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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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その8て。8て。長すぎやろ(笑)

マ「なるほどな。大体理解した」
 数分後、マサは七人の話を聞いて腕組みをして唸った。ややこしいことになったと言いたげに、貧乏揺すりをするその様子に、七人は続く言葉もなく様子を見守る。
マ「……にしても、貴様ら七人もいて、妖魔一匹倒せんとは情けない話だな。幽霊という言葉にビビって本気が出せなかったなぞ、言い訳にならんぞ」
リ「そう言われたって、そもそも俺とパズ、ハリトーに関しては巻き込まれるまで幽霊がいることすら知らなかったんですって! 本気だすも何も」
マ「臨機応変に対応できんのかと言っとるんだ。巻き込まれる前に準備をするのは当然だが、突然のことに対処できずに、勤まる任務なぞ、あると思うか?」
リ「それはそ」
パ「仰る通りです。……不覚でした」
ハ「でも俺っちが被害者なのは変わりないぜぃ! もうちっと労って」
マ「あぁん?」(俺様に向かって何言った?)
ハ「すんません」
サ「まぁ、確かに初めから知ってた三人も、途中で気付いた僕も、その時点でお辰さんが妖魔じゃないかって疑うべきだったことは認めます。ただ……一つ伺いたいんですけど……。あとのお二人が、マサ先生を後方から白い目で見てるのは何故なんでしょう?」(すごい顔ですよ)
ウ「……」(白い目)
ユ「……」(白い目)
マ「いつものことだ、気にするな」
七「(いつも????)」
プ「と、ともかく。ここまで来たからには、お辰さんをこのままにしておくわけにはいきません。さいわい、相手である葱朗太さんはこちらに協力的なので、上手くすれば戦闘なしで処理できるのではないかと思うんですが」
 マ「まぁ、最後まで処理しようというその意気は認めてやる。とりあえず、その玉ねぎ五郎だったかに会わせてもらおうか」(いるのか、本当に)
ス「……今、ちょうどマサの真後ろに……」
マ「?」
サ「じゃ、この鏡どうぞ。 一度認識できると、その後は鏡なくても見えるようになりますよ」
 レスの言葉に不思議な顔をしつつ、手渡された少し大きめの手鏡をマサは見る。左右からユウイとウェンも、その鏡を覗きこんだ。見慣れた三人の顔が写っている。その隙間から、何やら見たことはあるが明らかに髪のない別人がこちらを見返していた。
葱「(お初お目にかかります。拙者、針山青玉之介葱ろぅ)」
三「 ハリトーだろ???」
ハ「俺っちじゃないんだぜぃっ!!!」(失礼なっ!!)
 息ぴったりにそう叫んだ三人に、珍しくハリトーの突っ込みが入った。
葱「(人の自己紹介を遮るとは何事ですかっ!! 人の話は最後までき)」
マ「しかしまぁ、よくもこんな偶然があったもんだ」
ウ「だねぇ。確率からするとかなり低いはずだが」
ユ「ネギ五郎って、ハリトーの先祖かなんかなんじゃない?」(笑
葱「(葱朗太っ!!!でございますっ! さっきから葱太郎だの、ネギ五郎だの、失礼にもほどが)」
ハ「えぇー? 俺っちのご先祖さんなわけねぇぜーぃ。苗字ちげぇーしぃ?」
ユ「ハリトーの家が分家とかってこともあるよ。ねぇ、ウェン」
ウ「そうだねぇ。少なくとも共通する字が入ってるわけだし」
マ「もうめんどくせーし、ハリトー、お前、生け贄になってこい。それで手打ちにできるんだろう」
ハ「ひどいっ!!」
葱「(人の話を聞けっ!!!!)」
 ふわふわと四人の回りを浮いて移動しながらそう抗議の声を上げる葱朗太に、気付かないのか故意に無視しているのか、三珠樹の三人はいつも通り、テンポの良い会話をして顔を見合わせた。
マ「しかし、となるとこいつも妖魔なんじゃねぇのか? 風野?」
ウ「うーん……、それほど強い気は見受けられないねぇ」
ユ「弱いってこと?」
ウ「弱いも何も、最弱クラスだねぇ。妖魔としては」
マ「祓うまでもねぇってことか」(つまらん)
葱「(先ほどからまっこと、失礼な方々ですなっ!!!
あなた方のお弟子であるあの七人は、拙者にもちゃんと敬意をはら)」
三「最弱風情は黙ってろ」(ピシャリ)
マ「てめぇなんざ、俺らがちょいと力をいれりゃ、一瞬であの世行きなんだよ。おぉん? 文句あんのか?」
葱「(うぐっ! な、何を! 拙者だって、お辰にもう一度会うまで消える気などさらさらないですぞっ!!!)」(意地でも!!)
