紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ついつい、社員旅行を修学旅行にしてしまいそうになる(笑
食事を済ませた一行は、部屋に戻る前に旅館内にあるとある場所に来ていた。貸衣装屋、浴衣や着物などをレンタルしてくれる場所である。
「宿泊のお客様なら、一律千リンでお貸しします」と書かれた値札が貼られ、ウォークインクローゼットばりの広さの所に着物がずらりと並べられている。
多くは女性用だが、男性用もなかなかバリエーションが多そうだ。
プ「着物着て観光するのも風流だし、ここら一体は着物着てると割引してくれるお店も多いんだって! 折角だから皆で着ようよ!」
レ「まぁ悪くないかもなー。にしても、プス。お前ほんとこういうの好きだな(昨日の晩にしろ今日にしろ)」
楽しいからいいじゃん、と着物を選びつつプスは言う。ハリトーとリーズのノリノリコンビも大はしゃぎで着物を選んでいた。
リ「こんなのあるなら、尚更ビーズと来たかったなぁ。きっと、俺に似合うの選んでくれたのに」
サ「うわっ、お前その顔、気持ち悪いよ」
リ「気持ち悪いって!」
サ「僕にだって、お前にぴったりなやつ選ぶ自信があるよ。お前にはきっとこれが似合うよ」
ニヤケ顔で話すリーズの隣にいたサトが、はいと言って手渡したのは、真っ白な着物。
リ「……、お前これって、よく幽霊が着てる……」
サ「死に装束だね(笑 いいじゃないか。白いロウソクみたいできっと綺麗だよ(笑」
リ「なんだ、ロウソクって!! 人をなんだと思ってやがる!! ってか、なんでこれがあるのか、そこからまずツッコミたいんだけどっ!!!」
サ「僕はどうしようかな。縦縞もいいけど、シンプルに無地もいいよね。この渋い緑の羽織もいいな」
リ「あっ、俺も緑がいい」
サ「お前に先生みたいな渋い緑は似合わないよ」
リ「さっきからひどくないかっ?!」(朝の仕返しまだ続いてんの?)
レ「まぁいいか。パズのやつも案外ノッたみたいだし」
すでに着物に着替え終え、外で待っているパズを見てレムも安心したのか、さっさと着物を選んで着替えると彼の元へと向かった。
レ「やっぱパズは着物似合うなぁ。ハットまでかぶっちゃって、案外と楽しんでるな」
パ「紅葉を見に行くんだ。折角だから、スケッチでもしようかと思っている。その事を思うと、確かに気持ちは高揚するが……奴らほど浮かれているつもりはない」
未だにワーギャーやっているリーズとサトの方を
見ながらパズが言う。そう言いつつも、いつの間にか持ってきていた画材一式の入った鞄の中身を念入りに確認している姿は、遠足前の子供と大差ないな、とレムは思った。ただまぁ、ともかく先程の騒動での怒りは、とりあえずは治まったらしい。ホッと胸を撫で下ろし、レムは衣装屋から目を反らして食堂へとつづいている廊下へと視線を移した。何もない所に向かい、何やら一人ボソボソと話すレスの姿がそこにあった。いや、一人……ではない。彼の近くにあった鏡には、もう一人、鮮やかな浴衣姿の女性が写っていた。昨日、風呂場で見た幽霊とそっくりだ。
レ「(……、また面倒なことに巻き込まれてるんじゃないよな、あいつ……)」
彼女が何事か言う仕草をする度に、顔を赤くしたり青くしたりしているレスに不安を募らせるレムだった。
ス「とにかく、聞き分けてください、お辰さん」(ボソボソ)
貸衣装屋から少し離れた場所で、先輩達の目を盗みつつ、レスはやっと見つけた先程の霊に話しかけていた。
ス「ハリトー先輩のことを好いてくださるのは結構なんですが、もうこれ以上関わるのはちょっと……」(ボソボソ)
