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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 最終回、最終話。ひとまずこれにて第一部は終わるわけですが、第二部は書けるかなあ。と、もうぼんやり先のことに思いをはせてみたり。
 これで終わり!?とか不満げに言われましたがこれでひとまず終わりです。第二部という救いがある。と思うだけで気分は違うはず。常々ハッピーエンド好きを主張していたら、嘘つき扱いされるようになりました。…嘘ではないです。嘘ではないです!趣向はそうなんです!

 やたら不安をあおる前置きをして、つづきに最終話です。
 四苦八苦って本当に人間の苦しみの本質ついてると思いました。


 しばらくそうしていて、彪が照れ臭そうに身をよじり、架楠がくすぐったげに笑ったのをきっかけに、ようやく青蓮は腕を解いた。
「よかった。僕たち青蓮さんに何かあったんじゃないかと思って」
「変な女が来るしよ。結構焦ったんだぜ。―でも大丈夫だったみたいだな」
 彪はちらっと倒れた蚖に目をやる
 そこでふと青蓮は、蚖をそのままにしておくわけにもいかないことに気がついた。
 鬼は大抵のものが、死ぬとすぐに、塵になったり自然に同化したりして消える。しかし個体差があるものだし、蚖の屍をこのままに置いておいて、騒ぎになってもまずいだろう。丁度すぐ裏手は川だ。
「彪。私は今ちょっと力が入らないから、そいつを川に投げ込んで来てくれないかい」
「分かった」
 軽く請け合うと彪はすぐに立ち上がって行って、無造作に蚖の体を引きずる。
 架楠の手を借りて起き上がると、青蓮も彪の後ろから川に向かう。
 先刻までの風が連れてきたものか、雲が月にかぶさっては行く手を暗くするので、少し歩き辛い。
 青蓮と架楠が追いつくと、丁度ばしゃんと水音を立てて、彪が蚖を川に投げ入れたところだった。
 仕事を果たして、満足げな顔で、彪は笑って見せる。
「これで一見落着か?」
「まぁ、まだみさを様のことがあるけど…そうだね」
 そちらはなんとか、自分が言葉を尽くして説得しよう、と青蓮は思った。もっと早くに、きちんと話し合っておくべきだったのかもしれない。
「青蓮さん。あのみさをさんって人は…」
「そっちの説明も、また今度ちゃんとするよ」
 安心させるように、架楠のふわふわした髪をなぜて、にっこりと笑う。
「とりあえず宿に戻ろうか」
「うん」
 答えて、青蓮を見上げた架楠の視界の端で、何かが光った。
 それはあっという間に起こった。
 一直線に青蓮めがけて迫ってきたみさをが、体当たりざま深々と青蓮の腹に短刀を突き立てて、そのまま二人して川に転落していった。
 不意を突かれて事態に頭がついていかず、驚きに目を見張った青蓮の顔と、必死ともいえる凄い形相で瞳孔を見開き、なのに何故か笑っているようなみさをの顔とが、一瞬にして架楠の目に焼き付いた。
「…………え」
 声が出たのは、水音が高く響いた後だった。彪も何が起こったのか分からない、というように惚けた顔をしている。
 二人で顔を見合わせてから、はっとして川の縁に駆け寄った。
「青蓮さん!」
「青蓮!?」
 水面までは半丈程の距離があり、暗い川の中の様子はうかがい知れない。
「青蓮さんっ青蓮さん!!」
「青蓮!返事しろ!」
 どうして良いかも分からず、子供達はただただ青蓮を呼んだ。川はどうどうと音を立てて流れていく。
 雲の切れ間が一瞬光を漏らして、架楠の金の髪を水面に映した。
 そこにざっと泡が立ち、再び厚い雲が月を隠した時、暗闇の中で架楠は濡れた手に腕を掴まれていた。
「―やっ!なに!?」
「このやろう!架楠を放せ!」
 闇の中で、彪が腕の持ち主に飛びかかったらしく、架楠は腕が離れるのを感じた。
 怯える架楠の耳に、ばしゃばしゃという激しい水音に混じって「あっ!」という呻き声が聞こえた。それが彪の声ではないことを、架楠は祈った。頬に冷たい水滴が跳ねる。
 どぼん、と一際大きな水音がして、争う音はそれきり絶えた。
「……彪?」
 おそるおそる、架楠は呼びかけた。
 返事はなく、再び月が照らしだしたそこには、架楠以外の人影はなかった。見ると地面には転々と血が飛んで、毟られた鶯色の毛髪が、一束分、散らばっている。
 何より架楠を戦慄させたのは、一かけの尖った欠けらだった。
 震える手で拾い上げたそれは、角の欠けらだった。
「彪ーーー!」
 川岸にとりついて、架楠は叫んだ。
「彪ー!!青蓮さぁーん!!」
 喉が張り裂けんばかりの声を出したのに、答える声はない。
 ぽつ、と水滴が顔に当たって、又一つ。それが雨滴だと気づくのと同時に、どっと雨が降りつけた。
 架楠の幼くか細い体にも、雨は容赦ない。
 架楠本人は、そんなことには構わず、家族の名を呼び続けた。
 水音がやかましく、自分の声はどれだけ張り上げても届かないのではないかと思われた。けれど耳の奥がじんじんして、頭もきりきりと痛んで喉がひりひりして全部が潰れそうだと思っても、架楠は叫ぶのをやめなかった。
 今、この声が届かないのなら、こんな声は潰れてしまってもいいと思った。
 非力な架楠の限界はすぐにきた。朝になる前に、架楠は力尽きて意識を失った。
 通り雨は、その頃にはもう止んでいた。
 次に眼を覚ましたら、架楠はまた一人になっている。
 その現実を拒むかのように閉じられた目は、けれどまた開かれる。
 目を覚まし、ひとりで歩き出さなければならない朝がくる。

 

 一時身を寄せ合った三人は、こうして離ればなれになった。
 その思い出と共に、鬼の子は旅を続ける。
 

 これは流離の鬼の子の物語。
 愛(いと)しい出会いは愛(かな)しい離別を連れてくる。
 愛(あや)しい鬼の子の物語。

 

終わり


 

  すでに言ったかもしれませんが、出会いで始まった話は、別れで終わらすのが順当かと思いましたので、こういう形の幕引きになりました。
 第二部はまだ大分ぼんやり。色々考え出すと広がっていくんですけど、決めかねて。主に架楠中心なのですが。後青蓮の生死は未定です。どちらにしろ、これから先彼女がお話の中心に登場することはないと思われます。
 第二部に移る前に番外とか書きたいです。

 希望を語りつつ、これまで続いた話を一旦終わらせるに当たって、ここまで読んでくれたことにここで感謝の意を表明します。…堅い?

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