プ「あ、あの、一応協力者なんですけど……」
ウ「あぁいや。怒らせてどれくらい力をだせるか見たかっただけだよ。(マサはやりすぎだけど) 葱さんとやらは、無害なようだねぇ。しかしまぁ、よくあんな弱いアニマで消滅せずにいられたもんだ」
レ「あれ? でもさっき、俺達のアニマも吸収したとかなんとか」
ウ「うむ。確かに君達から少しずつアニマを吸収はしているみたいだね。確かに厄介ではあるが、そもそもの本人が弱いこともあって、君達が困るレベルでアニマを盗られることはないよ。精々、自分の姿をはっきりさせられるくらいで」
プ「それで葱朗太さん、今結構くっきりしてるんですね。一度見えるようになってから、ずっとはっきりしてるし」
ウ「皆がはっきりと認識できるのは、れっくんのおかげかもしれんね。幽霊からすれば、負のアニマが常に溢れている状態ほど、存在を主張できる場はないだろうしねぇ」
ス「……嬉しくないです……」(拗
ウ「まぁ、そう拗ねなさんな」
ユ「そうだよー☆ レスはいい子だよぉ。初めての旅行だったから、気が緩んじゃっただけだよね☆」
 ワーギャーと、マサと葱朗太が言い合う声が響く中、拗ねた様子のレスにユウイが抱き付いて慰める。レスは顔を赤くして、そこから抜け出そうとするが、残念ながら力の差は言うまでもない。どうしようもなく頭をなで回されているレスを横目にし、サトはウェンに「何か良い案はないでしょうか」と尋ねた。
サ「もちろん、葱太郎さんとお辰さんを引き合わせるのが一番の問題解決策なんですが、お辰さんがほんとにそれで消えてくれるかどうか……」
リ「そうそう。もし消えなくて、暴れだした場合、俺達の技ってお辰さんに効くんですかね、兄さん?」
ウ「うーん……、そうだねぇ。まぁ、彼女が妖魔になった目的が葱さんとやらだった以上、その目的を果たせば満足して消えてくれるとは思うよ。例え、妖魔と神霊の中間にある存在だとしてもね。神様として奉られてもいて、確かにアニマの正負のバランスはおかしくなっているかもしれんが」
レ「さすが、専門家。そう言ってもらえれば、ごほっこほっ。 助かります」
ユ「問題はーぁ、誰がネギゴローをお辰さんに引き合わせるか。だよね☆ ネギゴロー、皆がいないと動けないんでしょ?」
葱「(だから拙者はねぎろ)」
マ「そんなもん、事の発端と黙ってたお前ら二人が行けばいいだろう」(罰だ)
レ&プ「「えぇっ?!」」
ス「……まぁ、行くけどさ……」(俺のせいだし……)
 マサに指差された二人は、顔を青くして抗議の目線をマサに向けるが、相手はどこ吹く風、逆に厳しい目線が返ってきた。
ス「……、マサ、悪いの俺一人だし、葱さん連れていくくらいなら一人で行けるから」
マ「負のアニマ散布機は黙ってろ。貴様だけで行って、お辰とか言う妖魔がさらに力を増したらどうするんだ、馬鹿め。こういう馬鹿な後輩の行動や能力の暴走を止めてやるのも、貴様ら先輩の務めだろう。今度こそ、ちゃんとやってこい」
ユ「(要約すると、こいつを行かせるのはもちろんだが、一人で行かせるのは心配だから、お前ら二人が付いていけってことだよ☆)」(小声でレムとプスに耳打ちするユウイ)
マ「丸聞こえなんだよ、チビ、ゴラァッ!!」(誰がンな事言った?!)
