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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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回りのことなんか、気にしてらんねぇぜぇぃ!(笑

  挑戦を始めてどれくらいたったろうか? 
 パズはそう考えつつ、足を前へ、正確には上へ進めた。今何段目なのだろう? それすらも、もう分からない。同じときに出発したはずの二人の姿は、はるか頭上……。別に構わない。こうなることは最初から分かっていたことだ。問題は、別のところにある。果たして休憩せずに、上まで登れるかということだ。ついいつものくせで強気になってしまったが、自分の体力を考えると元々不可能に近い。しかし……
パ「(ヒビキのためにも、ここで諦める訳にはいかんな)」
 まぁ細かいことは省くが、結婚して一年が立とうとしているのに、未だにその兆候はない。彼女の父親は、そのことに些か不安がっているのだと聞いている。気にしすぎなのだと、ヒビキは言うが、自分からすればそうは行かない。なんとしても、彼女の面目を守ってやらねば。
 一息つく間も惜しみ、パズは手すりを手繰るようにして階段を登り続けた。そのうち、500段と刻まれた小さな石碑が階段の縁に見えてきた。
パ「ハッ。ハッ、半分まで来たか! ハー、あと半分!待っていろ、ヒビキ! 必ず登りきってみせるからなっ!!」
 普段しない運動をし続けてきたせいで、もはやテンションがおかしくなってきているパズは、そう叫びながらも登り続ける。たかだかあと半分だ。たどり着けさえすれば、あとは浮いて降りたところで大差ない。石碑の真横までもう少しと言うところで、パズは道の脇に細い脇道があるのを見た。小さな立て札が立てられ、立ち入り禁止となっている。無論、寄り道をするつもりなどない。ないのだが……、何故か足がそちらの脇道へ進もうとするのだ。手すりを手放し、階段の縁に移動し、舗装すらされていない獣道のような場所に、足が向かっていく。
パ「な、なんだ? 何故そっちへ行く? 俺は……疲れているのか???」
 頭が働かない。ダメだ、これは。このままいくと、階段から外れてしまう。
パ「何故階段から離れる?? ちょっ、待て。道どころかその先は……、なんだ? 道がないじゃないか?! えっ、ま、このまま行くと滑落す」
 最後まで言うことはできなかった。ずるりと、滑って崖を滑落していく。最後に見上げたとき、見たこともない浴衣姿の女がニタリとこちらを見て笑っているのが見えた。
ハ「ハァ、ハァ。リーズぅっ! おっせーぞぅ! ハァ」
リ「うっせぇっ! ハァ、話しかけんな! 気が散る! ハァハァ」
 ちょうどパズが崖を滑落していった頃、体力馬鹿二人は半分よりさらに250段上、つまり750段の目前まで来ていた。ここまでくれば、もう登りついたも同然だ。
リ「やっと、ここまで来た! ハァ、ハァ。あともうちょい! 休憩せずに登りきれば! ハァハァ。 ビーズとのゴールインの夢が確実にっ!!!」
 他の目から見れば、リーズとビーズの二人がそのうちに結婚するだろうことは、分かりきった事実だし、リーズからしても、それだけは必ず実現させると心に決めている。が、心配なことが一つ。自分にだけやたら厳しいレイのことである。姉をとられたことへの嫉妬、焼きもちだということは良く分かっている。が、ここから先もあの厳しさが続くのは、リーズからすると耐え難いことだだった。否、それすらも慣れてくるのだろうか? 自分にはそれに慣れる自信はないのだが。
