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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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少しばかりの秋らしさ(たぶん、季節感あるのここらへんだけ)

  赤くなった紅葉と、黄色い銀杏。その色を引き立てる寺社の黒い瓦屋根。秋を象徴する景色を堪能しながら、人々は落ちた葉で染まった道をゆっくりと歩いていく。その人数はかなりのもので、土産物屋もある一角などは人で溢れかえり、あちらこちらで笑い声が響いている。
 まぁ、田舎町がおおいに賑わっていることは良いとして、旅館を出た七人は人混みに押され流されしたせいもあり、疲労困憊という状況だった。いつも着なれないものを着ているせいもあったかもしれない。それに加えてお祭りの時期ということもあって出店も多く、その周りに集まる人の多さに、何名かと迷子になったりなんやらかんやらしているうちに、気がつくと疲れていた。
リ「はぁー。結局飯屋は予約もできねぇし、混みすぎてて入れもしねぇし、景色はいいとしてもう疲れたぜ」
サ「文句ばっか言うなよ。まだメインの神社にはたどり着いてすらいないんだよ?」
ハ「そうだぜぃ、リーズ! まだまだこれからだぜーぃ! 出店全部コンプリートしてやるっ!て、言ってたお前ははどこ行ったんだ~? だぜぃ!」
レ「いや、お前はもう少し抑えてやってくれ」
  今や、目の下に隈ができ、普段から良くない顔色をさらに悪くしているレスの背をさすってやりながらレムは言う。その隣では、ぜーぜーと息を弾ませているプスの姿があった。お辰が見えるゆえに、彼女の些細な愚行(ハリトーが目移りしたものを念力で浮かせる、近寄ってきた女性の髪や服を引っ張る、呪おうとする、あわよくばハリトーを1人にさせようとするetc……)を監視していたレスは、出店の誘惑にあっちへこっちへ移動するハリトーを(厳密に言えばその肩に乗っている、他の人には一切見えないお辰の姿を)真面目に追いかけ、慣れないフォローをし、結果、体力の限界を迎えたというわけである。そもそも人混みという苦手なシチュエーションもあって、今はそれプラス人酔いという状態異常を抱えていた。
リ「本気で大丈夫か、そいつ……」
サ「ってか、本当にどうしたのさ、レス? 今日の君、なんか変だよ? ハリトーの後なんか、普段なら絶対付いて回らないのに、今日はやけに張り付くね」
ハ「レッスーに、やっとオレっちの愛情が伝わったんだぜぃvv」
ス「……っ!!」(グフッ)(1000ダメージ)
リ「血ヘド吐くほど拒否されてるみたいだぞ?」(汗
レ「ハリトー、悪いが少し黙っててやってくれ」(汗
(えーっ?! byハリー)
サ「ハリトーに振り回され慣れてるはずのプスまで、そんな息切らしてさ。ほんとどうしたのさ?」
プ「ひ、人混みのせいだよ(汗 もう大丈夫」
 苦笑いしたプスに、サトは怪訝そうに眉を釣り上げる。その顔を見ないようにしつつ、プスはハリトーの方へと目を向ける。その肩には、草臥れてはいるが鮮やかな色の浴衣姿のお辰がはっきりと見える。霊感の強い人(レス)と長いこと(とはいえ一晩だが)一緒にいたせいで、彼にも霊感が移ってしまったらしい。はっきりと見えるようになったのは、先程の着物を探している時からだ。正直、あんな振袖姿になることになったのも、下らない提案をしたハリトーの後ろに、彼女の恨み籠った殺気混じりの視線を見つけてしまったからだった。それがなければ、あんな姿にはさすがにならなかったのにと今更愚痴を言っても仕方ないし、現時点でそれをちゃんと理解してくれるのはレスしかいなかった。それと、見えるわけではないだが、レムもどうやらお辰がいること、それ自体は知っているらしく、お辰のフォローをする、彼ら二人のフォローをしてくれている。他の四人には、残念ながら言えそうになかった(リーズは論外、サトは何するか分かったものじゃない、パズはおそらく信じない、ハリトーも今回に限っては怖がるだろうという推測)ので、お辰さんのことに関しては、この三人で頑張るしかない。