レ「……(汗 まぁ、こほっ。 仕方ないですね」(和み)
プ「そういうことなら」(和み)
マ「何、ニヤニヤしてやがるっ!!!  お前らだけで行かすぞっ!!(怒」
レ&プ「それは嫌です!!!」(敬礼)
パ「しかし、マサ先生! レムの奴は風邪を……」
サ「いいんじゃない? マサ先生の決定だし。三人にはこうなっちゃった責任はどこかでとって貰わないといけないわけだしさ」(鬼)
パ「貴様」
ウ「それを言うなら、サト、お前さんもだよ?」
サ「……?? はい??」
ウ「元はといえば、お前さんがあんなこと(三珠樹幼児化事件)をしたから、マサの独断でここに来ることになったんだよ?」
サ「!  えっ? えっ?」(動揺)
ユ「そだねー☆ 僕としては面白い事件だったけど、サトもいつかその責任をとらなきゃいけないよねー☆ 案外、今がその時だったりして☆」
サ「!!」
 そう言われたときのサトの顔を、他の六人は一生忘れないように胸に刻んだのだった。(何かスッとした)
ウ「しかし、レムは行かない方がいいと思うよ、マサ」
マ「あん? 何故?」
ウ「どうみても風邪引いてるだろう。その状態で妖魔と接触するのは避けた方がいい。悪化するだけだからねぇ」
レ「!(ウェン先生、ナイス!!)」
マ「チッ。ドクターストップでは仕方ないな。 代わりに、帰ったら仕事を10倍にするからな、レム」
レ「うっ!……まぁ正直言って、その方がマシだし、我慢しますよ」(ホッ)
マ「そうなると、行くのはレスとプスと、サトだな」
サ「ちょっ!! 僕行くなんて言ってませんよっ!!」
パ「文句を言うな! 事の大発端がっ!!」
リ「そうだ、そうだ! たまにはお前も罰を受けろっ!」
ハ「俺っち、生け贄なんか嫌だからなっ!! 頼むぜぃ、サティっ!!!」
サ「●ティちゃんみたいに呼ばないでほしいなっ!!」
マ「……」
  ワーギャーと、すでに諦めているレスとプス、そしてなんとかついていくことは免れたものの、仕事を10倍にされる予定のレムを除いた面々が激しく言い合う中、事の提案者であるマサはそれを黙って少しの間見ていた。が、やがて「喧しい!」と一言怒鳴り、言い争っていた四人を睨み付けた。
マ「もう、ハリトーとレムを除いた五人で、さっさと行ってこい! 最悪、荷物くらいは持ってこれるだろう?!」
パ&リ&サ「「「はぁっ?!!!」」」(なんでそうなった??!!)
マ「もう、めんどい」(さっさと終わらせて帰らせろ)
六+1「(えぇぇぇ?!)」
リ「勝手に決めるなんて、そりゃな」
マ「あぁん?」(不滅球片手に)
リ「……ぁくないです。すいません」
マ「馬鹿共め。そのお辰とかいうのはほぼ浮遊霊に近いものだろう。葱野郎は地縛霊。葱野郎を館内の適当な所に憑かせられれば、あとは勝手にお辰とやらが葱野郎を見つけて、終了だ。貴様らがお辰に対峙する必要もない」
 「簡単だろうが」と言うマサに、文句を言いたげな顔を何人かが向けるが、瞬間それよりも厳しい視線でそれを封殺され、泣く泣く大広間を後にするのだった。
******
リ「なんでこうなんだよ、もう!!」
 大声で文句を言いつつ、リーズとその他葱朗太お辰引き合わせ隊の面々は、客室へと続く廊下を歩いていた。最凶先生の言う案は、悪くはないが、あくまで葱朗太がそれに応じてくれた場合の話だ。簡単に行くとは限らない。
サ「ほんと、マサ先生ってさ、強引だよねー。なんで僕が」
パ「貴様に関しては強引でもなんでもないだろうが。因果応報だ」
プ「まぁまぁ、皆落ち着いて。これ以上、負のアニマが増えたらそれこそお辰さんが手に負えないレベルになっちゃうよ」
 プスの一言に、とりあえず三人は口をつぐんだ。不平不満を言っても、最早仕方ない。あの人が言うことは、絶対だ。やらなければ、さらなる苦行が待っていることは想像に固くない。黙々と先頭を歩いているレスに続く四人は、どう説得させるかと思案しながら斜め上を見る。
 先頭を行くレスの少し後方の頭上を、フワフワと浮いてついていく葱朗太は四人の話が聞こえていたのか、いないのか、いまいちよく分からない。ただ彼も何やら真剣に悩んではいるようだった。
リ「そういや、おい、レス。これどこに向かってるんだ?」
 不満を言うのに夢中で、どこに向かっているのか気付いていなかったらしいリーズが、先頭を歩いているレスに問いかける。相手は振り向くこともせず、「客室ですよ」とだけ答えた。
