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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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楽しい社員旅行も終わりを告げる(だいぶ前からだろ)

  旅館のロビーでは、女将があたふたした様子で、一人の客に応対していた。その様子を見ている他の従業員も、宿泊客も、そわそわして落ち着かなさそうに、しかしその場から離れるのは惜しいのだと言いたげに自分の用事をこなしていた。用事をこなす傍ら、横目でチラチラと女将が応対している白髪の客を見やった。
客「……三珠樹がこんなとこにどうして」
 一人の客が、連れの客にそう呟いていた。
女将「あの……わざわざお越し下さり、有難う御座います……。まさか、その、直々に来られるとは思いもよらず……、なんのお構いも用意してませんで」
「あぁ、いえいえ。お気になさらず。迷惑をお掛けしたのはこちらですから」
 白髪の客は人好きのする笑みを浮かべ、左右で違う色をした眼でまっすぐに女将を見た。
ウ「こちらで弁償できそうなものは以上でよろしいでしょうか? 他にもありましたら、遠慮なく仰ってください」
女将「いえいえ! こちらこそ、お客様が被害に遭われたとのことですので! 御詫びしなければいけないのは、むしろこちらですから!! これ以上は……」
ウ「そうですか? その点に関しては、こちらにも色々と事情がありまして。 自業自得の部分がありますので、お気になされることは……」
 ウェンはそこまで言って一度口を閉じる。何かを探すようにキョロキョロと、振り向いてロビーを見渡し、彼はそれを見つけた。旅館のロビーの寛ぎスペース。そこの椅子に偉そうに座った同僚二人の姿。どうやら知らぬ間に温泉にも浸かってきたらしく、浴衣を着てその肩にタオルまで巻いている。その二人の前にあるテーブルには、既に完食したらしい何かしらの料理の皿が山と積まれていた。そんなわけで向こうはこちらの白けた視線には気付かず、すっかり寛いでご満悦なのだった。
ウ「……。束のことお尋ねしますが、女将。この建物は築何年ほどでしょうか?」
女将「え? あぁ、旅館としましては六十年ほどになるでしょうか? 建物自体はそれ以前より建っておりますので、もう百年は越えているかと……」
 こちらに向き直って、突然そう聞いたウェンに、女将はしどろもどろになって答えた。相手の顔が笑顔であるにも関わらず、明らかに怒りのオーラをまとっていたからだ。
ウ「そうですか。リフォームとかはされないんですか? 
折角良い建物ですし、是非後世にも残すべきかと思うのですが」
女将「はぁ。そうですね。考えてはいるのですが、まだそこまでは……」
ウ「考えていらっしゃると言うことなら、大体の目算で結構です。金額を算出しておいてもらえますか? あと、食器代も含めて頂いて……。少し席を外します。すぐ戻りますので」
 ニッコリとまた人好きのする笑顔を女将に向け、ウェンはツカツカと、寛ぎスペースの方へと歩いていく。さすがにそれには気付いたのか、二人は近づいてくる彼を出迎えた。
マ「おぅ、風野。終わったか?」
ユ「すごいよ、ウェン!! ここのお風呂、ちょー広いの!! マサの別荘以外であんなに広いの、僕見たことない! ご飯もめちゃくちゃおいしいしっ!!☆」
ウ「そう? それは良かった」
 騒ぐ二人にそう答えつつ、ウェンは二人の頭に手を置く。そこまできて、やっと二人も気づいた。ウェンの異様なほどの笑顔に。その後ろに見える、どす黒いオーラに。
ウ「ほんと、良かった……ねっ!!!!」
 一呼吸おいて、二人の頭は思い切り、積み上げられた皿とテーブルを貫通し、旅館の床に叩きつけられる。皿が大量に割れる音と、床を何かが思い切り突き通るようなメキメキという音が辺りに響き渡る。その音に、ロビーにいた全員が動きを止め、何事もなかったかのように手の埃を払うウェンを見やった。その足元には、顔面を床にめり込ませたものがクタリと力なく倒れていた。
 埃を払い終わり、無表情でカウンターにまで戻ってきたウェンは、女将を前にするとまた人好きのする笑顔を浮かべた。
