紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
やっと終わります(笑
おそらく、細々した漢字間違いとか表現の間違いとか色々あったとは思うんだけど、付き合ってくれてありがとーね。
おそらく、細々した漢字間違いとか表現の間違いとか色々あったとは思うんだけど、付き合ってくれてありがとーね。
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ガタゴト、ガタゴト。列車は走る。疲れきった体を座席に埋め、一行は無言で列車に揺られていた。
あの後、面倒ごとはもうたくさんだとばかり、寝る間も惜しみ、荷物をまとめた一行は、朝一番の列車でリュウトシティへと帰ることにした。もちろん、旅館にはお辰の件も報告済みだ。これから先、神隠しが起こることもなくなるだろう。それはそれで一件落着でいい。とりあえず、良いことをしたと言うか、彼らがやるべきことはやったのだ。だが、任務で行くならまだしも、何の身構えもなく、まして体を休めるはずの旅行で起こったことだけに、疲れはピークだった。途中で来たはずの三珠樹も、厄介な仕事だったと不平を漏らし、今は別の車輌で体を休めているはずだ。
ハ「……クスン」(ショボーン)
プ「ハリトー……、元気出して」
ハ「元気なんか出ないぜぃ、プシー……。俺っちの、俺っちのお髪……(泣 剃る必要なかったぜ~ぃ」(涙
リ「分かったから一回泣き止めよ。寝られねぇだろ?
いいじゃねぇか。元に戻してもらったんだろ、髪」
迷惑そうな顔で泣き崩れるハリトーを見、リーズは出てくるあくびを噛み殺しながら言った。ハリトーの頭は、以前と変わらない、彼のトレードマークのあの髪型になっていたが、ハリトーはふるふると首を振った。
ハ「これ、鬘」
スポンと、音を立ててハリトーが髪を、正確には鬘を持ち上げる。丸くなった頭が覗き、見ていた全員がフッと吹き出した。
ハ「お前ら、ほんと、皆してひっどいんだぜぃっ!!!
慰める言葉はねぇのかっ?!!!」俺っち、一番の被害者だろ!!
レ「わ、わりぃ……、ハリトー(ふるふる)……、フッ!」
サ「早く戻して、その鬘!(笑 笑いすぎて、おかしくなりそうだよ!!」(大爆笑)
リ「お前、すげー壺にはまったんだな。珍しい」(笑いつつ)
パ「……(フッ)」(我慢してる)
プ「まぁまぁ、ハリトー。またちゃんと生えてはくるんだから。ちょっとの辛抱だよ」
プリプリと怒りながら、ハリトーは鬘を装着する。確かに彼の髪は、剃られる必要もなかった。厳密に言えば、彼が老けメイクをされる必要は一っ欠片もなかったのは、全員が周知の通りだった。予防だよ、予防とユウイは言っていたが、ハリトーからすればたまったものではないだろう。正に、一番の被害者であるわけだ。
リ「はぁーっ、笑った笑った。ちょっと疲れ吹き飛んだわ。まぁ、まだ全然疲れてっけど……」
座席に深く腰かけてそう言うリーズに、その場の全員が同感だった。何はともあれ、後は帰るだけだ。疲れは家でゆっくりとればいい。リフレッシュして、昨晩のことは全部忘れて、明日からはまた忙しい日が始まる。
プ「はぁ、もうこうなったら明日が待ち遠しいよ。子供達に会う方がよっぽど癒しだもの」
レ「あー、それは言えてるなぁ。……旅行は今回で懲りたよ」(苦笑
パ「……、もう貴様らとは旅行に行きたくないな」(ボソッ)
サ「あー、同感。行くなら家族とに限るよね、やっぱり」
お前が言うか?と言いたげな視線を向けられるサトだったが、いつもの通り気にしてはいない様子だった。
ハ「そういや、レッスーは? 」
プ「あー、えーっと……。ほら、あそこ。気にしなくていいよとは言ったんだけど、今回の件、かなり気にしてるみたい。……「もう旅行には絶対行きません」って凹んじゃってて」(汗
五「(またトラウマ増えたのか……)」(汗
同じ車輌の遥か後ろの席で、一人座るレスを指しながらプスは答えた。必死に感情を圧し殺しているようだが、明らかに彼の周りはどんよりとしているし、空気も冷たい。プスも慰めるのに四苦八苦したことだろう。
レ「なぁ、レス? 今回のことは偶々なんだし、あんまり気にしすぎるなよ? 結果として、皆、五体満足で終わったことだしな」(苦笑
他に誰も乗客はいないので、席に座ったままレムがそう話しかける。相手はあまり口を開く気になれないらしく、ただただ申し訳なさそうな顔で小さくなるだけだった。
サ「……重症だね」(あーなると、彼、扱いにくいから苦手だよ)
ハ「レッスー……、俺っちと同じくらい哀れ過ぎて泣けてくるぜぃ」(涙
プ「旅行の話は、少しの間、封印した方がいいかも」
レ「まぁ、俺らにとってもな(苦笑 」(この旅行は黒歴史ってことで)
パ「……」(本当は文句も言いたいけど、黙ってる)
リ「今度、そういう(ホラー)の絶対ないとこに遊びにでも誘ってやるか」(気晴らしに)
サ「お前にしては悪い案ではないけど、彼の場合はお節介じゃないかな? 」(たぶん、普通にそっとしといてあげた方が回復するよ)
その時だった。電車が徐々にスピードを落とし始めた。この電車は直通だ。途中の駅で止まることなど、あり得ない。だが、明らかに窓を通りすぎていく景色や、体感しているスピードは遅くなっている。ふと、七人の頭にあることが浮かんだ。嫌な予感がする。
レ「……、そういやぁ、この車輌……、最後尾じゃなかったっけか?」(苦笑
プ「……最後尾……ではあったけど……。まさか、ねぇ?」
パ「……ない。絶対にないぞ? いくら先生でも、そこまで鬼ではない」
サ「だよねぇ。あの後、不気味なくらい普段通りだったからって、まさかねぇ」
リ「そ、そうそう! 兄さんも、ユウイ先生も一緒だし!
俺らだけ、途中の駅で降ろされるとか、そんなこと」
ハ「! 今、前の方でガチャンって音しなかったか? だぜぃ」
ス「……、そのまさかっぽいです……」
さすがにおかしいと思ったのか、窓を開けて外を確認したらしいレスが、そう言いながら六人に合流する。その言葉に少しの沈黙を待って、全員が車輌の前方出口へと向かう。その窓の向こうに、小さくなっていく電車が見える。連結部にいるのは、三珠樹だ。やがて、動力を失った車輌が線路上に止まると、七人は線路へと飛び出した。遥か彼方に、遠ざかっていく電車を恨めしそうに見るが、もちろん、引き返してくることなどない。すると、七人の頭の中に最凶先生の声が響いてきた。
マ「ひとまず、御苦労だったと言っておこう。た・だ。貴様らは上戦として、基礎を忘れているらしい。よって、罰だ。そこから、徒歩で帰れ」
七「はぁーっ?!」
マ「文句は一切受け付けん。怠け気味な貴様らへの、師匠からの愛の鞭だ。あー、あと、車輌もどうにかしろよ? そのままでは、後続の電車に支障をきたす。ちなみに、そこからリュウトシティ及び紅葉村までの距離はほぼ同じだ。途中の駅など、存在しないので期待はするな。いいな、明日までに必ず帰ってこい。以上だ、幸運を祈る」
七「鬼ぃぃぃぃっ!!!!」
七人が叫ぶ前に、一方的にテレパシーは切られた。あとには呆然と、続く線路に佇む七人が残された。
リ「嘘だぁー(泣 兄さん、ひどい! なんで、あの人の暴挙を止めてくれないんだ!!」(疲れMAXだってんだよ)
サ「いやまぁ、あの人の暴挙止めるなんて、そもそも無理でしょ?」(諦め)
パ「暴挙ではないっ!! ……、俺達が怠け気味で弛んでいたのは確かだ! 修行だ、修行!」
レ「張り切るのはいいけど、パズよぅ。この車輌、たぶん終点まで持ってこいって意味だと思うけど、これ引きながらリュウトシティまで、お前……体力もつ自信ある?」(苦笑
パ「……」(絶句)
プ「ハハハ、僕、辿り着ける自信ないやぁ」(笑うしかない)
ハ「ほんと、なんであの人はいつもこうなんだぜーぃ!
