紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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いよいよ明日が中間発表です。
昨年は泣き出した人もいたという噂の中間発表です。
私も憶測と憶測からなる仮説を携えて先生達にやられに行ってきます。ツッコミどころが多すぎて、仮説というか最早妄想の域です。というか、妄想でした。
とりあえずいざ出陣!
そんな大切な日の前日ですが、鬼子流離譚の続きを置いておきます。青蓮の話。
昨年は泣き出した人もいたという噂の中間発表です。
私も憶測と憶測からなる仮説を携えて先生達にやられに行ってきます。ツッコミどころが多すぎて、仮説というか最早妄想の域です。というか、妄想でした。
とりあえずいざ出陣!
そんな大切な日の前日ですが、鬼子流離譚の続きを置いておきます。青蓮の話。
青蓮は荒い息を吐いて、攻撃の手を一旦休めた。辺りには千切れた札が散乱している。
さっきからずっと、右目がつきつきと痛んでたまらない。その痛みと直結する記憶をなんとか振り払おうとする。今はそれに気を取られている場合ではない。
蚖もそれに気づいたようで、にやりと笑った。
「その右目、よく見えるか?」
ちっ、と苛立たしさに思わず青蓮は舌打ちをした。
「ろくなもんが見えないよ。なんのつもりか知らないけど、余計な真似をしてくれて!…まぁ、おかげで今あんたの姿も見えてるんだから皮肉だけどね」
「だっておまえ、本当はあの男と一緒になりたかったんだろう?だからちょっとした親切心に、形見をくれてやったのに」
「それが余計なお世話なんだよ」
一体どういう具合になっているのか、青蓮の右の眼窩には勘右衛門の目が埋め込まれ、それが鬼の存在を青蓮に教える。さも無造作にその埋め換えをやってのけたのが、目の前の、神であった存在だ。
「あんたはあの村の神で、村人のした分不相応な願いを叶えるには力が必要だったことは、今なら分かる。生贄の赤子はその代償だ。だからそのことについての恨み言を言う気はないよ。だけど勘右衛門様を無意味に殺したのはあんただろう。みさを様にどんな白々しいことを言ったのさ。何を企んでるんだい」
「俺は神なんかやめてあの村を出たかった。そこに丁度いい女がいたってだけだ。大したことは言ってない。ほとんどあの女が一人で思い込んでんだ。それで今は自由になりたい。それにはあの仔鬼が丁度いい。それだけだ」
この鬼は薄笑いが常の表情らしい。それがやたらに青蓮の癇に障る。
「つまりあんたの目的はあの子か。何する気だい」
「食うんだよ」
にい、と蚖は楽しげに唇を引き伸ばした。
「なんだって!?」
「鬼は鬼を食うことでこちらの世界でも自由になれる。しかも、どうやらあいつは角保ちだろう?食えば格段の力が手に入る。いくら角保ちの種族でも、仔鬼ならどうにでもなる。格好の獲物というわけだ」
「みさを様も、あの子等が欲しいんじゃないのかい?」
じりじりと間合いを計りながら移動する間も、青蓮の目は蚖から離れない。
「あれは子供が欲しいだけだ。もう一方をやればいい。それであの女への義理も充分果たせる」
「そうかい。そういうことなら尚更、あんたをここで仕留めておかないとねぇ!」
時間は稼げた。
だん!と足を振り下ろすと、残り少ない札を一枚取り出し印を結ぶ。
何か仕掛けられたと悟った蚖は、千切れた札に混じってさりげなく四方に配されていた札の存在を認めた。
青蓮が今踏み抜いたのが最後の一点になる。四点が繫がり、力の満ちた場が形成された。
「みさを様に感謝しなけりゃね。ゲン!子供等には指一本触れさせないよ。ここで私に降伏されな!」
「…っあの女!」
青蓮は先ほど聞き知った鬼の名を叫んだ。
文字は分からなくとも、音が取れただけで充分だ。名を知っていれば鬼相手には相当有利になる。これまで気づかなかったふりをしてきたのは、この時の為だ。
「―ガッ!」
全身を押さえつける圧迫感に蚖が呻いた。青蓮は視線も、印を結んだ手もゆるめず、いっそう力を込める。
蚖がもがく。不自然な力の入った指先がびくびくと引き連れて、のけぞった顎が月光に白い。
肉が焼けるようなじゅっという音がして、蚖が地に倒れた。
抵抗していた力がなくなり、青蓮はつんのめって蹈鞴を踏む。
肩で息を吐きながら、青蓮は呆然と倒れ伏す蚖の体を見下ろした。なんとか仕留めたが、自身も消耗が激しく、立っているのがやっとで足に力が入らない。
好きだった男と自分の子の仇を討った、という達成感はなかった。
ひどく憎んでいた時期もあったというのに、不思議なものだと思う。
焼けこげた鶯色の髪が地面に広がっている。それを吹き散らす風ももうない。境内は夜の静寂が戻っていた。急流の音がよく聞こえる。
子供等の顔が脳裏に浮かんだ。
彪と架楠。青蓮の大事な子供たちの顔だ。
柔らかい微笑が青蓮の顔に浮かぶ。
子供等に会いたかった。
ふと境内にそよと風が吹き込んだ気がして、青蓮は鳥居の方を見やった。
「青蓮!」
「青蓮さん!」
転がるように駆けてくるのは、今まさに会いたいと思っていた子供達だ。架楠は彪に担ぎ上げるようにして抱かれている。
彪は真っ直ぐに青蓮に向かって走ってくると、その勢いのまま飛びついてきた。
当然、三人はもみくちゃになって地面に転がる。衝撃に架楠の頭巾が脱げて、ぱさりと落ちる音がする。