ウ「算出できました? ではそれにあの二人の食事代と、入浴代を足していただいて、請求書に。宛名は「超音マサ」と「鳥海ユウイ」で。えぇ、大丈夫ですよ。本人達に自腹で支払わせますので。リフォームした折りには、領収書を戦教にお送りください。もちろん、金額は上回っていても結構です。ついでに食器代は、今ここでいくらか私が肩代わりしますね」
 スーツの内ポケットから小切手を取りだし、サラサラと金額や諸々の事項を書き込んだウェンは、それを女将に差し出した。
ウ「どうぞ、遠慮なくお受け取りください。ご迷惑をおかけしたお礼ですので」
 ここまでくると、質の悪い商売人となんら変わらないかもしれない。頭に先ほどのこともあり、女将は「は、はい」と言って、その小切手を受けとるしかなかった。怒りのオーラは未だ消えていないが、やはり笑顔のまま、ウェンは一度玄関のガラス戸に目をやった。
女将「あ、あのぅ。風野様、何か……」
ウ「あぁ、いえ、何も。請求書は……あぁそれで大変結構です。あの二人は私がしっかり回収した上で、床は元に戻させますので。まだ少しご迷惑をかけるとは思いますが、極力抑えさせます。どうかご理解の程を」
 そう言って礼をするウェンに、女将と隣にやってきていた主人は慌てて深々と頭を下げる。請求書を受け取ったウェンはそれを胸ポケットにしまうと、もう一度チラリとガラス戸の方を見て意味ありげに笑みを浮かべた後、つかつかと気絶している二人のもとへ歩いていった。
******
 全「(ヒィ~……!!)」(ガクブル)
 ガラス戸から少し離れた生け垣の所で、七人は今見た光景に身震いしていた。旅館まで辿り着いてさぁ、入ろうとした時、ガラス戸の向こう、カウンターの前に見知った姿があるのに気付いてしまった。女将と話している内容はさすがに分からなかったが、何やら互いに頭を下げあっている様子に、嫌な予感がした七人は思わず少し戻った生け垣の所に身を隠した。そこから、一部始終を見ていた。運良く(?)、寛ぎスペースもガラス張りだったので全てが丸見えだったのだ。最後に二回、ウェンがこちらを見た時、七人は全員、目があったと思った。そこにどういう意味があるのかは、正直分かりたくない。
パ「……リーズ、サト。あれは……、やはりそういう意味か?」
サ「……それ聞いちゃうの?  分かってるなら言わせないでほしいね」
パ「信じたくないから聞いているんだ。俺の思い違いであってほしい……」
リ「思い違うもなにも、間違いようがねぇだろ……。「ばれてねぇとでも思っているのか、小僧共」だ」
サ「加えて「さっさと出てこねぇとどうなるか、分かってんだろうな?」……だね」
 言葉にされるとさらに体が震えてきた。七人は震える体をそれぞれおさえつけるが、震えは収まらない。特にレスは顔を真っ青にしていた。彼は、ウェンがガチギレするのを見るのは初めてだったのだ。ブルブルと、某小型犬のように震えながら、「クビ……。クビが……」と涙声混じりに小さく呟いている。抑えたはずのネガティブな感情が、また吹き出してきているのは目に見えて明らかだ。
プ「れ、レス、落ち着いて。ウェン先生はガチギレしてても理不尽に人を解雇したりはしないから! 」
レ「そうそう! 潔くちゃんと謝れば許してくれる人だから……なっ?」(だから冷気だすのマジでやめて)
ハ「今回の場合、俺っちは謝らなきゃいけねぇのかな?? 被害者じゃね? どっちかというと」
リ「一人だけ抜け駆けは許さねぇぞ」
サ「まぁでも、ハリトーの言うことにも一理あるよね。先生が何のことで、旅館側に頭を下げたかは分からないわけだし、正直ガチギレした原因はマサ先生とユウイ先生だと思うし」
パ「……、反論したいところだが……。なんとも言葉が見つからんな」
 生け垣に隠れたまま、七人は思い思いにそう言い合った。なんにしろ、今すぐ出ていって、上司の前で土下座するのが一番良い対策なのは火を見るより明らかだ。
葱「(そうですな。切腹する覚悟で望めば、あの方も許してくださるでしょう)」
リ「幽霊は気楽でいいよな。もう死なねぇし」
 まだ姿を保っていた葱朗太にも先ほどの恐怖は伝わっていたのか、他人事のようにうんうんと頷く彼に、リーズはあきれ声でそう告げる。
