紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
昨日言ってた第六幕です。面白いかどうかといわれれば、あんまり面白くないかも。自信ない。
でもやっとここまで書き直せたし、これから先の展開はだいぶ決まってるからさくさくいけるような気がする……。 授業始まる前に、次の七幕くらいはupしたいな……。
でもやっとここまで書き直せたし、これから先の展開はだいぶ決まってるからさくさくいけるような気がする……。 授業始まる前に、次の七幕くらいはupしたいな……。
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第六幕 喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない
彼らが去った後、ディアン達は呆然の突っ立っていた。と言うのも、最後にピードが角を曲がり、姿を消した途端、彼らの前の景色がたちまち変わったからである。気がつけば目の前にあったはずの道は壁に塞がれていて、後ろに伸びていた道は、T字路に変化していた。
そして、それとともに、彼らの脳裏にはピードの最後の言葉が回っていた。鸚鵡に……、何か得体の知れない力があるって?
「つついいたり、ひっかいたりするだけだったのに?」
ディアンがそうつぶやくと、ザラもうーんと首を捻った。それが得体の知れない力だというのは、微妙に違う気もする。では一体、ピード達は何を見たのだろうか……。
「やっぱり、鸚鵡に何かあるのかもしれねぇな。となると、鸚鵡を探して調べたほうが良さそうだ」
ザラの言葉にデビも、そう言えばと首を傾げた。
「どうして群れてるのが鸚鵡だけなのかな? いやまぁ、現段階での話になるけど群れる、集団でいるなら闘鶏……というか、鶏の方があり得るんじゃないかと思うんだ」
「……もしかしたら、見張りの役目は鸚鵡なのかもしれねぇな」
「見張りってなんだよ?」
「空中から生徒を監視する。その役目。つまりは、ここでの状況を超音に伝える役割だ」
それならば、何匹もいた方が効率がよく、且つ広いエリアを見て回る必要がある……。そのためには、長時間飛べない闘鶏よりも、鸚鵡の方がいいだろうし、数は増やせばいい。ザラはそこで時計台へと顔を向けると、一度チッと舌打ちした。
「もう十一時か……。時間はねぇが、鸚鵡が何かしらヒントを持っている確立は高い。急いで南のエリアに行くぞ!」
「さっきの白デカ鳥は?」
「放っとけ今は! デビ、地図だ」
「うん!」
広辞苑に挟んでいた地図を広げ、デビはまず地図がきちんと書き換えられていることに驚いた。そして、目で現在地から南へ抜ける道を探す。彼の目がいくつものルートを追っていき、行き止まりに当たってはすぐ違うルートを導きだす。やがて、南に抜けるルートを見つけたのか、デビは声を上げた。
「ここから一度広場に出た方が近いかも」
「広場?」
「うん。時計台のちょうど真下になるんだけど、大きく開けた場所があるんだ。そこから、南に下るのが一番早いルートかな」
まず左に行って……と説明し始めたデビに従い、三人は広場へ向かって走り出した。あまりに急いでいたので、後ろから誰かがそれを追っていることにはまったく気づいていなかった。
少し時間、戻って十時半頃……。
「さぁ、これで合格よ!」
そう言ってレイは嬉しそうに後ろの二人を振り返った。チーム一〇の、レイと同じメンバーの二人はそれぞれに良かったと胸を撫で下ろしている。
「いろいろあって大変だったけど、合格できて何よりだっぺな!」
「本当に……、本当に良かった……」
帽子を目深にかぶった背の低い少年の隣で、大粒の涙を流しながら金髪の少女が言う。放っておくと、そのままその場に座り込んで泣き続けそうなその泣き顔に、レイは慌てたように彼女の服の袖を引っ張った。
「ほら、リコ姉。早く行かないと、出口閉じちゃうかも! 急ぎましょう! 泣くのは後!」
「うん、うん。そうね」
手を引かれて歩きながら、尚もそう言って泣き続けるリコ姉と呼ばれた少女の後ろに、帽子を目深にかぶった少年が続く。通路の先に現れた、大きな門を目指して走りながら、レイは「ディアンは合格できたのかしら」と思っていた。自分よりも意気込んでいたディアンが、今どこでどうしているかは分からないが、「とにかく頑張りなさいよ」と彼女は心の中からそうエールを送って、門をくぐり現実世界へと帰っていった。
そしてそのディアン……。現在時間は十一時半。レイ達の班が合格してから一時間後、彼らは中央の広場にいた。三人は中央の時計台の下で一度地図を広げ、ここから南の出口への通路を確認している途中だった。
