もう少ししたら、間隔あんまり開けずにアップすることができるようになるかも、ね。
そして、もう少し暗いパートが続くよー。飽きるかもしれないけど、もう少々お付き合い願います。
第三幕 つながり
帰り道は、静かだった。ぽつぽつとある街頭の明かりと、うっすらと見える家々の明かり。暖かみのあるその色は、何故か冷え切っていたディアンの体をほんの少し温めてくれた。それでも、廊下で感じた寒気は、いつまでもディアンの体に残っていた。
「さっきから静かだが……、大丈夫かディアン?」
「兄ちゃん……。大丈夫だよ。ちょっと、寒気がするだけ」
心配そうに顔を覗き込んできたリーズにそう答えて、ディアンは笑みを見せた。実際、寒気がする以外は元気だったからだ。その回答に、そうかととりあえず納得したリーズは、「家に着いたらなんか温まるもん作るからな」と返してきた。その隣で、「それがよさそうだね」とサトもデビの方を見て言った。
「まったく、五月だっていうのに、嫌な雨だね。ジメジメするよりはいいとは言え……」
「そうだね、お兄ちゃん。でも、僕はだいぶ平気だよ。ほら、やっぱり僕、ディアンより着込んでるから」
「ダメダメ。油断は禁物だよ、デビ。季節の変わり目ってのは、一番危険なんだからさ」
「サトの言うとおりだな~。ザラちゃんは大丈夫かね~」
お気楽に呟くレムの隣に、ザラはいない。六人で一緒に家路についたはずだったが、彼は少し学校から離れてすぐ、「忘れ物した」と言って、引き返していったのだ。それを、「おう。気をつけてな~」と軽く見送ったレムだった。
「レムさん。ザラの奴は平気なのか?」
「ん~。まぁ、大丈夫だろ。お守りも持たせたしさ。それに、あんまり心配すると、ザラちゃんは怒るんだよ。子ども扱いするなって」
ハハハッとレムはまた軽く笑う。それをおいおい、と言いたげな目でリーズとサトは見る。彼らからすれば、心配せずにいられるなんて信じられないのだから当然だ。だが、ディアンにすれば、心配してほしくないっというザラの気持ちも、ほんの少し分かるところがあった。
「ハハッ。まぁ、心配するならむしろ、今日の夕飯の心配してくれよ。なんと、俺らの家は、帰っても何もないんだ、これが。ザラちゃん、怒るだろうなぁ」
「そんなん知るかよ。俺らンちだって、今から作らなきゃ何もねぇよ。なぁ、サト?」
「まぁ。作り置きはしてないしね」
「だからな。作るならついでにさ」
「お前たかる気かっ?!」
「たかるなんて言うなよ? ごちそうしてくれよ、な?」
「まぁ、いいんじゃないかい、リーズ? まずいもの作られて、苦い顔しなきゃならないザラのことを考えればさ。全部まとめて、作ってやりなよ」
「……、そういうお前は俺に全部作らせる気か?」
兄達の会話は、ディアンとデビの知らない所で進んでいく。二人は、一度顔を見合わせた。結局、二人にはマサキの、先ほどの行動の意味も、何もかも分からないことだらけだった。もとより、よく考えれば自分達は二年前の草原の戦のことも、詳しく分かっていない。被害にあった人数や、起こった日付くらいは調べれば分かるが、肝心のマサキとの関わりは全く分からないのだ。
「…・…。デビ、いいよな?」
「うん。どんな話になっても、僕、ちゃんと聞くよ」
少し嫌な想像をしてしまったのか、デビが青い顔をしてそう言う。しかし、覚悟を決めたのか、彼はディアンに向かって深く頷いた。
「だぁかぁらぁ! なんで、俺がお前ら全員分の飯作らなきゃなんねぇんだよ! 俺だって疲れてんのにぃ!」
「そんな意地悪なこというなよ、ひまわりぃ。俺がこんなに誠実に頼んでるんだぜ?」
「悪口言ってる時点で誠実じゃねぇだろっ!」
「まぁまぁリーズ。二人分作るのも、六人分作るのも一緒さ」
「作れるやつに言われるのが、一番、腹立つわっ!」
「なぁ、兄ちゃん」
「ディアン、今兄ちゃん忙しいんだよ! この腹黒どもを撃退せんと」
「別にいいじゃん、うちで一緒に晩飯食べるくらい」
「えぇっ?!」
せっかくお前を心配して言ってるのに、とうなだれるリーズを後目に、ディアンはレムとサトに近付くと、「これでいいんだよね?」と尋ねた。
「ディアンは優しいなぁ。助かるぜ。ザラちゃんにも、実はもうそうするって言っちゃってたから、ほんと助かる」
「レム、それはちょっと図々しいよ。それで、ディアン。何か言いたげだけど?」
何かな?と人好きのする笑みを浮かべてサトがディアンを見る。その眼にはいたずらっぽいものが含まれていた。
「うん。晩飯食べた後でいいからさ。二年前の草原の戦のこと、詳しく教えてほしいんだ。マサキ先生が、それにどうかかわっていたのかも」
サトとレムは一度、お互いに顔を見合わせ、目線でどうするか相談し合っていたが、ややあってそれを承諾した。
「二年前の草原の戦は、一つの誤報から始まった」
夕飯を食べ終わった後、同じテーブルにサトとディアン、そしてデビが座っていた。リーズは後片付けに奮闘しており、今はまだキッチンに引っ込んだままだ。そしてレムはと言えば、さすがにザラの帰りが遅いので、作ってもらった夕飯を片手に迎えに行くと言って、出て行ってしまった。まぁ、仕方ないだろう。少なくとも、サトさえいれば事は足りていたのだから。なんといっても、社会科の教師だ。これほどまでに詳しい人もいない。
「誤報……って?」
