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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 さっきの奴の続きを、ぶっ続けで入れてやるぜ! 長くて読みにくいのはご愛嬌で……。すいません。誰か読みやすい書き方教えて(涙 うちが説明しすぎなだけですかね、これ。

***
 その頃、戦教の職員室には六人の教師が顔を揃えていた。守元リーズ、輪超パズ、針闘コル、砂地サト、人影レム、神空プスの六人である。この六人は、現在竜の国で指折りの戦士に数えられる者達で、揃って六人衆と呼ばれている。現在三珠樹を務めるマサとユウイ、そして当時三珠樹だった風野ウェンの男弟子達で、書くまでもないだろうが戦教の教師達である。そんな彼らがどうして現在職員室に集まっているのかといえば、急に予定が変更され任務を延期されたり、変更されたことへの疑念からである。確かに彼らの師匠達は、時たま気まぐれに予定を変更することがある。そのために別に変更自体に疑念はないが、問題は八班である。八班に与えられた任務は、確かに簡単な任務だが、まるで時間稼ぎをするかのように裏口から出発させたり、わざと教師を遅刻させたりする等、扱いがおかしかった。彼らからしてみれば、それは担当教師であるマサキへの特別扱いであると考えざるをえない。
「あー、暇だぜぃ! 俺も任務行きたかったー」
「お前んとこは最初からなかったんだからいいだろ? 俺ンとこなんか途中で変更されて結局なしだぜ? おかげでレイにさんざん文句を言われたぞ」
 水色の髪を天井に向けて立たせた人物がそう言う。針闘コル、通称ハリトーと呼ばれている筋肉質な男を見て、リーズはそう文句を言った。それに呆れたようにサトが話しかける。
「君達二人はいつでも気楽でいいもんだね。問題はそんなことよりも、マサ先生の八班への扱いでしょ?」
「そうそう。まぁ、頭が単純にできてて悩む必要がないってとこは、ある意味羨ましいけどな」
「馬鹿なことを言うな、レム。そんなこと言っても、あの単純脳細胞共は調子に乗るだけだ」
 そりゃそうかと笑顔でそう言うのは片目のレム。その隣でポンチョを着たパズが当たり前だとばかり頷いた。それを見ていたハリトーとリーズの二人は、二人して顔を真っ赤にして怒り声をあげるが、ツンと澄ましているパズは全く取り合わない。レムも、ケラケラと笑うばかりで相手にしない。やれやれまた喧嘩かとばかり、ほかの二人が宥めにかかり、喧嘩は収まるがまたちょっとしたことで口喧嘩が始まる。これが、彼ら六人衆の中ではお決まりのことなのだった。
「あー、もう。しつこいねぇ、全くさ。喧嘩のことは少しおいといて、さっさと本題に入ろうよ」
「そうだな、サト。いい加減、やり始めねぇとマサ先生やユウイ先生が帰ってくるかもしれねぇ」
「フン。あいつについて話したいことなどないがな」
「お前らな、喧嘩の原因作ったの誰か分かってンのか?」
「ん? どうしたんだぜぃ、プシー? 暗い顔して」
「うん、いや……」
 口数の少ないプスを見て、ハリトーがそう尋ねる。気が向かないという風にふさぎ込んでいるプスを見て悟ったのか、サトが「まぁ。だからこそ本気で取り組まなくちゃね」と呟いた。
「今日までは、放っておこうってことで避けてたけど、そうも言っていられない。彼が生徒達と関わりあうのならね」
「……うん。そうだね。彼があの時の彼のままなら、尚更……」
 そう返したプスの声に、ほかの五人は考え込むかのように黙り込んだ。
たった二年前の出来事が、その頭の中には思い出されていた。
 
***
 サッサッサッ。
マサキの歩くスピードは早い。うっかりするとおいて行かれそうな勢いだ。任務終了後、四人は戦教に戻るため川沿いの道を早足に歩いていた。理由はない。ただマサキが早く歩くのに従い、三人は黙々と歩いているだけだった。