リ「別に嫌われてるわけじゃないことは、俺にだって分かってる。けど、せめてもうちょい! 大人しくなってくれれば!! そのために、レイのヤツに良縁をっ!!」
 どう考えてもレイちゃんからすると迷惑な話なのだが、今のリーズは本気である。この場にサトがいれば、「本人にも好きな子ができれば、お前に構う暇がなくなるはずってのは、発想が安易すぎる」と突っ込みを入れてくれたことだろう。残念ながら、この場にいる人間にはそれは不可能だった。
 さて、話を戻すと頂上まであと150段と迫っていた二人は、何がどうしてそうなったのか、勝手に一番に登りきった方がさらにご利益アップというルールを付け加えていた。そんなわけで闘争心をむき出しにした二人は、追いつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げていた。少しハリトーがリードした時、リーズは異様な寒気を感じた。
なんだと思う暇もなく、徐々に足が階段の縁に近づいていく。
リ「えっ? えっ? えっ??? 何で? あれ?」
ハ「どうしたんだぜぃ? リーズ! おいてくぜぃ!」
リ「ちょっ、まっ。ハリトー!! なんか俺、変だ! 足が勝手に……」
 先を急ぐハリトーにそう声かけるが、彼は聞こえなかったのか、先へ先へと行ってしまった。困ったリーズは後ろを振り返る。パズならどうにかしてくれるのではと思ったのだ。が、そこにパズの姿はない。これはおかしい。同じときにスタートしたのは確かだし、彼が自分達より遅れをとるのはもはや仕方ないことだ。だが、忽然と、姿が消えることなどあるだろうか。まさかとリーズの目が階段の脇にある崖へと向けられる。あいつ、落ちたのか?!
リ「ハリトーっ!! 待て! パズのやつ、もしかしたら落ち」
 そこまで叫んだとき、崖の方からぐいと、何かに着物の袖を引っ張られる。木々の間から伸びた青白い手が、いまや階段の縁沿いをギリギリ歩いていた自分の袖を掴んでいるのが見えた。その手の出所を見たリーズは寒気の理由を理解した。草臥れた浴衣を着た女が、自分をじっと睨んでいたからだ。あっと声をあげる間も悲鳴をあげる間もなく、引っ張られバランスを崩した体を疲れきった足は保つことができず、リーズは崖の中へ転がり落ちていった。
ハ「ハァ。あとついに(目測)50段!! ラストスパートだぜぃっ!!!」
 後ろの二人がどうなっているかも知らず、ハリトーは残りの階段をかけ上がっていた。恋愛成就がなによりも必要なのは自分だと、信じて疑っていなかったから、必ず一番に登りきってやると強く思っていた。その芯の強さは誰もが認めるところだ。だが、それゆえに回りが見えなくなる欠点も、誰もが知っていることだった。今の彼も正にそうだった。回りの音は登り始めてすぐ耳に入らなくなった。たまに一緒に登っていくリーズの声が聞こえる程度だ。今はもうそれすらも聞こえないが、きっとそれだけ彼との差が開いたということなのだろう。
 後ろを振り返ることもなく、彼は最後の5段をカウントダウンしながら登りだした。
ハ「五ぉー、よーん、さーん、にぃー、いちぃー!!
ゼローっ!!!  やったぜぃっ! 俺様がナンバーワンっ!! これでユリネとの未来は約束されたもどうぜ、ん?」
 両手を高々とあげ、勝利の雄叫びを上げていたハリトーはそこでふと気付いた。おかしいな? なんでリーズの悔しそうな声が聞こえないのだろう?
