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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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だんだん雲行きが怪しくなってきましたな(他人事)

  茶屋に残った三人が女主人から話を聞いていた頃、サトはもう庭園に着いて用事を終えていた。別にめちゃくちゃに早く走らないと、約束に間に合わなかったとかではない。たまたま、結果を早く知りたかったその知り合いが、茶屋近くまで小型のトラックで迎えに来てくれただけの話だ。まぁ結果は大したことがなく、単に知らない間に種が飛んできて生えた雑草だと分かったので、知り合いはがっかりしていた。鑑定料をもらう代わりに庭園の良いフォトスポットを教えてもらい、マサも満足するだろう写真を何枚か、携帯に収めて、用事は終了だ。知り合いの方には悪いが、早く終わったのはありがたかった。できるだけ早く先生に、報告をしたかったからだ。ついでにいつの間にか鞄に入れられていた栄養剤について、ほんの少し小言を言って……、詰まるところ、先生と会話がしたかった。旅行に来るまでの自分の行動が誉められたものではないのは分かっているが、下見から帰ってほんの少しだけ子供の頃の先生を見た後、三珠樹はさっさと休みに入って旅行に行ってしまったし、自分達は仕事で手が離せる状態ではなかった。つまり、その間話せない期間が長くあり、彼らが帰ってきてから待っていたのも、当然のごとく説教だった。まぁ(限りなく)自業自得の説教はほぼほぼマサによるもので、先生に言い渡されのは「一週間の製薬禁止令」と恒例の頬つねりだった。罰としてはまだ軽すぎると、他の六人衆から苦情もあったようだが、先生は笑って受け流してくれた。
サ「さて、伝えられた用事は済んだし、さっそくご報告といきましょうか。 思ったより早く終わったし、これなら誉めてもらえるだろ」
  帰りも送ると言ってくれた知り合いに断りを入れ、庭園から戻る道をサトは歩き始める。もちろん、電話で話をしながら帰るためだ。機嫌良く鼻唄を歌いつつ、携帯を取り出したサトは、ふと脇を見て足を止めた。道の脇に池があった。さほど大きい池ではなく、どこか人工的に作られたような感じがする。池の中央には小島があるのだが、そこへ続く橋のようなものは掛けられていないし、その回りに置かれたような石には苔が生え放題で、長い間手入れされていないようだった。近くを見渡すと、立て札があった。その立て札は来るときにチラリと見た気がするが、池があるのは気がつかなかった。
 立て札まで近づいて、書かれている文字を読む。どうやらここは「青辰池(しょうしんいけ)」と言うらしい。
サ「ふむふむ。『思い人を失った葱朗太が「辰が池」のほぼ真下にあたるこの場所に、彼女の霊を供養するため、作ったのがこの池です。』と。へぇ、この上にも池があるのか」
 そっちは自然にできた池なのだろう。なんでも、本当はその池で二人は自殺を図ったようだが、葱朗太なる人物は死に損なってしまったということらしい。今も昔も、たまにある話だが、どうしてそう、すぐ死に急ぐのか。
サ「僕には縁遠い話かな。それにしても、池を作るのが供養ねぇ。……スミレだったら、絶対納得しないだろうな。せめて高級ブランドのバッグ買い占めて墓前に置くくらいじゃないと」
 縁起でもないこと考えたら、また怒られるなとそんな考えを頭から振り払う。それよりも報告しないと、と携帯の画面を見る。真っ暗な画面に最初は自分の顔が写っていると思った。普通ならそうだからだ。だが、そこには青白い顔の、頭に毛のない人物が映っている。ように見えた。パチパチと瞬きして、もう一度その画面を見、電源を入れて鏡の機能を選択、起動してみる。自分の顔は、ごく当たり前のようにそこに映っていた。当たり前でないのは、その隣にやはり青白い顔のハゲが映っていることだった。しかも心なしか透けている……?