鬼すぎるっ!!」
ス「……よほどムカついたんでしょうね……」
レ「何に?」
ス「葱さんとお辰さんにです」
リ「……八つ当たりじゃん……」
全員が、深い溜息をついた。文句を言っても、救いの手が差しのべられるわけもない。七人は、渋々車輌を押すものと引くものに分かれて、線路の上を歩き始めた。リュウトシティはまだまだ遠い。
******
ウ「……君ねぇ、これはさすがに遣りすぎじゃないかい?」
マ「何を言うか。俺様達がわざわざ出向いてやったから、解決したんだぞ? それもこれも、あいつらが怠け気味なせいだ。これぐらい、軽くやれなければ困る」
ユ「とか言って、あの二人が無事に逝ったのがほんとはムカつくだけでしょ? ラブラブvvだったもんね☆」
マ「はんっ!! 」
苛立たしげにマサは車内へのドアに開けると、黙って入っていった。その様子に「あー、図星なんだな」と残された二人は思った。残してきた車輌はもう見えない。あの子達には可愛そうだが、多少マサの八つ当たりに付き合ってもらうしかなかった。彼の機嫌も、帰れば多少治まるだろう。
ユ「向こうに着いたら、僕、七人を迎えに行くよ。さすがに可愛そうだし☆(ロックに乗っていけば、すぐだよ)」
ウ「それがいいだろうねぇ。私は彼の機嫌が治るよう、甘味でも作るとしようか。あの子達の分も、何か用意しておこう」
二人は窓から、車内を覗きこむ。不機嫌そうに貧乏ゆすりをしながら座っている親友は、未だにイライラを募らせているようだった。
ユ「……、ほんと、マサってさぁ。いつまでも子供だよね☆」
ウ「そうだねぇ。でもここまでの八つ当たりは、ディアンでもやらないなぁ」
ユ「アハハ、十二才より子供かぁ(笑 やばいね☆」
ウ「やばいねぇ」(ハハハ)
二人のから笑いは、列車の音にかき消されていった。
列車は何事もなかったかのように、リュウトシティへひた走る。
(地獄の)社員旅行編 完
やっとこさ、終わりが近づいてきました(笑
深夜二時頃。
一行は、旅館に許可を取り、近くの部屋の客を避難(一応)させた上で、自分達の客室への廊下を進んでいた。
少し寝て回復した一行の側を葱朗太が浮きながらついていき、一番最後の最後尾にパズとサトによって、いくらかグレードアップさせられたハリトーが悄気ながら続いていく。(ペンの皺を肌色の絵の具でさらに自然な感じにした上で、染みを足したり歯抜けにしたりやりたい放題やられた。サト発案、パズ実行)
先にその姿を見ていた一部が、このグレードアップにさらに一笑いしたのは言うまでもない。風邪気味だったレムも粗方回復したらしく、その姿に爆笑していたが、レスだけは爆笑どころかかなりショック(自分のせいでさらにハリトーが被害を受けたと思った)だったらしく、一言謝罪した後、それ以降は目も合わせようとしない始末だった。(逆にハリトーはそれでショックを受けてる)
サ「ところで、ハリトーをグレードアップさせといて今更だけど、これだけでほんとにお辰さんはわかってくれるのかな?」
プ「ほんとに今更だね……。さすがに、葱朗太さんを若くなんてできないし、これしか方法はないと思うけど。お辰さんには、理解してもらうしかないよ」
ユ「フフーン。安心して☆ その件については秘密兵器があるんだよ☆」
サトとプスの会話に割って入ったユウイは、ごそごそとポケットをまさぐると、一本の小瓶を取り出した。
怪しげな液体の入ったその小瓶の中身に、見覚えがあったらしく、サトは驚いたように言った。
サ「それ、僕が作った子供化薬じゃないですか? 先生が全部処分したと言ってたのに……。なんで」
ユ「まぁまぁ☆ 細かいことは気にしない、気にしな」
ウ「ユウイ、あとで話があるから、覚えておいてね」
ユ「……。違うよ? 面白い薬だったから、ウェンが内緒でサンプルのために取っといた小瓶を、黙って拝借してきたとか、そんなんじゃないよ?」
ウ「(ニコニコ)」
マ「殺される前にちゃんと謝っとけ、ユウイ」(今なら一生メシ抜きは回避できるぞ)
ユ「ウェン、ごめんってばー(泣 黙ってニコニコするの止めてよ~」(怖いぃ)
黙ってニコニコするばかりのウェンに、ユウイが泣きついて許しを乞う。しょうがないと言うように溜息をついたウェンは、「まぁとにかく、それをどうするつもりだったんだい?」と尋ねた。
ウ「秘密兵器らしいけど?」
ユ「これをネギ五郎につけれたらなぁって思って。髪だけでも生やせたら、ハゲではなくなるでしょ?☆」
レ「……実体のない幽霊に塗るつもりだったんですか?」
ユ「もちろん、幽霊のままってわけじゃないよ! それじゃつけられないし、ましてや塗れないし、飲ませられないからね☆ ほんの一瞬だけでも、ネギ五郎を妖魔かもしくは神霊化して、実体化させればいいんじゃないかなぁって思ってたんだー☆」
サ「でも、どうやってそんなこと」
ユ「んー、そりゃぁ……。シャーマンのスキル持ってる、ウェンかリーズにぃ……、頼む☆」
リ「えーっ?! イヤですよ、俺!!」
ウ「断固拒否」(ズバッ)
葱「(何かよく分かりませぬが、ひどく傷つきました)」(涙
ユ「えーっ?! ウェン、お願い☆ ハリトーを老けさせて、尚且つこの薬を使うからこその成功確率90%なんだよぅ! もしも、見分けがつかなくなったときのためにってハリトーを丸め込んだのに、これじゃ意味なくなるじゃん!」(えぇっ?!byハリー)
ウ「あのねぇ。そう言うことなら、最初から相談してくれないと困るよ。私だって協力してあげたいのは山々だけど、しょうがないじゃないか。私、人型と類人猿系の神霊とは相性悪いんだよ。つまり、葱さんは実体化できない」
ユ「うっそ?! 初耳なんやけど?!! 哺乳類全般って言うてたやんっ!!!」(人も猿も哺乳類でしょ?!)
ウ「 あー、確かに前はそう言ったけど(言い忘れだね、ごめん)」
プ「というか、相性とかあるんですね」
ウ「まぁねぇ。私の場合、確かに哺乳類全般ではあるんだけど、何故か二足歩行する生き物、特に人型とそれに近い類人猿に限っては相性が悪いみたいで、全く従えられないんだよ。彼ら、頭が良いし手先が器用だから、仲間にいれば助かるのにねぇ……」
マ「それでお前、昔行った任務先に出たゴリラの妖魔、追っ払うのに苦労してたのか」(いつもちゃちゃーと従えてぱぱーぁっとやっちまうのに、不思議だったんだ)
ウ「あのときはなかなか、ピンチだったねぇ(笑」
ユ「そういや結局、力でねじ伏せてたもんね☆(笑 そっかー、そら無理だよねー」
パ「談笑されてる場合ですかっ?!」(もうすぐそこですよ?!)
緊張感のない会話に、とうとう我慢がいかなくなったのか、パズがそう声をあらげた。実際、もう少しで部屋のある廊下が見えてくる所まできている。
ユ「むぅ。そうだね。リーズには最初から期待してないしぃ。(えっ、ちょっ、ひどいっ!!!byリーズ) どうしよっかな、この薬……。あと、ネギ五郎を実体化させられるとしたらぁ……(チラッ)」
マ「この辺り一帯を氷漬けにする気か?」
ユ「だよねぇ☆(テヘッ)」
ス「??」
先頭を行く(行かされている)レスをチラ見するユウイに、一瞬でその考えを把握したマサが鋭く言い放つと、あっさりとユウイもその考えを却下した。
ユ「そうなると……。……よしっ! もう一か八か、とにかくぶっかけよう!!(効くかどうかはその時で!)」
六「(結局っ?!!!)」
リ「行き当たりばったりじゃないですかっ!! いいんですか、それで?!!」
ユ「いいよ☆ だってぇ、この薬、使ってみたいし☆(折角持ってきたんだもん)」
むしろなんで持ってきたんだ?と聞きたい気持ちを抑え、六人は絶句する。どこまでも自由人の上司三人である。
ユ「ほんとはねぇ、君達の社員旅行が平穏無事に終わるわけなんかないって分かってたし、少なくとも僕ら三人の誰かが事後処理に動くことになるだろうから、その時はこの薬でとっちめてやろうって思ってたんだぁ☆(結局、マサのこともあって使わないつもりだったけど)」
心の内を読んだようなユウイの台詞に、六人はただただ絶句するしかなかった。
サ「……まぁ、その、それはいいとして。いいんですか? その薬ほんとに使って。だって、僕が作ったのは子供になる薬ですよ? 葱太郎さんを子供にまで戻しちゃダメなんじゃ」
ユ「あーっ! そうだね! 忘れるとこだった☆ はい、プス」
プ「えっ?」
ユ「プスのアニマをその薬に込めてぇ、えっと。ネギ五郎って自殺しようとしたの、今の姿の何年前なの?」
葱「(えー、そうですな。拙者、病気で死んだのが四十前でしたので、入水しようとしたのは確か、二十の半ば頃だったかと)」
ユ「若気のいたりってやつだね☆ じゃ、プス! それぐらいで止まるように、薬の効果調節しといて☆」
プ「え、えぇぇぇえっ?! そんないきなり」
ユ「僕、プスならできるって信じてる☆ (ガンバ♪)」
プ「が、頑張ります! (ユウイ先生、かわいいv)」
ハ「ユウイ先生、ひっどいぜーぃ! 俺っちにはそんな優しい言葉掛けてくれなかったくせにぃ! だぜぃ!」
葱「(皆様のお師匠方は、なんというか変わっておられますなぁ)」
御苦労お察しします、と言う葱朗太に、最後尾に固まっていた他四人は、苦笑いしか返せなかった。
さて、作戦事態はかなりグダグタではあるが、ともかく一行は遂にお辰がいるのであろう、部屋のすぐ近くまでやってきた。未だに部屋から漏れたどす黒いオーラが流れてきていて、一瞬でそれと分かる。ピタリと、先頭を歩いていた(歩かされていた)レスが立ち止まる。それ以上、先には進みたくないらしく、困ったように後ろにいたマサを見た。
マ「? 何してる。さっさとドアを開けてこい」
ス「……また俺が開けないとダメ?」
ユ「レス、怖いの?」
ユウイが尋ねると、レスは素直に頷いた。
ス「……、また蛇、いっぱいだったら嫌だ」(半泣き)
マ「何を蛇ごときでごちゃごちゃと」
ウ「マサ。無理強いしてもいいけど、またれっくんが気絶してもしらんよ?」(次はお辰さんが乗り移ったりして)
マ「……」
ス「……??」(葱朗太に憑かれたことを知らない)
ユ「もちろん、他の皆も開けるの嫌だよね☆」
ユウイが確認するように尋ねると、全員が首を縦に振った。
マ「……腑抜け共が。たかが幽霊ごときに何をビビって」
ユ「じゃ、マサが開ければ?」
マ「……」
ユ「僕もウェンも開けるの嫌だし☆ ほんとはネギ五郎が開けられれば一番いいんだろうけど、あんな体じゃ開けられないしぃ。お辰さんには、ハリトーとネギ五郎が並んでるとこ、見てほしいしね」
で、お辰さんがネギ五郎を見た瞬間に、お薬ぶっかけて様子見るの!☆
と、ユウイは続ける。正直、その薬ぶっかけない方がいいんじゃないかと、誰もが思ったが、疲れもあって誰も口にはしなかった。
マ「何故に俺様が」
ユ「だって、たかが幽霊ごときに、マサはびびってないんでしょ? 適役じゃん☆」
ウ「罪滅ぼしのつもりでここは一つ。皇太子殿」(笑
マ「ーーっ! 貴様ら、最初からそのつもりだったな(怒」
示し合わせたように言うユウイとウェンを、マサは睨み付けるがもう遅い。散々怖い目を見てきたせいか、六人衆及びレスはサッサと後方に避難(ハリトーと葱朗太を盾のようにして)してしまい、お得意の押し付けは封印されてしまった。
マ「チッ! まぁいい。扉を開けるくらいで怖いことなどあるか」
ドスドスと、足音を立てて柊の間のドアへと近づく。濃い冷気と負のアニマが、止めどなくドアの隙間から漏れてきているが、これくらいのことは今までにも何度もあったことだ。そもそも、時間をかければかけるほど、こういうのは怖さが増してくるのであって、よってごちゃごちゃとご託を並べている時間、そのものがムダなのであり
ユ「……ねぇ、まだぁ?」(ドアはにらんでも開かないよ)
マ「喧しいっ! 」
ウ「(ビビってるなぁ……(笑)」(優しい眼差し)
レ「……、先生は大丈夫ですかね?」(明らかビビってそうですが)
パ「バカめ! レム! 先生が幽霊ごとき、怖いわけないだろうっ!! 不甲斐ない我々に代わってやってくださるのだから、無駄に心配をしてご負担をかけるな!」
リ「じゃなんでさっさといかねぇのかな?」(ヒソヒソ)
サ「案外メンタル弱いからね、マサ先生」(ヒソヒソ)
プ「そうだけど、あんまり声に出して言っちゃダメだよ」(ヒソヒソ)
ハ「ちゃっちゃかやれって割に、自分は時間の無駄遣いするんだからなぁ、だぜぃ」(ヒソヒソ)
パ「えぇい! 貴様ら、黙れっ! 先生の集中を乱すな! レム! お前が余計なことを言うからだぞっ!」(ヒソヒソ)
レ「うぇぇ? 俺かよ?!」(ヒソヒソ)
マ「(丸聞こえだ、バカ共め! 帰ったら、仕事の量全員、二十倍にしてやる)(怒」
なかなか踏ん切りのつかない上司の姿に、ヒソヒソと話す六人衆をマサは一度睨み付ける。その時、ユウイがこそこそと、レスに耳打ちするのが葱朗太越しに見えた。
ス「……」(迷うようにユウイを見る)
ユ「☆」(グッと親指を立てる)
ス「……マサ、ガンバッテ」(棒読みな上にめっちゃ小さい)
ユ「ダメだよ、レス! ちゃんと言ってっ!」(ボソボソだめっ! 棒読みやめて! もう一回!)
