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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 一週間ごとに出没中。でもこれ終わったらネタ無いよ。平日パソコンいじる余裕がない。

 それではさくさくと。次は第二の主人公、ラキくんの名字から。
ティール Tyr 
チュールなどとも呼ばれる。
アース神族。民会、司法、正義を司る。古くは戦いの神で、元は最高神であったとも言われている。フェンリル狼を捕らえるために、偽りの宣誓をして自分の右手を犠牲にした勇敢な神。右手首から先が無い状態で描かれる。

続きからノルンの過去話が始まりますが、部分的に流血表現あるので、話的にはふくらまないが暗くなるのを避けるべく、なるべく詳しい描写は入れませんでした。それでも苦手な人は注意。

「有り体に言うとだな、収入が良いからだ」
 それはまた、身も蓋も無いというか…。
「まぁ、それが理由の一つだな。…僕の出身地は小さな村でね、この国の外れにあったんだ」
「あった?」
 私が聞き返すと、ノルンは軽く笑みを浮かべながら応えた。
「そう、“狩り”にあってなくなったんだよ。僕が十一の時にね。本当に小さな村だったから。その日、僕と弟のヘルは、母親に連れられて、町に出ていたんだ。朝の早い時間に出て、帰ってきたのは夜になってからだった。村の近くに来ると、妙な臭いがするので、僕たちを残して母が様子を見に行った。帰ってきたときは真っ青な顔をしていたね。新しく家を探さなきゃいけない、と言われて、その日はもう遅かったから、母が家から持ち帰った毛布だけで、そこに野宿することになった。僕は何があったかぐらいは察することができたけど、ヘルはまだ六つで、何故家に戻れないのか、父親はどこかとしつこく聞いて、母を困らせていた」
 奴隷狩り、と呼ばれる行為がある。力のない小さな村や、小国が襲われ、奴隷として適当なものを連れ去っていく。全力で以て抵抗する所もあれば、定期的に人質や金銭を差し出して、それを逃れる所もある。
 私も知識としては知っていたが、所詮私は帝都に生まれた身で、その被害を実感することは無かった。それが今、いきなり身近な人間の形を取って、目の前にある。
 しかし父親をそれで亡くしたのなら、この仕事に就いているというのは、不思議なことに思えるのだが。
「僕はどうしてもこの目で確かめたかったから、そうでなきゃ納得できない気がして、夜中にこっそり抜け出して、村の様子を見に行ったんだ…」
 どこか、少し遠くを見るようにして、ノルンは続けた。その口調からは、激しい感情は一切感じられなかった。何を考えているのか分からない、不透明な煉瓦色の目は、いつを見ているとも言えなかった。
「ひどい、有様だったよ。血と、土埃と鉄と、それから他にも、何か分からないいくつかの臭いが混ざって、静かな、けれど何かを孕んでいるような空気の中、村の入り口から続く足跡と、車輪の跡をたどって行った。そこには―」


「うっ、…ええぇぇえぇ……っげほっ、……ぅ…」 
 ランプに照らし出されたものを理解するのと同時に、激しい吐き気が襲ってきた。のどの奥が痛くて、腹の上段がものすごく気持ち悪い。目に、生理的な涙がみるみる溜まってきて、視界がぼやけた。
 泥だらけで転がる、うち捨てられたもの達。死んだ後から、更におもしろ半分に斬りつけられたのだろう、ずたずたの、顔さえ分からないものもある。
 その中から父さんを見つけたかったが、近づくことさえためらわれる。
 とりあえず、自分の家に向かって歩いた。大抵の家のドアは壊され、めぼしいものはあらかた持って行かれていた。村で唯一の雑貨店も、ぐちゃぐちゃで、店の中に店主のおじさんらしき姿が見えた。確認はしなかった。はす向かいのお姉さんが、道ばたに倒れていた。引きずられたような跡があった。お隣の、三歳の孫と暮らしていたおじいさんが、その子を腕に抱いて家の間の影に倒れていた。
 家に着いた。当然ドアは壊され、中は引っかき回されたのが見て取れた。ほとんど何も残ってはいない。
 いや、残っているものがあった。それはぬけがら。生前、僕の父であった人の、それは既に、ぬけがらでしかなかった。
 布が一枚、顔に掛けてあった。緊張で冷たくなった指は、ほとんど感覚も無いのに、それでもその布をめくることをした。目は、母が閉じさせようとしてかなわなかったのだろう。自分がかつて見たこともない父の表情が、そこにあった。怒りと憎しみと苦痛と、そして多分、悲しみの、入り交じった顔だった。それらを凝縮させた表情は凍り付き、目は濁っていた。既に乾いた血が、床と父の上に、奇妙なシミを作り出していた。
 なぜだか奇妙に、僕の気持ちは落ち着いていた。頭が、飽和状態になっているだけかも、しれなかった。最初のショックの後に来たのは、静かな沈黙。または空白。波のない、何もない、平坦。頭の中が、真っ白だった。塗りつぶされた白の裏には、何が潜んでいるのか見えはしない。それは無の白ではなく、あらゆるものを孕んだ白だった。隙間から、どんどん自分が広がっていく感じがした。周りの空気と、自分の中身が、均等になっていく。内側から、緩やかに溶けて、広がっていく…………。
「………な、に…?」
 突然、何かが、自分を襲った。
 音だ。音が聞こえる。子供を隠そうとして走る、母親達の足音。戦おうとして、とっさに近くにある武器になりそうなものをつかむ、男達のたてる、鉄のぶつかる音。混乱してわめく、子供達の泣き声。そして、確実にこちらに向かってくる、車輪の音。馬たちの蹄の音と、刃物のこすれる音。
「…やめろ、……嫌だ…」
 今や音だけでなく、静かだった村に重なって、見えないはずの光景が見えてくる。知っているはずがないのに。僕は、その時その場にいなかったのに。
 男達と敵がぶつかる。怒号に、その内母親達の哀願の声。鉄と鉄とがぶつかり、火花が散る。倒れる人間と泣き声。血にぬれる刃。ぼろぼろになりながら、行かせまいとしがみつく親。さびた臭い。音と映像が絡み合って、空気が、臭いが、熱さが、混乱したまま押し寄せてくる――。
「……ぁ、あぁ…うあわあああぁあぁ………!」
 目の前で、父さんが倒れた。刺した相手は睨みつけられたところで気にもならないのか、口元にはゆがんだ笑みが張り付いている。ああ、父さんが倒れている。違う。そんなはずはない。この頃ぼくは、母さんと、ヘルと一緒で。じゃあこれは何。自分の顔に飛んだ血は。まだぬくもりを持つこの血は。紛れもなく目の前で繰り広げられている、この…。
 いやだちがう。なにかがおかしい。やめてくれ。やめろ。ちがう。そんなはずない。何が………。僕はいま、どこに……?なに、ちがう………。ここは、…村…。空気が…いた、い………あつ……はず、な……い…ちが……………や……………!!


終わらなかった。まぁ山場は越したので、ノルンの過去話残りには流血表現はないはず。

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