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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 中間発表前の分際で、祭りに行ってきました。行って良かった!日本刀日本刀甲冑甲冑…。異様にはしゃいでいる大きい子供がいました。ごめんなさい。まさか地元の祭りであんなものに出会えるとは。
 そして案の定卒論は進んでいないわけですが。
 あてがはずれた。どうしよう。

 以前に出した黒ヤギさんの話を部誌に載せたら、友人に「黒ヤギさんがかわいそう!」と責められました。私はバッドエンドもハッピーエンドも書いたつもりがなかったので、そうかー、という気分でしたが。
 日常によくあることをちょっとメルヘンにした感じ、だったんですよ。私の意識は。
 友人「黒巳のメルヘンはブラックだよ」だそうです。
 どうでも良い後日譚をつけると、ある日突然「遊びに来ちゃった-」とか言って白ヤギさんが扉を開けて入って来ます。何事もなかったかのごとく。白ヤギさんはそんなやつです。
 だから日常よくある話なんです。

 それはともかく、クライマックス?あれ?な続きです。

 宿に一人戻っていた架楠は、帰らない彪と青蓮を待ちわびて、通りまで出てきていた。
 西空の端にほんの少しの名残を残して、日陰は去り、代わりに月が人通りのまばらになった道を照らしている。夕食後に三人で見上げた夕星が夜空に燦然と瞬くのを、架楠は見つめた。風が少し冷たくなってきていた。
「架楠…」
「彪、お帰り」
 ぽとりと落とされた声は待っていたもので、架楠は弾かれたように天から地上へと視線を降ろした。
 続けて青蓮さんは?と尋ねようとしていた言葉は、喉の奥でしぼんで消えた。
 いつもやや赤味を帯びている彪の顔になんだかぼんやりとしたものがあって、青ざめているとまではいかないが、具合が悪いのかと心配になる程度には憔悴の気配が見えたのだ。
「彪?どうしたの?」
 当然架楠はそう訊いた。覆いの下で小首を傾げて、歩み寄る。
「青蓮は?」
「まだだけど、見失ったの?」
 質問には答えず、彪は半歩手前まで来た架楠を凝然と見詰める。
 本格的に心配になった架楠が顔を曇らせたところで、彪が大きく息を吸って「あのな」と切り出した。
「架楠、実は俺…」
 ところが言葉は途中で打ち切られて、彪は空中をねめつけた。
「さっきの話なら断っただろ」
 架楠は誰に向けられた言葉か分からず、彪の目線の先を追って振り向いた。
「断られた話を蒸し返す気はない」
 かろうじて答える声は聞けたが、彪が見ている誰かの姿は、架楠には捉えられなかった。
「じゃあなんの用だ」
「ここを離れようとしたら姿が見えたので、挨拶ぐらいはしていこうかと思うたんじゃ」
 宿の屋根瓦に腰掛けた白い鬼が、架楠の目にもすーっと浮かび上がって見えてきた。架楠と目が合うと、ふっと笑う。
「息災じゃったか?人の子」
「はい。お久しぶりです」
 見覚えのある姿に、架楠は顔を綻ばせた。彪は好いていないが、架楠はこの鬼を決して嫌いではなかった。ほんの気まぐれの人との約束を、律儀に守った白い鬼。
「さて、会って早々じゃがわしはもう行く。不愉快な奴に遭うたんでな。鬼の仔、おまえもあやつに出くわさんうちに、早うこの町を出た方がいい」
「なんだよそりゃ。俺たちはしばらく留まる予定なんだ」
「―そうか。無理にとは言わん」
「さようなら、また会いましょう」
「縁があればな―」
 そう言って鬼の姿が薄れていく。幸い、短い邂逅は余人の目には触れずに済んだ。
「彪あの人と会ってたんだね。何話してたの?」
 振り返って無邪気に架楠が問いかける。
「あっちに戻りたいなら連れてってやるって言われた。けど断った」
「よかったの?」
 架楠は少し驚いたようだが、すぐにそう尋ねた。
「当たり前だろ。俺、一緒にいられる間は大事するって決めたんだ」
 笑って見せた彪はさっきより元気そうになっていて、架楠はほっとする。
 二人で屋内に入ろうとしたとき、呼び止める声がした。
「坊やたち…」
 見るとそちらには、昼間に茶屋で会った女が息を切らせて立っている。二人を見るとにっこりとした。
 女はみさをと名乗った。青蓮に頼まれたというみさをに連れられ、彪と架楠は宿を出た。
「みさをさん、青蓮さんに何かあったんですか?」
「ごめんなさい。私も詳しくは分からないの。とにかくこの町を離れて欲しいと。後で追いつくと言っていたわ」
 みさをは先を急いでいる様子で、歩幅の違う架楠達は小走りについていく。
「くそっ、なんで見失ったんだ。今からでも探しに…」
「だめだよ彪。心配なのは分かるけど、何処にいるのかも分からないのに。青蓮さんは後から来るって言ってるんだから」
 今にも引き返しそうな彪に、架楠が釘を刺す。先を歩いていたみさをも振り返って注意した。
