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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 就活そこのけで今週ちょっと頑張りました。頑張りどころがずれているかもしれない。
 とりあえず書けたところまでを。

 これを打っている間、延々とタテタカコと倉橋ヨエコを聴いていました。
 きれいなピアノと存在感のある歌声。この二人の連弾とか本当良い。
 ヨエコさんの方がかわいい目の音。タカコさんはもっと…きれいで容赦ないというか。ガラスのナイフみたい。…いや、ふたりとも割と容赦ないんですけど。

 日が傾き始めた頃、三人は宿場町に着いた。小さいがそれなりに活気のあるこの町にしばらく逗留することに決めて、宿も早々に定まると、夕飯は宿の向かいのうどん屋でとった。
 店の外に出ると、沈みかけた陽が雲を桃色に染め上げていた。
「あ、一番星」
 空を見上げて、早くも存在を主張し始めた輝きを見つけた架楠が指を指す。
 指された先を追って、茜色の空を見上げた青蓮の袖を、ゆるく誰かが引いた。青蓮が視線を下げるとおかっぱ頭の小さな目とかち合って、ずいと紙が差し出される。
「さっきそこで。これ渡してってたのまれたの」
 甲高い子供の声が告げるところからすると、それは手紙らしい。それにしても妙な渡し方だと思ったが、しかしひとまず礼を言って、ふくふくした子供の手から、青蓮は折りたたまれた紙を受け取った。
 かさかさと音を立てて広げられた文は、わずか数行。
 文面につらっと目を通した青蓮は、最後に記された署名を見て、息を呑んだ。なんだろうかと青蓮を見上げていた二人は、目を瞠り、驚愕にこわばった青蓮の顔というのを初めて見た。
「待って。これをあんたに渡したのはどんな人だった?」
 立ち去りかけていた子供を引き留めて、質問を投げかける青連の顔は険しい。
 自分が何の使いをさせられたのかよく分かっていない子供は、ちょっとおびえたように体を引く。
「知らない女の人。飴貰って、頼まれただけだもん。知らないっ」
 それだけ言うと、ぱっと身を翻して子供は駆けていった。それを追ってもう一度引き留めることはせず、青蓮は再び手紙に目を落とし、憂い顔で考え込む。
「……青蓮さん?」
 深刻な様子に不安になって、架楠は呼びかけた。うつむいた青連の顔が影になっていて、一瞬だけ背筋がぞくりとしたのが、なにかの予感のようで。
「彪、架楠。私は少し用事が出来たから、先に宿に戻って待っていてくれるかい」
 青蓮が自分達には関わって欲しくないらしい、ということは察せられた。だが大人しくうなずくには、あまりに青蓮の様子が気になる。そうして架楠が返事に困っている内に、彪が口を開いた。
「なんかあるんなら付いていくぜ」
 青連は目を細めて、ようやく微笑―というよりは苦笑―のようなものを浮かべた。
「そういうんじゃないよ。何も荒っぽいことをしようっていうんでもない。大丈夫だから待ってておくれ」
 ぽんぽん、と二人の頭を軽くなでて言う。実際自分が行って何になるわけでもないから、それで架楠は「はい」とうなずいた。
 架楠のように布で表情のかくれない彪は不満げな顔を晒していたが、青蓮が歩き出しても、無理に付いていこうとはしなかった。
 青連の背中が小さくなっていくのを、しばらく二人で見送った。
「追うぞ」
 不意に言われて、架楠は一瞬きょとんとしてから、すぐに咎めるような目を彪に向けた。
「でも、青蓮さんは来て欲しくないみたいだった」
「だからそれが怪しいんだろ。見失わないうちに行こうぜ」
「だ、だめだよ。気づかれたらどうするの」
「じゃあ俺だけで行く。架楠は宿で待ってろよ」
 反対する架楠を置いて彪は走り出す。かろうじて角を曲がりきる寸前の青連の姿を捕らえることができた。それを追って、彪も角を曲がる。あっという間に、二人の姿は架楠の視界から消えた。
 町の中は人を追いにくい。家や通行人といった遮蔽物が意外に多く、しかも夕暮れ手前のこの時刻、人々が安全な屋根の下に戻っていくゆるやかな喧噪の中で、目線の低い彪は青連を見失わない為に苦労していた。だから青蓮がだんだんと人通りの少ない方に向かっていくのに気づいた時、少しほっとした。
 そこで気を抜いたのがいけなかったのだろう。横手からわいた人影に反応できず、あっと思うのと、相手の腹に顔を埋める形で衝突するのは同時だった。
「しまっ…」
 慌てて通行人を押しのけたが、彪の目の届くところに青蓮はもういない。
 彪の外見からは想像のつかない力で押しのけられた人間が驚いた声を上げるのを背に、最後に見た青連の位置から当たりをつけて、適当な道を曲がる。曲がった先で首を巡らしてみたが、青蓮は見えない。来た道を引き返して、今度は別の角を曲がる。やはりいない。ぐるりを見渡しながら、当てずっぽうで、も一つ角を曲がったが、そこで青蓮が待っていてくれるわけもなかった。
 見失った、という言葉が遅まきながら彪の頭に浮かんだ。
 夕日を浴びながらしばし呆然としていた彪だが、このままのこのこ宿まで戻って、架楠と一緒にぼんやり青連の帰りを待つのも悔しい気がして、あてもないままとりあえず歩き出す。
 こうしてぶらぶらしていれば、どこかで青連を見つけられるかもしれない、と言い訳のように頭の中で呟いた。
 少し歩くと、すぐに町の外れに出てしまった。そこに立って彪はなんとなく辺りを見回した。
 町の手前では二つの道が合流していて、その一方を進むと橋がある。もう一つの道は、川を背にした神社の脇を通り、川沿いにずっと続いていく。町の正式な入り口は、そちらの道をもう少し進んだ先に標が立っているのだが、家や店が集中して町の様相を呈しているのは、今彪が立っている所までだ。その手前には、街道から町を隠すように気が並んで立っている。
 すぐそこにある川の幅は広く、底は深い。流れも急で、架けられた橋は何度となく流されているのだと、夕飯を食べた店の店員が言っていた。

「奇遇じゃのう。鬼の仔」 

 ぼんやりと突っ立っていた彪の頭上に、不意に声が降ってきた。
 は、として顔を上げると、町はずれに茂る木々の、その内の一本の樹上に白い影が差しているのが見えた。
 白い髪。白い貌。白い服。
 片膝を立ててふわりと枝に腰掛けているのは、いつかの「お星さま」だった。
 




 

続く

 
 というわけで、再登場「お星さま」。最初のイメージでは、ちょっと仏像っぽい顔立ちでした。彫りが深くて若干日本人離れしてる感じ。で、髪は量が多い。歌舞伎のかぶりものみたいにわさっとした感じ。…とか思ってたんですけど、とりあえず白ければ良いや、って気分になってきました。
 名前も一応決めています。

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