マ「無理矢理言わそうとするなっ! チビっ!!!」(そんなもんで踏ん切りがついてたまるかぁ!!)
馬鹿らしいっ!!と、マサはドアを振り返り、「幽霊だかなんだか知らんが」と取っ手を握った。もはや、ヤケクソだ。
マ「俺様に怖いものなど、あるものかっ! !!!」
辰「ハリトー様ぁっ!!!」
勢いよくドアを開け放った瞬間、甘い女性の声を上げながら、何かがマサに飛びかかり、ピッタリと抱きついてきた。一瞬の出来事すぎて、誰もがその状況を理解するのに時間がかかった。飛びかかった本人でさえ、相手を間違えたことに気付くまで、少し間があったくらいだ。
辰「ーーっ?! 誰ですか、これっ?!!!」
マ「ーーっ?!」(文句を言いたいが、何から言えばいいか、混乱中)
葱「(マサ殿っ!!! あんまりでございますっ!!! 拙者とて、そんな風にお辰に抱き付かれたことなどないと言うのにぃぃぃっ!!!!)」
血涙を流しながら葱朗太が叫び、その声に金縛りがとけたかのように一斉に、全員が正気を取り戻した。
ユ「今だ! ネギ五郎がマサに嫉妬して、負のアニマがたまってる!! たぶん、実体化してるよっ!!」
そう言うと、ユウイは有無を言わさぬ早さでプスから小瓶を取り上げ、小瓶の中身を葱朗太に向かい勢いよくぶちまけた。途端に、真っ白な煙が上がり、視界を奪われ、全員が噎せかえることになった。
立ち込めた煙が引き、視界がクリアになってきたとき、全員の目の前にいた葱朗太は今までの彼とはまるで違っていた。
さっぱりとした着流しに、結われた青毛混じりの黒髪、キリリとした眉……。若返った葱朗太は、老けさせる前のハリトーとは比べ物にならなかった。要は、誰が見てもかっこいい、のである。
誰ともなく驚きを表す口笛を吹き、全員があっけにとられて、また一瞬だけ時間が止まった。
リ「うっそだろぅ……、ハリトーにそっくりのくせに」
サ「これは……驚きだね」
パ「…………(唖然)」
レ「へぇー。こりゃすごいなー」(笑
プ「ちょっ、ちょっと若返らせすぎた……かな?」
ユ「全然、ばっちりだよ、プス!! 完璧☆(ちょっとびっくりしたけど)」
ウ「???? どちら様?」(分かってない)
ス「葱さんですよ、風野先生……(汗 別人のようですが……」
ハ「……(諸々集計してる)。俺っちって……、かっこいいっ??!!」(キラキラ)
全「いや、別に」
ハ「(がーんっ!!!)」(皆してひどい)
それぞれが口々に言っている間に、葱朗太はゆっくりとお辰へと近付いていく。お辰は急に現れた人物が、誰なのかを理解したものの、驚きが強すぎてその場から動けずにいた。
辰「……あっ」
葱「お辰、すまぬ。随分と待たせてしまった……」
辰「ーーっ!! 葱朗太様あぁっ!!」(あーん)
マ「っ?!」
ドンっとマサを突飛ばし、お辰は葱朗太へ駆け寄ると、二人はガシッと抱き合い、涙を流した。百数十年ぶりかの会瀬である。傍目から見れば、非常に感動的な場面なのだが、生憎、今のギャラリーに、そんなことを思う者は一人もいない。「やったっ!! やっと終わってくれた!」という思いで、全員が成り行きを見守っていた。
葱「皆様にはご迷惑をおかけしました。皆様がいなかったら、永遠にお辰には会えなかったかもしれませぬ。このご恩、どうすればお返しできるでしょうか?」
全「いや、おきになさらず」
全員が「そんなもん、どうでもいいから、さっさと成仏しろよ!」と言いたいのを堪えつつ、社交辞令を返す中、パンとお辰が一つ手を叩いた。
辰「皆様に私達の婚礼の義へ参列していただきましょう! ね、葱朗太様。黄泉の国で行う義に、参列される方が誰もいないなんて、寂しいですもの」
プ「いえ、あの、お辰さん。ほんと、気を遣って頂かなくて結構ですから」(あわあわ)
辰「遠慮なさらないで! あっ、なら恋愛成就のご利益はいかがですか? ね、ハリトー様! 恋を成就させるに、心中ほど良いものはありません! あの世でなら、邪魔するものなど誰もおりませんからね。なんなら私がお手伝いしてさしあげます」
ハ「ちょっ、何怖いこと言ってんだぜぃっ?! そんなんしないしっ! 俺っち、確かにユリネのことは好きだけど、そこまでは!」
辰「あの方、ユリネさんと仰るんですね! 遠慮なさるなんて、ユリネさんに逆に失礼ですよっ! 私、これでも恋愛成就の神として、ここでは奉られてたんですから、簡単ですv」
ハ「いやいやいやっ!!! 恋愛成就って、一緒に死ぬことじゃないからねっ!!! あんたらと一緒にされても困るぜーぃ!」
辰「他の方も遠慮なさらず!」
ハリトーが至極まともなことを言っているのには耳も貸さず、お辰は他の全員に目を向ける。びくりと全員が身震いした。もはや、恩返しの押し売りと言っても過言ではない、お辰の勢いに全員が首を横に振り、「いらないですっ!」を繰り返すしかない。ハッピーエンドになったはずなのに、お辰の目は妖魔の時と同じように細くなった。
サ「葱太郎っ!! 僕ら、本気で恩返しなんかいらないから、さっさと二人で成仏してよっ!! 願いは叶ったろ!」
我慢できなくなったサトが、迫り来るお辰から逃げつつ、そう葱朗太を見るが、当の本人は
葱「あぁ、お辰。無理強いしようと迫るお前も素敵だvv」
のろけていた。
全「のろけてないで、なんとかしろっ! 最弱葱野郎っ!!!」
葱「ひやっ!! す、すみませぬ! お辰、お辰!」
全員の怒鳴り声に、葱朗太は男らしからぬ声で短く悲鳴を上げると、お辰を呼び寄せる。既にほぼ蛇化(妖魔化)していたお辰は、その声にパッと元の女性の姿に戻ると、「はい、葱朗太様vv」と彼に飛び付いた。
葱「皆様はもう十分だと仰ってくださることだし、拙者たちもそろそろ旅立とう」
辰「はいvv」
葱「では、皆様。本当に有難う御座いました」
深々と礼をした葱朗太とお辰は、手を取り合い、柊の間へと入っていく。一足踏み出す度、その体は透けていき、やがて霞のように二人の姿は消えてなくなった。
明かりのついていない、真っ暗な室内を覗きこみ、全員がそれを確認するとホッと胸を撫で下ろした。「良かった、あのバカップル、やっと逝ってくれた!」「これでやっと帰れる!」と全員が思っていた。ただ一人、突き飛ばされた反動で、実は窓から外に転落、そのまま放置されていたマサを除いては……。(無傷は無傷だった)
二日目と言いつつ、途中で三日目突入(笑
五人が客室へと向かっていた頃、大部屋ではレムがウェンの治療を受けている最中だった。軽い風邪のようだが、早めに治すことに越したことはない。
ウ「といっても、本格的に治すのは戦教に帰ってからだねぇ。今日はあまり薬も持ってきていないんだよ。とりあえず、即効性のある薬でも飲んで、安静にしていなさい」
レ「了解です。……いやー、やっぱ安心感が違うなぁ(しみじみ)サトの奴から薬もらうのは、安全な薬だって分かっててもなんか怖くて」(実は一番被害に遭ってる人)
ウ「? ただこの薬、異常に苦くてね。旅館の方に頼んで、蜂蜜でも持ってきてもらおう。その方が飲みやすいは」
レ「苦い? そうですかね? 全然ですけど?」(焦げた料理ばかり食べてるせいで苦味には耐性ある)
ウ「……まぁ飲めたのなら構わんよ」
差し出された薬を躊躇いなく飲み干すレムに、少し動揺しつつ、ウェンは返された容器を受け取った。
マ「……(イライラ)……遅いっ!! あいつらめ。何をモタモタしてるんだ」(イライライライラ)
診察が行われているすぐ側では、マサがイライラと貧乏揺すりで膝を上下させながら座っていた。大部屋の入り口を時折睨み付け、非常に不機嫌そうである。
ウ「せっかちだねぇ。少しは落ち着きたまえよ」(貧乏揺すりも止めたまえ、みっともないから)
マ「荷物取ってくるくらいすぐ済むだろう! それを十分も二十分もかけられたら、イライラもする!」
ウ「まだそんなに経っとらんよ。全く。少しは多目に見てあげたまえ。半分は君の為所なんだから」
マ「黙ってろ、風野。いらん事を言うな」
レ「??」
マサとウェンのやり取りを、レムが不思議そうな顔で聞いていると、大きな叫び声が響いてきた。どこがで、誰かが大声でわめいているようだ。
マ「チッ! どこのどいつだ! 今何時だと思ってるっ!!」(他の客の迷惑だ)
ウ「確かにすごい声だねぇ。一人じゃなさそうだ」
スッと立ち上がったマサは、大部屋の襖に手をかける。
叫び声をあげているのはどこのどいつか、見極めて説教の一つでもしてやるつもりだったのだ。「喧しいぞ! 」と、お馴染みの怒鳴り声と共に襖を開け放つ。
マ「どこのどいつだっ!! 子供みたいにワーギャー騒ぎやがって! 周りの迷惑考え……ろ」
五「ギャーッ!!!」
マサの怒鳴り声もかきけす叫び声を上げながら、廊下を疾走してくる人物に、マサの説教は尻すぼみになって消える。客室に向かったはずの五人は、情けなく泣き叫びながらこちらに走ってきて、開いていた大部屋の部屋へそのまま飛び込んだ。
リ「ヤバイっ! マジでヤバイっ!! マジ、お辰さん怖ぇっ!!!」(ガクブル)
プ「あんなの、僕らだけで無理ですよぉ! 技使うとか、それどころじゃないっ!」
パ「ーーっ! (ぜぇーはぁー、ぜぇー)」(全力疾走し過ぎて過呼吸ぎみ)
ス「あんまりだ……」
リ「だよなぁ! だよなぁ! なぁ、サト! お前もそう思うだろ?! ?」
大部屋に飛び込んで、各々声を上げる中、サトだけは一息ついてから立ち上がると、ゆっくり大部屋の奥へと歩きだす。少しふらつきながら、彼は奥にいたウェンの所までたどり着くと、そのままウェンの肩にすがり付くように座り込んで、何も言わずにブルブルと震え始めてしまった。
ウ「おやおや……」
レ「サトの奴が……ここまでダメージ受けるとか」(どんなだよ)
リ「サトっ!! てめーっ、ずりーぞっ!!」(俺だって兄さんにすがって泣きたいわっ!!)