 火影……。 心なしかディアンは、マサキが先ほどのその言葉に怯えているように見えた。その言葉を聞くまでは、早足ではなかったし、むしろマサキが三人に合わせていたと言って良かった。それがあの言葉の後には……。
 空が赤く染まっていた。いつもなら、そろそろ六限目が終わったぐらいだろうか。ということは、今日から先はこれ以降に任務が待っているということになる。今日のように簡単な(簡単すぎるようなきもしたが)任務ならまだいいが、もし大変ながくなるような任務があったとしたら、さらに帰りが遅くなるということになるのか……。ディアンは頭の片隅でそんなことを考えながらマサキに続く。そんなことを考えている間にも、「火影」という言葉が、頭の大部分を埋め尽くしていた。火影、火影、火影……。
だいぶ市場から離れた所まで来て、マサキは歩調をゆっくりと元に戻した。もう目の前には戦教の校門が見えていて、あたりには住宅も少ない。歩調を落としたマサキに追いついた三人が横にピタリとつけると、マサキは足を止めた。しょうがなく三人も足を止める。マサキが見ている校門の方を見てみるが、そこには誰もいないし何もない。どうやら、また遠くに目をやって思いに耽っているらしい。はぁとザラのつくため息の音が聞こえた、その時だった。
 マサキが振り向き様に何かを後方へ投げつける。ディアン達三人が後ろを向いた時、道路上に三本のクナイが突き刺さっていた。他には何も見えない。しかし、どうやらマサキだけは相手がどこにいるのか分かっている様子だった。彼は再び手に何かを握る。今度は細長くて鋭い針のようなものだ。
 シュッと黒い影のようなものが視界の角を通った気がして、ディアンはそちらに目をやる。何もない。デビも同じように頭をきょろきょろと動かして、何かを追っている様子だ。どうやらザラだけは、何かを捕らえることができたらしく必死に目で追っている。その先を見ても、ディアンには何も見えなかった。
 ビュッとマサキが先ほどの針を三方向に投げつける。今度もどうやら外れたようだが、次の瞬間四人の頭上に大きな影が三つ写った。
「伏せて!」
 マサキの声が聞こえ、ディアンは急いでその場に身を伏せた。その後何があったかは上を見ていなかったので分からない。だが、一度大きく強い風が吹いてどうやら自分達の上に現れた三つの影の持ち主を吹き飛ばしたらしいことだけは分かった。マサキの動く気配がしてそっと顔を上げる。そこには誰の姿もなかった。マサキさえもいない。
「な、なんなんだよ。マサキ先生! 一体どこに……」
「上だ」
 混乱したようにディアンが言うと、早々と顔を上げていたらしいザラがそれに答えた。その答えにディアンは不審に思いながらも上へと視線を転じた。
 赤と青が半々に混じりあって薄い紫色になりつつあった空に一度火花が散った。同じように二三度、場所を変え火花が空中で散ってそれと同時に高い金属がぶつかり合う音が辺りに響いている。ディアンがその音が何なのか分からないでいるうちに、大きくカキンと高い音がしたかと思うと何かが側の塀の上に降りたった。
 マサキが赤い棍棒を手に、塀の上に立っていた。思わず近づいたディアンに、来るなとばかり睨みを利かすと視線を先ほどクナイを投げつけた道路の方へ向ける。そこには黒装束に、オレンジのスカーフを巻いた男が三人、やはりマサキを睨みつけるように立っていた。その手には小振りのナイフがそれぞれ握られている。先ほどから響いていた高い音は、どうやらこれがぶつかる音だったようだ。
 マサキが塀から降りて、ディアン達を謎の三人から守るように立った。そして再び、赤い棍棒を構える。夕日を右から受けて、長い影が七つ、左側の塀に写りこんでいた。
「……走ってください」
 急にマサキがそう言ったので、ディアンとザラの二人は意味が分からず背を向けたままのマサキを見る。その声に、今まで頭を抱えて伏せていたデビがようやく顔を上げた。彼もまた同じように顔をきょとんとさせ、マサキの背を見つめている。どうやら意図が伝わらなかったらしいことに気づいたマサキは、もう一度言った。