「国内に火影が侵入したっていうね。実際には火影は、その時にはまだ侵入してなかったんだけど。つまり、実際の侵入とはタイムラグが発生したってことさ」
「でも、その誤報がなんで戦の引き金になったんだ?」
「……。引き金と言えばおかしいかもしれないけど……。でもそれが原因で、あんな大事に至ったと言えばいいかな。僕も当時の詳しいことまでは分からないけど、この最初の誤報の時に、真っ先に現場へと急行した部隊があるんだ。竜の国、第十三番隊、通称「竜忌」。 ディアン」
サトは正面に座っていたディアンに手を差し出すと、「さっき、レスに突き付けてた写真を見せてほしい」と言った。ディアンが、ポケットに押し込んでいたそれを差し出すと、それをテーブルの上に広げ、サトは確認するように写真を見つめた。
「……やっぱり。この黒地に赤いジッパーラインの入ったコートが、当時「竜忌」のトレードマークだった。今、レスが着ているのもきっとそれなんだと思うよ」
「その「竜忌」が、真っ先に現場について、それからどうしたんだ?」
話の続きを急かすようにディアンが言う。サトが少し言いにくそうに口を閉じていると、「そこからが謎なのさ」と、作業を終えたリーズが戻ってきてそう続けた。
「謎?」
「彼らの身に何があったのか、それを知る事ができないんだ。当事者は、唯一、レスだけになってしまったからね。……ともかく、分かっている事実だけを述べれば、こうなる。「竜忌」は、竜の国でも選りすぐりの戦士を集めた特攻部隊だった。その部隊に所属していた三十二名は、レスを除いて、全員戦死した」
すべてを焼き尽くす恐ろしい業火にその身を焼かれて。
「戦場を焼いた火は、運の悪いことに草原から近くの山中へと燃え広がり、山中を避難だった村民を巻き込んで、大火事に発展した。幸い、火に囲まれる前に村民達は脱出して、こちらは死者を出さずにすんだが、多くの重軽傷者をだすことになったんだ。火の勢いは止まらず、十三番隊の誰とも連絡が付かないと分かった時には、すでに火は俺達みたいな一般の戦士じゃ消せないほどに燃え広がっていたのさ」
「マサ先生やユウイ先生、その他の上級の戦士達が懸命の消火活動を行って、どうにか消せたぐらいでね。……、もう消えた時にはみんなが諦めていた。この火に呑まれた人は全員死んだだろうってね」
「……でも、生きてたんだよな? マサキ先生が」
「……。そう。彼だけが、奇跡的に火の気が回らなかった河原まで逃げ延びていたんだ。そうなると、他にも誰か生きているんじゃないかって、みんな総出で同じ河原を探したさ。……でも、誰も見つからなかった。完全に火が消えてから、山中に踏み込んだ兵士達が見たのは、火元近くにあった、骨さえ原型を留められないくらいにまで焼かれた、「竜忌」のメンバーの遺体らしきものだったそうだよ」
ディアンの隣に座っていたデビが、青い顔をして目を伏せた。どうやら想像してしまったらしい。それに気付いたサトは話を打ち切ると、デビのそばに寄って、その背をさすりながら「大丈夫?」と尋ねた。
青い顔のまま、「大丈夫」と答えたものの、頭の中で嫌な映像を思い描いているらしいデビは、そのまま黙り込む。そんな弟に、「無理することないよ」とサトは言った。
「気分が悪いなら、横になった方がいいよ、デビ。リーズ、いいだろ?」
「あぁ。リビングのソファか、なんならベッドでもいいし」
そう言ったリーズの目が、そのままディアンへと向く。ディアンは、それには気付かない。俯いて、ひたすら何かを考えていた。いや、考えるというよりも、思い出してしまうのだ。あの時の、周囲から向けられる目。憎しみがたくさん詰まったその目は、すべて自分に向けられている。自分以外の全員が死んだと聞いて、胸が抉られたような気がした。
「ディアン?」
リーズの声がして、はっと顔を上げる。見慣れた家具と、心配そうにのぞき込んでいる顔が見えた途端、先ほどまでの気持ちは一気に引いていった。
「お前は大丈夫か? さっきからお前がやけに静かで……兄ちゃんは心配なんだが」
「だ、大丈夫だって! 確かに嫌な想像しちゃったけど、デビほどじゃないし。それで、サトさん」
デビの介抱の途中だったサトが、なんだいと顔をディアンに向ける。もう、この話をするのは嫌なんだけどなぁと言う顔をしているのをみて、ディアンは一度言葉に詰まったが、それでもこう聞いた。
「その後、マサキ先生ってどこにいたの?」
「……どこで何をしてたかってことだね? マサキ、いや、失盗レスはその事件のあと、軍に拘束されてそのまま裏切りを自白、監獄へ幽閉ということになったんだけど……」
「ゆうへい?」
「捕まって牢獄行きってこと」
「……だったら、どうして先生は外にいるの?」
青い顔のまま、デビがそう尋ねる。サトは、それは……と、言葉を詰まらせた。
「こう言うのは、とても悔しいことではあるんだけど……。分からないんだ」
「分からない?! サトさんでも?」
「ディアン、サトがなんでも知ってると思ったら大間違いだぞ? まぁ、兄ちゃんも何でかは知らないけど」
「兄ちゃんには最初から聞いてないよ」
うなだれたリーズをよそに、ディアンはサトをみる。困ったように、サトもディアンを見返した。
「……まぁ、自分の先生のことくらい、知っておきたいって気持ちは分かるよ。でもねぇ、こればっかりは僕にもどうにもできないよ、ディアン。僕らだって、マサ先生にこう言われたんだから。直接、本人に聞けって。その本人が、全くしゃべってくれないからこっちは困ってるっていうのにね」