サ「煩いよっ! こっちはお前にずーっと肩掴まれてたおかげで、逃げるのも遅くなったんだから! 先生も先生ですよっ!! 僕がこういうの苦手なの、知ってる癖にっ!!」(なんで行かすんですかっ!!!)
ウ「良い薬になると思ったんだけどねぇ。少々、効きすぎたようだ」(悪かったよ)
幼い子をあやすように、すがり付いてきた弟子二人を慰めるウェンに対し、その反対方向、大部屋の入り口付近では、今や修羅のような顔をしたマサが仁王立ちで立って、逃げ帰ってきた五人を睨み付けていた。
マ「き・さ・ま・らというやつはっ!!!」(怒
プ「ひぃっ!!」
マ「俺様に二度も同じことで説教させるたぁ、いい度胸じゃねぇかっ!!!(怒 その上、悲鳴を上げて逃げてくるわ、荷物すら取ってこれんわ、 貴様ら全員それでも上戦かっ!!! 情けねぇっ!!!」
いの一番に気づいたプスが短い叫び声を上げ、怒鳴り散らすマサを恐れて後退する。「言い訳があるなら言ってみろっ!!」と、さらにマサは脅しつける。
マ「どんな言い訳だろうが、許してはやらんがなっ!!!」(怒
許してもらえないのっ?!と行った五人は口には出さないまでも、一度そう心の中で思ってから、それでもと思い思いに言い訳してみることにした。
リ「だって、マジでヤバイんですって!! 葱朗太に会わせたのに、本人じゃないってぶちキレて、鬼火飛ばしながら蛇がどばぁーっで」
マ「その訳分からん言い訳が遺言でいいのか?」(怒
パ「リーズ! 貴様は黙っていろ! 先生! 実はですね、我々が泊まっている部屋にお辰が潜んでいまして! 葱朗太に引き合わせたのですが、彼女曰くこんなのは葱朗太ではないと」
マ「あぁん?」(怒
プ「葱朗太さんが禿げてるとか、老けてるとかで違うって言うんです!! 死んだ年が違うんだから、そんなの当たり前じゃないですか!! 僕達じゃどうしようもないですよっ! ねぇ、レス?」
ス?「だから拙者は禿げているのでなく、剃っているのですっ!! 決してハゲなどではない!!!」
全「????」
普段ない声量でそう言い放ったレスに、他の全員は一度固まる。言った張本人は、なんですかな?と不思議そうな顔で周りを見渡し、「はて、何やら体が重いような気がしますな」と呑気に呟いた。
プ「ね、葱朗太さん?」
ス?「なんですかな? プス殿」
レ「……レスは?」
ス?「レス殿? そう言えば、姿が見えませんな。まさか! お辰の所に置いてけぼりに?!」
そう言って、口元に手をやったレス?(どうやら中身は葱朗太らしい)は、物に触れる感触に一度ピタリと固まった。そのまま両手で顔を触り、髪を触り、「……んなぁーっ!!」と叫び声を上げた。
ス(葱)「せ、拙者が! レス殿になっておる!! な、何故にこんなことにぃ!!」
ウ「おやおや。どうやら取り憑かれたみたいだねぇ」
リ「のんびり言ってる場合じゃないですよ、兄さん!! レスのやつは?!」
ウ「恐らく気絶してるんだろう。早くはがさないと、もう一生、元のれっくんには戻らんよ」
他「えぇぇぇっ?!」
ス(葱)「んなっ!! それでは、お辰に拙者だと分かってもらえなくなるではないですかっ!! ど、ど、どうすれば?!」
マ「こんのド腐れ幽霊野郎が」(ガチャ)
ぶっちんと何かが切れる音がしたように全員が思った。どこから取り出したのか、大量の銃器がレス(厳密には葱朗太)に向けられる。遂に堪忍袋の緒が切れたらしいマサは、それこそお辰に優るとも劣らない恐ろしい形相で銃器の引き金に指を置いた。
マ「十秒以内に(レスから)はがれろっ! おら、10ぅぅ! 1っ!! アウトぉっ!!!」(パァーンッ!!)
ス(葱)「9から2はっ?!!」(避けれた)
マ「うっせぇぇ! さっさとでて逝けっ!!!」(バンバンバンっ!!!)
プ「マサ先生!!落ち着いて!! そんなの当たったらレスまで死んじゃいますよっ!!!」
パ「銃は止めましょう!! 周りも危険ですっ!!」
マ「そもそもてめーらがしくじるからだろうがっ!!!」(見境なし)
四「えぇぇぇっ?! 八つ当たりっ?!」
ス(葱)「どうすれば出れるのですかぁっ?!!!」(混乱)
レ「……(唖然)」
ウ「やれやれ。また修繕費で請求書を切ってもらわんと」
大混乱になった大部屋で、ウェンだけが落ち着き払ってそう呟いていた。
******
どうにか混乱が収まった大部屋は、銃痕のせいでいたるところに穴が開いていた。「それは後で戻すとして」と、どうにか怒りを沈めたマサはウェンを見た。
ウ「あぁ。れっくんなら、恐らくただの気絶だよ。疲れもあった上に、苦手な蛇を嫌というほど見たせいで意識が飛んでしまったんだろう。少し寝かせてあげれば大丈夫さ」(そこに葱さんがぶつかって憑いちゃったんだね)←サトとリーズの話で大体理解した人。
マ「そうか」←一切聞き入れようとしなかった人。
葱朗太がどうにかはなれ、今は大部屋の端に寝かされているレスをチラリと見てからマサは満足そうに頷いた。レスの隣では、寝不足と薬の効果もあってかレムも眠りについている。そんな戦線離脱した二人を、残った四人は恨めしそうに見るしかなかった。(いいなぁ)
マ「で、なんだって? 禿げてるから葱朗太じゃないとか、そんな話だったな」
先ほどの言い訳を思い出すように、マサは不機嫌そうな顔を四人に向けた。
パ「はい。もっと詳細に言いますと、「もっと若々しくて、髪もフサフサで、瞳はキラキラしていた」と」
サ「ほんと滅茶苦茶ですよ、こんなの」
マサから逃げるように、部屋の端で浮いている葱朗太を一度見、サトは「実際はあれですからね」と続けた。
プ「幽霊の時間を巻き戻したりなんて、できそうにありませんし……」
リ「下手に刺激すると、蛇飛ばしてくるしなー」
マ「はぁー。確かに、一筋縄ではいかない相手のようだな。……なんにしろ、あの腐れ幽霊野郎は要済みなことだし、消しちまうか(もう役にもたたん訳だし)」(怒
葱「(ひぃっ!! もう取り憑いてませんぞっ?! 消される謂れはありませぬ!!)」
再び銃器を取り出して威嚇するマサに、葱朗太は震え上がりつつも抵抗してみせる。彼は彼で、お辰に認めてもらえないまま終わるのは不服なのだろう。今のままでは、逆に祓いきれないかもしれない。
ウ「まぁまぁ、マサ。望みを叶えてやることほど、良い供養なんてものはないんだから、そう威嚇するのは止めてあげたまえよ」(大事にならない方が良いからねぇ)
マ「チィ……。面倒だが仕方ないな」
渋々銃をしまうマサに、四人もそして葱朗太もほっと胸を撫で下ろした。
プ「ところで……、さっきから気になってたんですが……。先生とハリトーはどこに?」
ウ「そう言えば、あの二人、どこに行ったんだろうねぇ。ユウイが何やら思い付いたことがあると言って、ハリトーを連れて出ていったが」
マ「いつも肝心な時にいないんだ、あいつは。ハリトーは生け贄ぐらいしか役にたたんがな」
サ「お二人とも聞かなかったんですか?」
サトに言われ、肩を竦めたマサとウェンはこれからどうするかと顔を見合わせる。
ウ「とにかく、皆の荷物くらい、君が能力でここに出して上げられないのかい? 」
マ「中身まで全部分かればやってやってもいいが、それは面倒だ。服の柄とか色まで詳細に聞かねばならんからな。こいつらだって言いたくないだろうし、何より俺様がそんなもの聞きたくない」
ウ「意地悪だねぇ。じゃぁ荷物はとりあえず諦めて、一度戦教に帰るかい? 」
プ「で、でもこのまま放置するのは」
パ「貴重品もいくつか鞄に入れていますし。(何よりヒビキ用のスケッチブックが)」
リ「そうですよ、兄さん。俺もビーズとのアルバムとか鞄に入れたまま帰れないですよ」
マ「なんでそんなもの持ってきとるんだ、貴様」(無駄な)
サ「お二人がお辰さんを退治してくれたりとかはしないんですか?」(それで万事解決しそうなのに)
マ&ウ「「今日は戦闘する気分じゃない」ねぇ」
四「(気まぐれかっ!!!)」
ウ「私達がやっちゃうと、旅館が吹っ飛ぶ可能性もあるしねぇ。それこそ、荷物は確実に諦めてもらわんと(たぶんどっか飛んでく)」
マ「大体なんで俺様達が、貴様らの尻拭いをしてやらんといかんのだ。最後までやりきるつもりだった、さっきの威勢はどうした?」
うっと短く四人がうめき声を上げた時、ガラッと大部屋の襖が音を立てて開け放たれた。
ユ「やっほー☆ 今帰ったよー」
にこやかに、晴れ晴れとした顔でユウイが大部屋に顔を出した。彼は一度大部屋を見回して、ある程度状況を悟りはしたようだが、一応「で、どうだったー?☆」と四人に尋ねる。
プ「……惨敗でした(泣」
ユ「やっぱりねー☆ そうじゃないかと思ってたよー。ネギ五郎、残念だったね。なんでそんな端にいんの?」
(あと、なんでこの部屋、穴だらけなの?)
リ「やっぱりねーってひどいですよ、ユウイ先生!」(頑張ったのに!)