 ゆっくりと後ろを振り返ってみる。階段には誰もいなかった。
ハ「?? あれ? リーズのやつどこいった? ん? 真っ黒黒介のやつもいねぇぜぃっ?! どうなってんだぜーぃ?!」
 そんなはずはないと、よく目を凝らして見てみる。端の方で伸びてしまっているパズがいないか。実は階段と色が同化してしまっているリーズがいないか。どちらもない。どうしても二人を見つけることができない。裸眼両目2,5の野生の視力をもってしてもだ。
ハ「なんだよー。俺っちに勝てねぇからって、拗ねて降りちまったのかぁ? 皆して冷たいぜぃ」
 さすがに一人ポツンと置いていかれるのは嫌だ。ハリトーは参拝せずに、後を追おうと階段を降りかけた。その時だ。
「お二人がどこに行ったか……、知りたいですか?」
ハ「?」
 背後から声をかけられ、振り返る。そこには草臥れた青い浴衣姿の女性が立っていた。
ハ「あれ? あの、さっきいたっけ? だぜぃ?」
「はい」
 つい先ほど、階段を登りきった時にしっかり回りを見ていなかったせいか、見落としていたようだ。それにしても、こんな青い色の浴衣なら、気付いても良さそうなものなのに。
ハ「気付いてなかったんだぜぃ! ごめんなー。じゃ、俺っちが他の二人と競争してたのも、もしかして」
 「はい。存じ上げております。一番、おめでとうございます」
ハ「たはーっ! 照れるぜぃっ!」
 ニコリと笑いかけられ、不意に恥ずかしくなったハリトーは、珍しく後ろ頭をかいた。まさか全部見られていたとは。とすると、あの雄叫びも聞こえていただろうか? まぁ、聞かれて困るわけではないが、やはりそう思うと多少恥ずかしい気も。
「この場での競争だけでなく、色々な屋台を回られていたことも、卓球に全力で打ち込まれていたことも存じています」
ハ「?  同じとこに泊まってたりする?」
「はい。いらっしゃったときから。ずっと貴方を見ておりました」
 また、ニコリとその女は笑う。さすがのハリトーも、寒気を覚えた。なにかがおかしい。おかしすぎる。そう思い、一歩引いたとき、彼女の手が自分の着物を掴んだ。そして、女性とは思えない力で木々が茂る崖の方へと投げ飛ばされた。
ハ「なっ?!」
 普段投げ飛ばされることなど少ないハリトーはさすがに驚き、最初の受け身に失敗すると、そのままごろごろと落ち葉の積もった崖を転がり落ちていった。色んなところをぶつけつつ、一気に崖を転がって最後には軽く吹っ飛んだ。
ハ「おうっ!!」
リ「んぎゃっ!!」
パ「グハッ!!」
 目を回して着地した所は柔らかく、下からは聞き慣れた声の呻き声がした。固い地面に叩き付けられずに済んだ上に、探していた二人もいたのでハリトーは嬉しそうに声をあげた。
ハ「二人共、こんなとこにいたのかだぜーぃ。俺っち、てっきり置いていかれたのかとぉ」
パ「お、もいー」
リ「いいからさっさとどけ、バカっ! パズが潰れる!」
ハ「ちょ、目が回って俺っち立てな」
 そう言うハリトーを無視して、リーズがハリトーを力任せに押し落とし、自分もどうにか立ち上がると下敷きになっていたパズを助け起こした。
リ「大丈夫か、パズ」
パ「大丈夫に見えるか?! 思いっきり腰をやられた」
リ「言うなって。俺も腹がいたい。ハリトーの全体重が乗ったせいだ」
ハ「おぅおぅ……。俺っち、ひどい言われようなんだぜぃ」
 目を回してまだ真っ直ぐ立てないでいるハリトーは、頭を振り、どうにかそれを治すと辺りを見回した。つられて二人も辺りを見渡す。木々に覆われて、日の光が遮られているこの場所はまだ夕方頃だろうというのにうす暗かった。夕日色に染まる空もほぼ見えない。そして、三人の目の前にはどんよりと濁った色をしている池があった。さほど大きくはなさそうだが、全体に水草が浮いていて、水はどす黒く濁っており、絶対に飲んではいけない部類の水だろうことが分かる。その池の回りは、長い間放置されているらしく、葦の長い葉と枯れた薄に覆われていた。
