのだ。その目的は最初と少しずれていたが……。
 マサキが握ったドアノブをゆっくりと回す。ディアンは走り出すために、右足を一歩後ろに引いた。あとはドアが開けば……。
 ガチャッ。音とともに半歩踏み出す。さぁ、いたずらの始まりだ。が……。
 ガチャガチャ。
 マサキが何度かノブを回し、固まる。半歩踏み出していたディアンは未だ開いていないドアへぶつかる直前に踏みとどまり、その後ろにいた二人は不思議そうに顔を見合わせた。
「あっぶねぇっ!! 先生、どうしたんだよ!」
「……」
 マサキはディアンの質問には答えず、慌てたように服のポケットを探り始めた。珍しく、マサキの顔に表情が出ていることにディアンはその顔をまじまじと見つめる。どいやら鍵を見つけだしたらしいマサキは、それに気づくと何かをぶつぶつと呟いた。
「? 先生、なんか言ったか?」
「……いえ、なんでもありません」
 マサキはそう答えると、ノブに鍵を差し込み今度こそドアを開いた。
 
  ドアの向こうは林だった。小高い丘が正面にあり、そこから小川がさらさら流れてきていて、あたりは春らしく水辺の花が様々に咲いていた。木々の緑は青い空に生え、風に吹かれてさわさわとここちよい音を立てており、眠気を誘っている。
 普段から緑の多い町に住むディアン達だが、ここはまさに、自然をそのままそっくり残したような場所だった。まさか学校の裏に、こんな場所があるとは誰も思わないだろう。おぉーと声を上げるディアンに誘われたのか、デビも「綺麗な場所ですね」と感想を漏らした。
「ここって学校の裏ですよね? 普通科の校舎裏にはこんな場所なかったのに」
「……正確には人工林です。中庭に水を流すためにわざわざ川を作ったり、それによって自然界に影響のないよう、林を造林したんです。あの丘の向こうからは、自然のままの森が広がっています」
 三人は一斉にマサキを振り返る。マサキは少しの間口を小さく開けていたが、やがて口を閉じて三人から目を逸らした。
 三人はしばし固まっていたマサキが、何事もなかったように歩き始めた後を見送りながら頭の中で互いに同じことを考えていた。急にしゃべりだしたかと思えば、妙にまともな話だ。ふざけたこと(否定的意見)ばかり話していたマサキが、なぜまともな話を……。いや、それ以前に口をきくなんてどういう風の吹き回しだろう。今更仲良くなりたいとでもいうのだろうか。
 三人は顔を見合わせる。だが、見合わせていても当然ながら答えは何もでてこない。仕方がなく、三人はマサキが上っていった小高い丘を登り始めた。川に沿って上っていくと、丘の上に大きな木が生えているのが見え、その前にマサキが立っていた。こちらに背を向けて、木を見上げている彼はどうやら何かをぶつぶつと呟いている様子だ。
「あいつ、何やってるんだ?」
 今まで口をきかなかったザラが思わず口を開いた。質問された二人は、分からないというように首をかしげると、マサキの背後につけた。だが、マサキは気がつかない。小声で何かをぶつぶつと言っているらしいが、その声はいつもの聞き取れるか取れないかの声よりさらに小さかった。
「……先生?」
 ディアンがそう声をかけると、マサキは飛び跳ねるように振り向いて、まるで三人を危険な動物を見たような目で見つめた。三人がその対応に困っていると、マサキは三人を認識したのか小声で「すいません……、少し考え事をしてました……」と謝った。
「……えー、と。こ、ここが仮の……集合場所になります……。任務がある……日は、ここに…集まってください。任務があるかどうかは、朝掲示板を見れば分かります……」