 とはいえ、さすがにサトは先程から「何かあるのでは?」と疑いモードで、表情が徐々に険しくなってきていた。確かに、こちらが真剣に悩んでいると分かれば、それなりに真剣に対策を考えてくれるサトだが、この旅行に至った経緯やら、普段のことを思うと、ほんとのほんとに切羽つまるまでは黙っていないと、事態を余計ややこしいことにしそうで(例えば上手いことお辰さんを誘導して、リーズやパズにちょっかいをかける等)不安なのだ。じーっと自分を見ているのであろう、サトの視線を背中に受けつつ、プスは話題を変えるために「そ、そろそろ神社の方、行ってみない?」とその方面を指して言った。
プ「パズも待ってるだろうし」
レ「そうだな」
ハ「そういや、さっきから姿見ないと思ってたんだぜぃ。何? 何? 迷子?」(嬉しそう)
サ「君とリーズが、あっち行ったりこっち行ったりして、全然先に進めないから、「あいつらに付き合ってるなんぞ、時間の無駄だ! 俺は先に行く。 参道の入り口辺りに茶屋がある。その辺りで絵を描いてるから、近くまで来たら声をかけろ」って言って、さっさと行っちゃったんだよ。ほんと、自分勝手なやつ」
レ「あいつ、それだけを楽しみにしてたんだ。それぐらいの勝手は許してやってくれ。たぶん、絵を描いてる間は時間なんて忘れて没頭してるだろうから、今から行っても怒ってないはず」
リ「茶屋か。ついでにそこで休憩するか? さすがに歩き疲れたしな。レスもその方がいいだろ?」
ス「……そうですね……、お願いします。すいません」
ハ「そうと決まれば早速しゅっぱーつ!! だぜぃ!」
(ランランラー♪)
 意気揚々と一番前を歩いていくハリトーに、リーズとサトが続く。その背中を見つめ、レスとプスははぁーと長いため息をついた。
レ「……うん。今ので、なんか色々分かった気がする」
 自分の目には写っていない、ハリトーの肩に乗っているだろう幽霊の様子を想像してレムはため息をついた二人の肩に手を置いた。
 神社の参道近くまで来ると、何故か人は少なくなった。どうやら、人が少なめの時間帯らしく、神社へと続くのであろう階段にも、まばらにしか人が歩いていなかった。 その参道から視線を反らせた一向は、「団子」や「ひやしあめ」と書かれた幟を飾る建物に目をやった。あれが茶屋だなと、誰かが言い、ならばその近くにパズがいるはずだと、六人は辺りをキョロキョロと見渡した。すると、ふいに茶屋の扉が開いた。
パ「こっちだ。早くこい」
リ「おっ。パズ、お前にしてはナイスだぜ。席取っててくれたのか?」
 扉から少しだけ顔をだしたパズが手招きするのに気づいたリーズが、他の五人を呼び、順番に店の中へと入ると、最後にハリトーが入ったところで間髪いれずパズがピシャリと扉を閉めた。
ハ「ちょっ! びっくりしたー! 何するんだぜぃ?! 危うく扉に挟まるとこだったじゃねぇかっ!」
パ「煩い、玉葱め。貴様なんぞを挟むか。無駄にデカイ図体で壊れる扉の方が可哀想だろう」
ハ「あにをーっ?!」
サ「はいはい。ちょっと落ち着いて。喧嘩は後々。席とっててくれたってわけじゃなさそうだね」
レ「どうしたんだ、パズ?  なんかあったのか?」
プ「絵も描いてなかったみたいだけど、どうしたの? なんか顔色悪いよ?」
 そう言ってから、二人はまさか……と同じ想像をして青くなった。その後ろでは、レスがさらに顔を真っ青にしている。ハリトーの肩の上から、お辰が物凄い形相でパズを睨んでいる。まさか、まさか、パズにもその姿が見えるようにでもなってしまったというのか?! 
