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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 締切明日とか、間に合う気がしない。しかし現時点でそれなりの頁数になっているのですが、最終着地点がまだ見えません。…というか、あんまり決めてません。
 正直見切り発車だったので、最終話を書くにあたって、色々と設定をこじつけようとやっきになっています。自家撞着起こしてるかもしれません…そんな気がしてきました…。
 なにはともあれ、ぼちぼち起承転結の「転」くらいにはなってきました。結びを求めて、もう少し頑張ります。

「奇遇だね。魄公」
 町外れの梢に一人腰掛けていた白い鬼は、先刻自分が仔鬼にかけたのとほぼ同じ挨拶に、ぴくりと眉を上げた。
 声をかけた相手は、笑顔でとん、と魄の隣の枝に立つ。
「相変わらず神出鬼没だね。まあ久しぶり。こんな所で特に何してるってわけでもないんだろ?丁度良かった。ちょっと話し相手になってくれよ。どうにも退屈でさ。―何か言ってくれよ。大兄」
 魄は顔も向けずにちらと目線だけを寄越してやった。
「おまえに会うと分かっとったら来なかった」
 かなり素っ気ない言葉にも、相手はめげた様子もなく笑う。
「はっ。本当相変わらずつれないね。…と、その髪にくっつけてる紐はどうしたわけだ?大兄が白以外の色を身につけるなんて珍しい。どういう心境の変化?あれ?もしかしてあの話本当なの?最近仲良くしてる人間がいるって話。あ、貰った?もしかして貰い物なのかその黄色いの?」
 魄の心底うっとうしそうな顔に、気がついているのかいないのか、やたらべらべらとよく喋る。魄が答えようとしないので、まあいいや、とまたしても一方的に話題は変えられる。
「それよりこれさぁ、大分目立つようになったろ?生まれつきじゃねえから結構かかったけどさ。どう?」
 ぐいと彼が指さしたのは、その剥き出しの額ににゅっと生えた二本一対の角だった。自慢げな仕草に魄は眉を寄せて不快を表した。
「そんなもんの為に、何人喰ろうたんじゃ。蚖(げん)、おまえも知っとるじゃろう。人を食えば尚更、あちらには戻れんようになる」
「別に俺はあんまりあっちに行く気はねえからなあ。こちらで自由に動けるようになりたいだけで」
 そこではたと思い当たったように、魄は向き直った。
「蚖、まさか…」
「そうじゃない」
 魄の言いたいことを察して、蚖はにやりと笑う。
「まだね」
「ということは、あの土地から離れてここに居られるのは―人に憑いたか」
「血を飲み願いを聞いた。あの女毎日祠に通ってくるから興味がわいてね。いい加減暇だったし。昔、あの女の子を食っていたから、その繫がりで憑くのは容易かったし。動き回ってる方が機会も多いと思ってさ。実際、機会が巡ってきた。俺が自由になる日も近い。早けりゃ明日にも終わってる。ああ楽しみだ。そしたらさ、魄公、俺に新しい名前をつけてくれよ」
「何故わしがおまえの名など考えんといかんのじゃ。断る。やはりおまえはつくづく邪道をゆくな。―普通そんな危うい手は使わんもんじゃ」
「憑いてる人間が倒れるか繫がりが無くなるかすりゃ、命はないからな。でもじゃあ普通はどういう道を使うんだ?長く生きて色んな奴を見てきただろ?それで、その方法では、どれぐらいの確率で機会が巡ってくるんだ?なあ、あんたはどうしたんだよ」
「……」
「大兄はいつも答えてくれない。だけどどんなに嫌がったって、自分もやったことだろう。だからそんなに自由に何処にでもいける。俺もそうなりたいんだよ。もう長いこと神様なんてやって正直疲れた。生贄を食ったところで、その力はほとんど奴等のために使ってしまう。もううんざりだ。漸く、敵討ちの誓願をかけた女に憑いてあそこを出られた。そして今日、見つけたんだよ」
 蚖はそこで嬉しくて堪らないというように、顔を歪めて笑う。魄は黙りこくって、苦い表情で蚖を見ている。
「仇と狙う女と、その側に仔鬼がいた!都合の良いことにまだ仔共だ!なあ魄公、俺もそっちに行くよ―同じになるよ。そしたらやっぱり、大兄が名前を付けてくれよ。いいだろう?」
 魄はふいと顔をそむけると、おもむろに立ち上がった。ふわりと、白い衣と髪が闇に浮かぶ。その中で、一点だけ黄色い組紐もゆらりと踊る。
「何処に行くんだよ」
「おまえのおらんところじゃ」
「はっ、ひどいな。それじゃまた会おう」
 蚖は引き留める様子は見せず、今までのほぼ一方的な会話でもう十分満足した風に笑う。彼等の邂逅はいつもこんなものだった。
 す、と魄が振り向いて、もう一度だけ蚖と顔を合わせた。