 どうやら途中で回復したのか、どもり口調がいつもの抑揚のない口調に戻った。だが、やはり昨日とはどうも様子がおかしい。
 マサキは、そう言ってから少しの間何も言わずに三人とは違う、どこか遠くを見てブツブツと何かを呟いていた。ディアンが声をかけると、先ほどの時もそうだったが、また飛び上がるように驚いたのだ。
「……先生、今日どうかされたんですか? 気分、悪そうですけど……?」
 デビが世間体までにそう問うが、マサキは首を横に振り、「大丈夫です」
と答えると、ポーチから小さな封筒を取り出した。
「……これが君たちの初めての任務になります」
 調子が戻ってきたのか、今度はすらすらとマサキが言う。封筒を三人の前に突き出し、その後それをまたポーチに収納する。内容までは言う気がないらしかった。
「聞いているとは思うのですが……、任務は放課後に行われます。その日によってあったりなかったりするので、気をつけてください」
 さきほどのはなんだったのか、ディアンは尋ねたい気持ちでいっぱいだったが聞かなかった。聞いても特に自分には関係ない。もとが変とは言え、おかしくなった先ほどのことは気になるが、本人が「大丈夫」と言っている限りは、それを信じることにしよう。
「質問があるのでしたらどうぞ」と言いたげな目をしているマサキだが、三人の口から特に質問は出されない。内容について聞いても良かったが、ここはその時までのお楽しみにしよう。ディアンが微笑を浮かべているのを見たデビは、そんなディアンの心を見透かしたのか、自分も黙って小さく笑っていた。
「……ないようなら、今日は裏口の方から出たいと思います」
 「裏口?」と眉をひそめる三人を見てか、マサキは三人から見て左の方を指差した。見ると、丘の下に広がる林(マサキの話からすると、ここも人口なのだろう)の中に細い道があるのが見えた。その先には見えにくいが門もある。どうやら裏口とは名ばかりで、実際は正門よりもさらに向こう、リュウト川を越えた向こうにでる横道らしかった。
「よぅし! さっさといこうぜ、先生!」
 何はともあれ任務に行けると分かってか、ディアンは先ほどマサキの行動を不審に思っていたことなどぱっと忘れて丘を下ろうとした。それに続いてザラとデビが下り始める。マサキはついてこなかった。
 なんでついてこないんだよとばかり振り向いたディアンは、マサキが怖いものでもみるような目で遠くを睨み付けているのを見た。よほど怖いものなのか、普段はダラリと下げられている手が今はギュッと握られ、こころなしか小刻みに震えているようにも見える。マサキが表情に出すほど恐ろしいものとは一体なんなのだろう。マサキが見ている方に顔を向けたディアンは、そこでザラやデビもそちらをみていることに気づいた。二人は、何かを凝視している。その理由はディアンにもすぐにわかった。
丘からはほんの少しだが、視界に戦教の正門が見えていた。そこから三人の、見たこともない大人が歩いてくるのだ。紺色のような服をきているから、軍人かもしれない。戦教に軍人がくるということは、おそらく用があるのはマサ先生だろう。
 ともかくも再びマサキをディアンは振り返る。たまたま他の二人とも息があったのか、二人もマサキを見ていた。マサキの目は、正門から校舎へとだんだん近づく三人の人影から離れない。その強張った表情を浮かべた顔に、冷や汗が浮かんでいるのを、三人は見逃さなかった。
 
***
 職員室では、一人の教師が書類に何かを書き込んでいた。綺麗な字でさらさらと、必要とされる事項を書き加えていく。彼もマサキと同じく、戦教の新人教師だった。だが、教師という職業が初めてというわけではない。担当の生徒達を持つのは、これが始めてだった。そのために必要な書類に、彼は今まさに判を押すところだった。
