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どうでもいい話ですが。一応この話の登場人物達の名前は、多少変えたりしているものもありますが、北欧神話から取ってきています。次回辺りから自分のための整理も兼ねて、由来を載っけていこうかと考えております。
今、私の後を歩いて付いてくるのは、同僚達には、気まぐれだとしか思われないだろう“買い物”。
ラキは私の呼びかけにうなずいたから、私は彼の主になった。
実は、あまり深い考えがあったわけでもないのだ。ただ、この子が他の子と違うと感じたから、そこから連れ出したいと思った。
何故、この子は他の子と違ったのか、何があったのか、私は何も知らない。ただ、違うというだけで買ってきた。それは、研究者らしい単なる興味だったのだろう。
私の住む場所は、広大な魔術師組合の敷地の中にある。そこは私のような、家に戻るのが面倒だったり、実家が遠すぎたりする者に、組合が貸し出している宿所だ。私がここに入ったのは最近だが、学生時代も寮に入っていたから、あまり環境は変わらない。それぞれに独立した個室があって、ここから近い研究所に、自分の研究室を持っている者もいる。
「やあサフ。どうしたんだい、その小さいのは」
案の定、というか、私の隣に住むフェリスさんが声を掛けてきた。彼はちょっとでも面白そうなことや、新しいものになら、何にでも興味を示すのだ。
「ちょっとした買い物ですよ、フェリスさん。市場に行ってきたんです」
“買い物”とは、人に対する表現ではないな、と思いながらも、そうとしか言いようがないのだから仕方ない。
「サフ!!」
「っはい!?」
突然大きな声を出されてぎくりとした。何せ考えていたことが、下手をすれば奴隷制への不満と見られても仕方のないものだっただけに。
「僕のことは名前で呼べと言っただろう!それに敬語もやめろと言ったはずだぞ!どうしてすぐに忘れるんだい、すねてやろうか…」
「……悪かったよ。ノルン…」
「それでよろしい」
途端に満足げな笑みを浮かべる、彼のフルネームはノルン・フェリスという。これでも私より三つも年上のはずなんだが…。
「しかし、君がそういう買い物をするとは思わなかったな。なかなかかわいいじゃないか」
「…今度、研究室をもらえることになったからね」
「なるほど、手伝いにというわけか。しかしずいぶんといい加減な作りの服だな。これでは今時分寒いだろう。僕の弟の小さい頃の服を貸してやろうか?確か残してあったから」
言われてみれば、確かにこのままでは寒いだろう。
「助かるな。頼んでもいいかい?」
「任せておけ。ではまた後でな。次はその仏頂面を直しておいてくれるとうれしいな、え~と…」
「ラキと言うんだよ」
「じゃあまたな。ラキ君、サフ」
そう言うと、フェリスさん…違った、ノルンは、さっさと自分の部屋に戻っていった。
しかし、言われるまで気づかなかったが、ラキはまた、市場にいたときのような、敵意と不信感をまぜた顔をしている。市場から連れ出した時は違ったんだが、どうしたんだろう。
とりあえず私の部屋に入れ、椅子に座らせたが、黙ったままで、顔つきも強張って動かない。
「えー、と。ラキ…」
「おまえは、魔術師なのか?」
ラキが、静かに言った。私と目を合わせないようにしている。
そうか、そういうことか。魔術師は、彼にとって憎しみの対象なのだ。彼の自由を奪う呪を掛けた、それは魔術師なのだ。
「…そうです」
私も、その魔術師だ。
ラキはそのまま黙ってしまった。私も、何と声を掛けて良いのか分からず、何も出来なかった。
嫌な沈黙だけが、部屋に残った。
「サフ、服があったぞ。少々大きいかもしれないが、どうだ?」
部屋にあった沈黙を吹き飛ばすかのように、入ってきたのは、ノルンだった。因みにノックはされたがまだ返事はしていない。
「二、三着あったぞ。古着で悪いが、とりあえずしばらくはこれでいけるだろう」
奴隷相手に、古着で悪い、などと言うのは、組合の中では彼くらいのものだろう。変わった人だ。
「ありがとう、ノルン。助かるよ」
「うむ、構わないさ。せっかくかわいいのを、しかも君が買ってきたんだ。このままではもったいないからな」
そう冗談めかして言うと、ノルンはおもむろにこちらを向いて、やけに大げさな身振りで言った。
「ああ、しまった!もう一着部屋に忘れてきてしまった!サフ、取りに行ってくれないか」
おそらく、部屋の空気を読んだのだろう。まったく、こういうところは恐れ入る。
せっかくだから甘えさせてもらうことにする。
「いいよ。どこに置いてきたんだい?」
「僕のベッドの上だ」
「分かった」
短く返事を返して、心の中ではノルンに感謝をしながら、私は部屋を出た。
学生時代はとにかくトラブルメーカーとして目立っていた彼に任せることに、多少の不安を感じないでも無かったのだが。