パ「いや。先ほどまでは絵を描いて実に有意義な時間を過ごせていたんだがな。少し困ったことになってな」
リ「お前が困るなんて珍しいな? 」
パ「あぁ。俺もまさかこんなことになるとは予想もつかなくてな。実は」
ハ「なんなんだぜぃっ?! もったいつけてないで、さっさと言うんだぜぃ!!」
パ「今話そうとしていたろうが! 黙ってろ!」
サ「で? 」
パ「何枚か絵を描いて、気に入った構図のものから色を塗って仕上げていっていたのだが、それを乾かすのに並べていたのを商品だと思われてな」
プ「あー、路上で絵を描いて売っている人って思われたんだね?」
パ「仕上げるのに没頭しすぎて、いつの間にか絵は持ち去られ、挙げ句「絵が気に入った」だのなんだので、自画像だのペットの絵を描いてくれだの、いらぬ題を出されて追いかけ回されてしまってな」
レ「そういうパフォーマンスの人だと思われたんだな。格好も格好だしで(現代、和服は目立つし)」
パ「最悪だったのは、札束を出して「専属の絵師になってくれ」と言う輩が来たことだ。全くバカにしてくれる。俺が絵を描くのは、自分と先生のためだけだ。他の奴のためなんぞに描くかっ!」
リ「あー、なんだ。結局話しかけられるのが嫌になったから、茶屋で籠城してたってことか?」
パ「貴様らみたいな見た目ヤンキーが近くに入れば、奴等も諦めるだろうと思って、待っていたにすぎん」
サ「……なんだ、ただの自慢話ってわけね」(くだらね)
パ「何か言ったか?」(怒
サ「べっつにー。心配した僕がバカだったーってだけさ」(ハハーン)
レプス「「「(良かった、別件で)」」」(ホッ)
 パズの話に、いつもの面子(リーズとサトとハリトー)が抗議するなか、残りの三人はそっと胸を撫で下ろしていた。まぁ、そんな中でもお辰さんだけは、物凄い目でパズをにらんでいたが。
プ「と、とりあえず席につこうよ。こんな入り口に溜まってちゃ、お店の人に迷惑だし」
パ「なら奥にテーブル席が2つ空いている。女将、悪いが移動するぞ」
 店のカウンターの奥でコップを拭いていた年配の女性にそう声をかけたパズの後について、一行は店の奥の広いテーブル席へと移動する。すぐに女将、基店の女主人が人数分の水をコップに入れて持ってきてくれた。
女「はい、まずはお水をどうぞ。先生、良かったですねぇ。お友達と合流できて」
パ「迷惑をかけてしまったな。……友達ではない。ただの腐れ縁だ」
女「まぁまぁ。それで、皆様は何か召し上がられますか? お茶菓子でも」
プ「あっ、そうだ。ここって、「着物で来店なら20%OFF」キャンペーンの対象店ですか?」
女「えぇ、やってますよ」
 にこやかに答える女将に、プスが小さくガッツポーズをする。なんかケチ臭いからやめようぜーとか、なんとか色々と言いつつ、それぞれほしいものを注文したのだった。
  全員が頼んだものをほぼ食べ終わっても、雑談はまだ続いていた。店内の人は少ない。窓から見える参道も、すっかり人気がなくなってしまっている。話しているのはちょうどその話題だった。
プ「なんか人少ないね。お土産やさんのある通りは人でごった返してたのに」
レ「そうだなぁ。まだ神社の拝観時間が終わるまでには時間もあるはずだし」
リ「思いたくはねぇけど、もしかして心霊スポットだったりしねぇよな? (まだ引きずってる) そこんとこどうなんだよ、レス?  なんか感じたりしないのか?」
ス「……人を幽霊探知機みたいに言わないでください。……まぁ、特に何も感じませんよ。冷気(お辰さんの含め)以外は」
 ひどく疲れていたせいか、不機嫌な様子でレスは冷たくリーズにそう返した。足下にいたお店で飼っている看板犬の柴犬の腹を撫でてやることで、その疲れを癒すことにしたらしい。