「プス、ちょっと来て欲しいんだけど?」
 その時、職員室のドアが開いて彼の師、鳥海ユウイが顔を出したので、彼は手にしていた判子の蓋を閉めた。そして明るい声で、「なんですか、先生?」と立ち上がった。
 彼の名前は、神空サイ。これが本名だが、彼と親しい人々は彼の名前のスペル、Psiからとって、彼のことをプス、もしくはプシーと呼ぶ。実に女性らしい愛称だが、そう呼ばれるだけの要因が彼にはあった。背丈はそこまで小さくもないが、体格は少し細身で髪は若葉を思わせる黄緑のショート。睫も長く、顔立ちもどこか女性らしいために幾度となく女性と間違われるというある意味不幸な体質のおかげで、そう呼ばれることになったのだ。ちなみに本人も、今ではこちらの方が慣れてしまっている。
「うん、あのね。今から、少しの間、マサの部屋には近づかないでね」
「えっ、でもまだ僕、例の書類出してませんよ?」
「いいからいいから。明日でも構わないしね。 他の今日任務ない担当達にも、帰ってきたら言っといて」
 にっこり微笑む自分よりも背の低い師匠を見下ろし、プスはとりあえず返事をすると、去っていく師の後姿をその青い瞳を丸くして見ていた。首を傾げた拍子に落ちてきた前髪を左側に流し、彼はまた机に戻った。とりあえず、この判だけは押しておこう。後で急に出せっと言われかねないからと、考えて彼は判子を手に取った。その時、ふと窓の方へと目をやると三人の軍人が正門から歩いてきているのが目に入った。そのうちの一人、他の二人よりも少し遅れて歩いている人物の顔を見て、プスは何かが頭をよぎっていくのを感じた。
 
***
「きっかり言っていた時間通りだな」
 その少し後のこと。自室で嫌そうに時計に目をやり、マサはそう呟いた。それから目の前にいる、背の高い仏頂面の軍人へと視線を向ける。片目を眼帯で覆った初老を控えたような皺の入った顔と、几帳面そうな表情をしたその人物は、紺の制服の内ポケットに手を入れていた。探し物を見つけたらしく、それを取り出すと、彼は目の前に座っているマサへと顔を向けた。
「お久しぶりでございます、超音軍将。今日もあまりご機嫌はよろしくないようですな」
「誰かさんのおかげでな、姥吏裁判監督。 で、今日は何の用で来たんだ?」
「もうお分かりかと存じていますが、必要とあらば申しましょう。今日我々がここに来たのは、ある人物がここにあー、おられるということでその人物を連行することが用件であります」
 先ほどポケットから取り出した紙の文面を読みながら、初老の軍人、姥吏はそうマサに告げた。そして誰のことかはお分かりだろうと、言わんばかりに座っているマサを見下ろした。
「あんな奴を匿うなどと、そんな馬鹿な真似はもうお止めください。これは皇族にあるまじき行いです」
「俺が皇族であることと、あいつを養うこととは関係がない」
「いいえ、多いに関係御座います。奴が皇族に手を出すはずがないなどと、どうして言えますか。国を裏切っているかもしれん相手を、皇族自ら面倒みるなど、それでは貴殿自ら首を差し出すのと同じですぞ」
 相手は暗殺技術を手に入れた、戦闘民族なのです。そう付け足す姥吏の目には、煮えたぎった怒りが浮かんでいた。邪魔をするのは金輪際するなと言わんばかりの気迫でもって、マサを見下ろしている。だが、マサは微塵も動かず、腕組みをしたまま姥吏を見上げていた。次には機嫌が悪そうだと称された顔のまま、いかにも文句があると言うように立ち上がった。
「あいつがこの国を裏切っているって証拠がどこにある?」
「そんなもの、少し問いただせば吐露しましょう」