 全員が覚悟を決めるために一呼吸おき、さて行くかと振り返ると、目の前にはその上司がすでに立っていた。隠そうともしていないどす黒いオーラを纏い、しかし顔はいつも通りの優しげな笑顔のまま、彼は七人の前に立っている。その両手には、見ていない間にさらにお仕置きをくらわせたのか、頭にたん瘤を作ったマサとユウイをそれぞれ引きずっている。それが、さらに恐怖を掻き立てていた。
ウ「フフフ、君達があまりにも遅いから、迎えに来てあげたよ」
 普通なら気遣う一言に聞こえただろう。しかし今の七人にはこう聞こえた。「……何チンタラしてやがんだ、ボケ共が。出てきてやった俺に対する、感謝の礼はねぇのか?」
全「すんませんでしたっ!!!!!」(即土下座)
ウ「人様の通行の邪魔になるから、こんなところで土下座はやめなさい」(ピシャリ)
 至極もっともなことを言われ、七人は身を縮ませながら、立ち上がるしかなかった。
 
******
 七人は背筋を伸ばし、徐々に強くなる足の痺れを我慢しつつ、目の前で楽な姿勢を取っている上司を見た。ここは旅館の大広間だ。あれやこれやを説明する暇もなく、七人は旅館に足を踏み入れなければならなかった。……静かに怒っている元ヤンの上司を前にして、ごちゃごちゃとものを言う勇気は、残念ながら七人にはない。なので、大広間に着き、畳の上に座るようにと促された時も自然と全員が正座になり、今の状況に至ると言うわけだ。何枚かの紙の束を確認しているその上司の隣には、同じく正座しているその同僚二人がいた。こちらも、大勢の前で折檻を食らったことでさすがに懲りているらしく、神妙な面持ちで七人を見つめていた。
マ「オホン。さて、貴様ら。俺達が来た理由は分かっているな?」
 咳払いをしてマサが話始める。正座しているせいか、その威厳は普段の半分だった。
マ「手紙を読まなかったとは言わせんぞ。きちんと書いてあったはずだ。旅館及びその他に迷惑をかけるなと。貴様らは保護される必要もない、一人一人が立派な成人男子だろう。何故、こんな簡単なことが守れない? 旅行だからと、浮かれすぎていたんじゃないか?  全く! 連絡を受けて、俺はほとほと呆れたぞ」
 腕を組みつつそう続けるマサ。しかし、正直あまり説得力はない。だからといってここでそんな態度を取れば、忽ちマサの雷が落ちるだろう。三人中二人を怒らせる中でも、最悪の組み合わせだ。
マ「何があったか分からんような顔をしているな。風野、内訳は任せた」
ウ「はいはい」
 一人何事もなかったかのように、胡座で座っていたウェンは手に持っていた数枚の紙を広げる。それは戦教名義の小切手の写しだった。
ウ「それぞれ聞けば、皆心当たりがつくだろう。まず一枚目。『卓球台、及びラケット損壊の弁償』(ハリトーとリーズがそっち?!と小さな声をあげる)。二枚目。『サウナの温度調節機破損の弁償』(サトとパズがウッと呻いた)。三枚目。『ゲームコーナー内賞品の独占取得による他宿泊客からの苦情に対する弁償』(えっ?あれも?とレムが驚き)。四枚目。『当館飼い猫への勝手なシャンプー行為、及び逃亡した猫による宿泊客への傷害、その弁償』(レスは肩をビクリと縮め)。五枚目。『不必要な試着による、振り袖のクリーニング代の弁償』(もしかして、これ僕?!とプスは困惑したような顔をした)」
 トントンと、読み上げた小切手を揃え直して鞄にしまいながら「今回はとりあえず戦教の予算から、払っておいたよ」とウェンは続ける。
ウ「なので、これから先何ヵ月もしくは数年か、当該する金額を達成するまで、君たちの給料を少しカットするよ。あくまで学校からの貸しだからね」
七「えぇっ?!」
ウ「……異論でも?」
七「すいません。それが正論でございます」(シュン)
 当然のことながらも驚いてしまった七人は、ウェンの冷たい一言に、シュンと肩を落とした。しかし、七人は不思議に思った。思ったよりも、出された被害届が少ない上、肝心の幽霊騒動における辰が池での出来事が全く話題に上がってこない。何故だろう? もしかして伝わっていないのか? だとすればこの場で言わなければなるまい。火に油をそそぐ前に……。
ウ「尚、幽霊騒動に巻き込まれた件で汚してしまった着物のクリーニング代は我々が負担する。以上」