プ「犬が可愛いのは分かるけど、着物、汚さないようにね、レス」(あんまり汚しすぎると怒られちゃうよ)
サ「まぁ、人が少ないのは不幸中の幸いなんじゃない? ゆっくり観光できるしね」
ハ「やーっと、俺っち自由に動けるぜーぃ」(図体がでかいので少し縮こまって歩いてた)
パ「充分自由にしていたろうが。口を慎め」
プ「ま、まぁまぁ。パズ。ハリトーもだいぶ頑張って体小さくしてたんだよ。伸ばすくらいは許してやってよ」
 ハリトーの背後に見えるお辰の目がパズを見て鋭く光っているのを見、プスが慌ててそれを止めようとパズにそう言う。パズは尚も何か言いたげではあったが、プスの一言にとりあえずは黙ることにしたようだ。それを見て、お辰の睨みも消えたのでプスはホッと胸を撫で下ろした。
リ「それにしたって、人がいなさすぎじゃ……。あっ、すんません。失礼なことを」
女「いえいえ。大丈夫ですよ。本当のことですから」
 そう言っている時、たまたま皿を下げに女主人が近づいてきたので、慌ててリーズはそう誤魔化す。女主人は笑ってそれを受け流し、盆の上に空いた皿を手際よく置いていく。
女「今日、下町の方は特に賑わっているみたいですねぇ。なんでも、すごい美女と美男のいる、着物の集団が歩いていたとか。それ見たさに、お客さんもみーんな今日はとられてしまって。うちの若い子たちも、あんまりにもそわそわするもんだから、この時間帯ならって行かせてあげたんですよ」
 笑いながらそう言った女主人は、「皆様も恋愛成就のお願いですか?」と続けた。
女「皆様、整った容姿でございますから、これは要らぬ心配でしたかねぇ」
ハ&リ「「恋愛成就?」」
女「えぇ、えぇ。その筋では竜の国でも一二を争う有名なスポットなんですよ。あら、ご存知ではなかったですか?  あとは、良縁、長寿、子宝なんかのご利益も」
 そこまで言った時、違う席にいた客に呼ばれたので主人は「少し失礼いたします」と言い残して、その場を離れた。
ハ&リ「「……」」
サ「ちなみに、ここの階段、千段くらいあるらしいんだけど、それを一回も休憩せず登りきれば、そこにどんな障害があろうとも、必ず相手と結ばれて、しかも来世でも一緒になれるらしいよ」
 ニヤリと笑いつつ、サトがそう告げると黙っていた二人は一斉に立ち上がり、同時に店の外へと走っていった。
パ「ふん。くだらんな。そんな迷信」
サ「もちろん、子宝にも効くんだって。しかも、これは奥さんがするより、旦那さんがした方が、ご利益が何倍にもなるらしいよ。子供を産む痛みを和らげてあげる効果もあるんだってさ」
 そう言われるとパズは押し黙り、「本当だろうな」と言わんばかりにサトをにらんだ後、黙って一人、店を出ていった。
ス「……、そんなことパンフに書いてありましたっけ?」
 三人が出ていった後、口出しできずにいたのか、レスが犬から目を離して困惑したように言うと、サトはニヤリとまた笑った。
プ「もしかして今の嘘?!」
レ「薄々そんな気はしてたけどなぁ」
サ「まぁねぇ。でも、これぐらいしなきゃ、あの三人が疲れるようなこと、今日はないんだよ? 逆に感謝してほしいよ。 特にレムにはね」
レ「お気遣い、感謝するよ。まぁ、今日はもうあいつらが寝た時点で俺は桜の間に避難するつもりだったけどな(笑」
プ「……階段の数に引いて良かった……。嘘なら、やっても意味ないし。(後でゆっくり行こ)」
サ「僕はプスも引っ掛かるかなぁと思ったんだけどねぇ(笑」
プ「笑えないから止めてよ! ひどいよ!」
サ「さぁて。僕もちょっと出てこようかな」
 顔を赤くして怒るプスの追撃を笑って誤魔化し、サトは立ち上がる。三人はどうするの?と軽い調子で彼は続ける。