「じゃぁ、マサ先生に聞けば分かる?」
「それに関して言うなら、マサ先生を説得できるなら、だね。正直、僕はマサ先生自身も彼のことを詳しく知らないんじゃないかと思うんだけど」
「マサ先生は、重要なことなら全部話すはずだぜ。話さないってことは、その話が重要じゃないか、もしくは情報として流せるほど確かなものじゃないかとのいずれかだ」
うなだれていたリーズがそう付け足す。彼はディアンに目を向けて、渋い顔をした。
「なぁ、ディアン。お前も、俺と同じでお節介焼きだってことは、兄ちゃんも痛いほど分かってるけどさ。今回は、止めとけ。あいつに関わるのだけは」
「兄ちゃん? なんで?」
「嫌な予感がするんだよ。勘だ、勘」
実際、お前の体調もさっきからあんまり良くなさそうだし……。
同意を求めるようにサトの方へ視線を向けながら、リーズは続ける。当のサトはデビの介抱をするのに必死でそれに気付いてはいなかったが、リーズはかまわず続けた。
「正直俺も、あんまり気分が良くないんだ。あいつを掴んだ右手が、やけに冷たくて……。まるで、ずっと氷水の中に手を突っ込んでるみたいでさ。お前も、あいつに近づいてたし、もしかしたらって」
「だ、大丈夫だよ、俺はっ! 寒くなんかないっ!」
咄嗟に嘘をついたディアンは、リーズの顔が険しくなっているのをみた。明らかに嘘をついているのがばれている。
「……そうまでして、なんでお前があいつを庇うんだ。兄ちゃんはそっちの方が気になるね! あいつになんか言われたのかっ?!」
「ちが、違うよっ! そうじゃないっ! 俺はただ……!」
そこまで言った時、今まで感じたことのない寒気に襲われた。足先から手先まで、一気に寒気が回って、体が固まってしまう。声も出なくなった。
リーズが慌ててディアンの体を支える。それに気がついて、サトとデビが振り返って自分をみる。そこまで視界に入ってところで、ディアンは意識を失った。
自由な時間は確保が難しいのです。 そんな中で、どうにか父の日編、完結させたよ~。
まぁ、タイトル通り、息抜きにでもどうぞ。
しかし、イラつきは隠せているどころか、さらなるプレッシャーを相手にかけることになっていた。部屋にいたパズとレムの二人は、今そのプレッシャーをまさに全身で受けている最中だった。せっかく座り心地の良い、くつろぎソファに腰掛けているというのに、背筋はピンと伸びたままで、気をつけの姿勢を崩さない。空気は元凶の彼の能力が影響してか、乾燥して二人の体に静電気をため込ませていた。おかげで隣あって座っていた二人は、少し近づくだけでバチッと静電気を喰らう羽目になった。
「……パズよう」
ちらりと壁の時計に目をやり、さらにイラついたらしい、正面にある書斎机の向こうにいる師に聞こえないよう、レムは隣にいるパズに声をかけた。
「なんだ?」
「いやいや。聞きたいこと、分かるだろ? まぁ一応聞くと、俺達なんでここにいるんだろうな?」
「さぁな」
「冷たいな。……いつまでこうしておけばいいんだろ」
「それは先生の気が済むまでだろう」
ツンとそれが当たり前と言わんばかりにそう言ったパズに、レムは一度溜め息をついた。もう午後の三時だ。昼前に呼び出されてからずっとこのままなので、もう空腹感は絶頂を通り越して逆に感じなくなっている。が、ピンと張りつめた空気の中、背もたれにさえもたれられない今の状況は、腰と足に非常に悪いことだけは違いない。かと言って逃げられるわけもない。レムはこういうとき、「師の思うがままに」の精神でもって、物事を肯定的に見られるパズが羨ましく思えた。
「貴様等は見たか?」
「はいっ?!」
唐突に声をかけられて、妙な声をあげてしまったレムは、隣の人物に小さく小突かれて黙り込む。代わりにとばかり、パズが「失礼ですが、何をでしょうか?」とマサに尋ねた。
「貴様等の後輩だ。白髪で、女々しく童顔で、ことあるごとに消極的発言をし、且つすぐに姿を眩ませる逃げ足の速い阿呆のことだ」
わざと悪口ばかり言って特定の人物を指すのも、彼がいらついている証拠だろう。何にせよ、レムは先生も親バカだなぁとにこやかに苦笑、パズはそれとは逆にまたかとうんざりした顔をすると二人揃って「いいえ」と答えた。
「そう言えば、珍しく今日は見てないですね。いつもなら、少なくとも一回は本読んでるとこを見るんですけど」
「奴が何か問題でも起こしたのですか?」
暢気に言ったレムの隣で、パズはそうあってほしそうにマサに尋ねる。不機嫌な部屋の主は、ぶっきらぼうに「あぁ大問題をな」と答えた。
「無断欠勤……」
「無断……えっ、無断欠勤?」
「及び一年間、なんか訳分からん状態のまま俺様を放置した罪だ」
「「……??」」
よく分からないことを言う上司に、二人は大きなクエスチョンマークを浮かべるが、相手にはもうどうでもいいらしい。とりあえず、ほったらかしにされたことで怒っているようだが、その怒りの矛先を向けるべき相手は微妙に違う気もする。
「……にしても、無断欠勤ですか? レスの奴にしては珍しいですね。確かに急に消えることはあっても、仕事に関しての連絡はちゃんとする奴でしょう?」
「……(あまり言いたくはないが、そもそも今日は休日のはず)」
「パズ、あいつは雑用だ。俺様が必要だと思えば、いついかなる時でもあいつは出勤する義務がある」
「……ごもっともで」