ユ「ゴメン、ゴメン☆ 頑張ったご褒美に、頭ナデナデしてあげようか?☆」
リ「いや、それはいいッス」(されるんなら、兄さんがいい)
マ「ユウイ、茶番はいい。どこに行ってたんだ? あと、生け贄(ハリトー)はどうした?」
葱「(すでにはりとー殿は生け贄扱いですか……)(なんと冷酷なお人か)」
ギロリと葱朗太を睨み付けるマサに、そんなことはおかまいなく「そうそう、ハリトーね」とユウイは返すと、廊下に向かって「ハリトー、 早くおいでよー」と声をかける。
ユ「あのね、マサ、ウェン、聞いて! 僕、すっごくいいこと思い付いたの☆」
ウ「いいこと?」
ユ「そう! 五人には悪いけど、あっ、レスは寝てるから四人か、ともかくあの作戦はなんとなく失敗すると思ってたから、別のを考えなきゃなーって思って☆」
マ「あぁん? なんで失敗するなんて分かってたんだ? 」(それならそうと先に言え)
ユ「マサの考えた作戦だからっ!!」
マ「(イラッ)」
ユ「怒んないでよ~。その代わり、ちゃんといい作戦考えたから☆ これを思い付いた時には、もう僕、天才☆って思っちゃった☆」
マ「前置きはいいっ! 風野が寝る前にさっさと作戦とやらを言えっ!」
話が長いせいか、座ったまま船をこぎ始めたウェンの頭を小突きつつ、マサはユウイに先を促した。廊下からハリトーが帰ってくる気配はまだない。残る四人は顔を見合わせた。普段の彼なら、自分が呼ばれていると分かった瞬間、勢い良く出てきてもおかしくないはずだからだ。
ユ「ぷー(拗 もっと誉めてくれたっていいじゃん! お辰さんの被害に合う人が皆若くて、ちょうどハリトー達と同じくらいだったのに、ネギ五郎はそれ以上の年齢に見えるから、本人とは思ってもらえないかもって折角気付いたのに! なら、ハリトーの方がネギ五郎よりもっともーっと老けたとこを見せれば、分かってもらえるかもと思って色々やったんだよ?」
頬を膨らませ、拗ねてみせるユウイに全員がまさかという顔を向けた。その時、廊下からゆっくりと誰かが大部屋に入ってきた。
ユ「ねっ! ハリトー」
ハ「……いぇ~ぃ、だじぇ~……」
他「……ふっ、アーッハッハッ!! ヒィーっ!!」
全員がその姿を見た途端、大声を上げて笑う羽目になった。それもそうだろう。ハリトーはいつもの彼とは似ても似つかない姿に変身していた。まず顔中にペンでシワが大量に書かれており、つけ髭らしい白髪のちょび髭が申し訳程度に鼻の下に張られている。服は旅館の浴衣に着替えていたが、その下に年配の男性がよく履いている股引きと腹巻きを身につけていて、おまけに足元はトイレスリッパだ。そして何より、その頭頂部は綺麗に丸くなっていた。
リ「はーっ、な、なんなんだよ、ハリトー!! その姿は!ぶふっ!!」(爆笑)
ハ「ユウイ先生が、こうすればお辰から身を守れるって言うから~……だじぇぃ」
パ「……フッ。言ってくだされば、フフッ。老け顔のメイクくらいのお手伝いはしたというのに……フッ」(必死で爆笑を抑えてる)
ユ「あんまり老けて見えない? なら後でもうちょっと手を加えてもらおうかなっ☆」
ハ「真っ黒黒介~っ!! 後で覚えてろっ!だじぇぃ!」
プ「で、でも、でも! 確かに葱朗太さんよりは老けて見えるよ、ハリトー」(苦笑いしつつ)
葱「(はりとー殿! 拙者の為にそこまでっ!!)」
ハ「葱太郎のためじゃないぜぇーぃ! 俺っちのためっ!!」(生け贄なんてごめんなんだぜーぃ)
サ「ーーっ!! はーっ!!」(大爆笑)
マ「フフッ! 良かったな、ハリトー! 男前が上がったぞ!」(やはり爆笑)
ハ「どういう意味だぜぃっ!!(怒 老けて男前が上がってたまるかっ!!」
ウ「それにしても……、髪まで剃るなんて本格的だねぇ」(フフフ)
ユ「ばれたら大変だからね! 成功確率90%にするには、これが一番だよ☆ それに、ネギ五郎に少しでも近づけなきゃと思って☆ ちょっと並んでみてよ!」
渋々、ハリトーは葱朗太と並んでみる。以前とは反対に、葱朗太の方が若く、ハリトーの方が老けて見えるようにはなったが、全員がまた吹き出す結果になった。
ハ「皆してひどいぜーぃ!! 俺っちのプリティフェイスと、自慢のお髪が~っ!! 伸ばすの大変なんだぜぃ、あれ」
ユ「我慢しなって☆ 命の方が大事でしょ? 顔は洗えば元に戻るし、髪だって生えてくるんだから。その間は、鬘でも被ってなよ。僕が特別に発注してあげる☆」
萎れるように崩れ落ちるハリトーを尻目に、サトだけはまたツボにはまってしまったのか、一人で笑い続けていた。
マ「よしっ! 少ししたら生け贄(ハリトー)連れて、貴様らの客室に行ってやろうじゃないか。これでダメなら強制執行だ。あんたも、その時は諦めろ、葱なんちゃら」
葱「(葱朗太でございますっ!! 良いでしょう! それで手を打たせていただきます! 拙者も男です。ダメなら、潔く身を引いて、あの世でお辰を説得するとしましょう!)」
決まりだなとマサが言い、深夜二時頃、部屋へ向かうこととなった。
リ「それまでの間、俺らも寝るかぁ!」
プ「そうだね、疲れちゃった」
ハ「俺っちもー」
ユ「ハリトーはあんまりゴロゴロしちゃダメだよ。化粧が落ちちゃうから☆」
パ「その時はさらに老けた顔に塗り直してやりますよ(少し楽しんでる)」
サ「僕もちょーっと手、加えちゃおうかな~。楽しそう」(フフフフ)
ハ「お前らは俺っちに触るなっ、だぜぃっ!!(こんな時ばっかり仲良くしやがって!!)」
マ「束の間の休みだ。好きなようにしろ。俺らは風呂にでも浸かりにいくか。風野、お前、まだ入ってないだろう?」
ウ「あぁ、いいねぇ。でも私はもう寝てもいいんだけどな」(眠そう)
ユ「今度はウェンも一緒に行こ☆ 温泉気持ちいーよ~☆」
大部屋を出ていく三人の姿を見送りつつ、「結局あの人達が一番自由で、一番楽しんでるんだよなぁ」と思ってしまう五人だった。
その8て。8て。長すぎやろ(笑)
マ「なるほどな。大体理解した」
数分後、マサは七人の話を聞いて腕組みをして唸った。ややこしいことになったと言いたげに、貧乏揺すりをするその様子に、七人は続く言葉もなく様子を見守る。
マ「……にしても、貴様ら七人もいて、妖魔一匹倒せんとは情けない話だな。幽霊という言葉にビビって本気が出せなかったなぞ、言い訳にならんぞ」
リ「そう言われたって、そもそも俺とパズ、ハリトーに関しては巻き込まれるまで幽霊がいることすら知らなかったんですって! 本気だすも何も」
マ「臨機応変に対応できんのかと言っとるんだ。巻き込まれる前に準備をするのは当然だが、突然のことに対処できずに、勤まる任務なぞ、あると思うか?」
リ「それはそ」
パ「仰る通りです。……不覚でした」
ハ「でも俺っちが被害者なのは変わりないぜぃ! もうちっと労って」
マ「あぁん?」(俺様に向かって何言った?)
ハ「すんません」
サ「まぁ、確かに初めから知ってた三人も、途中で気付いた僕も、その時点でお辰さんが妖魔じゃないかって疑うべきだったことは認めます。ただ……一つ伺いたいんですけど……。あとのお二人が、マサ先生を後方から白い目で見てるのは何故なんでしょう?」(すごい顔ですよ)
ウ「……」(白い目)
ユ「……」(白い目)
マ「いつものことだ、気にするな」
七「(いつも????)」
プ「と、ともかく。ここまで来たからには、お辰さんをこのままにしておくわけにはいきません。さいわい、相手である葱朗太さんはこちらに協力的なので、上手くすれば戦闘なしで処理できるのではないかと思うんですが」
マ「まぁ、最後まで処理しようというその意気は認めてやる。とりあえず、その玉ねぎ五郎だったかに会わせてもらおうか」(いるのか、本当に)
ス「……今、ちょうどマサの真後ろに……」
マ「?」
サ「じゃ、この鏡どうぞ。 一度認識できると、その後は鏡なくても見えるようになりますよ」
レスの言葉に不思議な顔をしつつ、手渡された少し大きめの手鏡をマサは見る。左右からユウイとウェンも、その鏡を覗きこんだ。見慣れた三人の顔が写っている。その隙間から、何やら見たことはあるが明らかに髪のない別人がこちらを見返していた。
葱「(お初お目にかかります。拙者、針山青玉之介葱ろぅ)」
三「 ハリトーだろ???」
ハ「俺っちじゃないんだぜぃっ!!!」(失礼なっ!!)
息ぴったりにそう叫んだ三人に、珍しくハリトーの突っ込みが入った。
葱「(人の自己紹介を遮るとは何事ですかっ!! 人の話は最後までき)」
マ「しかしまぁ、よくもこんな偶然があったもんだ」
ウ「だねぇ。確率からするとかなり低いはずだが」
ユ「ネギ五郎って、ハリトーの先祖かなんかなんじゃない?」(笑
葱「(葱朗太っ!!!でございますっ! さっきから葱太郎だの、ネギ五郎だの、失礼にもほどが)」
ハ「えぇー? 俺っちのご先祖さんなわけねぇぜーぃ。苗字ちげぇーしぃ?」
ユ「ハリトーの家が分家とかってこともあるよ。ねぇ、ウェン」
ウ「そうだねぇ。少なくとも共通する字が入ってるわけだし」
マ「もうめんどくせーし、ハリトー、お前、生け贄になってこい。それで手打ちにできるんだろう」
ハ「ひどいっ!!」
葱「(人の話を聞けっ!!!!)」
ふわふわと四人の回りを浮いて移動しながらそう抗議の声を上げる葱朗太に、気付かないのか故意に無視しているのか、三珠樹の三人はいつも通り、テンポの良い会話をして顔を見合わせた。
マ「しかし、となるとこいつも妖魔なんじゃねぇのか? 風野?」
ウ「うーん……、それほど強い気は見受けられないねぇ」
ユ「弱いってこと?」
ウ「弱いも何も、最弱クラスだねぇ。妖魔としては」
マ「祓うまでもねぇってことか」(つまらん)
葱「(先ほどからまっこと、失礼な方々ですなっ!!!
あなた方のお弟子であるあの七人は、拙者にもちゃんと敬意をはら)」
三「最弱風情は黙ってろ」(ピシャリ)
マ「てめぇなんざ、俺らがちょいと力をいれりゃ、一瞬であの世行きなんだよ。おぉん? 文句あんのか?」
葱「(うぐっ! な、何を! 拙者だって、お辰にもう一度会うまで消える気などさらさらないですぞっ!!!)」(意地でも!!)