レ「まぁ、あいつらも登っていっちまったことだし、ゆっくり後を追うことになると思うけど……。お前こそ、どこ行くんだ?」
サ「神社に寄る前に、ちょっと裏手にある庭園にね。そこの庭師さんが先生と知り合いらしくてさ。なんでも、その人が趣味で作ってる菜園に見慣れない草が生えたから相談したいらしくて、僕が代わりに見に行くんだよ。ついでに、そこの庭園の写真もマサ先生に頼まれちゃったし」
 大人数で行くのもと思って、さっきの嘘はついたって部分もあるんだけどねとサトは笑うと、「君達くらいなら、一緒に来てくれてもいいんだけど」と続けた。
サ「少なくとも、喧しいのはいなくなったしね」
プ「庭園かぁ。ちょっと興味あるけど……」
 そう言って、プスとレムは顔を見合わせた。正直、今はやらねばならないことがある。
レ「俺たちは少ししたら、あいつらの後を追うことにするよ。まぁ、喧しくはしねぇけど、やっぱり大人数で押し掛けるのも難だしな」
サ「そう? じゃぁまた終わったら連絡するよ。僕も時間があれば拝観したいし」
 じゃぁ後でと言うと、サトは自分の食べた分の料金をテーブルに置いて、足早に店を出ていった。もしかしたら、約束の時間があったのかもしれないな、と見送ったレムとプスは思った。
女「すいません。大変失礼致しました」
 女主人が戻ってきたのはその時だった。置いたままだった盆を持ち上げつつ、テーブルに目をやった彼女は人数が半分も減っていることに驚いたようだ。
プ「あっ、ちゃんと僕らで料金は払いますから。ちょっと別行動することになって」
女「あら、そうでしたか。すみません、こちらこそいらぬ心配をおかけしまして」
 そう言う女主人の顔は、みるみる生気がなくなったように青くなっていた。不思議そうな顔をする二人に、彼女は一度盆を置きにカウンターへと行った後、また戻ってきてゆっくりと口を開いた。
女「すみません、束のことお伺いしますけども、お連れ様方はどちらに?」
プ「えっと、三人は神社の方の階段へ。もう一人はここの裏手にあるっていう庭園の方へ行ったんですけど」
 女主人の顔がハッとしたようになった。そして彼女は一息、まるで覚悟を決めるように一呼吸置いて、またゆっくりと口を開いた。
女「すみません。実はこの辺りが、この時間帯、すなわち午後の三時から四時にかけて、人通りが少ないのは理由が御座いまして……。実は数十年前から、ここお辰神宮の階段では、稀に神隠しが起きることがあるのです」
 出てきた意外な言葉に、二人は息をのんだ。傍で犬の相手をするのに夢中だったらしいレスも、ピタリと動きを止める。 今、なんか聞きなれた名前が出なかったかと。
レ「……すいません。ここの神社の名前、なんて仰いました? 」
女「正式にはこの神社も、竜の国にある全国の神社と同じく、青龍神宮なのですが……。地元民に伝わる伝承から、我々は『御辰神宮』とお呼びしています」
******
 その頃、戦教ではちょうど三珠樹が揃って休憩をとっているところだった。お決まりのティータイムである。天候は上々。そして何より
マ「喧しい奴等がいなくて清々するな」
ユ「またまたぁ。ほんとは寂しいくせにぃ。パズもレムもいないと、仕事手伝う人はいないし、さらにレスもいないしねー☆ まさか、マサが自らレスを行かせるとは思ってなかったよ  」
ウ「かわいい子には旅をさせろというやつだよ。ねぇ、マサ」
マ「フン! なんでもいいだろうが、別に! 理由なんぞない」
 コーヒーを飲み干し、お代わりを要求しつつ、チラリとマサは携帯を見る。特に何も連絡は入ってきていないようだ。
ユ「普段使わない携帯見つめてまで心配するんなら、ちゃんと言ってあげればいいのにね。「困ったことがあったら連絡するんだぞ」って☆」