「俺があの三人に飛び掛ったら、校門まで走ってください」
 デビが立ち上がる。マサキはそれを合図にバッと飛び出していった。棍棒を構え、一気に踏み込む。そして上に振り上げていたそれを、勢いよく振り下ろした。
「……と、とりあえず走るか?」
 その様子を唖然として見ていたディアンは、同じように唖然としているデビにそう尋ねた。目を見開いて、驚きと同時に怯えていたデビはそれにコクコクと頷いた。ただ一人、ザラだけはそれに反するように前に飛び出していった。
「おいザラ! そっち逆方向だぞ!」
「うるせぇ。お前らは逃げろ!」
 カキン、カキン! とまた金属のぶつかり合う音が響いている。だがその姿を捉えることはどうしても出来なかった。時折、ぶつかった時に静止した時だろうか、塀に複雑に映し出された影のおかげで、まだ謎の男三人がこちらに向かってはいないことだけは知ることができた。そんな中にザラが向かっていく。引き戻すべきだろうか。
「……。デビ、先行ってて!」
「えっ、ディアン! どうする気さ?」
 デビをドンと押し出して、ディアンはザラの元へ向かうことにした。どちらにしろ、三対二だ。何もできないにしろ、気を散らせるだけ三対三の方がいいだろう。
 カキン! 音を立てて、棍棒と刀がぶつかる。マサキはその反動で少し後ろに飛ばされるが、逆にそれを利用し、一度塀を蹴ると謎の男の一人にタックルを食らわせた。もちろん、この様子はディアン達には見えていない。彼はタックルを食らわせて倒した相手に棍棒の先を突き出し、覆面に隠された顔を睨み付けた。フンと男が手でそれを払う。と同時に前方から、二人の男がマサキに刀を振り下ろした。咄嗟に棍棒で受けるマサキ。さらに二人の男は交互に刀を振り下ろして、マサキに攻撃し始めた。鉄でできた棍棒が、刀を受けるたびに高い音を響かせている。あまりの猛攻に、マサキは少し後ずさった。
 その時、背後に回りこんでいたもう一人の男、先ほどマサキに倒された男が、前方にいる男二人の同時攻撃を防いだマサキに向けて刀を振り上げていた。マサキがそれに気づいて体を向けようとするが、その時には男の刀は容赦なくマサキに振り下ろされていた。
「させるか!」 
 ザラがそう言って、ズボンにつけていたあの伸びる紐を取り出す。それを投げ縄の要領で男の振り上げた腕に投げつけると、巻きつけた。続けてグイッとそれを引っ張ると、当然、男の腕はそれにつられ刀がマサキへと振り下ろされていた刀は減速し、逆に後方へと引っ張られることになる。さらにザラがグイと引っ張ると、男はそれに対抗するためザラのほうへと体を回転させた。
「へっ。来るか? 俺は簡単にはやられねぇぞ」
 にやりと笑みを浮かべ、ザラは男を挑発する。彼は戦いを欲していた。
 
 ザラの奴、何やっているんだ。
 ディアンはザラの元へあと少しという時に立ち止まった。男の一人が、刀をギラリと光らせてこちら、正確に言うならザラを見ていた。これは危ない。自分達のような殆ど訓練も受けていないにも等しい人間が、敵う相手ではない。ディアンは、ザラが男を挑発する理由が分からなかった。気をそらすためと言っても、あまりにも無謀だ。だからこそ、そこに飛び込んでいくのが躊躇われたのだ。そこに今飛び込めば、自分も巻き添えを食うのは分かりきっている。しかし、ザラをこのままにするのは……。
 ディアンが立ち止まってどうしようかと迷っている間に、マサキは他の二人をあしらい、ザラの元へと駆けつけた。どうやら彼にも、ディアンと同じ考えがあったらしい。ザラから目を反らし、マサキへと顔を向ける男の腹部にマサキの蹴りが命中した。男がうっと唸って膝をつく。マサキはそれを確かめてから、ザラとディアンの二人に目をやった。それから早く行けとばかりに睨み付ける。だが、ザラは一歩も動かなかった。
「俺にも戦わせろ! 俺は」
「あなた達は脱国者の方ですか?」