サ「……全く、僕も気にしすぎだよね。レスと一緒にいたって言ってもほんの少しだよ? それぐらいで霊感なんか移るわけ」
葱「(無視しないでくだされっ!!)」
サ「ギャーッ!!  マジだった!! 呪いだけは勘弁!!って、あれ?  ハリトー?」
 鏡になっている画面に映ったそれが話しかけてきたので、思わず身を引いたサトだったが、その顔がお馴染みの顔にそっくりだったのに気付いてその名前を言う。
まじまじと見つめると、それが本当にそっくりで、むしろ毛がない以外はそのものだったのにさらに驚き、声をあげた。
サ「ま、まさか……、僕が吐いた嘘でこんなことになるなんて……」
葱「(??)」
サ「あの階段を休憩なしで登って、あげく帰りに足ガクガクのまま降りようとして、転げ落ちて死ぬのはパズくらいだと思ってたのに……!! 」
葱「(誰でも死ぬと思うのですが……)」
サ「馬鹿だなぁ、なんで言ってくれなかったんだよ、ハリトー! 君も普通の人間なんだって!!!」
葱「(そのはりとーとか言うのはもののけかなにかかっ?!! 拙者は違いますぞ!! 純然たる人間の霊、すなわち幽霊です!!)」
サ「頭でも打ったの、お前?どうしたのその口調? 髪は?  もしかして初めからハゲだったの? あれ鬘だったの?」
葱「(だぁかぁらぁ!!! 拙者は葱朗太っ!! はりとーとか申すものではないっ! 人違いですぞ!  あと、ハゲとは何ですか!! 失礼なっ!!!)」
サ「……マジかぁ。ハリトー、鬘だったんだ……。ごめんよ、僕の下らない嘘で、君の秘密まで公に……」
葱「(だから違うって!!!!)」
 いくら彼でも、認めたくないことはあるらしい。誰ぞ知らぬ者の幽霊に会うくらいなら、身内の方がマシという神経が彼にもちゃんと通っているのだ。
 ただ、そんなことはこの幽霊は知らない。ので、再度彼はサトに話しかける。
葱「(良いですかな? 拙者は葱朗太。本名を針山青玉乃介葱朗太と申します。ここでお話しできたのも何かの縁、どうか拙者に手を貸していただけないでしょうか?)」
サ「……さすがにハリトーはここまで行儀よくはないし、そんな仰々しい嘘はつけないしな」
 漸く全てを受け入れることにしたらしいサトは、改めて鏡に映る幽霊を見る。顔は隣にハリトーがならんだら、ほぼ見分けはつかないだろう。あとはハ……、髪がないことと、草臥れた古そうな着物を着ているくらいしか差がない。そして当然のごとく、足はない。
サ「……幽霊お決まりの、あの頭の三角巾は?」
葱「(誰もが着けているとは限らないのですよ、あれは)」
サ「へぇ。まぁなら確かにこうして見ると、外傷ないと普通の人間と見間違うこともある……か」
  昨日、レスが言っていたことを思い出しつつ、サトは上から下へ幽霊を見る。やはりハリトーにしか見えなかったので、とりあえず顔を凝視するのは止めることにした。
サ「で、悩み事って? 悪いけど、僕、普段から幽霊見える訳じゃないし(知り合いにはいるけど)、別々に死んじゃった恋人に会いたいとか、無茶言わないよね?」
葱「(やはり、あなたはきちんと立て札を読んで下さる方だった。しかしまぁ、その通りでございます。何卒、お願い致します。拙者だけの問題ではないのです。あなた方、生きている人間にも関わってくる。早くしないと、また犠牲者が増えるかも知れんのです)」
サ「そう言われたって、僕にはその恋人さんの居場所なんて」
 そこまで言った時、サトの頭にあることが浮かんだ。今日一日中、様子のおかしかったことがいくつか浮かぶ。もしかして……ではない。確証こそないが、確率は99%だ。
サ「ちょっと待って。 僕だけじゃ力になれないけど、僕の知り合いとなら、君のことを助けられるかもしれない」
葱「(誠にございますか!)」
サ「うん。だから、詳しい話は合流してから。それでいいかな?」
 こくりと頷く、幽霊の様子を見て、鏡機能を閉じ、連絡先を選ぶ。もちろん、なんの見返りもないのに、こんな厄介事に関わるつもりはない。仕事中ならまだしも、今は休暇中だ。それに、幽霊に見返りを求めたところで大したものはないだろう。それなら、親しい友人達と後輩に払ってもらうまでさ。
 サトはまた上機嫌になって、選んだ連絡先に電話をかけ始めた。
******
  少し時間は遡って、茶屋から出た直後のハリトー、リーズ、パズの三人は階段を見上げている所だった。千段あるという階段は、やはり高い。先が見えないくらいだ。この段数を上がるのは、年配者や子供、女性にはなかなか骨だろう。そんなわけで、実は回り道にはなるが、緩やかな坂と小さなエレベーターのようなものが階段の脇には取り付けられており、それは実はサトが向かった庭園へと続く道なのだが、今の三人には他の手段を探すという選択肢は頭から抜け落ちていた。サトの吐いた嘘を、すっかり本当だと信じきっている三人は階段を睨み付けた。
ハ「こんな階段! 俺っちにかかればどうってことねぇぜぃっ!!」
リ「俺だってこれくらい余裕だねっ!!」
  張り合う体力自慢二人は、ちらりと横を見る。二人より少し小さい彼は、なんだと言いたげにその目を見返した。
リ「お前、大丈夫か? さすがに手伝う気はねぇぞ?」
パ「ふん。手伝いなど不要だ。貴様らの世話になるつもりはない」
ハ「強がり言っちゃってんだぜぃ! 言っとくけど、いつもみたく浮くのも休憩に入るからなっ! だぜぃ!」
パ「貴様に言われるまでもないわ!! 俺を甘く見るなよ!」
ハ「よっしゃーっ!! しゅっぱーつっ!!」
 大声と共に、三人は果てしない挑戦を開始した。


ちーっと変なとこで切るけど、字数の問題だよ。
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