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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 前回に引き続き、一部グロいです。本当に一部ですが。やっぱり色を変えておきますので、苦手な方は間違っても見ないようにお気をつけ下さい。
 洋の東西を問わなさすぎるごちゃ混ぜ具合で、元ネタ全て分かってしまう人には実に申し訳ない感じであります。今更ながら。

 §不老の肉§

 あらしが過ぎて、洗われた空気のさわやかな朝、昨夜のあらしでなにかおもしろいものが流れついていないかと、海岸を散策するむすめがいた。
「わ、大きい…」
 娘がみつけたのは、ぎょっとするほど大きな魚の屍体だった。しかもなぜか頭部がない。
「なんの魚かしら?」
 首をかしげながらしらべてみると、頭はないものの、のこっている部分はいたんでいる様子もない。
「これ、食べられるかしら」
 さほど遠くないところに住んでいた娘は、さかなの尾をひきずってかえることにした。
「おとうさん、おかあさん。ちょっとこれ見てくれる?」
「おかえりリビアン。なにかいいもの拾えた?」
「これなんだけど、食べられるかしら?」
 リビアンは両親に、もってきた魚をみせた。
「なあにこれ?海でひろったのかい?」
「鮭のようにもみえるが…えらくでかいな」
「およしよきもちわるい。こんなもの食べたくないよ」
「そうだなあ。なんだか不気味だ」
 両親に反対され、リビアンはひろった魚を家にいれることをあきらめなければならなかった。
「でも、毒をもってそうにはみえないし…」
 リビアンはこっそり、ひときれだけ魚の身を切りとって、ためしてみることにした。
 火であぶってしばらくすると、おいしそうなにおいがたちはじめた。しっかり焼いた身をひとくち、口にいれる。
 不思議な味だった。身はほろほろと舌のうえでほぐれる。しつこくなく、どちらかといえば淡泊なのだろうが、そのくせしっかりと脂がのっている。
 せっかくだからやはり両親にも食べてもらいたい。
 ひときれを食べきると、リビアンはのこりの魚肉が置いてあるところにもどった。しかしそこにはもはや魚の姿はなかった。
「おかーさん。おもての魚…」
「あんなものいつまでも置いとくわけにいかないだろう。裏にうめたよ」
「そんなあ…」
 母のあっさりした応えに、リビアンはとてもがっかりして、なんだか力がぬけてしまった。けれどそれだけだった。
 そのときは。
 一年経ち、二年経ち、三年が経った。
 ある日夕飯のせきで、父がおもい口をひらいた。
「なあリビアン。おまえ、年をとっていないように見えるよ」
 空気がはりつめた。それはリビアン自身、感じていたことだ。
 とくに体調がおかしいということはない。ただただ外見が変化しないだけだ。だがそれは、とても気味の悪いことだった。
「わたしには心当たりがないの。ちかって本当よ」
 リビアンは泣きそうな声で、なんとかそれだけ言った。
「ああ、そうだろうとも。だがそうはいっても、実際これはおかしいよ。とにかくこれからの方策をきめないと」
 それまで徐々にたまっていた不安や恐怖がどっとおしよせてきて、リビアンは泣きだした。涙がとまらなくなったリビアンをだきしめながら、母も泣いていた。泣きながら、「どうして、どうして…」とくりかえし呟いていた。
 よくじつから、父はリビアンをつれてあちこちと回ったが、薬も宗教もまじないも、リビアンのやくにはたたないまま、年月だけが流れ、いつしか家族は人目をさけて暮らすようになっていた。
 すっかりかみの白くなった父が、市場からかえってきて、いつもどおり、最近のむらの話題をきかせてくれる。
 ある日の父の話にこんなものがあった。
「丘の小屋に、ちょっと変わったぼうさんがいたろう。なんでも病気でなくなったとさ」
「あのちょっと陰気くさい人ですか?まあいつ病気になってもおかしくない顔色ではあったねえ」
 眉をひそめていう母を、父がたしなめる。
「そんな風にいうもんじゃないだろう」
「だって本当に陰気だったじゃないですか。なんだかわかいころメロウに魅入られたとか…」
「うわさだろう」
「そうですけど」
 そんなことを言いあっていると、いつのまにか若々しい姿をしたむすめが、そばに立っている。
「その人、どうなったの?」
「どうなったもなにも。死んでしまったんだから、他のものが教会のうらに埋めたらしい」
「ふうん…」
 つぶやいたむすめの目が奇妙に光っていて、まるで別人のように父の目にはうつった。だがそれは一瞬のことで、娘はすぐにあかるい表情になっていた。
「ね、他には?なにかおもしろい話はないの?」
 だから父は、先ほどのことは見間違いだとおもうことにした。
 その夜、闇にまぎれてリビアンは家をぬけだすと、村の方にはしった。
 さいわいそのすがたは誰にも見咎められなかったが、見られても、くらやみをかけぬけるその狂気じみた姿に、彼女を人間と思うものはいなかっただろう。
 静まりかえった墓地で、まだかぶせられた土のあたらしい墓のまえにおもむろにひざまずくと、そのやわらかい土に手をいれた。後はひたすら、素手で掘りおこす。よほどあさく埋められていたのか、リビアンのおそろしいまでのスピード故か、ほどなく指さきが棺のふたにふれた。それからさらに時間をかけて、棺は半分以上ほりだされ、蓋が壊され、中身を曝けだした。
 よこたわった男のほほに手をそえて、リビアンは目をほそめた。そのまま体をおり、そっと、かわいたくちびるにくちづける。一度はなれて、もう一度、今度は下唇に噛みつき、噛みちぎる。
 それからは勢いのままに、がつがつと、次からつぎへと屍肉をむさぼった。
 食い千切り、咀嚼する。血がながれる。すする。ひらいたところから泥だらけの手をつっこみ、ひきずりだし、口にはこぶ。かお、むね、はら、うで、あし、無造作につかんで、腰からひきちぎったモノも、べろりと朱唇のあいだにすべりこませ、うれしそうにひたすら食べつづけ、骨までしゃぶった。
 あらかた食べ終え、うっとりと満足げなためいきをもらすと、ふと、つきものがおちたように、リビアンの表情がかわった。
「あ……え?」
 ぱちぱちとまばたきをくりかえす。ぐるりとあたりを見回して、なぜ自分がここにいるのか分からず、首をかしげた。東の空がしろくなりはじめている。
「帰らなくちゃ」
 立ち上がって、えらくよごれている服のすそをはたいてみると、服に手のかたがついた。
「なにこれ…」
 両手はなぜかまっくろによごれている。よくよく注意して見ると、かたわらにはあばかれた墓。こわされた棺のなかには、服のざんがいと毛髪、そしてちらばるほね―。
 尋常ではないことがおこったのだと気づき、リビアンはその場から逃げだした。途中で服をきたまま川にとびこみ、何度も何度も手をこすった。水がつめたくて、なみだぐんだ。
 墓を背にしたとき、背後から声がきこえた気がしたのは気のせいだと決めつけた。それはとてもやさしげな声だった。
「リビアン。リビアン―…」
 胸がひどくざわめく、優しいこえだった。

 

 次で終わります。
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