リ「汚ねぇ池だな。 ここどこだ?」
パ「階段の脇にあった道の先だとは思うが。おそらく、そこに見えているのがその道だろう」
ハ「んじゃ、その道登っていけば階段に戻れるんだぜぃ」
 たぶんなと、パズが返し、三人はしばし顔を見合わせた。獣道も当然の細い道で、かなり険しい。だが、そこくらいしか通れる道もなさそうだ。仕方ない、行くかと三人はそちらに向き直った。
ハ「そういやリーズ。お前、口周りどうした? なんか泡みたいのついてんだぜぃ」
リ「んぁ? これか? 」
パ「この向日葵は気絶したまま落ちてきてな。おかげで貴様が落ちてくるまで、俺も動けずじまいだ」
リ「どかせばいいだろ?! お得意の超能力で!!」
パ「うるさいっ! 疲れて力が出なかったんだ!」
ハ「にしても何に気絶したんだぜぃ、リーズ。崖落ちるのに気絶したとかじゃねぇよなぁ」
リ「はっ! そうだよ! 俺見たんだ、草臥れた浴衣着た女が木々の間から俺のこと睨んで、その手で俺の着物の袖を」
パ「?! お前も見たのか?」
ハ「お前も? それって青い浴衣着てたか?」
リ「えっ! お前らもかよ! 青かったかまでは」
パ「だが、髪は長かったな。それにリーズの言うとおり、俺の方を見て睨んでいた」
ハ「うーん、俺っちは笑いかけられたけどなぁ。こうニコリと」
 ハリトーが見たままを真似してみせるのを見た二人は、何かと見比べるような仕草をした後、「あんな感じか?」と彼の背後を指差した。
 ハリトーの背後はその時、池だった。そちらを振り向いたハリトーは、池の中央付近に佇む女を見つけた。さきほどの、青い浴衣の女だ。彼女はやはり、自分に向けてニコリとさきほどと同じ笑みを浮かべていた。
ハ「そうそうっ! あんな感じだぜぃ! そう言えば、俺っちあの子に投げ飛ばされ」
パ「馬鹿め! よく見ろ!!」
 パズに小突かれ、ハリトーはもう一度彼女を見る。最初は何も感じなかった。ただやがて気がついた。水の上に立ってる?? 
「ウフフ。ようこそ、おいでくださいました、ハリトー様。自己紹介が遅れましたね。私はお辰と申します」
ハ「おぅえっ?! どうして俺っちの名前……」
辰「優しいあなたの後輩が教えてくださいましたよ」
リ「後輩って……、レスかっ?! 」
辰「その後も、あなた様を見続けて参りました。昨日には、私の好意も受けてくださいましたし」
パ「おいっ、貴様、いったい何をやらかしたっ?!」
ハ「おぅ?! 俺っちには幽霊見えねぇし、別に何も……。昨日……、昨日なぁ……。んー、あっ」
 思い当たる節があったのか、ハリトーは彼女を指差す。
ハ「あんたもしかして! 昨日、レッスーがしゃべってた、見えないお友達っ?!! 俺っちとデートしたいとか言ってた?!」
辰「まぁV 覚えていてくださったんですか?V」
パ「貴様が誘導したようなものだろうに」
リ「ゆ、ゆ、幽霊に口答えとか、やめとけよ、パズ!! あの怪力、何されるか」
辰「全く、五月蝿い方々だこと。崖から落ちて死んでいてくれれば良かったのに。あなた方には用事などないんですよ。ハリトー様だけ居てくださればよいのです」
 スススッと滑るように水上を移動し、お辰が三人に近づいてくる。今さらだが、足を動かしているような様子はない。幽霊なのだから、それも同然だ。しかし、ただの幽霊ではないことが三人には即座に分かった。彼女の目は爛々と、獣のように光っていた。さらには胸部の真ん中に、赤い光が見える。妖魔だと、三人は即座に理解した。この場合、三人には彼女を退治できる権利がある。攻撃して迎え撃とうと、三人は身構えるが、お辰はそんなことは見通しているらしかった。
辰「フフフ」
 彼女は怪しげに笑う。すると
ハ「うぉっ!!」
リ「ハリトーっ!!」
 不意にハリトーは、足を何かに引っ張られ転倒する。その足には、池に浮かんでいた水草がびっしりと絡み付き、ものすごい力でハリトーを池へと引きずり込もうとした。