苦々しくパズは呟いて溜め息をつく。雑用などという身分で、それなりに頼りにされていることが分かってさらに苛立ちは募るが、それを言っても仕方ない。
「出勤しろと言ったわけではないが、来なければならんのだ、奴は」
今日はなとやたら今日を強調する師に、レムはポリポリと頬を掻いた。六月の第三日曜日……、特にこれと言った祭日ではないはずだが、何かあっただろうか。そもそも六月には祭日はないはずだ。だとすれば、マサにとってよほど大事な用がレスにあるのだろう。なんにしろ、自分達には関係なさそうだった。
「ところで、マサ先生? 俺達に何か用事があるんでしょうか? それともレスの奴を探せってことですか?」
「あん? 用事がなきゃ、呼んじゃいかんのか?」
「……いや、別に」
眉を顰めたマサに、レムは一瞬にして理解した。つまりは暇つぶしである。正確に言うならば、構ってくれる奴がいないから何か相手しろということである。
「(そういや、今日はウェン先生もユウイ先生もいないな……。お二人はほんとに非番か)」
「先生、ならば近日行われる美術館の展覧会へ、先生が寄贈された作品について、いくつかお伺いしたいことがあるのですが」
「おう、なんだ?」
「今回の作品のテーマは「壮大」ということで、海をイメージされたような青い陶器を多く寄贈されていたようですが、その中にいくつかだけ茶色を入れられたのにはやはり何かしらの意味があると思ったので自分なりにそれを解釈してみたのですが……」
同じように理解したらしいパズが、ならばとばかり始めた美術論に、マサは少し機嫌を良くしたのかのる。そのまま長々と、お互いの意見を言い始めた。
それを見て、ひとまずレムはほっと息を吐き出す。マサの機嫌が直ったなら、解放してもらえるのも時間の問題だろう。マサとパズの論議はまだ続いている。もともと、レムは論議をするほど美術が好きなわけでもない。もちろん、布や糸を使って何かを作るのは好きだが、論議に加わる気はさらさらない。仕方なく彼は、作りかけだったぬいぐるみを取り出すと糸できれいに整え始めた。
「(そういえば、リーズとサトが何かお祝いするとか言ってたなー。確か父の日だったっけ。兄貴に、父の日のお祝いは違うだろって言ったら、感謝だからいいんだよって言われたなぁ)」
もくもくと手を動かしながらレムはさらに思考する。
「(そういや、墓参りも行くって言ってたな。俺もザラちゃん連れて行かなきゃなー。父さんにたまには顔見せてあげないと。父の日なんて、俺達にできることはそれぐらい……)」
仕上げに入ったレムの手がふと止まる。ちらりとマサの方を見ると、パズとの論議はさらに白熱しているようだ。あぁ、なるほど。
「(父の日か……。先生にしてみたら、初父の日……。レスに用事ってこれのことだったんだな。でも、レスの奴は知ってるのかな……)」
緑のボタンを目の位置につける作業に戻り、レムはさらに思考する。ほんとに親バカだなぁと微笑ましく思えてくると同時に、もう少し自分達にも丸くなってくれるとありがたいのになとか思っていた彼は、次の瞬間、少し嫌な予感がした。
「(まてよ……。だとしたら先生が俺達を呼び出したのって、ほんとに暇つぶしのためか?)」
別に普段ならそこまで神経質になることではない。マサが暇つぶしに自分達を呼び出すことはよくあることだし、大概の場合、マサは部屋の掃除やら整頓やらを二人にやらせてさっさと帰すだけである。しかし、今の状況、かわいがっている(こんなことを本人の前で言ったら制裁をくらうだろうが)義息子とは連絡がつかず、父の日だというのにほったらかしにされている。見返りを、自分達に求めてきてもなんら不思議はない。加えて、こういう時のマサは理不尽にさらに拍車がかかるため、自分達が何も用意してないと知れば、たちまち怒号が飛ぶだろう。……これは、やばい。
「(パズの奴は気付いてんのか?)」
ちらりと論議中の二人を見たレムは、パズがスケッチブックをマサに見せているのを見た。そして
「ほう、確かにいい色使いだ」
「でしょう。この紫と青の色合いが、自分でもうまくいったと」
「で、くれるのか?」
「?! せ、先生がお望みならば喜んで!!」
ふむと満足そうな顔をしたマサはスケッチブックを取り上げると、ぱらぱらと他のページをめくり始める。普段、あまり歓喜することのない同僚の顔が喜びのあまり赤くなっていた。
「(……抜け駆けされた)」
どうやら偶然のことらしいが、うまく窮地を脱したらしいパズに、レムは小さく舌打ちをした。さて、マサからすれば当然のこと、次は自分の所に来るだろう。レムはただただ手を早く動かすことに集中した。
「して、レム。貴様はさっきから何を作ってるんだ?」
「はやっ!!」
「はやっ!!てなんなんだ。貴様、今日はやたらと挙動不審だぞ。何をそんなに慌ててる」
「いえいえ、別にそんなんじゃ……。それよか、ほら。俺はこれを作ってたんですよ。猫のぬいぐるみ」
「……貴様、ほんとにその趣味どうにかならんのか?」
「い、いいじゃないですか。好きなんすから」
「ん? いつもの派手な配色ではないんだな」
「え、えぇ。ちょっとは実物っぽいもんを作れってザラちゃんに怒られて。アメショっぽくしようと」
「アメショ?」
「猫の種類っすよ」
「……」
大して興味もないのか、マサはそこで口をつぐむ。元来、ぬいぐるみなんて女が持つものと考えている師からすれば、当然だろう。だが、今日だけは興味を持ってもらわなければ、自分が困る。