 サラッとウェンがそう言ったので、七人は一瞬聞き違いかと思った。今、幽霊騒動と言っただろうか? ならばやはり知っているのか……。
パ「す、すみませんがウェン先生……。ゆ、幽霊騒動については、お三方はどれくらいご存知なんでしょうか?」
 恐る恐るパズが挙手しながら尋ねると、ウェンは少し怒りのオーラを沈め、いつもの顔で「五割ほどかな?」と答えた。
ウ「何があってそうなったのかとか、細かいとこまでは知らないけどね。池で攻防があったのは知ってる」
サ「それでクリーニング代を?」
ウ「うん。まぁ……、そう」
 何故か歯切れの悪くなったウェンの回答に、顔を見合わせる七人を見て、ユウイがすかさず話題を変えた。
ユ「で、でもね! 僕らも始め信じられなかったんだよー?! だって幽霊だもん☆  そんなのいるわけないって思ってたからねー☆ けど、ここら辺の人達は皆それを信じてるし、もし本当ならそれって実は幽霊じゃなくて妖魔なんじゃないかなぁって思って、三人で皆の様子を見に来ることにしたんだよ☆ その他諸々のことで、旅館にも謝罪したかったしね」
 マ「……まぁ、なんだ。俺様もそんな騒動が昔あって、未だに解決していないのだとは気付かなくてな。まさか貴様らのうち誰かがヒットするとは思っても見なかった」
ユ&ウ「「(よく言う……)」」
 あきれ顔になった二人の同僚の顔をみないようにしつつ、「で? 騒動とやらは収まったのか?」と七人に尋ねた。
マ「選ばれちまった不幸な男は誰だ?」
ハ「はいはーい!俺っちでーすっ!!」
 重い空気を読めない男、ハリトーのこの返事に三珠樹は困惑したような顔で固まる。どう考えても、「え? お前が?」と言いたげだ。
サ「発端はこの子ですけどね」
ス「ヒッ!」(ビクッ)
 サラリとサトは隣に座っていたレスを押し出す。不意なことにレスは短い悲鳴を上げた。
ス「……」
三「……」(またお前かという顔をしてるようにレスには見える)
ス「ーっ!! ごめんなさいぃっ!! 全部僕のせいなんです! 僕がお辰さんと知り合ってしまったばっかりにっ!!! もうしませんから! お願いですから、クビにはしないでください!!」(土下座しながら大泣きするレッスー)
ウ「……れっくん。もういいよ。お前さんの体質はよく分かっているからそんなに泣きなさんな。たかが、こんなことでクビになんてせんよ」(季節が冬になるよ、そんな泣いたら)
ス「グスッ。クビにされたら!(泣きすぎて話聞いてない) 僕、今度こそ行くとこな……いっ?!」
ウ「クビになんてしないと言ってるだろう。もうウジウジ泣きなさんな」(急にレスの鼻を摘まむウェンウェン)
ス「 うぅ…… ふぁい」
全「(やっぱりこぇー……(汗)」
 痛かったのか、離された鼻を抑えて踞るレスを見て、そう思うその他だった。普段通りになりつつも少し暴力的な所をみるに、まだウェンの機嫌は完全に上向いてはいないようである。
ユ「レスじゃなかったんだー、意外」(ボソッ)
プ「? 先生、何か仰いました?」
ユ「ううん。なんにもないよー☆」
 ボソリと何やら呟いたユウイに、プスが聞き返すが相手はひらひらと手を振って誤魔化した。
マ「ネガティブなことばかり考えているから、そういうのを引き寄せるんだ。これに懲りて改めるんだな」(偉そう)
ス「……うん」(しゅん……)
(ユ「うわー、ほんとマサって最低だね☆」)(小声)
(ウ「人としても親としてもねぇ」)(小声)
(マ「黙っていろ。貴様ら」)(小声)
七「?」
 すでに正座を崩していたマサは、レスを下がらせると不思議そうな顔の七人に、「さっさと帰る準備してこい」と告げた。
マ「巻き込まれたのがハリトーということには驚いたが、助かっているということは、騒動も決着が着いたんだろう? これ以上、迷惑をかける訳にはいかんし、さっさと撤収するぞ」
パ「せ、先生、そのことですが! 実はまだ事態は終息していなくてですね」
 パズの一言に、マサは怪訝な顔をし、ウェンとユウイは顔を見合わせる。どういうことだと、言いたげなその顔に七人は「今晩は到底ゆっくりできそうにもないな」と一つため息をついた。
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