ハ「うぉうっ! 引きずり込まれる~っ!!!」
リ「わっ、馬鹿! 俺の足掴むなって! ギャーッ!! パズーっ!!」
パ「馬鹿か、貴様は!! だからと言って俺の足を掴むな!! 支えられるわけなかろうっ!!!」
 攻撃をしかけようにも、不利な体勢にさせられ、三人はパニックに陥る。どうにか、近くにあった木にしがみついたパズのおかげで、池に引きずり込まれるのを回避している状態だ。
辰「フフフ。さぁ、参りましょう。ハリトー様。私と一緒に……。黄泉の国の旅路へと、今度こそ共に」
 目を細め、お辰はそう言ってニコリとした。
******
  ちょうど階段組が、辰が池の前でキョロキョロしていたころ、茶屋に残った三人は、サトと合流しようとしているところだった。覚悟を決め、階段へと挑戦しようかという正にそのとき、プスの携帯が軽やかなメロディを奏で、その内容に、三人は階段を離れて傍の緩い坂道へと向かったのだ。「相談したいことがあるから、こっちに来てくれないかな?」。そう言ったサトは、何故か上機嫌だった。深刻な相談という訳ではなさそうだが、プスは不安を募らせた。今までの経験上、サトが上機嫌になるのは自分にとっては何か利益になる嬉しいことが起こる前触れか、起きた後だけだ。起きた後、ならわざわざ自分達を呼び出すことはしないだろう。とすれば前者だ。何かしらの見返りを、こちらに要求する企みがあって、上機嫌になったに違いない。今の自分達に、サトへの非があったとすれば……、一つしか理由は思い浮かばない。
 そのことを他二人に相談すると、二人も全く同意見だった。
レ「もしこれが現実になったら、悪いがレス。お前、生け贄な」
ス「えっ?」
プ「まぁもとを辿ると、レスが発端だからね」(厳しいこと言うけど)
ス「うっ……。まぁ、それは当然ですよね……」
 大人しく事実を受け入れることにしたのか、それっきりレスは黙ってしまった。口は災いの元。痛いぐらいにそのことを痛感しているのかもしれない。
レ「悪いな。まぁ、あんまりな見返りの時は俺達も止めに入るから」
プ「無茶苦茶すぎないのが一番だけどね」
 三人は早足で緩い坂を登り、サトがいるという立て札が立てられている場所を探す。中腹くらいまで来たかと言うとき、道の脇に立て札が立てられているのを見つけた。その傍では、見知った茶髪の男性が道の脇の池を覗き混んでいた。
レ「おーい、サト」
 手を振り、近づいていこうしたレムの隣で、プスとレスの二人が急に立ち止まる。その顔は真っ青だった。
レ「どうした? 二人とも?」
サ「やぁ。遅かったね」
 不思議な顔をして立ち止まった二人を見るレムの隣に、サトがやってくる。彼は自分の方を見て、さらに顔を青ざめさせるレスとプスを見て、怒るどころかニヤリと笑った。
サ「レスだけじゃなくて、プスも見えるのか~。もしかしてレスの霊感でも移ったかい?」
レ「霊感? ってことは、もしかしてお辰さんかっ?! えっ? ハリトーに引っ付いてたんじゃ」
サ「レムは見えてないのかぁ、残念だ」
レ「???」
ス「は、はりとー先輩……」
プ「嘘でしょ? あのハリトーが……、そんな簡単に死ぬわけ」
レ「はえっ? ハリトー????」
 二人が顔面蒼白でそう呟く。出てきた名前にレムは戸惑い、答えを求めるようにサトを見やるが、彼はニヤニヤと笑うばかりだ。
ス「…………」(震えてる)
プ「僕が、階段の段数にビビって追っかけなかったばっかりにっ!! もう手遅れになってたなんて……、なんてお詫びすれば」
レ「サト! いい加減説明しろっ! 笑ってないでっ!!」
サ「ごめん、ごめん。まずはレムもこれを見て」
 鏡にした携帯の画面を差出し、サトは尚も笑いを堪えようとしていた。不思議な顔でレムはそれを受け取り、覗き混む。別段、変わったところはない。いつも通り自分が映っているだ……け?