「で、ちょっと出来心で。この猫、なんか見てるとレスに似てるなぁって思えてきて、どうせならもう少し似せてやろうかと」
「……そうか?」
「……そうでもないですかね?」
「……」
「……」
どうも、この作戦は失敗したらしいとレムが悟った時だった。コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえ、部屋にいた三人はそちらに目を向ける。ぎぃと音を立てて扉が開き、ある人物が顔を出した。
「……やっと見つけた」
いつも通り眠たげな顔をしたレスは、部屋にいた三人に挨拶をする前にそう呟くと、疲れたと言うように溜め息をついた。
「溜め息をついている所悪いが……、今までどこで何してた、童顔!」
「……そんなに怒んないでよ。俺だってマサのこと探して、町中うろうろしてたんだから。……不審者って誤解されそうになるし」
べそを掻きそうになりながらそう言い訳するレス。マサの方は、そんな様子などお構いなく、つかつかとレスに近寄るとその頭を一度ペしっと叩きつけた。
「いたっ!」
「このバカが! なんで連絡をよこさないんだ!」
「連絡なんか、何回もしたよ。メールも送ったし、電話もしたよ。ちょっと携帯かして」
不機嫌そうなマサに、レスは不満そうに手を差し出す。マサが乱暴に携帯を突き出すと、レスはその携帯を開いてマサの目の前に突きつけた。画面は真っ暗だ。
「……なんも映ってねぇぞ」
「マサ先生、それ充電切れてませんか?」
画面が見えたレムがそういうと、マサの顔がひどく赤くなった。追撃どばかり、レスが口を開く。
「……自分はテレパシー使えるからって、携帯の充電切らすの、いい加減やめようよ。こっちから連絡しようがない」
「うるさい! ならバッジを頼りにすりゃいいだろう!」
「……たぶんだけど、バッジまた壊してない? あっちこっちにマサの印が現れたり消えたりして、すごく大変だった」
「?! えぇい、うるさい! 俺様がいる所ぐらい、感で分かれ!」
「……むちゃ言わないでよ。まさか休みの日に学校にいるなんて誰も思わないよ」
まさに理不尽の応酬、これぞマサの必殺業である。しかしながら、それさえも軽く受け流すこのできるスルースキルを持つレスにはあまり効果はないようだ。まぁ普段からハリトーやらたくみやらゼノやら、自分に不必要にからんでくる相手が多いため、これくらいは拾得しないと身が持たないのだろう。
「(なぁ、パズ。今のうちに帰っちゃだめかな、俺達)」
「俺はあの雑用に文句の一つも言わずに帰る気はさらさらない」
「声にだすなよ。俺だって言いたいことは山ほどあるが、それは後日になってもいいだろ」
ごにょごにょとレムはパズにそう言うが、パズは言葉通り動く気はないらしく、頑として立ちレスを睨みつける。そんな様子にレムは参ったなと言いたげに頭を掻いた。
「……先輩方にはご迷惑おかけしました。すいません」
パズの刺すような視線を感じたのか、レスがこちらに向かって深々と頭を下げた。それでも不服そうに顔を背けるパズとさっさと帰りたそうにしているレムに、謝るのを諦めたのかレスは相変わらずふくれっ面をしているマサの方へと向き直った。
「……とりあえず、ちゃんと贈り物は用意したから機嫌なおしてよ。はい、これ」
小さなリボン付の箱を取り出したレスは、照れくさいのか少し顔を赤くしつつ、マサに差し出した。
「…………」
「……早く受け取ってよ。差し出してる俺が馬鹿みたいじゃないか」
「…………」
「……どうぞ、貰って下さい」
「ん。そこまで言うなら貰ってやる」
満足そうに頷いたマサは箱を受け取ると、しげしげと眺め回す。
少しレスの顔がうんざりしたような呆れたような表情になるが、綺麗に包装紙を取り中身を取り出した彼に「なんだこれは?」という顔を向けられて慌てていつもの表情に戻った。
「……見た通り、指輪だけど?」
「なぜに指輪なのかと聞いている」
マサに凄まれて、レスはぼそぼそと「……その、おそろいで」と呟いた。
「お揃い?」
「ゆ、ユウイ先生の案で、何かお揃いのものでも上げれば?って言われたから」
「……」
「ゆ、指輪にしたのはなんとなくで、別に深い意味はないし……、邪魔だったらつけなくていいし」
おどおどと説明をするレス。対してマサは不審そうな表情を崩さず、黙ってレスを見下ろしている。少しの沈黙。やがて耐えきれなくなったのか、レスは小声で「だって何あげたらいいか、見当もつかなかったんだもの」と涙目で呟いた。
「ユウイ先生に当てがあるって引っ張って行かれた先がアクセサリーショップで、そこで俺の所持金で買えそうなものは指輪くらいしか……」
「お前、お揃いってことは、同じもの二つ買ったのか?」
「? ……買ったけど?」
「……そうか」
「???」
呟いたマサの顔には、何故か微かに笑みが浮かんでいる。レスが首を傾げるのには目もくれず、マサは指輪を満足そうにはめると、すっかりほったらかしにされていた弟子二人を振り返った。
「さて、では全員で飯でも食いに行くか」
「「えっ??」」
突然の発言に、豆鉄砲を喰らったかのような顔をした二人に、マサが「なんだ行かんのか?」という顔を向ける。
「いや、その、行きます! 行きますけど……」
「正直それほど所持金は……」
「……俺も。もう使い果たして所持金0だし……」