辰「(先刻のことは謝るわよ。まさかあなたが見てるなんて思わなくて。だからって、急に関わるなと言われる筋合いはないわ。昨日はあんなに仲良くしてくれたじゃない)」
ス「昨日はその……、まさかお辰さんが死んだ人だとは思ってなかったんですよ。(ボソボソ)だから正直、ハリトー先輩と引き合わせてくれと言われても、現実的に無理なんで」
辰「(じゃぁ今日一日だけでもいいからっ! あの方の傍にいたいの。お願いっ!)」
ス「……、でも今日は一日出かけますよ? お辰さん、ここの地縛霊だから外に出られたらどうしようもないんじゃ」(ボソボソ)
辰「(大丈夫よ。私、活動できる範囲が広いから。どうせ紅葉狩りでしょう? この時期に来る人達は大半それだし、紅葉の名所のあたりこそ、私の活動範囲の中心なの)」
青白い顔でニコニコと話すお辰を、レスはげんなりとした顔で見つめる。なんで地縛霊なのにそんなに活動範囲広いの?とか、昔の女性なのに気が強すぎない?とか、なんか色々言いたいことはあったが、もうそれを聞くのも面倒だった。そもそも、どうしてそんなにもハリトーを気に入ったのか、全くの謎だ。
辰「(やる気ないでしょ? れっくん)」
げんなりした顔でため息をつくレスを見て、口を尖らせつつお辰が言う。自分の名前の言いにくさは自覚しているが、勝手に短くするのもどうかと思いつつ(それがまた他の女性陣と同じなのも怖い)、渋い顔でレスはそれに答えた。
ス「傍にいても、ハリトー先輩にはお辰さんのことが見えませんし、あの人、あなたがいる気配すら感じないようですから……。傍にいたら、またさっきみたいに何かやらかしたくなるでしょう? それをフォローできるのは俺だけですし、一人でフォローしきれるとは思えませんし」(ボソボソ)
辰「(まぁ、無気力。そしてネガティブね。朝のご機嫌に鼻歌歌いながら湯船に浸かっていた君はどこに行ったの?)」
ス「?! なんで知って」
辰「(私、幽霊よ? ここで起きてることならなんでも知ってるわ。昨晩は猫を無理やり洗おうとして怒られてたわよね。そんなお子様の君には、私の恋心は理解できないと思うけど、ここまで話したからには協力してもらいたいの。ね? 余計なことは一切しない。あの人の肩に乗ってるだけでいいから!)」
恥ずかしさで顔を真っ赤にしているレスに、さらにお辰は詰め寄る。レスはなんか失礼なことを言われたこともあってか、まだ渋い顔でお辰を見返した。正直全く信用できない、とレスは思っていたので「それでも無理」と突っ返したかったのだが、次のお辰の言葉にその言葉は跡形もなく消えた。
辰「(仕方がない。そうまでして渋るというなら……、君の体を乗っ取ってでもあの人と本気で逢引を)」
ス「協力するからそれは絶対しないでください!(お願いします!)」(ガタガタガタガタ)
レスは一瞬そうなった時のことを想像し、鳥肌が全身に立つのを感じた。血の気が引いて、顔が真っ青になるのが自分でも分かったくらいである。そんな自分とは対象的に、青白い顔に少し生気が帰ってきたかのように赤みをさしたお辰は、フフフと楽しそうに笑う。
辰「(あー、なんて今日は良い日なの。死んでから早百数十年。まさかこんな日が来てくれるなんて。本当によく似ていらっしゃる……葱朗太様。フフフフフ)」
ス「(値切ろうた? 人の名前……かな?)……はぁ〜」
面倒事を回避するつもりが、逆に面倒事を背負い込むことになってしまった結果に、レスは深いため息をついた。
リ「たまには着物ってのもなかなかいいもんだな〜」