プ「あ、あの、一応協力者なんですけど……」
ウ「あぁいや。怒らせてどれくらい力をだせるか見たかっただけだよ。(マサはやりすぎだけど) 葱さんとやらは、無害なようだねぇ。しかしまぁ、よくあんな弱いアニマで消滅せずにいられたもんだ」
レ「あれ? でもさっき、俺達のアニマも吸収したとかなんとか」
ウ「うむ。確かに君達から少しずつアニマを吸収はしているみたいだね。確かに厄介ではあるが、そもそもの本人が弱いこともあって、君達が困るレベルでアニマを盗られることはないよ。精々、自分の姿をはっきりさせられるくらいで」
プ「それで葱朗太さん、今結構くっきりしてるんですね。一度見えるようになってから、ずっとはっきりしてるし」
ウ「皆がはっきりと認識できるのは、れっくんのおかげかもしれんね。幽霊からすれば、負のアニマが常に溢れている状態ほど、存在を主張できる場はないだろうしねぇ」
ス「……嬉しくないです……」(拗
ウ「まぁ、そう拗ねなさんな」
ユ「そうだよー☆ レスはいい子だよぉ。初めての旅行だったから、気が緩んじゃっただけだよね☆」
ワーギャーと、マサと葱朗太が言い合う声が響く中、拗ねた様子のレスにユウイが抱き付いて慰める。レスは顔を赤くして、そこから抜け出そうとするが、残念ながら力の差は言うまでもない。どうしようもなく頭をなで回されているレスを横目にし、サトはウェンに「何か良い案はないでしょうか」と尋ねた。
サ「もちろん、葱太郎さんとお辰さんを引き合わせるのが一番の問題解決策なんですが、お辰さんがほんとにそれで消えてくれるかどうか……」
リ「そうそう。もし消えなくて、暴れだした場合、俺達の技ってお辰さんに効くんですかね、兄さん?」
ウ「うーん……、そうだねぇ。まぁ、彼女が妖魔になった目的が葱さんとやらだった以上、その目的を果たせば満足して消えてくれるとは思うよ。例え、妖魔と神霊の中間にある存在だとしてもね。神様として奉られてもいて、確かにアニマの正負のバランスはおかしくなっているかもしれんが」
レ「さすが、専門家。そう言ってもらえれば、ごほっこほっ。 助かります」
ユ「問題はーぁ、誰がネギゴローをお辰さんに引き合わせるか。だよね☆ ネギゴロー、皆がいないと動けないんでしょ?」
葱「(だから拙者はねぎろ)」
マ「そんなもん、事の発端と黙ってたお前ら二人が行けばいいだろう」(罰だ)
レ&プ「「えぇっ?!」」
ス「……まぁ、行くけどさ……」(俺のせいだし……)
マサに指差された二人は、顔を青くして抗議の目線をマサに向けるが、相手はどこ吹く風、逆に厳しい目線が返ってきた。
ス「……、マサ、悪いの俺一人だし、葱さん連れていくくらいなら一人で行けるから」
マ「負のアニマ散布機は黙ってろ。貴様だけで行って、お辰とか言う妖魔がさらに力を増したらどうするんだ、馬鹿め。こういう馬鹿な後輩の行動や能力の暴走を止めてやるのも、貴様ら先輩の務めだろう。今度こそ、ちゃんとやってこい」
ユ「(要約すると、こいつを行かせるのはもちろんだが、一人で行かせるのは心配だから、お前ら二人が付いていけってことだよ☆)」(小声でレムとプスに耳打ちするユウイ)
マ「丸聞こえなんだよ、チビ、ゴラァッ!!」(誰がンな事言った?!)
レ「……(汗 まぁ、こほっ。 仕方ないですね」(和み)
プ「そういうことなら」(和み)
マ「何、ニヤニヤしてやがるっ!!! お前らだけで行かすぞっ!!(怒」
レ&プ「それは嫌です!!!」(敬礼)
パ「しかし、マサ先生! レムの奴は風邪を……」
サ「いいんじゃない? マサ先生の決定だし。三人にはこうなっちゃった責任はどこかでとって貰わないといけないわけだしさ」(鬼)
パ「貴様」
ウ「それを言うなら、サト、お前さんもだよ?」
サ「……?? はい??」
ウ「元はといえば、お前さんがあんなこと(三珠樹幼児化事件)をしたから、マサの独断でここに来ることになったんだよ?」
サ「! えっ? えっ?」(動揺)
ユ「そだねー☆ 僕としては面白い事件だったけど、サトもいつかその責任をとらなきゃいけないよねー☆ 案外、今がその時だったりして☆」
サ「!!」
そう言われたときのサトの顔を、他の六人は一生忘れないように胸に刻んだのだった。(何かスッとした)
ウ「しかし、レムは行かない方がいいと思うよ、マサ」
マ「あん? 何故?」
ウ「どうみても風邪引いてるだろう。その状態で妖魔と接触するのは避けた方がいい。悪化するだけだからねぇ」
レ「!(ウェン先生、ナイス!!)」
マ「チッ。ドクターストップでは仕方ないな。 代わりに、帰ったら仕事を10倍にするからな、レム」
レ「うっ!……まぁ正直言って、その方がマシだし、我慢しますよ」(ホッ)
マ「そうなると、行くのはレスとプスと、サトだな」
サ「ちょっ!! 僕行くなんて言ってませんよっ!!」
パ「文句を言うな! 事の大発端がっ!!」
リ「そうだ、そうだ! たまにはお前も罰を受けろっ!」
ハ「俺っち、生け贄なんか嫌だからなっ!! 頼むぜぃ、サティっ!!!」
サ「●ティちゃんみたいに呼ばないでほしいなっ!!」
マ「……」
ワーギャーと、すでに諦めているレスとプス、そしてなんとかついていくことは免れたものの、仕事を10倍にされる予定のレムを除いた面々が激しく言い合う中、事の提案者であるマサはそれを黙って少しの間見ていた。が、やがて「喧しい!」と一言怒鳴り、言い争っていた四人を睨み付けた。
マ「もう、ハリトーとレムを除いた五人で、さっさと行ってこい! 最悪、荷物くらいは持ってこれるだろう?!」
パ&リ&サ「「「はぁっ?!!!」」」(なんでそうなった??!!)
マ「もう、めんどい」(さっさと終わらせて帰らせろ)
六+1「(えぇぇぇ?!)」
リ「勝手に決めるなんて、そりゃな」
マ「あぁん?」(不滅球片手に)
リ「……ぁくないです。すいません」
マ「馬鹿共め。そのお辰とかいうのはほぼ浮遊霊に近いものだろう。葱野郎は地縛霊。葱野郎を館内の適当な所に憑かせられれば、あとは勝手にお辰とやらが葱野郎を見つけて、終了だ。貴様らがお辰に対峙する必要もない」
「簡単だろうが」と言うマサに、文句を言いたげな顔を何人かが向けるが、瞬間それよりも厳しい視線でそれを封殺され、泣く泣く大広間を後にするのだった。
******
リ「なんでこうなんだよ、もう!!」
大声で文句を言いつつ、リーズとその他葱朗太お辰引き合わせ隊の面々は、客室へと続く廊下を歩いていた。最凶先生の言う案は、悪くはないが、あくまで葱朗太がそれに応じてくれた場合の話だ。簡単に行くとは限らない。
サ「ほんと、マサ先生ってさ、強引だよねー。なんで僕が」
パ「貴様に関しては強引でもなんでもないだろうが。因果応報だ」
プ「まぁまぁ、皆落ち着いて。これ以上、負のアニマが増えたらそれこそお辰さんが手に負えないレベルになっちゃうよ」
プスの一言に、とりあえず三人は口をつぐんだ。不平不満を言っても、最早仕方ない。あの人が言うことは、絶対だ。やらなければ、さらなる苦行が待っていることは想像に固くない。黙々と先頭を歩いているレスに続く四人は、どう説得させるかと思案しながら斜め上を見る。
先頭を行くレスの少し後方の頭上を、フワフワと浮いてついていく葱朗太は四人の話が聞こえていたのか、いないのか、いまいちよく分からない。ただ彼も何やら真剣に悩んではいるようだった。
リ「そういや、おい、レス。これどこに向かってるんだ?」
不満を言うのに夢中で、どこに向かっているのか気付いていなかったらしいリーズが、先頭を歩いているレスに問いかける。相手は振り向くこともせず、「客室ですよ」とだけ答えた。
ス「……「最悪、荷物くらいはとってこれるだろう?」って、言われたでしょう? 最低限こなさなければならないのは、まずそれです」
サ「お辰さんが部屋にいる可能性はないのかい? 君が初めて彼女に会ったのは柊の間だったんだろ?」
ス「……正直、何処にいるのか、俺にもよく分かりません。ここ、お辰さん以外にもたくさんいらっしゃいますし」
リ「これ以上の災難はごめんだぞ?」
プ「葱朗太さんはどうですか? お辰さんが何処にいるか、分かります?」
葱「(申し訳ないが、拙者にも分かりませぬ。至るところで似た気配を感じますので……。しかし、お辰のいる所に近づけば、確実に分かる自信があります!!)」
パ「自信があるのは結構だが、近づきすぎてそのまま吸収されてくれるなよ」
分かっておりますと葱朗太は拳を握りしめ続けて、「(次こそはきちんと添い遂げてみせますとも)」と意気込んだ。
リ「最初からその意気で死んどけば、こんな面倒にならなかったのにさ」
プ「リーズっ!! しっ!」
葱「(……全くもって、リーズ殿の仰る通り。皆様にはなんと御詫び申し上げればよいのか……。あのとき、共に死んでいれば、お辰を苦しめることもなかったというのに……)」
肩を落とし、落ち込んでしまった葱朗太に、見かねてサトがリーズを小突くが、彼は肩をすくめてなんと慰めたものやらと言う顔をしている。プスも迷うような表情を浮かべ、パズは何を考えているのか表情からは読み取れない。三部屋がある廊下まで来たのはその時だった。
「着きました」と言ってレスは立ち止まると、葱朗太を振り返った。
ス「……葱さん。後悔する気持ちも分かりますが、過ぎたことはどうしようもありません。それに、残される方には残される方なりに、苦しむことだってあります。あなただって、十分苦しんだはずです。……ですから、自分を責める必要はありません。二人の思いが強かったからこそ、こうしてもう一度共に逝ける機会が巡ってきたんです。……必ず、成功させてくださいね」
葱「(れ、レス殿……。……、有難き御言葉まで。拙者、もう泣き言は申しませぬ! いざ!! お辰の元へ!!」
そう言って一番に廊下を進んでいく(浮いていく)葱朗太を見送り、それに続いて五人も歩きだす。そうしながら、プス、サト、リーズの三人は代わる代わる、レスの頭を撫でた。
ス「……なんですか?」
プ「フフッ、いや、なんとなくだよ」
サ「後輩に尻拭いされるなんて、僕もまだまだだね」
リ「今度、飯奢ってやるよ」
ス「??」
パ「フン」
不思議そうな顔をするレスの横を通り抜けつつ、パズ
が少し不満そうに鼻を鳴らしたとき、前を行っていた葱朗太が廊下で浮いたまま静止しているのを見つけた。
その先が七人が泊まっている部屋のはずなのだが。まさかな、と五人は葱朗太の近くへと急ぐ。彼が浮いている所までくると、途端に重苦しい空気が廊下を伝い、五人の身体に流れ込んできた。間違いない。この禍々しさは、お辰だろう。
プ「……、やっぱりここなんだね。でもどの部屋かな?」
サ「そりゃ、ハリトーが泊まってる柊の間だろ。一番始めもそうだったしね」
リ「と、とりあえず、俺らの荷物だけでも回収するか?」(ブルブル)
パ「いや、ここまで近づいたんだ。お辰をここまで誘い出して、葱朗太に会わせてしまう方が早い」