ス「……「最悪、荷物くらいはとってこれるだろう?」って、言われたでしょう? 最低限こなさなければならないのは、まずそれです」
サ「お辰さんが部屋にいる可能性はないのかい? 君が初めて彼女に会ったのは柊の間だったんだろ?」
ス「……正直、何処にいるのか、俺にもよく分かりません。ここ、お辰さん以外にもたくさんいらっしゃいますし」
リ「これ以上の災難はごめんだぞ?」
プ「葱朗太さんはどうですか? お辰さんが何処にいるか、分かります?」
葱「(申し訳ないが、拙者にも分かりませぬ。至るところで似た気配を感じますので……。しかし、お辰のいる所に近づけば、確実に分かる自信があります!!)」
パ「自信があるのは結構だが、近づきすぎてそのまま吸収されてくれるなよ」
 分かっておりますと葱朗太は拳を握りしめ続けて、「(次こそはきちんと添い遂げてみせますとも)」と意気込んだ。
リ「最初からその意気で死んどけば、こんな面倒にならなかったのにさ」
プ「リーズっ!! しっ!」
葱「(……全くもって、リーズ殿の仰る通り。皆様にはなんと御詫び申し上げればよいのか……。あのとき、共に死んでいれば、お辰を苦しめることもなかったというのに……)」
 肩を落とし、落ち込んでしまった葱朗太に、見かねてサトがリーズを小突くが、彼は肩をすくめてなんと慰めたものやらと言う顔をしている。プスも迷うような表情を浮かべ、パズは何を考えているのか表情からは読み取れない。三部屋がある廊下まで来たのはその時だった。
「着きました」と言ってレスは立ち止まると、葱朗太を振り返った。
ス「……葱さん。後悔する気持ちも分かりますが、過ぎたことはどうしようもありません。それに、残される方には残される方なりに、苦しむことだってあります。あなただって、十分苦しんだはずです。……ですから、自分を責める必要はありません。二人の思いが強かったからこそ、こうしてもう一度共に逝ける機会が巡ってきたんです。……必ず、成功させてくださいね」
葱「(れ、レス殿……。……、有難き御言葉まで。拙者、もう泣き言は申しませぬ! いざ!! お辰の元へ!!」
 そう言って一番に廊下を進んでいく(浮いていく)葱朗太を見送り、それに続いて五人も歩きだす。そうしながら、プス、サト、リーズの三人は代わる代わる、レスの頭を撫でた。
ス「……なんですか?」
プ「フフッ、いや、なんとなくだよ」
サ「後輩に尻拭いされるなんて、僕もまだまだだね」
リ「今度、飯奢ってやるよ」
ス「??」
パ「フン」
 不思議そうな顔をするレスの横を通り抜けつつ、パズ
が少し不満そうに鼻を鳴らしたとき、前を行っていた葱朗太が廊下で浮いたまま静止しているのを見つけた。
その先が七人が泊まっている部屋のはずなのだが。まさかな、と五人は葱朗太の近くへと急ぐ。彼が浮いている所までくると、途端に重苦しい空気が廊下を伝い、五人の身体に流れ込んできた。間違いない。この禍々しさは、お辰だろう。
プ「……、やっぱりここなんだね。でもどの部屋かな?」
サ「そりゃ、ハリトーが泊まってる柊の間だろ。一番始めもそうだったしね」
リ「と、とりあえず、俺らの荷物だけでも回収するか?」(ブルブル)
パ「いや、ここまで近づいたんだ。お辰をここまで誘い出して、葱朗太に会わせてしまう方が早い」
 少しの間なら耐えられるだろう?とパズは、葱朗太をみて尋ねる。「無論、耐えてみせます」と、相手は拳を握った。
葱「(お辰とて、拙者を見れば必ずや元の姿に戻るはずです!! 例え吸収されることになろうとも、今度こそは)」
五「吸収されたら駄目だろっ!!!」
プ「そうしたら余計にお辰さんの力が増すって言ったの、葱朗太さんですよっ?!!!」
葱「(も、もちろん! 意気込みの話ですよ!)」
ス「……じゃぁ、柊の間のドア、開けてみますか?」
 レスが尋ねると、四人は一度それぞれに顔を見合わせた。
ス「……問題ないです。俺が開けますので」
 なんとなく察したらしいレスがそう言うと、四人は小さく胸を撫で下ろし、「頼むぞ?」「任せた」とそれぞれ言った。
パ「……ほれ、鍵だ」
ス「……はい」
リ「お前って案外怖いものしらずだよな」
 躊躇なくドアに鍵を差し入れるレスを見て、リーズはそう呟いた。
ス「……いや、怖いですよ(普通に)。……やらなかった後の方(マサ)が怖いってだけで」(さらり)
四「あー……」(その通りすぎて何も言えねぇ)