 ザラの声を掻き消すかのように、マサキは後ろにいる謎の男の二人に尋ねる。男達は答えない。それどころか、少し笑ったようにも思えた。露になっている目が、笑っていた。
「言わなくても分かるはずだ。貴様に攻撃を仕掛ける時点で、違うに決まっているだろう。裏切り者」
 膝をついていた一人が低い声で、面白がるように言った。マサキがそちらに目を向ける。途端に下からすごい勢いで、刀が振り上げられた。チッと音を立ててマサキの頬をかすり、刀が通過する。男は立ち上がると、腕に絡まっていたザラの縄を切り、再びマサキに切りかかった。それと同時に後ろにいた二人が前に飛び出す。一人はマサキに切りかかる男の援護に、そしてもう一人はディアン達の頭上を跳び越し、その先へと走り始めた。二人の男の攻撃を、マサキはまた棍棒で受ける。頬からは少し血が流れ、巻いている包帯に半分ほど切れ目が入っていた。
「この餓鬼共がどうやら相当、大事なようだな。これを利用する手はない。ここにいる奴らよりも、先に逃げたお譲ちゃんの方が助けに行きにくいだろう?」
 薄ら笑いを浮かべ、男がそうマサキに言い放つ。それを聞いて、ディアンはもう一人の男が向かった先へと目をやった。校門に向かって走っているデビ。それを追いかけている刀を持った男。デビは背後に危険な男がいるとは夢にも思っていないだろう。
「デビ!」
 ディアンは男を追って走り出した。デビに教えなければ……。大変なことになる! 目一杯の早さでディアンは走った。ザラも次いで走り出す。縄は短くなってしまったが、もう一度構えなおして投げる体勢だ。しかし、どうやっても届きそうにはなかった。
「くそっ、やっぱり無理か!」
「デビー!」
 追いつけそうになくて思い切りディアンは叫ぶ。少しでも気づかせることができれば、デビはもう少し早く走るかもしれない。きっと、他の二人の様子が心配でゆっくりにしか進んでいないデビを、助けなければ……。
 「ヒヒヒヒヒ」と嫌な笑い声を上げる男達の声が聞こえる。一緒に行っておけばよかったと後悔しても遅かった。 ドゴッ! 鈍い音が背後から聞こえたのはその時だった。続いてバシャンと川に何かが落ちる音が聞こえ、気づけば空を飛んでいた。いやそうじゃない。正しくはマサキに抱えられて、ジャンプしていたのだ。一気に遠く前方までの跳躍……。急なことだったので、空を飛んでいるような錯覚に襲われたらしい。マサキが一度地に足をついて、トンとまた地面を蹴ると今度は一気にデビとそれを追いかける男の背後にまで迫った。どうやらデビは男の存在に気づいていたらしく、恐ろしげに目を見開いて背後で手を伸ばそうとする男を振り返っていた。
マサキが地面に足をつき抱えていた二人を下ろしたのと、デビを捕まえようと手を伸ばしていた男に、背後から蹴りを加えたのは同時だった。右からの綺麗な上段蹴りは、不思議な青緑の光の筋を作って男を蹴り飛ばし、柵を突き破って川へと落としたのだった。その後には風が四人の周りを一度駆け抜け、それが収まった頃には先ほどまでの男の姿はどこにもなかった。マサキの前には、呆然として座り込んでいるデビがいるだけだ。背後にいたディアン達も、一瞬に起こったこの事態に驚いておろされたときの姿勢のまま固まっていた。
 すごいと思うと同時に、ディアンは先ほど商店街の依頼主の男が銃をマサキにずっと向けていたことに、今更ではあるが納得していた。本気を出せば、これだけ早く動ける男が、もし何をするか分からない相手で……「火影」だと言うのなら、きっと自分だってそうしただろう。けど、不思議と恐怖は感じない。入学式当日の、あの逃げたいような気持ちは今や吹っ飛んで、少しだけマサキのことが知りたい気持ちになった。謎の男達から、市民を守る……。自分が抱いている戦士像そのものだった。
 