それでも、青蓮はしっかりと二人を抱きとめた。
青蓮の腕の中で、二人は同時に顔を上げる。
「青蓮!」
「青蓮さん無事だった!?」
「ああ。勿論だよ」
ぎゅう、と腕に力をこめると、子供達は安心したように笑った。
後もう一回だけ、エピローグ的なのが続きます。
戦闘シーンはだいぶ省きました。ろくな描写ができないし、下手するとグロくなってしまうだけなので。
さっきからずっと、右目がつきつきと痛んでたまらない。その痛みと直結する記憶をなんとか振り払おうとする。今はそれに気を取られている場合ではない。
蚖もそれに気づいたようで、にやりと笑った。
「その右目、よく見えるか?」
ちっ、と苛立たしさに思わず青蓮は舌打ちをした。
「ろくなもんが見えないよ。なんのつもりか知らないけど、余計な真似をしてくれて!…まぁ、おかげで今あんたの姿も見えてるんだから皮肉だけどね」
「だっておまえ、本当はあの男と一緒になりたかったんだろう?だからちょっとした親切心に、形見をくれてやったのに」
「それが余計なお世話なんだよ」
一体どういう具合になっているのか、青蓮の右の眼窩には勘右衛門の目が埋め込まれ、それが鬼の存在を青蓮に教える。さも無造作にその埋め換えをやってのけたのが、目の前の、神であった存在だ。
「あんたはあの村の神で、村人のした分不相応な願いを叶えるには力が必要だったことは、今なら分かる。生贄の赤子はその代償だ。だからそのことについての恨み言を言う気はないよ。だけど勘右衛門様を無意味に殺したのはあんただろう。みさを様にどんな白々しいことを言ったのさ。何を企んでるんだい」
「俺は神なんかやめてあの村を出たかった。そこに丁度いい女がいたってだけだ。大したことは言ってない。ほとんどあの女が一人で思い込んでんだ。それで今は自由になりたい。それにはあの仔鬼が丁度いい。それだけだ」
この鬼は薄笑いが常の表情らしい。それがやたらに青蓮の癇に障る。
「つまりあんたの目的はあの子か。何する気だい」
「食うんだよ」
にい、と蚖は楽しげに唇を引き伸ばした。
「なんだって!?」
「鬼は鬼を食うことでこちらの世界でも自由になれる。しかも、どうやらあいつは角保ちだろう?食えば格段の力が手に入る。いくら角保ちの種族でも、仔鬼ならどうにでもなる。格好の獲物というわけだ」
「みさを様も、あの子等が欲しいんじゃないのかい?」
じりじりと間合いを計りながら移動する間も、青蓮の目は蚖から離れない。
「あれは子供が欲しいだけだ。もう一方をやればいい。それであの女への義理も充分果たせる」
「そうかい。そういうことなら尚更、あんたをここで仕留めておかないとねぇ!」
時間は稼げた。
だん!と足を振り下ろすと、残り少ない札を一枚取り出し印を結ぶ。
何か仕掛けられたと悟った蚖は、千切れた札に混じってさりげなく四方に配されていた札の存在を認めた。
青蓮が今踏み抜いたのが最後の一点になる。四点が繫がり、力の満ちた場が形成された。
「みさを様に感謝しなけりゃね。ゲン!子供等には指一本触れさせないよ。ここで私に降伏されな!」
「…っあの女!」
青蓮は先ほど聞き知った鬼の名を叫んだ。
文字は分からなくとも、音が取れただけで充分だ。名を知っていれば鬼相手には相当有利になる。これまで気づかなかったふりをしてきたのは、この時の為だ。
「―ガッ!」
全身を押さえつける圧迫感に蚖が呻いた。青蓮は視線も、印を結んだ手もゆるめず、いっそう力を込める。
蚖がもがく。不自然な力の入った指先がびくびくと引き連れて、のけぞった顎が月光に白い。
肉が焼けるようなじゅっという音がして、蚖が地に倒れた。
抵抗していた力がなくなり、青蓮はつんのめって蹈鞴を踏む。
肩で息を吐きながら、青蓮は呆然と倒れ伏す蚖の体を見下ろした。なんとか仕留めたが、自身も消耗が激しく、立っているのがやっとで足に力が入らない。
好きだった男と自分の子の仇を討った、という達成感はなかった。
ひどく憎んでいた時期もあったというのに、不思議なものだと思う。
焼けこげた鶯色の髪が地面に広がっている。それを吹き散らす風ももうない。境内は夜の静寂が戻っていた。急流の音がよく聞こえる。
子供等の顔が脳裏に浮かんだ。
彪と架楠。青蓮の大事な子供たちの顔だ。
柔らかい微笑が青蓮の顔に浮かぶ。
子供等に会いたかった。
ふと境内にそよと風が吹き込んだ気がして、青蓮は鳥居の方を見やった。
「青蓮!」
「青蓮さん!」
転がるように駆けてくるのは、今まさに会いたいと思っていた子供達だ。架楠は彪に担ぎ上げるようにして抱かれている。
彪は真っ直ぐに青蓮に向かって走ってくると、その勢いのまま飛びついてきた。
当然、三人はもみくちゃになって地面に転がる。衝撃に架楠の頭巾が脱げて、ぱさりと落ちる音がする。
それでも、青蓮はしっかりと二人を抱きとめた。
青蓮の腕の中で、二人は同時に顔を上げる。
「青蓮!」
「青蓮さん無事だった!?」
「ああ。勿論だよ」
ぎゅう、と腕に力をこめると、子供達は安心したように笑った。
つづく
後もう一回だけ、エピローグ的なのが続きます。
戦闘シーンはだいぶ省きました。ろくな描写ができないし、下手するとグロくなってしまうだけなので。
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