レ「?!!!」
サ「見えたろ?」
レ「こ、こ、これ! は、はり」
葱「(いい加減になされよっ!!! 拙者はハリトー殿ではなぁぁいっ!!!)」
レ「ギャーッ!!  しゃべったーぁっ!!!」
葱「(しゃべるくらいするわっ!!!!(怒」
 鏡に映ったハリトーそっくりの透明なそれは、ついに怒りの声をあげ、顔を真っ赤にさせた。それを見て、サトはさらにゲラゲラと腹をかかえて笑い、プスとレスはまだショックから立ち上がれない様子で立ち尽くしていた。
サ「改めて、ここに映っているのが葱朗太さんだよ。ハリトーのそっくりさんさ」
 一頻り笑ったところで、サトが固まっているレムとプス、そしてレスに向かいそう紹介する。顔はそっくり、髪と服装さえ揃えれば、双子と言われても疑わないだろう。多少、葱朗太と言われた幽霊の方が年上に見えるかというぐらいである。
レ「たく、ほんとお前は質悪いな……」
プ「それならそうと、もっと早く言ってよ……」
サ「僕も最初は驚いたから、皆にも驚きを味わって欲しかったんだよ。それに秘密ならお互い様だろ?」
 フフンとサトが意地悪く笑う。これはもう完全にばれているな。レムとプスは観念した。
サ「というわけで、今度は君たちが秘密を開示する方だよ? お辰さんってのは、どこのだ……。レス、君何してるの?」
 サトの言葉に、レムとプスも彼が見ている方を見る。レスは何やらブツブツ言いながら、池とは反対側、なだらかな山肌を見つめていた。そこから下を覗き混みながら、「ここじゃ無理、あっちの大きい岩が出てるとこならもしかして」とブツブツ呟いている。
レ「……レス? お前、もしかして死ぬとこ探してるわけじゃないよ……な?」
ス「?  何言ってるんです? レム先輩」
プ「ホッ。だよね? そんなわけ」
ス「ハリトー先輩が死んだ今、もうユウイ先生に合わせる顔がありません。そもそも、俺が旅行についてきたりしなければ、こんなことになってません。もう誰も死なせないという誓約を破った今、俺にできるのは死ぬことぐらい」
 他三「止めなさいっ!!!(怒」
 三人は今にも山肌に飛び込もうとせんばかりのレスの着物を掴んで引きずり戻し、「離してくださいっ!!」と尚暴れるレスの腕をレムが抑えて引き留める。
レ「レス、落ち着け。ハリトーは死んでないから!!」
ス「そんなん嘘ですぅ! (泣 だってハリトー先輩そのものじゃないですかぁ!!  禿げてる以外!!」
葱「(またハゲとっ!!)」
ス「(葱朗太は無視)人に迷惑かけるしかできないんだから、もう僕なんかいなくなった方がいいんですよ!! 