 その後、校門から音を聞きつけたらしい他の教師達が駆けつけてきた。川沿いの柵に大穴が開いているのと、生徒三人がぽつんと座り込んでいる真ん中にマサキが立っているのを見て、それぞれの兄達はマサキに詰め寄った。どうやら何かしらの暴力が行われたと思ったらしく、凄まじい形相の三人に囲まれたマサキは無表情のままカタカタと震えるしかなかった。どうやら恐怖から弁明することができない様子だったので、三人がそれぞれの兄に事情を説明しどうにか疑いを晴らすことができた。他の教師達三人も、それには納得してくれたらしい。兄達はとんだ勘違いをしていたとマサキに謝罪し、すぐに謎の男達について問い質した。だが、マサキは何故か一言も話そうとはしなかった。秘密でもあるように何も言わず、兄達と他の教師達、そしてディアン達担当の生徒さえ置いて、急いで校舎の中へと消えていってしまった。まるで、逃げるように。
 
「絶対、兄ちゃん達のせいだ」
 口を尖らせ、ディアンは目の前に揃っている自分の兄と、他の二人の兄を見上げた。「あんな怖い顔してさ」と付け足す。
「せっかくいろんなこと聞こうと思ってたのに! 三対一なんて卑怯だろ! マサキ先生、怖がってたじゃん! そりゃぁ逃げるよ!」
「だぁかぁら! あれはお前らがなんかされたのかと思ってだな」
「まぁまぁ、ひまわり。ディアンの言うことも尤もだって。確かにありゃ、大人げなかったよ」
「マサキには、今度もう一度謝るよ。だから許してくれないかな……。デビ?」
「いや、兄さん、僕じゃなくてディアンに聞くとこでしょ、それ」
 頬を膨らませるディアンに、リーズは見苦しく弁明し、それを苦笑しながらレムが宥める。愛しい弟に突っ込まれたサトは「じゃぁついでにディアン」と付け加えて、「ついでってなんだ?!」と今度はリーズに突っ込まれることになった。
 ディアン達三人は職員室にいた。三人とも、掠り傷一つ負っておらず、危険の去った今、とても元気だったので先ほどの謎の襲撃について事情を聞かれることになったのだ。もっとも、一番事情を理解しているのであろうマサキが逃げてしまったので、詳しいことは何も言えなかったが。三人はともかく、見た通りの男達の特徴を出来る限りで詳しく六人に伝えた。
それを聞いた兄達を含む六人は、ふうむと考え込む。やはり、優秀な戦士六人でも謎の男達の正体をつかむのは難しいのだろう。六人は相談するように小声で話し合うと、兄達は三人をみて「とりあえず先に帰るように」と告げた。
「できれば送って帰りたいんだけどね……、もう一度奴等が現れないとは限らないし……」
「お前らの身になんかあったら困るしな」
「わりぃけど、俺らまだ仕事が残っててまだ帰れそうにないんだ」
 弟思いな兄達は口をそろえてそう言う。ディアンとデビは一度不安そうに顔を見合わせた。もう一度、会ってしまったときのことを考えると、思いたくなくても顔が歪む。ザラも、さすがに自分達だけというのはという顔をしていた。
「やっぱり危ないよ。君達がだめなら僕が三人とも送っていくよ?」
「俺も行ってやってもいいぜぃ?」
「愚か者。俺達六人、揃っていなければ同じだろう?」
 プスが心配そうに言い、ハリトーが便乗したようにそう言うのをパズが一蹴した。どうやら仕事というのは、六人が揃っていないとできないことらしい。三人は顔を見合わせ、互いにどうすればいいか考え始めた。そんな時、ある人物がポンと手を打った。
「こうすりゃ、どうだ? ここから一番近いのは俺んちだから三人とも、そこで待たしとくってのは? 三人一緒の方が安全だし、これなら俺らのうち誰かが一人送りに行くだけで済むだろ?」
そばかすのできた顔にどうだ!という笑顔を浮かべ、リーズがそう提案する。その提案に、他の大人五人は渋い顔をしてみせ、生徒の三人はただただリーズを見上げるだけだった。
「なんか、悪いことでも……?」
「リーズ、確かに悪い案じゃねぇけど……。誰が送ってくんだよ?」
「そんなもん、少し時間みればいいじゃねぇか」
「これ以上マサ先生を待たしたら、僕たち何されるか分からないよ?」
「なんだよ、お前ら二人揃って! ディアン達が心配じゃないのか?!