少しの間なら耐えられるだろう?とパズは、葱朗太をみて尋ねる。「無論、耐えてみせます」と、相手は拳を握った。
葱「(お辰とて、拙者を見れば必ずや元の姿に戻るはずです!! 例え吸収されることになろうとも、今度こそは)」
五「吸収されたら駄目だろっ!!!」
プ「そうしたら余計にお辰さんの力が増すって言ったの、葱朗太さんですよっ?!!!」
葱「(も、もちろん! 意気込みの話ですよ!)」
ス「……じゃぁ、柊の間のドア、開けてみますか?」
レスが尋ねると、四人は一度それぞれに顔を見合わせた。
ス「……問題ないです。俺が開けますので」
なんとなく察したらしいレスがそう言うと、四人は小さく胸を撫で下ろし、「頼むぞ?」「任せた」とそれぞれ言った。
パ「……ほれ、鍵だ」
ス「……はい」
リ「お前って案外怖いものしらずだよな」
躊躇なくドアに鍵を差し入れるレスを見て、リーズはそう呟いた。
ス「……いや、怖いですよ(普通に)。……やらなかった後の方(マサ)が怖いってだけで」(さらり)
四「あー……」(その通りすぎて何も言えねぇ)
ガチャリ。
錠の外れる音が異様に廊下に鳴り響く。全員(幽霊のはずの葱朗太までも)が、一度覚悟を決めるように生唾を飲み込んだ。
ス「……では、開けます」
一声かけて、レスがゆっくりとドアノブを回した。
真っ暗な部屋の中で、彼女、お辰は一枚の写真を眺めていた。実体を得た今、物に触れられる嬉しさと共に、自分の求めるものがあったことに喜びを感じていた。写真の中の人物を見つめ、遥か昔のことに思いを馳せた。
写真は、ハリトーが頼みに頼み込んでやっとの思いで撮った、絶賛片想い中の火鼠ユリネ(アヤメとリコの実姉。カフェオーナー)とのツーショット写真だ。なんで持ってるんだとか、そういう疑問はさておき、お辰は大事そうに写真を胸に当て、彼そっくりの葱朗太の姿を思い浮かべていた。その時、ギーとドアが開いて、一筋の光が廊下から差し込んだ。
ス「……お辰さん、そこにいますね?」
辰「……なんの用かしら? れっくん」
真っ暗な部屋の中で、蛇のように細い瞳孔をした目が赤く光っている。聞くまでもなく、そこにお辰がいるのは明白だったが、レスは敢えてそう声をかけた。一息おいて、鬱陶しそうな声色で部屋の中から声が帰ってきた。
辰「……ハリトー様を連れてきてくれたの? 優しいのね。ちょうど今、ハリトー様のことを思っていたところよ」
ス「……いいえ。本物の葱朗太さんを連れてきました」
お辰のえっ?と息を飲む音が聞こえた。嘘よと、取り乱したのか、何かを床に置くような仕草をし、彼女は光が当たっている場所にまで出てきた。その姿は蛇の体ではなく、人間のそれに戻っている。顔も以前の美しい彼女の顔に戻っていた。
辰「本当なの?!本当に葱朗太様がいるの?! 嘘だったら、承知しないわよ?!」
ス「……廊下にいらっしゃいますから、ともかく会ってみたらどうです?」
そう言ってレスはドアの前から引っ込むと、廊下で緊張した様子の葱朗太の横に立った。他の四人は葱朗太がお辰から見えやすいように、その後ろに立ち、様子を見守る。やがて、恐る恐ると言う感じに、お辰がドアの影から顔をだした。ゆっくりと、廊下に全身を表し、葱朗太の方を見る。「この人(幽霊)が葱朗太さんです」と、レスがお辰に告げた。
辰「……嘘」
葱「(お辰、すまぬ! あのとき、必ずや来世で一緒になろうと約束したというのにっ! お前に、辛い思いを)」
辰「嘘よっ!! この人が葱朗太様な訳ないっ!!」
お辰は叫び、葱朗太を指してさらに続けた。
辰「私の葱朗太様は、もっと若々しくて瞳がきらきらと輝いていて、髪もフサフサしていたわっ!!! あなたみたいに、禿げてなんかいなかったっ!!!」
五「?!(えぇぇぇーっ?!!)」
葱「(は、ハゲてっ?!! お辰、それは!)」
ス「た、確かに禿げてますけど、この人は正真正銘葱朗太さん本人ですよ! お辰さんっ!!」
プ「そ、そうですよ!! 髪がなくなっちゃってるのは、葱朗太さんが年をとったからでっ!」
葱「(拙者の頭は剃髪ですぞっ!! 決してハゲではっ!!)」
辰「言い訳なんか聞きたくないわ!! 嘘吐くなんて、男として最低よ」
パ「自分のことは棚に上げて、よくもそんな口が利けるものだなっ!!」(怒
辰「五月蝿い!!! 呪ってやるわっ! あんた達全員っ!! 私に、この私に嘘吐くなんて、絶対許さないっ!! 恋する乙女の執念、なめんなっ!!!!」
ス「! お辰さん、まっ!!」
待ってと言おうとした時にはもう遅い。恐ろしい形相と、蛇の身体に再び戻ったお辰の周りに、鬼火と化したのであろうお辰の執念が廊下にいっぱいに出現する。その鬼火の中から無数の蛇が飛び出してきて、五人と彼女曰く偽者の葱朗太へと、襲いかかってきた。
リ「!! もう無理っ!!!! ギャーッ!!!」
ホラーが苦手なリーズ(今までサトの肩を掴んでどうにか耐えてた)が、いの一番に叫び声をあげ、廊下を逃げていくと同時に、他の面々も叫び声を上げながらその場を逃げた。置いていかれてはたまるかと、全員必死のその背中に向かい、
辰「早くハリトー様を連れてきなさいっ!! じゃなきゃ本当にあんた達全員呪い殺してやるっ!!」
地のはてまで追ってでもっ!!と女性とは思えないほどドスの聞いた低いお辰の呪詛が飛ばされていた。
楽しい社員旅行も終わりを告げる(だいぶ前からだろ)
旅館のロビーでは、女将があたふたした様子で、一人の客に応対していた。その様子を見ている他の従業員も、宿泊客も、そわそわして落ち着かなさそうに、しかしその場から離れるのは惜しいのだと言いたげに自分の用事をこなしていた。用事をこなす傍ら、横目でチラチラと女将が応対している白髪の客を見やった。
客「……三珠樹がこんなとこにどうして」
一人の客が、連れの客にそう呟いていた。
女将「あの……わざわざお越し下さり、有難う御座います……。まさか、その、直々に来られるとは思いもよらず……、なんのお構いも用意してませんで」
「あぁ、いえいえ。お気になさらず。迷惑をお掛けしたのはこちらですから」
白髪の客は人好きのする笑みを浮かべ、左右で違う色をした眼でまっすぐに女将を見た。
ウ「こちらで弁償できそうなものは以上でよろしいでしょうか? 他にもありましたら、遠慮なく仰ってください」
女将「いえいえ! こちらこそ、お客様が被害に遭われたとのことですので! 御詫びしなければいけないのは、むしろこちらですから!! これ以上は……」
ウ「そうですか? その点に関しては、こちらにも色々と事情がありまして。 自業自得の部分がありますので、お気になされることは……」
ウェンはそこまで言って一度口を閉じる。何かを探すようにキョロキョロと、振り向いてロビーを見渡し、彼はそれを見つけた。旅館のロビーの寛ぎスペース。そこの椅子に偉そうに座った同僚二人の姿。どうやら知らぬ間に温泉にも浸かってきたらしく、浴衣を着てその肩にタオルまで巻いている。その二人の前にあるテーブルには、既に完食したらしい何かしらの料理の皿が山と積まれていた。そんなわけで向こうはこちらの白けた視線には気付かず、すっかり寛いでご満悦なのだった。
ウ「……。束のことお尋ねしますが、女将。この建物は築何年ほどでしょうか?」
女将「え? あぁ、旅館としましては六十年ほどになるでしょうか? 建物自体はそれ以前より建っておりますので、もう百年は越えているかと……」
こちらに向き直って、突然そう聞いたウェンに、女将はしどろもどろになって答えた。相手の顔が笑顔であるにも関わらず、明らかに怒りのオーラをまとっていたからだ。
ウ「そうですか。リフォームとかはされないんですか?
折角良い建物ですし、是非後世にも残すべきかと思うのですが」
女将「はぁ。そうですね。考えてはいるのですが、まだそこまでは……」
ウ「考えていらっしゃると言うことなら、大体の目算で結構です。金額を算出しておいてもらえますか? あと、食器代も含めて頂いて……。少し席を外します。すぐ戻りますので」
ニッコリとまた人好きのする笑顔を女将に向け、ウェンはツカツカと、寛ぎスペースの方へと歩いていく。さすがにそれには気付いたのか、二人は近づいてくる彼を出迎えた。
マ「おぅ、風野。終わったか?」
ユ「すごいよ、ウェン!! ここのお風呂、ちょー広いの!! マサの別荘以外であんなに広いの、僕見たことない! ご飯もめちゃくちゃおいしいしっ!!☆」
ウ「そう? それは良かった」
騒ぐ二人にそう答えつつ、ウェンは二人の頭に手を置く。そこまできて、やっと二人も気づいた。ウェンの異様なほどの笑顔に。その後ろに見える、どす黒いオーラに。
ウ「ほんと、良かった……ねっ!!!!」
一呼吸おいて、二人の頭は思い切り、積み上げられた皿とテーブルを貫通し、旅館の床に叩きつけられる。皿が大量に割れる音と、床を何かが思い切り突き通るようなメキメキという音が辺りに響き渡る。その音に、ロビーにいた全員が動きを止め、何事もなかったかのように手の埃を払うウェンを見やった。その足元には、顔面を床にめり込ませたものがクタリと力なく倒れていた。
埃を払い終わり、無表情でカウンターにまで戻ってきたウェンは、女将を前にするとまた人好きのする笑顔を浮かべた。
ウ「算出できました? ではそれにあの二人の食事代と、入浴代を足していただいて、請求書に。宛名は「超音マサ」と「鳥海ユウイ」で。えぇ、大丈夫ですよ。本人達に自腹で支払わせますので。リフォームした折りには、領収書を戦教にお送りください。もちろん、金額は上回っていても結構です。ついでに食器代は、今ここでいくらか私が肩代わりしますね」
スーツの内ポケットから小切手を取りだし、サラサラと金額や諸々の事項を書き込んだウェンは、それを女将に差し出した。
ウ「どうぞ、遠慮なくお受け取りください。ご迷惑をおかけしたお礼ですので」
ここまでくると、質の悪い商売人となんら変わらないかもしれない。頭に先ほどのこともあり、女将は「は、はい」と言って、その小切手を受けとるしかなかった。怒りのオーラは未だ消えていないが、やはり笑顔のまま、ウェンは一度玄関のガラス戸に目をやった。
女将「あ、あのぅ。風野様、何か……」
ウ「あぁ、いえ、何も。請求書は……あぁそれで大変結構です。あの二人は私がしっかり回収した上で、床は元に戻させますので。まだ少しご迷惑をかけるとは思いますが、極力抑えさせます。どうかご理解の程を」
そう言って礼をするウェンに、女将と隣にやってきていた主人は慌てて深々と頭を下げる。請求書を受け取ったウェンはそれを胸ポケットにしまうと、もう一度チラリとガラス戸の方を見て意味ありげに笑みを浮かべた後、つかつかと気絶している二人のもとへ歩いていった。
******
全「(ヒィ~……!!)」(ガクブル)
