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*残酷描写を含みます。字の色を変えておきますが、苦手な方は見ないで下さい。
本来裏用に書いた話なので、書いておいてなんだけど、私的にはアウトなグロさです。
§嵐の夕べ§
朝からの雨に、強風がくわわって、海は荒れている雨にぬれ、風になびくローブを体にまとわりつかせて、ユジーンは走っていた。
「ユジーン!?どうしたの?なにがあったの?」
このごろはもうずっとこのあたりにいるリビアンは、声をききつけて、なにごとかと波間から顔をのぞかせた。
「それ以上岸にちかづかないで!ここにはしばらく来ないでください。オニール様が…!」
「なに!?聞こえないわ!」
雨風にさえぎられ、互いの声はうまくとどかず、リビアンはさらに距離をつめた。
「ユジーン…!」
再度のよびかけと同時に、なにかがリビアンにむかって飛んできた。さけるまもなく肩口に命中した矢に、リビアンはたまらずのけぞる。
どっ、というにぶい音が体にひびき、衝撃のあとに焼けるようないたみがきずぐちから広がる。海水がおいうちをかけるように、ぢくぢくと傷をいぢる。なにものかが風上からリビアンをねらったのだ。
「リビアン!」
傷口をあらうしおみずから逃れようと岩にのりあげたリビアンのすがたに、ユジーンは青ざめ息を呑んだ。
リビアンは激痛に歯をくいしばり、きつく自身をだいている。ながれだす血は人間のときとかわらぬ赤だ。
「しとめたぞ化け物め!」
入り江に声がとどろいた。岩礁のかげからおどりでた小舟には、僧衣の男が仁王立ちになっていた。
男はたくみにかいを操り、リビアンのよこたわる岩にちかづいていく。
「オニール様!おやめください!彼女は人間です!!」
「まだ言うか!そのような迷妄はいま断ち切ってくれる!!」
けわしい顔をした男は、リビアンのいる岩に小舟をつけた。
「リビアン…!!」
男は小舟によういしてあった斧をふりあげ、ふりおろした。
絶叫があたりにひびきわたり、風にながされる。
逃げだそうともがいたリビアンの肩にささったままの矢をつかみ、ねじるようにおしこんで動きをとめ、白く柔らかい腹につめたい鉄をつっこむ。
リビアンの体がはねる。鮭の尾が海面をたたいた。それを視界にとらえた男はまゆをひそめた。
「あわれな異形よ。道を外れた堕天使よ。今一度主の御許にゆくがよい」
「ユジー……!!」
今度は胸に。骨の折れるおとがした。もはやリビアンに暴れる気力はのこっていない。さいごに伸ばされた手は抵抗のためではなくユジーンの方に。それも、はたりとおちた。
リビアンが動きをとめたのをかくにんして、男はとどめに首をねらった。一度、二度、三度目で斧がふかく岩にめりこんでしまったので、もうそれ以上は必要なかった。
頭はころがりおちて波にさらわれ、魚の餌となる運命をたどった。胴体はおとこが小舟にのせ、岸へともちかえった。
岸ではユジーンがまっていた。
「オニール様。彼女は人間にもどりたいと、そう言っていたのですよ」
顔面を蒼白にしたかれは、そううったえた。
「ユジーン。この体をよくみなさい。どうしたらこれが人間にみえるのだ。仮にそうだったとしても、やはり彼女のためを思うのなら、こうしてやるべきだったのだ。彼女がまことに善良なたましいの持ち主なら、いずれ天国であえる。下界にとどまっていても、あのままでは罪を重ねることしかできなかったのだから」
示された小舟のなかには、首をなくし、切り裂かれなかみを曝けだした人間の上半身に、魚のからだが繋がっている、グロテスクな屍体があった。
「せめても、ひとのかたちをした部分だけは埋葬してやろう」
そう言って、砂地によこたえた体に、さらに斧をふるい、人の部分と魚の部分をわけると、上半分をかかえて、僧侶はたちあがった。
「ついておいで、ユジーン」
そうなるともう、砂地にころがっているのは、巨大なさかなの尾でしかなかった。
先にたって歩きだした僧侶について、ユジーンもふらふらと歩きはじめた。
日は暮れて、嵐がこようとしている。