 間髪いれずに姥吏がそう答える。だがマサはそれを鼻であしらうと、「今までもそうやって何一つ聞き出せなかったのにか?」と返した。
「あいつを痛めつけて、怖がらせて、あんた達は何かを得たか? 何一つ得ることはできなかった、そうだろう。さらにそれを強化したところで無駄だと、どうして分からない?」
 マサのその言葉に姥吏は苦虫をかみ殺したような顔をした。正にその通りということだろう。それをみたマサは、追撃とばかり言葉を続ける。
「あいつの感情を、奪ってしまったのは誰だ? あそこまで追い込んで、何も話せないようにまでさせたのは誰だ? 俺やあんたに責任がないとどうして言える。奴に何かを話させたいなら、そちらもそれなりに譲歩する必要があるだろう」
「……その答えが、あなたが奴を匿う。そうだとでも言うのですか」
「正しい答えかは俺にも分からない。だが何もせず、奴がこれ以上に壊れるのを見るのは辛い」
 だからこその結論だ。
 マサはそう言い切ると、立ったまま唖然としている姥吏をキッと睨みつけた。
「奴を我が目の届かぬ場所に移さんとする気なら、それなりの覚悟をするんだな。姥吏。同じ国を守る仲間とて、俺は容赦せん」
 姥吏が後ずさる。マサは紫紺の瞳を赤く光らせ、それを鋭く睨みつけた。
 
***
 そんな会話がマサの部屋で行われていた頃、ディアン達八班は、裏口から出てリュウト川沿いの道を歩いていた。この国には~地区という区切りがあり、それによって住所を決めているのだ。各区切りには簡単な役割というものもあり、今から向かうB地区は、商店街となっている地区だった。リュウトシティ唯一にして最大のマーケットがここということになる。特に名称もなく、B地区それ自体が今では商店街を表しているといっても過言ではないし、商店街といえばここしかないのだ。
常にザワザワと騒がしい場所だということを、ディアンも勿論知っていた。予想したとおり、商店街の入り口に着いた途端、活気ある空気が流れてきた。人であふれ帰り、所々で人々が会話を交わす声が聞こえてくるし、小さくBGMも流れている。パン屋や喫茶店等の飲食店、流行の服やアクセサリー、靴を売る装飾店。立ち並ぶ店の種類は様々だ。
そんないつもならにぎやかで、活気あふれるこの場所になぜか今日はひそひそとしゃべる声が混じっていた。
ヒソヒソ……ヒソヒソ……。
「あれが例の……」
「指指しちゃだめよ。呪われるわよ?」
 ヒソヒソ……ヒソヒソ……
「あの子達はなんなのかしら?」
「あれだろ、戦教の」
「あら、教師になったって噂は本当だったのね」
「しっ! あなた声が大きいわよ!」
「どこにいくのかしら……」
 
 前を歩くマサキはただもくもくと先に進んでいく。そんな彼が人の横を通る度、前を横切る度、ヒソヒソ声はさらに多くなっていった。
「なぁ先生、任務先はまだ?」
「……」
「なぁ、マサキ先生」
「ディアン!」
「なんだよ、デビ?」
 マサキに話しかけるディアンをデビが制止する。不機嫌そうな表情でディアンがデビを振り返ると、デビとザラは呆れたような顔を見せた。
「あのさぁ、周りが何言ってるか聞こえないわけじゃないよね?」
 比較的小さな声でデビは呟くと、あんまり大きな声で話しかけない方がいいよと付け足した。
「先生に言われたこと忘れたの?」
「いや、わかってっけどさぁ……」
 ディアンは苦い顔をして、二メートル程先を歩いているマサキの背中を見た。相変わらずヒソヒソ声はやまない。それどころか広がっているようにも思える。だが、マサキはその中をまるでそんな声は一切聞こえていないかのように歩いていくのだった。
