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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 どうしたって行き詰まって小休止中ですよ。
 来週から教育実習が始まるので、その間就活できませんし。その後もなんだかんだで考えてみたら、あれ?私秋まで動けない?
 それはおおいにまずいです。
 就職、できるんかなあ…。  

 そして教育実習で母校に帰るのでどきどきしてます。制服変わったと聞くのですが。他にも色々変わってるんだろうなあ。そして明後日がガイダンスなのですが、現時点で何故か担当の先生と一度も連絡がついていません。これで、なんで連絡してこなかった!って怒られたら泣くぞ。事務の人に文句言いに行くぞ。

 まあともかく、夜中に唐突に書いたものを今日は置きに来ました。
 タイトルは薔薇にまつわるとある伝説から。

 彼女の背中を見つめながら思った。
 僕はいつまでこの人を好きでいられるだろう。

 
祈りの言葉は花になる                


 彼女の庭には薔薇が植わっていた。それは彼女が丹精を凝らして育てるので、初夏には美しく花開いた。
 彼女の庭には、その低木以外にめぼしい花はなく、初夏の一時以外は年中緑に覆われていた。
 周り中が濃い緑に沈む中、その力強い生命力の発露に負けない存在感をまとい、艶やかに花は開く。その短い一時の為にだけ存在するのだと言わんばかりに。
 彼女はごく近所に住んでいた。お互い顔を合わせれば挨拶くらいはするが、ちょっとした顔見知り以上のものではなかった。
 挨拶以外の会話を初めて交わした日、彼女は大きな袋を抱えてふうふう言っていた。
 小柄な彼女にあまりにも不釣り合いな、ずっしりとした袋だった。その日は学校でちょっと嬉しいことがあり、機嫌の良かった僕は、持ちましょう、と声を掛けた。
 年上の女性に送るには、あまりふさわしくない表現かもしれないが、その時彼女はとても可愛らしく笑って、ありがとうね、と言ったのだ。
 少々の照れくささもあって、やや乱暴に手に取った袋は、正直僕にもかなり重かった。
 彼女の家まで着いていくと、袋は玄関脇に置いて頂戴、と言われたので、その通りにした。
 袋の中身は大量の肥料だった。
 ありがとう、よければお茶でも飲んでいって、と誘われ、家に帰ったところでどうせ一人なので、その言葉に甘えることにした。
 お茶をごちそうになりながら肥料の用途を尋ねると、あれは全て薔薇の肥料になるのだということだった。帰り際に見せてもらった庭の低木を前に、これにあの両手に抱える程の肥料が必要なんですか、と思わず質問した。薔薇は肥料喰いなのよ、とまたあの魅力的な笑みを浮かべて、彼女は答えた。
 夏の初めには咲くわ、よければ見に来てあげて、という言葉は、何故か僕を捕らえ、それから僕は、度々その庭を訪れた。
 意識してみれば、彼女はよく庭に出てきていた。つば広の帽子に軍手、といういかにもな格好でだ。見かければ挨拶する、に加えて、そのまま立ち止まって少し話をしたり、時間があれば庭に入って、彼女の作業を眺めたりした。土や植物に接しているときの彼女の居住まいはとても優しげで、僕はそれを見ているのが好きなのだと、認めないわけにはいかなかった。
 薔薇以外は植えないんですか、と訊いてみたことがある。薔薇っていうのはとても手がかかるから、私はこの子だけで手いっぱい。でも、手がかかる子ほどかわいいものでしょう?というのが彼女の答えだった。
 そのうち、その薔薇は誰かから貰ったものらしいと知った。
 思い出の木なんですね、と言ったら、そんなに大層なものじゃないわと笑われた。
 ある時ふと、彼女が漏らした言葉は、独り言に近いものだったのかもしれない。
 私はあのほんの刹那を、永遠にしたかったのかもしれないわね、と。それから、続くものは永遠にはならないのにね、と漏らした彼女の笑みは、あの可愛らしい笑みではなかった。でもそれが、とても綺麗だと思った。
 過ぎていくその一瞬一瞬を刹那と呼ぶなら、今生まれつつあり、消えつつある刹那には、全てが籠められていると思った。それを永遠にするのは不可能だ。
 蕾が出来ると、待ち遠しくなって、毎日彼女の庭を覗いた。ある朝、学校に向かう途中の僕を手招きで呼んだ彼女に、そっと、大切な秘密を打ち明けるように咲いたわよ、と告げられた時、そして庭に飛び込んでその花を見た時、朝日に照らされる世界の全てが輝いていた。
 そうやって月日が流れ薔薇が何度も咲いて散り、今彼女はいない。
 遺族が片付けを少しずつ進めている。彼らが来ている時以外は、彼女の家はとても静かだ。
 今年の薔薇が咲く前に、彼女は逝ってしまった。彼女の庭はとても静かだ。今まできていた鳥たちも、鳴くのをやめてしまったのだろうか。とにかく静かだ。家にも庭にも生気がない。もうあの薔薇は咲かないだろう。彼女がいなくなって色あせた庭。色あせた薔薇。
 彼女の庭を見る度に、彼女のために開いていた心の扉を、風が通り抜けていくのを感じた。かといって、見ないでいられる程、彼女の家は遠くない。けれども、いつしか意識から追い出すことには成功していたのだろう。ある日唐突に僕が気づいたことに、その時まで僕は全く気がつかなかったのだから。

 薔薇が咲いていた。

 艶やかに、美しく、香る緑の中に浮かび上がるように。
 彼女の薔薇は咲いていた。
 涙が溢れた。
 それが目に飛び込んだ瞬間の刹那はもう消えていたけれど。そして今も消えつつある刹那を、その薔薇が繫いでいた。   
 本格的な夏に向かう中で、薔薇は次第に萎れて枯れていった。
 僕は彼女が好きだった。彼女の笑みを集約したようなあの薔薇が好きだった。
 今、彼女の家には別の人が住み、彼女の庭には別の花が咲いている。

                                           

                                                            了


 


 彼女たちと彼女の薔薇に捧げます。

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