ウ「ユウイ、あんまりからかうのは止めなよ。彼のそういうところは、私達が一番よく知っているだろう」
マ「貴様ら、いい加減にしろよ」(怒
 マサの額に青筋立つのを見、ユウイは話題を変えることにしたらしい。そう言えばと、ジュースの入ったグラスを持ち上げながら続けた。
ユ「皆の旅行先、サトが下見に行った所とは違う所だったみたいだけど、どこにしたの? マサが独断で決めてたよね」
マ「あん?  近場だ。紅葉村の温泉街」
ウ「君にしては優しい判断だったねぇ。温泉で疲れを癒して来いなんてさ」
 お茶請けに出されたクッキーをかじりながら答えたマサに、場所を知っていたウェンはうんうんと頷く。
ウ「まぁ、お陰でサトに頼み事もできたし、助かったけどねぇ」
ユ「ふーん。確かにマサにしては英断だね☆  でも、そこって昔連続自殺とかで騒ぎになったよね。あれ、もう収まったのかな?」
ウ「そんな事件あったかい?」
ユ「うん。僕らが子供の時だけど。確か、原因は幽霊じゃないかって騒ぎになってて、結局解決してなかったような……」
ウ「それが本当に幽霊の仕業で解決されてないのだとすると、その幽霊は妖魔になっている可能性があるねぇ。
……そう言えば、そんな内容の依頼書が来てたことがあったような……」
 そこで二人は黙っているマサの方に顔を向ける。彼は意地の悪い笑みを浮かべていた。
ユ「もしかして、レスを行かせたのって……」
マ「奴がいれば、嫌でも巻き込まれるだろう? 不幸体質だからな。まぁその被害者は全員男だし、その幽霊の好みに七人もいりゃ、どれかはヒットすんだろ? 旅行に行った先で事件を解決できれば、交通費も浮く。なかなか助かる話じゃないか」
 クククと、笑いながらコーヒーを口に運ぶ親友を、二人はなんとも言えない顔で見ていた。これを聞いたら、さすがの六人もキレるだろうし、レスはショックで鬱になるだろうな。二人は暗黙のうちに、この件については黙っておくことに決めた。
 ******
 あぁ、聞き間違いであってほしかった。三人が最初に思った感想である。「御辰神宮」。女主人に聞いた名前を、三人はそれぞれ頭の中で復唱する。さらには伝承があるらしいが、正直話の内容については考えたくもない。しかし、ここは聞かなければならない流れだろう。
プ「その、伝承と言うと?」
女「昔、この辺りは針山氏と言う一族が治めていた土地だったそうで、その中に青玉乃介葱朗太という若者がいたそうです。彼は同じくらいの身分の許嫁がいたのですが、ふと町にやって来たときに、近くの村の衆を束ねる別の一族の女性と、恋に落ちてしまったのです。それがお辰という名の方でした。二人は大層愛し合っていたそうなのですが、共に両親の反対にあい、来世で一緒になろうと、共に池に身を投げたのです。しかし、幸か不幸か、葱朗太だけが近くを通りかかった当時の神主に助けられました。お辰はそのまま池から浮かんでこなかったそうです。悲しみにくれた葱朗太は剃髪して、お辰の供養にとその後生涯結婚されなかったということです」
レ「……で、その話が回り回って恋愛成就の神様として奉られるようになったと」
女「はい。結局は結ばれなかった二人ですが、その思いの強さが周りからも敬われるようになって。
 ……ただ、その二人が身を投げた池、地元では「辰が池」と呼ばれておりますが、その池は神社へ続く階段の脇道を下った人気のないところにあるのです。数十年前のある日、町の男性が一人行方不明になったおり、その遺体が辰が池から見つかりました。何故彼がそんなところに行ったのかと、当時も噂になりましたが、その後何件か同じような事件がおきました。しかも、被害者は皆男性で、似たような顔立ちの方ばかり。警察には全て自殺と断定されましたが、町では専らこう噂されました。被害に遭った男性は、皆、「葱朗太」に似ているのではないかと。そして被害者達で一致していることがもう1つ。それが、ちょうどこの神社を拝観していて、いなくなったということです。中には皆様同様、大人数で来られていたのに、その中から神隠しのように突然いなくなった方もいたそうです。