選んだ着物に着替え終え、パズとレムがいた場所に戻ってきていたリーズがそう言う。隣ではサトも満足そうに自分が着ている着物を眺めていた。中々気に入るものが見つかって嬉しいらしい。
リ「今度は兄さんとお揃いで着物着て買い物行くのもいいなぁ」(兄さんも喜びそうだ)
サ「さっきも言ったけど、お前には先生みたいな渋い緑は似合わないからお揃いは無理だよ。僕ならいけるけど(笑」
リ「似合う、似合わないじゃなくて俺は兄さんとお揃いのかっこがしたいの!」
サ「うわ〜……。いくら僕でもそれは引く」
リ「あぁっ?!」
レ「いや、お前ら二人、かなり気持ち悪いからな。パズのドン引き具合半端じゃねぇから」
わーぎゃー言い合う二人を冷ややかな目で見て言うレムだった。隣に座っていたパズも「こいつら何言ってるんだ?」と言いたげな顔で二人を見ている。
リ「なんだよ、その冷ややかな目は?!」
パ「……貴様らの師へのその異常な親愛は、いい加減どうにかならんのか?」
サ「何それ? お前には言われたくないんたけど?」
リ「お前だって、もしマサ先生が今のお前とおんなじカッコしてたら……、なんか嬉しいだろっ?!」
パ「……、いや、わからん」
二人の熱気にパズはかなり困惑しながらも、いつもの調子でばっさりとリーズの意見を切り捨てる。なんで分かんないんだよ?とリーズはさらに食い下がるが、隣にいたサトは、これ以上言っても不毛だなと悟ったらしく、苦笑いしているレムの隣に腰を下ろした。
レ「ハリトーとプスは?」
サ「まだ中で選んでたよ。あの二人は長くなりそうだね。……、ところでレスは?」
レ「レスなら向こうに……、あれ? またいないっ?!」
サ「しっかりしなよー、お目付け役ー」
パ「勝手にレムを雑用のお目付け役にするな」
リ「いいんじゃねぇの? 何気に一番懐かれてるっぽいんだからよ。あいつ、俺のことはぜーったい下に見てる。態度に出てるからな、まじで」
サパレ「「「まぁそれは仕方ない」」」
リ「三人揃って言うなよっ?!」(仕方ないってなんだっ?!)
レ「にしても、さっきまでそこにいたのに……。昨日の晩も一応注意したんたけどなぁ(苦笑」
リ「一回ガツンと言ってやれ! ガツンとっ!」
ス「何をガツンと言うんですか?」
リ「?!(ビクッ)」
拳を作ってそう言うリーズの背後から、にゅっとレスか顔を出す。いつの間に来たのかはさっぱりだが、ついさきほど来たばかりなようで朝着ていた私服のまま、気だるそうに頭を掻いていた。
レ「レスー、お前さっきまで向こうにいなかったか?」
ス「……、すいません。皆さんがここにいること忘れて、一回客室まで戻ってました」
サ「……、わざとじゃない分、ガツンと言いにくいよねぇ。レスの場合」
リ「もういいから、お前も着物選んでこい。サッとな、サッと」
ス「もういいですよ。それよりもそろそろ出かけたほうが」
パ「まだプスと木偶の坊が中にいる。ついでに呼んでこい。一人だけ割引の利かん奴がいてもややこしいだろうが」
ス「……はぁ(割引?)」
レ「レス、俺が一緒に行ってやるよ」
半ば強引にレスを引っ張り、レムは衣装が並ぶ部屋へと入っていく。パズの怒りにまた火がつくのを避けたい、という思いもあったし、先程の幽霊の話を聞く良いチャンスだと思ったのだ。
レ「で……、レス? さっきまた幽霊と話してたみたいだったけど?」
着物を適当に持ち上げながらそう切り出す。レスは一度ビクリと肩を震わせた後、はぁと力なくため息をついた。
レ「やっぱり面倒事になったのか?」
ス「……、すいません。もう謝り倒すしか俺にはできないです。一から言うとめんどいので、よくあるかくかく云々で省きますけど、とりあえず面倒くさい感じです」