「貴様らという奴は……。俺様が、人に何も奢らん奴だと思っているのかっ?! 極めて心外だ」
赤く光る小さな宝石のついた指輪を光らせ、驚いた顔をする三人を指さしたマサは「祝いの日は、大勢で食事するに限るっ!!」と断言した。
「パズ! ヒビキを呼び出せ! レムも弟を呼んでこい。たまには俺様がいいものを食わせてやろうじゃないか」
すっかり機嫌を良くしたらしい最凶先生は、意気揚々と外へ出た。
「……お前すげぇな、レス。最凶先生の機嫌の手綱握ってるなんて」
「……そんな手綱、握りたくないですよ、レム先輩」
「……ともあれ、急いだ方がいいな。また機嫌を損ねたら、全額支払わされてもおかしくはない……」
珍しく弟子三人は、揃って一度身震いすると、上機嫌の師の後を追う。梅雨時にしては、珍しく、すっきり晴れたある夕方のことだった。
完
ってことで、終わらせました。(ドーン) 後のことはご想像にお任せします。みんなでほんとに食べに行ったのかとかね。ちなみにの後日談で一つだけ。
後日・・・・・・
レム 「そういえば、レス。お前、お揃いで指輪買ったんだよな? どんなのか見せてくれよ」
レス 「・・・・・・? いいですよ?」
首元からペンダントを引っ張り出したレスは、そこにプレートと一緒に鎖に通されている指輪を取り出す。
レム 「・・・・・・はめないのか?」
レス 「え? だって邪魔じゃないですか」
レム 「・・・・・・。へ、へぇ。お前のはついてる石は黄色なんだなぁ」
レス 「・・・・・・はい。好きな色が選べたので。あと、はめる話ですけど、ユウイ先生に「はめるならマサと出かける時に。左手の薬指にはめなきゃだめだよvv」って言われたので・・・・・・」
レム 「・・・・・・悪いことは言わない。変な誤解されたくなかったら、絶対するなよ?」
レス 「????」
パズ 「・・・・・・くだらん」(実は聞いてたパズさん)
指輪ネタは、ほんとは話中に入れたかったけど、長いし、めんどくなったのでやめた。 なんでこいつらこんなに「・・・・・・」が多いんだ。ほぼ、小さいLの方のせいだけど。
マサも、たぶん何も考えずに左手の薬指につけてそうなので。一応調べたけど、愛情を表す指が薬指か親指だったので、「親指には絶対しないだろう」と思ったんだ。ってか、贈り物に指輪選んだ時点で、はめるのは親指か小指以外の太さが大体同じな指になるんだけどさ。親指、小指なんて狙って贈らないよな。
まぁ、マサさんがどこに指輪をはめたのかも、ご自由にご想像ください。
ってわけで、一応一日すぎちゃったけど、置きに来た父の日特別編の続き。ただし、中編の下だがな。最後のおちはまだかけてません(えっ) まぁ、どうにかするよー。明日もまた仕事だけど、息抜きにポチポチやってやるさー。
「全く、本当呆れた義親子ね。お互い、もっと素直にならなきゃだめよ、レス先生」
「……あぁ、でも」
「最初なんですから、少しぐらい高価なものをあげた方がいいですよ。さすがに、マサ先生が可愛そうですし」
「まぁ、それ以前に教える本人がちゃんとした情報を伝える努力が必要だと思うけどな」
「初めての父の日かぁ~。そういや、マサ先生の様子が最近おかしいってユウイ先生、はしゃいでたよな」
「だぁ~ってさ。マサったら、面白いんだもん。普段見ないカレンダーの紙をめくって、難しい顔しながら「父の日」の日付睨みつけてるんだよ? 最高だと思うでしょ」
岩山雑貨店を一度後にした五人は、何故か一人増えていたが、商店街から少し離れた小さな公園でアイスを頬張りながら口々に呟いていた。ユウイの一言に、他生徒達は確かに面白そうだと賛同の声を上げるが、一人、レスだけは苦い顔をしてそのユウイを見つめていた。
「マサはねぇ、普段いじめる側なだけに、そうやってそわそわしている所を誰にも見られたくないんだけど、そういう時だけはお得意の感知能力もお粗末になるのか、全部筒抜けなんだよね。それを一生懸命隠そうとして隠しきれてない。そのぎこちない感じが、僕は最高に面白いと思うんだけど……。 レス? もしかしてこの話やめた方がいい? 正直、義父のそういう話されてて恥ずかしいとかある?」
「……いや……、その前になんでユウイ先生がここに? あと、もう一つ。どうして、俺がアイス奢ってるんですか? しかも自分の分はないし」
「まぁまぁ、そんなのどうでもいいじゃない☆ ちなみに、レスが自分のアイス買えなかったのは、僕が無駄に高い値段のアイスを買ったからでした(てへっ) レスってば、本当にお金持ってないね」
「……一番重要なところの答えがないんですが……。(あと、そう思うんなら払わせないでください)」
呆れ半分、諦め半分に呟いたレスは、そっと財布を開く。正直、本当にお金がない。マサにプレゼントする分はカードやらなんやらで誤魔化すことができるとしても、これは生活費としてピンチである。
「? どうした、先生? もしかして、金全部なくなったのか?」
冗談半分に笑顔を浮かべてディアンがそう言う。レスは「うん」と一言だけ答えた。その答えに、周りの五人はさっと固まる。
「ちょい待ち。レス、ほんとにお金ないの?」
「……給料日までの生活費のことを考えると、ないに等しいですね。今月はあと十冊、本買う予定がありますし」
「本買うのを諦めろよ、そこは」
「……俺、活字中毒だから無理。食事と読書なら読書を取る」