「離れて歩いていろとは言われたけど、話しかけちゃだめとは言われなかったし……。もういい加減、居心地が悪くなってきたんだよ」
 周りの声のせいでさ。
 ディアンは暗い声でそう言うと、こんな重苦しい空気なんてまとってなかったはずなのになぁとさらに付け加えた。そう、こんな風に人の視線が逐一気になるような場所ではなかったはずなのだ。ディアンの知りうる限りの、商店街は。確かに目の前を歩いていくマサキは変な人だとは思う。だが、不潔なものを避けるように避けることはないはずだ。彼のことも、そして自分達のことも。いまや、商店街の道の真ん中は四人以外誰も歩いていなかった。回りにいる人々の視線は嫌悪をこめて、全てマサキへと注がれている。自然とその視線は、ディアン達三人にも向けられることとなっていた。
「……」
 ザラはやはり先ほどからずっと黙ったままだ。ちらとマサキを見る以外は、一切マサキに顔を向けず、ただ黙々と歩いていくマサキについていっているようである。どうやら回りの視線はそれほど気にしていないらしい。一方ディアンの言葉に同情したらしいデビは、そんな視線が耐え切れないのか俯いたまま広辞苑をしっかりと握り締めていた。
 その様子にディアンも耐え切れなくなってきて俯いたその時だった。周りのヒソヒソ声が急にブワッと大きくなった。何事かとディアンが顔を上げると、マサキが立ち止まっていた。右回れをして右を向くマサキに倣ってディアン達も右を見る。そこは一軒の金物屋だった。
「……ここが今回の依頼先です……」
 シャッターが下ろされ、閉まっているらしい店の前でマサキがそう呟く。やはり聞こえるか聞こえないかギリギリの声だ。
「……そこの戸から入って用件を聞いてきてください。開いているはずです」
 どこに戸がと顔をしかめるディアンを見てか、マサキは目の前にある店の横にある小道を指差した。ディアンが少し入って確認すると、確かにそこには小さな扉が据え付けられていた。
「先生は行かないのか?」
「……」
「なんだよ、まただんまりか?」
「いこ、ディアン!」
 正面に戻ってきて口をとがらせるディアンを引っ張り、ザラに続いてデビが入り口の中に入っていく。それを見送るマサキの顔は、やはり寂しげだった。
 中は薄暗くて、鉄の臭いが立ちこめていた。フライパンや、鍋が雑多に並べられている。壁際に並べられた棚には盥や、ボウルがいくつも重ねてあって崩れ落ちてきそうなくらいだ。が、肝心の人の気配はない。三人は顔を見合わせると、さらに奥へと進んだ。
 どうやら奥が居住空間になっているらしく、一つ段をまたぐと、そこにもう一つ扉があった。仕事場と居住空間を仕切る扉だ。中に明かりがついている様子からして人がいることは間違いない。再び三人は顔を見合わせると、デビがコンコンと扉を叩いた。
 返事はない。
「……呼び出しといて留守か……」
「それはないと思うよ、ザラ。鍵は開いてたもの」
 あきれたような口調で言うザラに、デビがそう言い返した時、急にバッと目の前の扉が開いて誰かが顔を出した。初老くらいの女性が、手振りしながら「はよ、こっちへお入り」と急かすので、三人は急なことに驚きながらも中へ入っていった。三人が中へ入ると、女性はピシャリと扉を閉め、しっかりと鍵をかけた。それから安心したように一息つくと、三人を見下ろした。
「あんた達が戦教の生徒達かい? どうしてあんな奴と一緒に……」
「え、僕達は戦教の生徒ですけど……。あんな奴って……」
「知らないでついてきたのかい? あらまぁ、やだねぇ。生徒達にそんなことも教えないだなんて」
「おばさん、先生がどうかしたのか? 確かに変な人だけど」
「先生? あれがあんた達の先生なのかい?!