レ「うん……、まぁお前もそこそこ頑張って交渉はしたと思うけど……。約束事ってのは、破るためにあるようなもんだぞ、レス」
ス「……痛いほどよく分かってはいるんですが、あんな最終兵器みたいな爆弾発言をされたら、断りきれませんよ」
ため息をつくレスに、レムは適当な着物を選んで着せていく。結果的に、どこかで見たことがある感じに仕上がっていたが、着せられている本人は文句を言う元気もないらしく、「これでいいです」と短く言った。
レ「まぁ、あれだ。俺にはお辰さん……?ははっきり見えないけど、お辰さんをフォローするお前のフォローはしてあげるから」(元気だせ)
ス「……とりあえず、先輩達の行楽気分を害さないよう、頑張ってみます……」
レスの頭を撫でて励ますように言うレムに、レスは
(彼にしてみれば)比較的前向きな答えを返した。
ハ「あっ、レッスー! なんかあれだなー、その色着てるとますます」
レ「! ハリトー、プスは? そろそろ出発しようって、あとの三人が待ってるんだけど」
柄物の着物を着てひょいと現れたハリトーの言葉をレムは遮り尋ねる。
ハ「プシーなら今着替え終わったところだぜーぃ。ムフフ、俺っちすげー良いこと思いついちゃってー。二人は先に外に出ててほしいんだぜぃ。すぐ行くから」
頭にクエスチョンマークを浮かべつつも、二人は三人が待っている場所へと戻り、少し待つ。
ハ「待ったせたなぁ!野郎ども〜! だぜぃ!!」
パ「遅いっ!!」
リ「何やってたんだよ?! 飯屋の席埋まっちまうぞ?」
サ「っていうか、プスは?」
ハ「まぁまぁ、落ち着けって野郎ども。折角の旅行なのに、男だけというこの辛気臭い状況を、少しでも打破したいとは思わないか?だぜぃ。そこで俺っちは考えた。見た目だけでも男以外がいれば、打破できるはずだと……」
ス「……(汗」
レ「……まさかお前、プスを」
ハ「御託並べんのは終わりだぜぃ! カモン!プシー!」(衣装部屋前の暖簾をバサぁっとめくる)
プ「えっ?! ちょっ!」
五「(うわー…………)」
現れた可愛らしい花がらの振り袖姿をした人物に、五人は想像通りすぎたこともあって固まる。いや、先程の時点ですでに予想はできていたので、プスが女装をして出て来るということそれ自体には心の準備ができていたが、まさかでまさかの振り袖に五人は困惑してしまったのだ。
プ「ちょっとだけ着てみせるだけっていうから着たんだよっ?! これ着て行くなんて言ってないっ!!!」
ハ「いーじゃん、ちょっとの間くらい〜。もっと割引してくれるかも♡だぜぃ!」
プ「それはそれで嫌だよっ!!」
リ「なんつーか、似合いすぎてて驚きがないな」
サ「まぁ、とりあえず一枚くらい写真撮っとこうか? たぶん、スミレ達は喜ぶと思うよ。着せ替え人形(おもちゃ)的な意味で」
プ「おもちゃって言わないで!!(涙」
パ「……茶番はいいからサッサと着替えてこいっ!!!(怒✕100)」
ついに落ちたパズの雷に、プスは「ひーっ」と泣きながら衣装部屋へ引き返していく。「つまんねぇんだぜぃ」というハリトーに、「くだらないことをするなっ」と本日二回目のパズの怒りスイッチが入り、他の三人は苦笑した。その心情は旅行に来たはずだが、どこまでもいつも通りだなという思いでぴったり一致した。
ス「………………」
ただ一人、レスだけが顔を青くしてハリトーを見ていた。その頭上では、お辰がふわふわ浮かびながら彼を見ている。ただ、その目がパズに向くたびに冷たいものがレスの背中を走っていくのだった。
PR
この記事にコメントする