「そこは食事を取らなきゃ駄目でしょ! お母さん、怒るよ!」
「……お母さんって?」
ちゃっかり割烹着に早着替えして、そう叫ぶユウイにレスは一応突っ込んでみる。突っ込んだ所で、小さな上司の三文芝居が終わらないのは目に見えたことではあるが、そこはなんとなく突っ込まなきゃ駄目だろうという気遣いである。案の定、ユウイはどこからともなくしゃもじを取り出すと、「あなたがそんな不健康なことするから! お父さん、心配で禿げてきてるんだからね!」と、台詞を叫ぶ。叫ぶと同時に、しゃもじでレスの頭をパシパシ叩き始めた。
「いたたたたっ!」
「この本の虫! 引きこもり! 親不孝者!」
「ゆ、ユウイ先生! やり過ぎですよ!」
「いや、もういいよ、デビ。この人、楽しんでやってるから止めても無駄だ」
手にしていた財布でしゃもじ攻撃を防ぎながら、唯一止めに入ってきてくれたデビにレスはそう言う。ほかの三人はというと、また始まったという顔をして、気にする様子もなくアイスを食べ続けていた。
「まぁ、何にせよ。レス先生? お金ないなら、貸してあげてもいいですよ(にっこり)」
「「「(出た、悪魔の微笑み)」」」
隙を見て、ユウイのしゃもじ攻撃を避け、殆ど同じ背丈の上司からしゃもじを奪おうと奮闘しているレスに、そうレイから提案が出される。その子悪魔のような微笑を、主人公三人は「悪魔の微笑み」と名づけていた。ようは、それだけ後が怖いのである。
「……いや、お前から借りるのは後々が怖いから止めとく」
無論、レスもそのことは重々承知しているので、彼は彼なりの即答を返した。そしてまたも、降りかかってくるしゃもじ攻撃を避けるためそちらに気を移したその時だった。
グイッと彼の片手は誰かによって引き寄せられ、その手に無理やり何かを握らされる。レイがにっこりと、また悪魔の微笑みを自分に向けているのが目に入り、レスは自分の手が握っているものへと目を落とした。
「……え? 何で一万リン?」
「利子二倍返しで返してくださいねv もちろん、お礼はそれ以上でもいいですよvv」
「……いやいや、借りないって言ったよね?」
「借りなきゃさっきの話、マサ先生に言いますよ? 適当に流してたなんて知ったら、マサ先生、どんな顔するかしら?(笑)」
「……それは脅迫か? 残念だが、そんなことはマサにはすでにお見通しだ。そもそも、俺、やる気ないのがデフォルメだから」
「あ~ら、なら全校生徒に、レス先生が職員室の机にエロ本隠してることばらす?」
「!! ちがっ、あれはゼノが……」
「でも、どうせ一緒になって見たりするんでしょ? 先生ってば意外にむっつ」
「わー! わー! 借ります! 喜んで利子二倍返しさせてもらいます!」
「……それだけ?」
「……さ、三倍で勘弁してください」
「ん~、ちょっと不服だけど、レス先生からはそれ以上搾り取れそうにないわねぇ。まっ、今回はそれで許してあ・げ・るv まいどあり~vv」
見事なレイの誘導(脅迫)に、すっかり置いてけぼりの主人公三人は、うわ~と恐怖の色を顔に浮かべる。それと同時に、いつもならかわいそうに見えるレスには白い目を向けてしまう三人だった。
「先生、あのオッサン(ゼノ)に影響受けすぎるなよ?」
「お前があんなになったら、俺は本気でお前のこと軽蔑するからな」
「先生、公共のルール分かってますよね?」
「お前等まで! 違うよ! 僕、そんなの見たりしてない!(泣)」
「これだから、君は駄目なんだよ、レス。 こういう時は胸張って、「健全な男子ですが、それが何か?!」ぐらい言わなきゃ(笑)」
「……(泣)」(もはや何かを言うどころじゃない)
いつの間にか、お母さんモードも解けたユウイがケロリとした顔で言う。「そこは上司として注意した方がいいんじゃないですか?」とデビの質問が飛ぶが、ユウイは平然とした顔で、「あれぐらいの年の子なら普通だよ。むしろ、レスが普通の子だと分かってちょっと安心した」とにっこりした笑顔を返した。「見てないのに……」と、レスが涙目になりながらいじけていた時だ。
「お、いたいた! 先生!」
曲がり角を曲がり、大声で手を振りながら庚申タクミが現れたのは、そんな状況の中だった。いつもの赤い鉢巻に、両手首に黒のリストバンドをつけ、ラフなジャージ姿での登場である。
「あっ、タクミ~。よくここが分かったね」
「そこで花火さんに、幸薄そうな銀髪の奴が買い物しに来なかったか聞いたら、快くここだって教えてくれました」
楽しそうに笑顔でタクミはそう言うと、「よっ! 久しぶり!」と後ろにいたディアン達にも声を掛けた。
「元気してたか?」
「それなりに!」
「お前、相変わらず元気だな、ディアン! あれ? レスの奴の姿が見えませんけど? てか、なんでディアン達が?」
「僕達、さっき偶然レス先生に会って。僕達も買い物中だったので、合流したんです。レス先生なら、あっちの端でいじいじしてます」
「うおっ!」
デビがそう言って指差した先を見たタクミは、公園の一番隅でいじいじと地面に円を描いているレスを見つけて、思わず声を上げた。なんであんなことにといった顔に、ユウイが「まぁ色々あってねぇ☆」と笑顔を向けた。その後ろでレイも意地悪い笑顔を浮かべているが、タクミはそれには気付かない。とにかく、彼はレスに用があるので隅まで行くと、ずるずると引きずるようにレスを連れ戻ってきた。