「……うん」
 ディアンがこくりと頷くと、女性は額に手をやって「おやまぁ、どうしたもんだろうねぇ」と困ったような声をあげた。
「てことはあれがうちに依頼をこなしにきた奴なのかい? 明日からご近所さんに顔向けできないよ」
 なんてことだろうねぇと女性が嘆いていると、奥から一人の男性が歩いてきた。その手には猟銃が握られている。三人は少し身震いした。この場の雰囲気からして、あれで追い出されるのではという気が強くしたためだ。だが、男は三人の前を素通りすると、鍵のかけられていた扉を開けて表へと歩いていった。ガラリとシャッターを開ける。そこには無表情なままのマサキが立っていた。
「あんた、一体なにする気だい?」
「こいつをここで見張るんだ。お前は、生徒さん達と荷物を全部入れちまってくれ」
 どうやら女性の夫らしい男は、包帯の巻かれた足を引きずり、さらにマサキに近づくとその無表情な顔をにらみつけた。
「分かったか。お前は一歩足りとも俺の家には踏み込ませねぇ! 一歩でも動いてみろ! この猟銃でその汚ねぇ面を吹っ飛ばしてやる!目を閉じて、後ろを向いてろ!」
 マサキは堅く口を閉じたまま、ジッと男の方を見つめていた。彼よりも幾分か高い男の顔を見上げ、その背後にいたディアン達に一度目を向けると、諦めたように後ろを向いた。通りにいた人達が一斉にこちらを見つめる中、男はマサキの背に猟銃をつきつけると女に「早くやれ」とつぶやいた。
「分かったよぅ。あんた達、ちょいとこっちへきて、荷物を運ぶのを手伝っておくれ」
 女は嫌々ながらに返事を返して、突然起こった事態に唖然としているディアン達にそう言った。
 
 仕事は極めて簡単だった。ただ奥に積まれた段ボールを運び出して中身を、棚の上や壁に飾るだけだったのだ。これが戦士の仕事なのだろうか。
「何はともあれ、あんた達が来てくれて助かったよ。うちの人が足悪くして、重いものが運べなくてね。これで店が開けるよ」
 仕事が終わった頃、女は一枚の封筒を手に、奥から帰ってきた。さきほどまでの困り顔はどこへやら、女はそううれしそうに言うと、袋を取り出してデビに渡した。
「三万リン(この国のお金の単位。100リンは100円と同じ価値)……これは?」
「仕事してくれた見返りだよ。帰って校長先生に渡しておくれ」
 にこやかに女は言うと、三人を玄関まで送り出してくれた。
 玄関にでると、とたんに殺伐とした空気が流れてきた。後ろを向いたままのマサキの背に銃口が向けられているその様子は、仕事を始める前と何一つ変わらなかった。
「終わったのか?」
 男の問いに女は「えぇ。ちゃんとお代も払いましたよ」と返した。
「よし、なら用はなくなったろう。さっさとここから消えろ。お前さん達も悪いが、今すぐ帰ってくれ」
 男が三人を見下ろして言う中、マサキは前に向き直ると腰にしていたポーチへと手を入れた。「なにする気だ?」と言う男の前で、紙の束を取り出すとパラパラと何枚かめくってそこに何かを書き込んだ。
「受領証です、サインをいただけますか?」
 差し出された紙とペンを男は一度疑わしげにみたが、これを書かなければ目の前の男がいなくならないということが分かったのか、渋々ペンを取りそこにサインした。
「そら」男は書き終えるとペンを投げるように返して言った。
「書いたぞ。さっさと帰ってくれ」
 投げられたペンを見事に空中でキャッチして、マサキは「ありがとうございます」と頭を下げた。それから呆然とその様子を見ていた三人に「これで任務は完了しました。……帰りましょう」とつぶやいた。
 一人先に歩き始めたマサキの後に、三人は急いでつく。市場のヒソヒソ声はさらに増し、マサキの背に無数の指が向けられている。先ほどまでマサキに猟銃を向けていた男も未だその銃口をマサキに向けたまま、その背を睨みつけていた。
「……なんで先生はこんなに嫌われてるんだ?」
 ディアンはふと思ったことを口にした。誰に尋ねたわけでもないが、その答えは偶然にも聞こえた誰かの声によって返された。
「火影なんかが町中をうろつくなんて……」
 それは吐き捨てるような言い方だった。
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