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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 今日は筆記試験でした。
 なんかこのところ用事(就活)がつまっていて、正直レポートと発表がかなりやばいです。
 そしてうちの学校休みが遅い。他の学校の子が遊んでいるのを横目に見つつ、試験期間だと騒いでいるのは毎年のこと。

 後半を続きに入れておきます。
 毎度、分けるほどの長さでもないだろうと思いはするのですが。

 ぱしゃん。
 目覚めるといつもの盥の中で、キンは夢を見ていたのかと思った。
 けれど自分の顔に影が差していて、見上げると布を垂らして顔を隠した人間が、こちらをのぞき込んでいる。
「こんにちは。気分はどう?」
 布の下から幼い声が話しかけてきた。
「ばあちゃんは…」
「大丈夫だよ。君は?気持ち悪いとか、ない?」
「…ない」
 ぼんやりと答えてから、キンは息を吐いた。本当に悪い夢から覚めたような気分だった。
「よかった」
 顔は見えないが、声から、相手は笑ったのだと分かった。それから少年は、家の奥に向けて声を上げた。
「青蓮さぁん。目を覚ましたよ」
 すると奥から、巫女装束の女性が静かに姿を現した。穏やかな笑みを浮かべて、盥の脇にしゃがみ込む。
「おばあさんは無事だよ。ここのところの暑さで体が弱っていたんだろうね。あんたが知らせてくれたおかげで、大事にはなってない。―頑張ったねえ。偉いよ」
 キンは泣きそうになって、うつむいた。体からふうっと力がぬける。
「ばあちゃんに会える?」
「今は寝てるから、見るだけだよ」
 そう言われて、なるべく音を立てないように上がり込み、のぞいたばあちゃんの顔も呼吸も落ち着いていて、キンは安心した。
 二日もすれば元気になると、青蓮と名乗る巫女装束の女性が教えてくれた。
 もう一人、ぶかぶかの頭巾をかぶって、よく日に焼けた少年が、その体に対しては大きな水桶を、軽々と担いで現れた。キンを見るとにかっと笑って、「お前勇気あるなあ」と話しかけてきた。
 その声は、キンが気を失う寸前に聞いた、あの声だった。
 顔を隠した少年は、キンの側で、色々と気遣ってくれる。
 彼らは三人で旅をしていて、その途中、この村を通りかかったらしい。
 そこで村の騒ぎに気づき、村人を止めてキンを助け、キンの言葉から、この家に住む老婆の様子を見に足をのばし、今は看病までしてくれている。
 翌日、頭の混乱も収まったキンは、改めて三人に礼を言った。
 どういたしまして、とおうように笑ってから、青蓮はふと真剣な顔になってキンに尋ねてきた。
「それであんたは、これからどうするんだい?」
 村人は青連に説き伏せられ、キンの存在を承認はしていたが、だからといって、いきなり全面的に受け容れられるものでもない。キンがばあちゃんの負担になっているのは間違いなかった。
 それは分かっていたことだった。
「ばあちゃんと話し合う」
「―結論は出てるんだね?」
「うん」
 青蓮がすいと道を空けてくれたので、キンはそのまま部屋に上がり、ばあちゃんの所に向かう。ばあちゃんはキンに気がつくと、上半身を床から起こして迎えてくれた。
「ばあちゃん。キンはここを出て、池か川か、どっかもっと暮らしやすい所に行くことにする。助けて貰ったことは、本当に感謝してる。けど、ずっと隠れて暮らすなんて、やっぱり無理だったんだ」
 盥の中で息を潜める日々。キンも本当はぼんやり気づいていた。これは飼われているというのではないかと。
「元々キンはこことは違う世界から来た。何かの拍子にこちらに来てしまったんだから、何かの拍子にあちらに戻ることもあるかもしれない。だから―…。キンは明日、ここを出る」
「どうしても、か?」
「キンはもう、ここにはいられない」
「そうか」
 ばあちゃんは淋しそうに、笑った。
 その日はもう、二人はそれ以上言葉を交わすこともなく、翌日になった。
 三人の旅人が、キンを近くの川まで連れて行くと申し出て、用意を調えて外で待っている。
 キンは台所に立ち、部屋の奥に向かって、声をかけた。
「今まで、本当にありがとう。ばあちゃん。さよなら」
「キン」
 そのまま立ち去ろうとすると、背中から呼び止める声がして、ばあちゃんが出てきた。
「今まで引きとめとって悪かったな。気ぃつけて行け。これは餞別じゃ」
 差し出されたものを、少しためらいつつ手に取ると、それはこの間まで二人で縫っていたキンの着物だった。
「………」
 声は言葉にならず、キンは深々と頭を下げた。


 ちゃぽん、とキンは川に入った。
 一度水面に頭を出し、振り返って手をふり、そして流れの中に消えた。
「彪も元いた世界に戻りたい?」
 見送った三人の内、布を被った少年が、傍らの頭巾の少年に訊いた。
「戻りたくないわけじゃないけど、俺は架楠たちと居たいから」
「さあ、私達も行くよ」
 頭巾の少年の返答に対して、更に何か言おうとしていた少年は、青連の声に遮られた形で、口を閉ざした。
 三人は旅を続ける。まだ暫くは。

 


 これは余談である。
 村のはずれに住む老婆の家に、時折新鮮な魚が投げ込まれているという。送り主は姿を見せないが、それは無言の便りだ。
 

 了

 あ、ばあちゃんのしゃべっているのは、あくまで方言っぽいものですから。
 私きちんとした方言とか分からないので、適当です。自分がしゃべってる言葉は、なんだかまぜこぜで何弁とも言えない感じで、参考にならないのです。
 このシリーズ、裏テーマが母性なんじゃないかと思い始めた今日この頃。

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