「…そうじゃな、もしおまえの念願が叶ったなら、魃(はつ)という名はどうじゃ」
 蚖はきょとんと瞬いた。
「魃?」
「気にくわんのなら使うな」
 言い捨てて、魄は枝から足を離した。その姿が宙に舞う。去って行く背を、蚖の声が追った。
「ありがたく使わせて貰う!次会うときは俺は魃だ!」
 答えはなく、魄はそのまま町の方に消えた。彼にその気がなければ、並の人間にはどうせ魄の姿は見えはしない。
 魄の後ろ姿を見送った蚖は一人笑壺に入る。
「さて、俺もそろそろ戻るか」
 口の端を吊り上げたままそう独りごちて、蚖は長い鶯色の髪を揺らし、川沿いの神社へと体を向けた。
 茂みを抜けて、月がうっすらと照らす道を越えた先にある神社の境内では、あまりに思いがけないことに驚いた青蓮が言葉もなく立ち尽くしている。
 二の句が継げないでいる青連に、みさをは一つの提案を出してきた。
「私の子を返して頂戴、おキヨさん。そうすれば、これまで育ててくれた恩を仇で返すような真似はしないと約束するわ。子供をかどわかしたなんて、騒ぎ立てる気もないの」
 赤子は生贄になった。そしてキヨはその生贄を神の元へと運ぶ役目を負った。
 しかし、キヨはそのまま戻らず、その場には男の屍だけが残されていた。
 それから八年経ち、キヨ―青蓮が子供を連れているのを見つけたみさをはこう結論づけた。
 自分の子供は生きていた。
 犠牲になったのは夫の方だったのだ。嫉妬に狂った女が恋人を殺し、腹いせに子供を攫ったのか、それとも何かあって男が死に、おびえた女が子供を連れて逃げたのか、それは分からないが…。
 みさをの勘違いがやっと呑み込めて、戸惑いながらも、青蓮はなんとか言葉を返した。
「あの子等は、親を亡くし、私が最近引き取った子です。みさを様とはどちらも関係ありません」
 ところがみさをはそんな言葉はものともせず、にこりと笑んだ。青連の言葉を信じていないのは明らかだった。
「それはたしかに、長年一緒にいたのですもの、離れ難いのは分かるわ。それにあの子達、とても仲が良さそうだったものね。引き離すのは可哀想かもしれないわね。そうね…。それなら、二人とも引き取ってもいいわ。大丈夫。二人とも自分の子だと思って育てるわ。心配なら、どちらが私の子かはもう聞かない。どうかしら?」
 穏やかな笑顔を絶やさないみさをを前に、青蓮は自分でもよく分からない不安を抱き始めていた。ひとりで話を進めるみさをを前に、青蓮は首を振る。
「そういうことではないんです。私もあの子等が一人前になるまでは面倒を見るつもりでいたから、別れが辛くないとは言いません。ですが、そうじゃあないんです。…実はあの子達にはちょっと事情があって、普通の家には置いておかれないんです」
 みさをは「まあ」と感嘆詞を発して、口に手を当てた。
「もしかして、病気か何かなのかしら。そう言えば一人は顔を隠していたわね。いいえ。平気です。そういう時こそ母親がしっかりしないといけないものね」
「ですからみさを様、あの子等はみさを様の子ではないのです。みさを様の子は―生贄になったのですから…」
 そして青蓮の子も、その時失われた。
 どちらにとっても辛い思い出を口にすることは、青蓮に苦しみをもたらして、ぎゅっと震えそうになる唇に力を入れる。
「そう。生贄になったと思っていた…。だけど生きていたのよ!ねぇおキヨさん。あなたも女なら分かるでしょう。我が子をこの手に抱きたいのよ。あの人の子が欲しいのよ。例え片方があなたの子だって構わないわ」
「――っ!」
「…そう。図星だったの」
 息を呑んだ青蓮の真意を勝手に合点し、みさをは肯いた。後ろめたさのため、動揺も露わに口ごもった青蓮は慌てて否定の声を上げた。
「違います!私の子は産まれずに死にました」
「でもあなたはあの子達と一緒にいるじゃない!」
 悲鳴じみた叫びが、突如みさをの口から飛び出た。
「勘右衛門様の心もあなたのものだったわ。婚約の時がほとんど初対面だったんですもの、仕方無いとは思ったわ。けれど妻夫よ。いつかは慈しみあえると思っていた。それなのに一年が経っても勘右衛門様の心にはあなたがいて、私の心にはだれもいなかった。勘右衛門様は優しかったけれど、…どうしてなのよ、おキヨさん。何故あなたばかり…」
 それまでの落ち着きを捨て、だんだんと昂奮し擦れた声で言い募るみさをを、青蓮は何も言えず見つめた。

つづく
 

 唯一最初から再登場の決まっていた蚖登場です。でも当初の予定からは大分はずれました。魄に対してはちょっと甘えてる感じがでてるといいです。
 

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