「ったく、なんで買い物しててこんなことになるんだよ? なんだよ、何泣いてんだ?」
「……タクミ、僕、エロ本なんて読んでないよね?(泣)」
「何の話?!」
「僕の職員室の机にあるエロ本は! ゼノの奴が勝手に置いてるだけだよね?(泣)」
「? え? 何、お前もしかして間違って読んだのか?」
「! もう死んでやる!」(わーっ)
「えぇー?! ちょまっ! 分かった! 分かったから! 一度、落ち着け! なっ?」
「「「「(レス先生が壊れた……)」」」」
「(レスがパニクルなんて珍しー☆ 後でマサに見せてあげよっとv)」
いつもは無表情な教師の異常な混乱具合に、唖然とする生徒達だった。一方で、上司はそんな面白い状況を携帯ビデオに収めつつ楽しんでいたのだが、当の二人がこれを知る由もない。結局、タクミがレスの無実を証明するまで、彼の混乱は収まらず、気がついた時にはすでに夕刻だった。
「もう、レス先生ったら、そんなに泣かなくてもいいじゃないですかっ! 先生がおじ様みたいに、好色じゃないことは皆分かってますよ!」
「……すまん」
レイの言葉に、フードを深くかぶりながらレスはそう謝罪した。さすがに恥ずかしいのか、泣きはらした目を隠したいのだろう。
「まぁ、ゼノの奴と一緒にされたくないっていう、レスの気持ちも分からなくはないけどなー」
「タクミは似たようなもんじゃない?」
「えぇ?!」
「そんなことより、プレゼント買わなくていいんですか?」
デビの声で正気に戻った大人達はどうしようかと首を傾げた。約束の日曜はもう明日である。さすがに手ぶらで帰っては、あのツンデレな父親はヘソを曲げるだろう。う~んと悩む大人達をよそに、自分が買わなければいけないことなどすっかり忘れたディアンが、「そもそも、先生は何を買う気だったんだよ?」と泣きはらした顔を隠そうとしているレスを見上げながら言った。
「ハナビさんの店に行ったのは正解だと思うけど。マサ先生の好きなものってなんだよ?」
「……それ言われると、俺も何を買う気だったのか分からないな。……、何買うつもりだったんだっけ?」
「お前、もう少し計画を持って行動しろよ。今まで何やってたんだ?」
「……適当に見て廻ってた」
「エヘン。そのために僕が来てあげたんだよ☆」
まかせなさいとばかり、ユウイは胸を叩くと、意気揚々と先に歩き始めた。
やりたい放題のあの人と意味があるのかわからないその弟子登場。さてはて、本当にプレゼントは渡せるのかってか、買えるのか。そしてキャラ崩壊しかけている根暗先生は、どうして本編では動いてくれないのでしょうか。うん、私のせいだね。どうにかするよ。 次回で完結させます。
を歩いて、簿記の試験から帰ってきました。紫陽花です。簿記死んだ。70点とか無理です、某課長お許しを。
もう六月も半分近く経ったね。ついにまた一つ歳を取り、ついでにうちの犬も、昨日で一歳になりました。まだまだやんちゃざかりです。もうそのままずっといてくれ、と願わんばかりです。(親ばか)
親ばかといえば、前回の続きを載せていくよ~。やっぱ長いから中編入れることにしたよ。今回はほぼ子供達が出張ってます。 また前置き長くなりそうなので、今日はこれぐらいで。
本編に比べるとレッスーがほのぼのボケボケしてますね。いつになったら、こんな風に本編でもしゃべれるようになるのやら……。私の時間とやる気次第ですね、頑張る。まだまだ続きます。
六月ですなー。もうすぐ、また一つ歳をとるよー。梅雨入りしたって言ってたけど、今日なんかは晴れてたし、久しぶりに雨じゃない誕生日を迎えられるかもしれないな(笑
やっとこさ本業のうどん打ちを先週やりました。腕と腰が痛い! 上司に言わせると、それはまだまだ序の口らしいです。数こなして慣れろ!だそうです。まぁ、たったの三日である程度まで打てるようになったんだからすごいよねっていうただの自慢話でした。
今月の休日が分かったのでまた載せときます。 それと、せっかくの六月、父の日なので私の大好きなあの義親子のお話を載せていくよー。今回はちゃんと子供らも大活躍!……してるはず。
続けて「父の日とプレゼント」。うん、本編とは全く関係のない妄想の産物です。別物として考えてもらって結構です。たぶん実際は、こんなに気にしたりとかしてません。相変わらず前置きが長い。
「父の日とプレゼント」
厚い雲に覆われた空から、ほんの少し太陽が顔をだしていた。どんよりとしたという表現が似合う、六月のある日のこと。忙しそうに書類を整理する音と、軽快な音楽が隣から聞こえてくる部屋で、部屋の主・超音マサは、日めくりカレンダーの前に立っていた。五枚ほどそのカレンダーをめくり、現れた日付にいつもは厳格そうなその表情を少し緩める。かと思うと、パッとカレンダーの前から離れて椅子に座り、おもむろに机の上から書類を取り出すと一心不乱にそれを読み始めた。それから少しして、両隣の扉からコンコンとノックの音が響くと、それぞれのドアから二人の男が顔を出した。
なんか三馬鹿は気づけばいつでもお茶してる雰囲気がある。むしろ常に菓子食べてない?ってぐらいの勢いで食べてる気がする。いい年したおっさんなのに。まだまだ続くぞ、父の日特別編。ここから少しの間は、子供達のターンです。もしかしたら中編入ることになるかもよー。
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