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と言うか、編集さんが締め切り日当日に「今日中に出揃うとか思ってないので、来週を本締切とします」と言われました。流石です。もうぼちぼち一年編集やってるから慣れたものです。
そして私は、来週と言われると、なんかもうちょっと書けるんじゃないかという欲が出てしまう…。もう大概な量になってるんですけどね。編集いじめてやるなよ。経験者のくせに…。
それよりぼちぼち卒論中間発表です。まずそっちをやらないと。
前回微妙なところで切ったので、今回はちょっと短いです。
「そうだ。おまえはその女を仇としてきたのだろう」
それまで二人だけだった境内に、第三者の声が降って湧いた。みさをと青蓮は反射的に声の主を求めて首を巡らした。
「なにをのんびりしているんだ。さっさとやってしまえよ。そして子供を取り戻すんだ。そうだろう?」
長い鶯色の髪を垂らし、鳥居を踏みつけにして立つ鬼の姿を認めた青蓮の目が、大きく見開かれる。
「何故あんたがここに!?」
鬼はひどく機嫌良さげに顔を歪めて答えない。
青蓮が鬼に向かって一歩踏み出したところへ、いきなりみさをが突っ込んできた。素速く避けた青蓮の目が捉えたのは、月影に白く光る懐剣だった。
「みさを様…」
「退いて頂戴おキヨさん。私は子供達を迎えに行くわ」
白刃をきらめかせながら、おなじくらいぎらつく目で、みさをは言い切った。
「できません」
青蓮も身構える。これでも旅をしながら幾つも修羅場を越えてきた身だ。それなりに鍛えてきているし、並の人間に負ける気はしなかった。
みさをが懐剣を振りかざす。青蓮は踏みこみながら体をずらし、みさをの右脇に入りこむと上から腕を押さえ込んだ。みさをは体を引こうとしたが、青蓮の腕がふりほどけない。
「放して頂戴」
「あの子等はだめです。みさを様。あなたには任せられない。事情があると申し上げたはずです」
「じゃああなたならいいの?温かい家、帰る場所、穏やかな安定が、子供達には必要だと思わない?あなたにはそれは与えられないわ」
青蓮がその言葉に気を取られた一瞬を逃さず、みさをは右腕の自由を取り戻した。
「自信がないのでしょう、おキヨさん。子供達の幸せを少しでも思うのなら、私に返して」
みさをはうっすらと余裕の戻った笑みを浮かべた。しかし意外にも、青蓮ははっきりと否定した。
「いいえ。あの子等は穏やかな安定を奪われた。与えられるものなら与えてやりたいと私も思います。けれど、彪も架楠も、これからもずっと業を背負って生きていかなければいけない。ならば穏やかさで包むのではなく、厳しい世の中を生きていく力を身につけて欲しい。みさを様、私を憎むのは構いません。けれど腹いせであの子等を引き取るのなら止めて下さい」
みさをの顔が真っ赤に染まる。
これまで、罪悪感故にずっと弱腰だった青蓮の初めての強い物言いに驚いたのもあった。それを誤魔化すかのように、殊更険のある目つきで、ぎっと青蓮を睨んだ。
しかし青蓮も今度はその程度ではたじろがない。きっと視線を返す。
その目を真っ向から受けたみさをは、動けなくなった。どうしても次の一歩を踏み出しかねて、むしろともすればじり、と退がりそうになる足を押しとどめて、結果身動きが出来なくなる。
空気が緊張で張り詰めた。
「ここは俺が引き受けよう。おまえは子供を連れに行け」
鳥居の上から、鬼が二人の間に飛び降りてきた。冷たい風が一陣吹きつけて、社の木々をざわめかせて去る。
「それともやはり仇は我が手で討ちたいか?」
「いえ!ありがとうごさいます蚖様」
どこか宙を見遣りながら返事をしたみさをには、鬼の声は聞こえても姿までは見えないようだ。
青蓮を無視して境内から出て行こうとするみさをを止めたかったが、今度は青蓮の方が動けなくなっていた。遠くなっていくみさをの足音を背で受けながら、青蓮は目の前の鬼と対峙した。
うなじの毛が逆立ちそうな畏れを、それからは感じた。背筋がちりちりとして、圧迫感が平生何気なく行っている呼吸を意識させる。向き合っているだけで息が乱れる。
「久しぶりだね。随分勝手なことを言ってくれるじゃないか。どういうことだい?」
呼吸を整えるように意識しながら吐いた言葉は、ゆっくりと空気中に刻みつけられた。
「あんたこそが仇だろう」
蚖はにやりと笑った。
つづく
次がクライマックス。ので、ちょっと長くなります。多分。