「ブラコンめ」
「ま、まぁまぁ。リーズ、僕はいい案だと思うよ?」
「やっぱどっか抜けてるんだぜぃ、リーズの奴は」
「お前にだけは言われたくねぇ!」
 顔を真っ赤にしたリーズを筆頭に、口論という名の大騒ぎを始めた六人衆を離れた場所から見ていたディアン達は深ぁいため息をついた。ともかく、ディアンの家で三人共待つというリーズの案自体は賛成だったので、後の問題は誰が送っていってくれるかである。弟論議と、それを食い止めようとしている声とが混ざっている中、ガラッと扉の開く音がして、三人の耳に入ってきたのは低くて怒りの混ざった、ある人の声だった。
「うるさいぞ、貴様らぁ!」
 その声にピタリと口論の嵐は止み、全視線が職員室の入り口へと注がれる。校長、マサがそこに青筋を立てて仁王立ちしていた。
「またしょーもないことで喧嘩しやがって。俺様をいつまで待たせる気だぁ? 盆暗共が」
「「「「「「す、すいません」」」」」」
声がちっさぁいっ!
すいませんでした!
「よし、それでいい」
 マサ、後に生徒たちの間でも最強ならぬ最先生と呼ばれるようになる人物は満足げに頷き、職員室の端で小さくなっているディアン達に目を向けた。その顔には少しの驚きが表れる。
「なぁんで生徒がまだ校内にいるんだ?」
「あ、えとそれは……」
「今、帰そうと思ってたとこです。ほら、さっきのことで色々と話を聞いていたら、遅くなっちゃって」
 剣幕にひるんでいたディアン達三人の代わりに、サトがそう言って取り成す。「あぁ、さっきのか」とマサも納得したようだった。
「こんな所に火影が現れるとはな。まったく、警官共は何をやっているんだか。使えない奴らだ」
「……、ほ、火影?」
 聞き覚えのある単語に、ディアンがそう呟いたがマサはさらに六人に詰め寄る。
「で、こいつらのことは置いておくとして、貴様ら、いつになったら俺に話をしにくるんだ? なにやら大事な話だというからこうして遅くまで待ってやっているというのに」
「もうすぐ行きますよ! ディアン達を俺の家まで送ったらすぐに!」
「それまで待てってのか! この向日葵頭! そんなもん、奴に送らせりゃいいだろ? おいっ、マサキ!」
 ものすごい剣幕でリーズに怒鳴りつけると、マサは先ほど自分が入ってきたドアの方へと顔を向けた。全員が同じようにそちらに顔を向けると、ゆっくりとマサキが顔を出した。光のない緑の瞳が、消え行く夕日の光に当てられて、黒く変色している。やはりそれは、濁っていた。
「こいつらを送っていけ。お前の担当だろ?」
 マサの言葉に、マサキは一度嫌そうに俯くが、やがて「はい」と答えて了解した。そしてゆっくりと廊下に姿を消す。どうやらもう出発する気らしい。
「お前達、さっさと行け」
 後ろからマサに声をかけられ、三人はあわててマサキを追い、職員室を後にする。それと同時に、外は夕日が落ち、真っ暗な夜へと変化した。先ほどまで差し込んでいたオレンジの柔らかい光は消えて、代わりに白熱灯の白い光の下、静まっていた六人衆を振り返り、マサはタバコに火をつけた。
「さて、じゃぁ話ってのを始めるとするか、六人衆。 どうせ、あいつのことだろう?」
 六人はその言葉に、視線で返事をしているようだった。
 
 
 校庭を出て帰路についていた四人は、マサキを先頭にして暗くなった道を歩いていた。ポツン、ポツンと等間隔に街灯がついているのと、ぼんやりと道路にうつる近隣の住宅の明かりがその行方を照らしていた。マサキは一度一言、「守元君、家はどの地区ですか?」と尋ねた以外、口を開いていない。任務に行く時と同じで、何もしゃべらずただまっすぐに歩いていく。それは正に、指令を忠実に遂行するロボットのようだった。
 