ガラス戸から少し離れた生け垣の所で、七人は今見た光景に身震いしていた。旅館まで辿り着いてさぁ、入ろうとした時、ガラス戸の向こう、カウンターの前に見知った姿があるのに気付いてしまった。女将と話している内容はさすがに分からなかったが、何やら互いに頭を下げあっている様子に、嫌な予感がした七人は思わず少し戻った生け垣の所に身を隠した。そこから、一部始終を見ていた。運良く(?)、寛ぎスペースもガラス張りだったので全てが丸見えだったのだ。最後に二回、ウェンがこちらを見た時、七人は全員、目があったと思った。そこにどういう意味があるのかは、正直分かりたくない。
パ「……リーズ、サト。あれは……、やはりそういう意味か?」
サ「……それ聞いちゃうの? 分かってるなら言わせないでほしいね」
パ「信じたくないから聞いているんだ。俺の思い違いであってほしい……」
リ「思い違うもなにも、間違いようがねぇだろ……。「ばれてねぇとでも思っているのか、小僧共」だ」
サ「加えて「さっさと出てこねぇとどうなるか、分かってんだろうな?」……だね」
言葉にされるとさらに体が震えてきた。七人は震える体をそれぞれおさえつけるが、震えは収まらない。特にレスは顔を真っ青にしていた。彼は、ウェンがガチギレするのを見るのは初めてだったのだ。ブルブルと、某小型犬のように震えながら、「クビ……。クビが……」と涙声混じりに小さく呟いている。抑えたはずのネガティブな感情が、また吹き出してきているのは目に見えて明らかだ。
プ「れ、レス、落ち着いて。ウェン先生はガチギレしてても理不尽に人を解雇したりはしないから! 」
レ「そうそう! 潔くちゃんと謝れば許してくれる人だから……なっ?」(だから冷気だすのマジでやめて)
ハ「今回の場合、俺っちは謝らなきゃいけねぇのかな?? 被害者じゃね? どっちかというと」
リ「一人だけ抜け駆けは許さねぇぞ」
サ「まぁでも、ハリトーの言うことにも一理あるよね。先生が何のことで、旅館側に頭を下げたかは分からないわけだし、正直ガチギレした原因はマサ先生とユウイ先生だと思うし」
パ「……、反論したいところだが……。なんとも言葉が見つからんな」
生け垣に隠れたまま、七人は思い思いにそう言い合った。なんにしろ、今すぐ出ていって、上司の前で土下座するのが一番良い対策なのは火を見るより明らかだ。
葱「(そうですな。切腹する覚悟で望めば、あの方も許してくださるでしょう)」
リ「幽霊は気楽でいいよな。もう死なねぇし」
まだ姿を保っていた葱朗太にも先ほどの恐怖は伝わっていたのか、他人事のようにうんうんと頷く彼に、リーズはあきれ声でそう告げる。
全員が覚悟を決めるために一呼吸おき、さて行くかと振り返ると、目の前にはその上司がすでに立っていた。隠そうともしていないどす黒いオーラを纏い、しかし顔はいつも通りの優しげな笑顔のまま、彼は七人の前に立っている。その両手には、見ていない間にさらにお仕置きをくらわせたのか、頭にたん瘤を作ったマサとユウイをそれぞれ引きずっている。それが、さらに恐怖を掻き立てていた。
ウ「フフフ、君達があまりにも遅いから、迎えに来てあげたよ」
普通なら気遣う一言に聞こえただろう。しかし今の七人にはこう聞こえた。「……何チンタラしてやがんだ、ボケ共が。出てきてやった俺に対する、感謝の礼はねぇのか?」
全「すんませんでしたっ!!!!!」(即土下座)
ウ「人様の通行の邪魔になるから、こんなところで土下座はやめなさい」(ピシャリ)
至極もっともなことを言われ、七人は身を縮ませながら、立ち上がるしかなかった。
******
七人は背筋を伸ばし、徐々に強くなる足の痺れを我慢しつつ、目の前で楽な姿勢を取っている上司を見た。ここは旅館の大広間だ。あれやこれやを説明する暇もなく、七人は旅館に足を踏み入れなければならなかった。……静かに怒っている元ヤンの上司を前にして、ごちゃごちゃとものを言う勇気は、残念ながら七人にはない。なので、大広間に着き、畳の上に座るようにと促された時も自然と全員が正座になり、今の状況に至ると言うわけだ。何枚かの紙の束を確認しているその上司の隣には、同じく正座しているその同僚二人がいた。こちらも、大勢の前で折檻を食らったことでさすがに懲りているらしく、神妙な面持ちで七人を見つめていた。
マ「オホン。さて、貴様ら。俺達が来た理由は分かっているな?」
咳払いをしてマサが話始める。正座しているせいか、その威厳は普段の半分だった。
マ「手紙を読まなかったとは言わせんぞ。きちんと書いてあったはずだ。旅館及びその他に迷惑をかけるなと。貴様らは保護される必要もない、一人一人が立派な成人男子だろう。何故、こんな簡単なことが守れない? 旅行だからと、浮かれすぎていたんじゃないか? 全く! 連絡を受けて、俺はほとほと呆れたぞ」
腕を組みつつそう続けるマサ。しかし、正直あまり説得力はない。だからといってここでそんな態度を取れば、忽ちマサの雷が落ちるだろう。三人中二人を怒らせる中でも、最悪の組み合わせだ。
マ「何があったか分からんような顔をしているな。風野、内訳は任せた」
ウ「はいはい」
一人何事もなかったかのように、胡座で座っていたウェンは手に持っていた数枚の紙を広げる。それは戦教名義の小切手の写しだった。
ウ「それぞれ聞けば、皆心当たりがつくだろう。まず一枚目。『卓球台、及びラケット損壊の弁償』(ハリトーとリーズがそっち?!と小さな声をあげる)。二枚目。『サウナの温度調節機破損の弁償』(サトとパズがウッと呻いた)。三枚目。『ゲームコーナー内賞品の独占取得による他宿泊客からの苦情に対する弁償』(えっ?あれも?とレムが驚き)。四枚目。『当館飼い猫への勝手なシャンプー行為、及び逃亡した猫による宿泊客への傷害、その弁償』(レスは肩をビクリと縮め)。五枚目。『不必要な試着による、振り袖のクリーニング代の弁償』(もしかして、これ僕?!とプスは困惑したような顔をした)」
トントンと、読み上げた小切手を揃え直して鞄にしまいながら「今回はとりあえず戦教の予算から、払っておいたよ」とウェンは続ける。
ウ「なので、これから先何ヵ月もしくは数年か、当該する金額を達成するまで、君たちの給料を少しカットするよ。あくまで学校からの貸しだからね」
七「えぇっ?!」
ウ「……異論でも?」
七「すいません。それが正論でございます」(シュン)
当然のことながらも驚いてしまった七人は、ウェンの冷たい一言に、シュンと肩を落とした。しかし、七人は不思議に思った。思ったよりも、出された被害届が少ない上、肝心の幽霊騒動における辰が池での出来事が全く話題に上がってこない。何故だろう? もしかして伝わっていないのか? だとすればこの場で言わなければなるまい。火に油をそそぐ前に……。
ウ「尚、幽霊騒動に巻き込まれた件で汚してしまった着物のクリーニング代は我々が負担する。以上」
サラッとウェンがそう言ったので、七人は一瞬聞き違いかと思った。今、幽霊騒動と言っただろうか? ならばやはり知っているのか……。
パ「す、すみませんがウェン先生……。ゆ、幽霊騒動については、お三方はどれくらいご存知なんでしょうか?」
恐る恐るパズが挙手しながら尋ねると、ウェンは少し怒りのオーラを沈め、いつもの顔で「五割ほどかな?」と答えた。
ウ「何があってそうなったのかとか、細かいとこまでは知らないけどね。池で攻防があったのは知ってる」
サ「それでクリーニング代を?」
ウ「うん。まぁ……、そう」
何故か歯切れの悪くなったウェンの回答に、顔を見合わせる七人を見て、ユウイがすかさず話題を変えた。
ユ「で、でもね! 僕らも始め信じられなかったんだよー?! だって幽霊だもん☆ そんなのいるわけないって思ってたからねー☆ けど、ここら辺の人達は皆それを信じてるし、もし本当ならそれって実は幽霊じゃなくて妖魔なんじゃないかなぁって思って、三人で皆の様子を見に来ることにしたんだよ☆ その他諸々のことで、旅館にも謝罪したかったしね」
マ「……まぁ、なんだ。俺様もそんな騒動が昔あって、未だに解決していないのだとは気付かなくてな。まさか貴様らのうち誰かがヒットするとは思っても見なかった」
ユ&ウ「「(よく言う……)」」
あきれ顔になった二人の同僚の顔をみないようにしつつ、「で? 騒動とやらは収まったのか?」と七人に尋ねた。
マ「選ばれちまった不幸な男は誰だ?」
ハ「はいはーい!俺っちでーすっ!!」
重い空気を読めない男、ハリトーのこの返事に三珠樹は困惑したような顔で固まる。どう考えても、「え? お前が?」と言いたげだ。
サ「発端はこの子ですけどね」
ス「ヒッ!」(ビクッ)
サラリとサトは隣に座っていたレスを押し出す。不意なことにレスは短い悲鳴を上げた。
ス「……」
三「……」(またお前かという顔をしてるようにレスには見える)
ス「ーっ!! ごめんなさいぃっ!! 全部僕のせいなんです! 僕がお辰さんと知り合ってしまったばっかりにっ!!! もうしませんから! お願いですから、クビにはしないでください!!」(土下座しながら大泣きするレッスー)
ウ「……れっくん。もういいよ。お前さんの体質はよく分かっているからそんなに泣きなさんな。たかが、こんなことでクビになんてせんよ」(季節が冬になるよ、そんな泣いたら)
ス「グスッ。クビにされたら!(泣きすぎて話聞いてない) 僕、今度こそ行くとこな……いっ?!」
ウ「クビになんてしないと言ってるだろう。もうウジウジ泣きなさんな」(急にレスの鼻を摘まむウェンウェン)
ス「 うぅ…… ふぁい」
全「(やっぱりこぇー……(汗)」
痛かったのか、離された鼻を抑えて踞るレスを見て、そう思うその他だった。普段通りになりつつも少し暴力的な所をみるに、まだウェンの機嫌は完全に上向いてはいないようである。
ユ「レスじゃなかったんだー、意外」(ボソッ)
プ「? 先生、何か仰いました?」
ユ「ううん。なんにもないよー☆」
ボソリと何やら呟いたユウイに、プスが聞き返すが相手はひらひらと手を振って誤魔化した。
マ「ネガティブなことばかり考えているから、そういうのを引き寄せるんだ。これに懲りて改めるんだな」(偉そう)
ス「……うん」(しゅん……)
(ユ「うわー、ほんとマサって最低だね☆」)(小声)
(ウ「人としても親としてもねぇ」)(小声)
(マ「黙っていろ。貴様ら」)(小声)
七「?」
すでに正座を崩していたマサは、レスを下がらせると不思議そうな顔の七人に、「さっさと帰る準備してこい」と告げた。
マ「巻き込まれたのがハリトーということには驚いたが、助かっているということは、騒動も決着が着いたんだろう? これ以上、迷惑をかける訳にはいかんし、さっさと撤収するぞ」
パ「せ、先生、そのことですが! 実はまだ事態は終息していなくてですね」
パズの一言に、マサは怪訝な顔をし、ウェンとユウイは顔を見合わせる。どういうことだと、言いたげなその顔に七人は「今晩は到底ゆっくりできそうにもないな」と一つため息をついた。
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