不祥事でクビにされてまた実験動物以下になるくらいなら、いっそここでぇっ!!(泣」(めっちゃネガティブ)
プ「クビって?!  これぐらいでそんなことにならないよっ!! 誰も死んでないから! 考えすぎだよ、レス!」(おろおろ) 
レ「お前が無駄な演出したせいで、レスがめんどくさいことになったぞ?」(泣かしたし)
サ「えぇー? これ、僕のせいなの?」
 泣きながらネガティブなことを喚くレスと、それを宥めようとおろおろするプスを見つつ、レムとサトは他人事のようにそんな会話をしていた。
 約五分後、レスは非常に不機嫌な顔で鏡になった携帯の画面を見つめていた。そこには泣きはらして目を真っ赤にさせている自分以外に、例の先輩そっくりのハゲ頭の幽霊が映っている。ちなみにその霊、振り返れば自分の背後にいるのがハッキリ見えるので鏡で見る必要はないのだが、今見るように促されているのは普通の鏡の使用方法そのものだ。
レ「これ以上泣くと、物凄い跡になるってことは分かったか?」
ス「……はい、すいません」
サ「君さ、そのネガティブ思考、もう少しどうにかならない? 発想力豊かなのは認めるけど、偏りすぎてやしないかな?」
 返された携帯を受け取りながら、サトは苦言する。レスは「努力します」と、小さく答えた。あまり自信はなさそうだが、ともかくパニックが収まったので先輩三人はホッと胸を撫で下ろした。
サ「で、話を戻すけど」
 サトは鏡の画面のままの携帯を突き出し、「この葱太郎とか言う幽霊の恋人を探したいのだけど」と続けた。
画面上で、葱朗太が何か言っているようだがそれは無視した。
サ「レムがさっき、お辰さんって言ってたろ?  君達が今朝からおかしかった原因は、もうそれだと僕には分かっていることだし、幽霊の反応見ても、彼が探してる相手が彼女なのは丸分かりだから、ここまでの経緯をざっと説明してもらいたいんだよね」
  またパニックになるのを避けたいのか、サトはレスを除いた二人に早口でそう求めた。全ての経緯をレスから聞いていた二人は、かい摘まんでこれまでのことを説明した。レスが幽霊とは気付かず、お辰さんと仲良くなってしまったこと、その彼女がハリトーを気にいり、今日の観光に付いてきたこと、茶屋の主人に聞くまで彼女が事件を起こしているとは知らなかったこと、最後にちょうどハリトー達を探しに行く所だったことを伝えた。
レ「階段を見てきたけど、あいつらの姿はもうなかった。たぶん、お辰さんに池に連れていかれたんだとは思うが」
プ「その池がどこにあるかまでは……」
サ「おっけー、事情は把握したよ。まぁそんな所だろうと思って、僕は君たちをここに呼んだのさ」
 三人がクエスチョンマークを頭上に浮かべる中、サトはこっちこっちと手招きした。立て札から十メートルほど離れた池の傍に、「立ち入り禁止」のロープが張られた空間があった。その先は暗くて細い山道が続いている。
レ「この道がどうしたんだ?」
サ「この池のほぼ真上にあるらしいよ、その「辰が池」がね。真上ってことはほぼ直線上だし、近道でもないかなっと思って君達が来るまでの間に辺りを探索してこの道を見付けたのさ」
プ「でも、この道が本当にそこに続いているとは限らないんじゃ」
サ「大丈夫さ。聞けば、葱太郎さんにはお辰さんの居場所が何となく感じ取れるらしいよ。だから、道は繋がってなくてもナビがあるみたいなもんだから、大丈夫ってわけ」
 だから君達が来るのを待ってたのさ。
サ「携帯の画面を鏡にしたまま、一人で山道を登るのはごめんだからね。そういうわけで、レス、道案内よろしく」
ス「……了解」
 一度、溜息をつきつつ、レスは了解した。彼の傍には幽霊が浮かんでいる。生憎、鏡をしまってしまうと、レムとサトには何も見えなくなるし、聞こえなくなる。責任重大だなと、プスは思った。自分とレスしか、葱朗太を見ることはできないのだ。
葱「(お二人共、よろしくお願い申し上げる)」
 深々とお辞儀してくる無駄に礼儀正しい幽霊に、二人は顔を見合わせた。
レ「じゃ、早速出発するか。早くあいつら見つけないと」
 レムがそう言った時、山の奥の方から大きな叫び声が聞こえてきた。聞き覚えのある三つの声が何事か叫んでいる。
ス「葱太郎さん!! 急いで」
  レスの一声で、四人と一体(?)は「立ち入り禁止」のロープを跨いで山の中へ入っていった。
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