***
 A地区は住宅街だ。主に、平屋に小さな二階のある家が竜の国では一般的で、そのような家がここには何軒も並んでいる。最近は、古くなったその家々を壊して、その場所に二階建てのアパートが建っている場所もいくつかある。ちょうど夕飯時のせいか、人通りは殆どない。時折聞こえる雑談は、周りの家々の団欒による会話だろう。こちらが静かだと、それはとてもよく耳に入ってくるのだった。その少しはずれ、小さな公園を過ぎた所にディアンの家はある。中心部から少し離れているので、ここには団欒の声も聞こえてこない。近くにお年寄りが住んでいることが多いせいか、早々に明かりを消している家もあるくらいだ。
 四人は、守元家に到着するとすぐに家の中に入った。マサキがそうしろというのである。そして、中に入った彼らには窓の近くによるなとも、マサキは命令した。
「どうして窓に近づいちゃダメなんだ?」
「……狙われたいんですか? 昼間の彼らに」
 不満そうにそう尋ねたディアンは、そう返してきたマサキの返事に黙り込むしかなかった。正直、もう二度と会いたくないのだ。
「俺が家の中に入ってきたのは、そのことについて説明をするためです。先ほど、マサ先生が仰ったとは思いますが、彼らは火影と言います」
 知っていますよね? とマサキが三人を見下ろす。その顔は無表情だった。
「彼らがどうやってこの国に入ったのか、また何の目的があって入ってきたのかはまだ分かりません。しかし、一つだけ言えるのは……、君達がこのまま俺と関わっているということが、危険だと言うこと」
「危険って……、どうしてですか?」
「……」
 質問したデビは無言のまま自分を見下ろしているマサキに、ピタリと動きを止めた。マサキの顔は相変わらず無表情のままだったが、何かをはっきりと目で伝えていた。なんとなくそれを読み取ったデビは、黙って広辞苑をギュッと握り締めると、マサキから離れるように後ろに下がった。
「……彼らはいつ襲ってくるかわからない。少しの間、登下校はそれぞれのお兄さんと一緒に行ってください。その方が安全です。決して、一人では出歩かないように。これが一番大事なことです」
「先生、なんか急に本当の先生っぽくなったな」
 注意事項を読み上げるように話していたマサキに、ディアンがそう茶々を入れる。ザラとデビが呆れたような顔をする中、マサキの傍にいたディアンはからかうように笑顔を見せた。それから矢継ぎ早に「脱国者って何?」
「先生も火影?」「先生の所属ってどこだったの?」等々の質問をマサキに投げかけた。つまり、先ほど兄達によってマサキが逃げてしまった時に聞けなかったことを、今一気に吐き出したわけである。質問の返事を希望に満ちた表情で待っているディアンを、マサキは無表情のまま見下ろしていた。反応は、任務の前の時と同じで皆無だった。
「……今日限りです」
「? 何が?」
「これから先、こんなことはありません。俺が君達を守る先生として、君達の前にいるのは……」
「……、じゃぁ、答えてくれるんだな!」
「正式の担当が来るまで、八班への任務はお断りします。そうすればより安全でしょう。俺が帰っても、決して出歩かないように」
 マサキはディアンの質問には一つとして答えずに、スラスラとそう言い切るとドアへと近づいた。そしてあっけに取られているディアンの前でドアを開けると、後は「さよなら」も言わずに出て行ってしまった。
「あっ! ちょっと待てよ先生!」
 ディアンが急いで扉を開ける。質問の答えをどうしても知りたかったのだ。だがすでにマサキの姿はなく、住宅街は先ほどよりもさらに静かに、暗闇に覆われていた。マサキが消えていったと思われる、真っ暗な道路の先を少しの間見つめ、仕方がなくディアンは家の中に入る。不満げにドアを閉めると、イラついたように鍵をガチャリと閉めた。


 どうにか入った……。っぽい? 前の時にルビ振ったらなぜだが大変なことになってたので、全部消したよ。またあったら見落としなんで、また教えてください。こっから先、ずっとマサキさんが出張るので頑張って六人衆出したよ~。ちょっとだけど。奴らの普段が分かればそれでいい。次から第二章です。
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