「そうよ、彪くん。行き違いになるかもしれないわ。それに何かあったのなら、余計に行くべきじゃないわ。危ないことは大人の人に任せなさい」
 彪はいかにも不満そうだ。彼の性分では、人に任せられるのをこれ幸いと自分は楽になる、ということを是としない。
「何が起こってるのか分からなくて、自分は手え出せないとか、いやだろ」
「…旅暮らしなんて不安定な生活では、万が一ということもあるものね。不安よね。ねえ、少し考えて欲しいのだけど、よければ私の家に来ない?」
「みさをさんのお家はこの近くなんですか?」
「いいえ、そうじゃなくて、私の家の子にならないかしら?さっきも青蓮さんと少しお話したのよ。なかなか大きな家だし、子供二人分くらい優に養えるわ。今よりも落ち着いた暮らしができると思うのだけれど」
 架楠や彪からすれば、それは突飛な提案で、冗談以上のものには聞こえなかったので笑って流そうとした。
「そんな、急に言われても困ります。青蓮さんはなんて言ってました?」
「あなたたちが良ければ、って。だから少し、考えてみてくれない?返事は今すぐとは言わないから」
 架楠の足がぴたりと止まる。並んでいた彪も、立ち止まってみさをの笑顔を見上げた。
「どうしたの?」
「青蓮さんが、そんなこと、僕たちのことをそんな風に言うはずないです」 
 控えめな調子ではあるが、内容そのものには疑う余地がないほどきっぱりと架楠が言う。
 やや体の引けた架楠とは対照的に、彪が一歩進み出る。
「どういうことだ。おまえ青蓮に何かしたのか」
「―まさか。あなた達の事情のことなら聞いているわ。私はそれでもいいと言ったのよ」
「本当ですか?」
「嘘だ!」
 ざわざわと風が強くなってきた。架楠は頭に被った頭巾の端をしっかりと握っている。
「青蓮さんはどこにいるんですか」
「知らないわ」
「本当のことを言ってください」
「どうして?私の言うことを信じてくれないの?」
「……」
 嫌な切り返しだ、ととっさに架楠は思った。
「信じられるか。言えよ。青蓮とはどこで会ったんだ」
 いよいよ不審と警戒を剥き出して、彪が架楠を背後に庇う。
「どうしてあの女のことばかりなの。私から夫も子供も奪ったのはあの女よ。ふさわしい場所で天罰でも受けているでしょう」
 みさをの顔は引き攣っていた。泣きそうにも見えるし、笑っているようにも見える。
「意味分かんねえ」
「あんな女のことなんかいいでしょう。私と一緒にお家に帰りましょう」
 意味は分からなかったが、みさをと青蓮の間に何か因縁じみたものがあることと、みさをが青蓮に対して持っているのが良くない感情であるということは、子供達にも察せられた。
「僕たちはあなたとは行きません。青蓮さんを探しに行きます」
「何故?親子でもないのに」
 全く理解のできない言葉を聞いたというように、尚もみさをは言い募る。
「それでも僕たちは―」
「俺たちは家族だ」
 彪が決然と言い放った。
 風がごうと吹き付けて、架楠の顔を覆っていた布がめくり上がった。月光をはじいた稲穂のような髪が翻る。その中にみさをの見たことのない色の目があった。
 煩わしげにむしり取られた彪の頭巾の下からは、天に向かって突き出た角があらわれる。
 みさをは覚えず後退った。瞬ぎもせずに二人の異形を見詰める。
「やっぱり嘘じゃねえか」
 突き刺すような言葉を残して、子供達はきびすを返した。そうしてみさをが立ち竦んでいる間に、来た道を駆け戻る。
「待って!!母さんが悪かったわ!お願いだからもう…」
 最早みさをの叫びなど耳に入らず、二人は走る。
「どうする架楠。とりあえず青蓮を見つけねえと…」
「それなんだけど、あの人僕たちを青蓮さんと引き離したいみたいだったでしょう。だったらなるべく遠い所に連れて行こうとするかなって、思って。だから、こっちとは反対の道じゃないかな、青蓮さんは」
「ああ、なるほど」
 町を貫く道を引き返し、再度町中に入る。
「と言っても、この先道二つに分かれてるぜ。二手に分かれるか?」
「それもありだけど、あのさ、さっき天罰って言ってたじゃない。たまたまかも、しれないけど、こっちに神社あったよね。他に思い当たるものないし、もしかしたらだけど…」
「よし!神社だな!」
「かもしれない、って、だけだよ」
「それでいい!ところで架楠、おまえもっと速く走れないか」
「僕、これ限界!」
 架楠は息を切らせて全力で走っているのだが、彪から見るとかなり遅い。これではいつみさをに追いつかれるかも分からない。
「架楠。持ち上げるぞ!」
「え。…って、ええ!?」
 言うなり彪は軽々と架楠を担いだ。そのままぐんぐんと速度をあげて走る。
 架楠は目を白黒させながら、彪の背に摑まるしかなかった。
つづく

 


 もう一回だけ登場、お星様。改めて見ると、今回ほとんど彪のためだけに出てきたようなものですね。
 みさをさんもストレスが溜まっているのです。
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