ガチャリ。
 錠の外れる音が異様に廊下に鳴り響く。全員(幽霊のはずの葱朗太までも)が、一度覚悟を決めるように生唾を飲み込んだ。
ス「……では、開けます」
 一声かけて、レスがゆっくりとドアノブを回した。
 真っ暗な部屋の中で、彼女、お辰は一枚の写真を眺めていた。実体を得た今、物に触れられる嬉しさと共に、自分の求めるものがあったことに喜びを感じていた。写真の中の人物を見つめ、遥か昔のことに思いを馳せた。
 写真は、ハリトーが頼みに頼み込んでやっとの思いで撮った、絶賛片想い中の火鼠ユリネ(アヤメとリコの実姉。カフェオーナー)とのツーショット写真だ。なんで持ってるんだとか、そういう疑問はさておき、お辰は大事そうに写真を胸に当て、彼そっくりの葱朗太の姿を思い浮かべていた。その時、ギーとドアが開いて、一筋の光が廊下から差し込んだ。
ス「……お辰さん、そこにいますね?」
辰「……なんの用かしら? れっくん」
 真っ暗な部屋の中で、蛇のように細い瞳孔をした目が赤く光っている。聞くまでもなく、そこにお辰がいるのは明白だったが、レスは敢えてそう声をかけた。一息おいて、鬱陶しそうな声色で部屋の中から声が帰ってきた。
辰「……ハリトー様を連れてきてくれたの? 優しいのね。ちょうど今、ハリトー様のことを思っていたところよ」
ス「……いいえ。本物の葱朗太さんを連れてきました」
 お辰のえっ?と息を飲む音が聞こえた。嘘よと、取り乱したのか、何かを床に置くような仕草をし、彼女は光が当たっている場所にまで出てきた。その姿は蛇の体ではなく、人間のそれに戻っている。顔も以前の美しい彼女の顔に戻っていた。
辰「本当なの?!本当に葱朗太様がいるの?!  嘘だったら、承知しないわよ?!」
ス「……廊下にいらっしゃいますから、ともかく会ってみたらどうです?」
 そう言ってレスはドアの前から引っ込むと、廊下で緊張した様子の葱朗太の横に立った。他の四人は葱朗太がお辰から見えやすいように、その後ろに立ち、様子を見守る。やがて、恐る恐ると言う感じに、お辰がドアの影から顔をだした。ゆっくりと、廊下に全身を表し、葱朗太の方を見る。「この人(幽霊)が葱朗太さんです」と、レスがお辰に告げた。
辰「……嘘」
葱「(お辰、すまぬ! あのとき、必ずや来世で一緒になろうと約束したというのにっ! お前に、辛い思いを)」
辰「嘘よっ!! この人が葱朗太様な訳ないっ!!」
 お辰は叫び、葱朗太を指してさらに続けた。
辰「私の葱朗太様は、もっと若々しくて瞳がきらきらと輝いていて、髪もフサフサしていたわっ!!!  あなたみたいに、禿げてなんかいなかったっ!!!」
五「?!(えぇぇぇーっ?!!)」
葱「(は、ハゲてっ?!! お辰、それは!)」
ス「た、確かに禿げてますけど、この人は正真正銘葱朗太さん本人ですよ! お辰さんっ!!」
プ「そ、そうですよ!! 髪がなくなっちゃってるのは、葱朗太さんが年をとったからでっ!」
葱「(拙者の頭は剃髪ですぞっ!! 決してハゲではっ!!)」
辰「言い訳なんか聞きたくないわ!! 嘘吐くなんて、男として最低よ」
パ「自分のことは棚に上げて、よくもそんな口が利けるものだなっ!!」(怒
辰「五月蝿い!!! 呪ってやるわっ! あんた達全員っ!! 私に、この私に嘘吐くなんて、絶対許さないっ!! 恋する乙女の執念、なめんなっ!!!!」
ス「! お辰さん、まっ!!」
待ってと言おうとした時にはもう遅い。恐ろしい形相と、蛇の身体に再び戻ったお辰の周りに、鬼火と化したのであろうお辰の執念が廊下にいっぱいに出現する。その鬼火の中から無数の蛇が飛び出してきて、五人と彼女曰く偽者の葱朗太へと、襲いかかってきた。
リ「!! もう無理っ!!!!  ギャーッ!!!」
 ホラーが苦手なリーズ(今までサトの肩を掴んでどうにか耐えてた)が、いの一番に叫び声をあげ、廊下を逃げていくと同時に、他の面々も叫び声を上げながらその場を逃げた。置いていかれてはたまるかと、全員必死のその背中に向かい、
辰「早くハリトー様を連れてきなさいっ!! じゃなきゃ本当にあんた達全員呪い殺してやるっ!!」
 地のはてまで追ってでもっ!!と女性とは思えないほどドスの聞いた低いお辰の呪詛が飛ばされていた。
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