 そんなことが続いたものですから、町の活気が急落したのは言うまでもないことです。この状況を危惧して、神宮の方でも、様々な対策をされましたが、被害がやむことはなく。これはもう、お辰が葱朗太を探しているのだと、考えた地元の方々が神宮の近くに祠を作り、お辰の霊を供養したところ、騒動が起きる回数は極端に減りました。それでも年に数回、似たような事件が起きるようになり、この時間帯になると階段にお辰が現れて、気に入った男は拐われてしまうと、皆拝観をさけるようになりました。ただ、町の評判が下がるのは避けたいと、このことは観光の方には知らせず、噂話として囁かれる程度になりました。そのせいか、逆に心霊スポットとして、その手の話が好きな方がやってくることも増えたくらいで」
 女主人が話終わった頃には、三人の額に冷や汗が浮かんでいた。普段なら、あの三人ならどうにか対処するだろうと、もう少しは落ち着いていられたところだ。生憎、三人には落ち着くことなどできなかった。何せ、その当のお辰さんが、自分達のすぐ近くにいるのだ。そして、彼女が誰に執着しているかも……分かっている。
女「皆様はもうそんな噂話はお聞きになっていて、拝観も済まされたものだとばかり思っていて……。登って行った方々が、被害に遭われなければ良いのですが」
レ「階段を登っている途中でだけ、被害に遭うんですか?」
女「そうですね。登りきった所には、神主様方がいらっしゃいますし、そこまで行き着けば神主様が降りるのをお止めになると思います。降りるときには被害に遭われないとは思いますが、確証はないですし、四時を回るのを目安にしてから降りた方が安全なことが多いです」
プ「目安……なんですか?」
女「ちょうど、この時間帯だったらしいのです。お辰と葱朗太が、池に向かった時間が。 なのでこの時間帯が特に注意されますが、毎回毎回この時間かと言われるとそうではないのです。ただ、何故か神隠しの起こる時だけは、鳥さえ鳴き止むので、地元民はそれを目安にしています」
 そこまで言って、主人は三人の顔を見、「皆様、大丈夫でしょうか? 顔色が……」とおろおろと尋ねた。
 大丈夫ですと三人は揃って答え、心配そうな顔で「探すのを手伝いましょうか?」と言う女主人の申し出を断った。詳しくは言えないが、誰が狙われているか分かっている今の状況では、自分達だけで解決する方が早いだろう。そういう考えだった。
 代金を払って、店の外に出る。神社へと続く階段の前まで来たところで、その階段を見上げ、三人は固まった。
やはり、三人の姿はない。
レ「今更だけどさ。ハリトーとリーズの奴が走っていった時」
 レムがそう口を開いた。
レ「千段あるとかいう階段をさ、ただでさえ体力だけが取り柄のあの二人をな。追っ掛けるのは無理って、思ったんだよなぁ」
プ「それは僕も同感。しかも、お辰さんのこと監視しながらとか、もっと無理」
ス「……正直、このまま忘れていたかったです」
レ&プ「「お前はダメだろ」」
ス「……すいません」
 再度、三人は階段を見上げる。全部を登りきる必要は今更ない。途中で池に続く脇道さえ見落とさなければいいのだ。ただ、今の三人には、もう1つ大事なことがあった。それは、厄介事に向き合う覚悟だった。
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