「じゃぁ、ここからは……」
「まっすぐ行って、右に曲がってそこから右、左、左、右に行ってまたまっすぐで、それから」
鉛筆でこれから行くルートをなぞりながら唱えるデビを見ながらディアンも復唱するが、すぐに右と左がこんがらがって難しい顔をする羽目になった。また見直して同じはめに陥るを繰り返しているディアンを見て、ほかの二人は呆れた様にため息をついた。
「どうせ覚えるのは無理だ。確認できたんだし、急ぐぞ。あと三十分しかない」
ザラの言葉に急いで二人は立ち上がると、南へと繋がる通路へと走って向かう。最後に地図を持ったデビが通路に入りかけた時、ひょいと誰かの足が通路に飛び出してデビの足を引っ掛けた。
「! うわっ!」
前方に大きくこけたデビは、とれてしまったメガネをかけ直してから自分の手に地図がないことに気づいた。「大丈夫か?」と声を上げながら、ディアンが走って戻ってくる。
「大丈夫か、デビ?」
「うん。けど、地図が……」
「おい、何やってんだ!」
先に進んでいたザラがそう怒声を上げる。だが、二人はどうしようという顔をしたまま、一向にこちらに走ってこないのだ。仕方がないので、ザラは渋々二人の下へと向かう。
「なんだってんだよ?」
「地図がねぇんだ……」
「はぁ?」
「ごめん。 僕がこけた時に、うっかり落としちゃったみたいで」
申し訳なさそうな顔をしてザラに謝った後、「急いで探すから」と言ってデビは再び地図を探すために中腰になる。それを見たディアンも、一緒になって探すが、地図はどこにも見当たらない。
「……いい加減にしろよ」
低い声が背後から聞こえたので、二人は後ろを振り向いてみる。ザラが顔を怒りに歪ませて、デビを睨み付けていた。それをみて、デビが一歩後ずさる。ザラは益々顔を歪ませた。
「鳥に銜えられるわ、地図は落とすわ……、てめぇのせいでどれだけタイムロスしてっと思ってんだ! 足ひっぱりやがって!」
「この役立たず!」とデビに向けてザラが言い放つ。時間がないという焦燥感と、頂点に達してしまった不満とが彼にそう言わせているのだ。
強く握られた拳を見て、デビは泣いてしまいそうになるのを隠すため、下を向く。謝っても、償えないと言うことは分かっている。自分の失敗のせいで、自分はともかくディアンやザラの夢は潰れてしまうのだ。ザラが怒って自分を殴っても、それは当然のことなのだ。しかし、それを自分が一番恐れていることも事実……。
「役立たずはねぇだろ、ザラ! デビは頑張ってんだろ!」
「……ディアン?」
「頑張ってたらいいってもんじゃないだろうがよ!」
殴られることを覚悟していたデビと怒り心頭のザラの間に、ディアンが割ってはいる。てっきりディアンにも責められると思っていたデビは驚くしかなかった。
「地図のルートで一番時間がかかんないルートを見つけたのはデビだ。デビが役に立ってないって言うのは間違ってる!」
「そのことを考慮しても、足ひっぱてる方が断然多いっつってんだ! そいつが足ひっぱるせいで、俺も、お前も合格できないかもしれねぇってことがわかんねぇのか?!」
「『かもしれねぇ』だろ! ならまだ決まったわけじゃない!」
二人がそれぞれを睨み合って口を閉じる。これはいつもと同じただの口喧嘩ではない。それどころか危機だ。チームが崩壊する、その寸前……。
ディアンにも、それは分かっていた。自分が口を挟めば余計にことが深刻化することも。けれど体が勝手に動いていた。生まれた時から一緒と言っても過言ではない相方を、ディアンは見殺しにすることができなかったのだ。だからと言って、この状況は非常に良くない……。ディアンは、ザラを睨み付けたままどうしようかと考え始めた。このままじゃ、本当に……合格できなくなるかもしれない……。そんな気がした。
「おやおや、仲間割れかい?」
聞いたことのない声が、後方から聞こえ三人はそちらに目を向ける。見たことのない三人組が嫌味を含んだ笑顔をこちらに向けている。その手にある地図からして、自分たちと同じように南に向かうチームであることが予想できた。
「時間も少ないのに、いいのかなぁ? 足手まとい君がいると大変だね~」
「まぁ、俺たちには関係ないけどな!」
ヒヒヒヒヒと笑いながら、その三人はディアン達の隣を走り抜けると「お先~」と手を振りながら行ってしまった。その背中を、ザラは恨めしそうに睨み付ける。
「……本当にごめん……。僕……、足手まといにしかならなくて……」
今から迷ってたりしたら、間に合わないのに……。
肩を落として泣き始めたデビに、ディアンは「大丈夫だって! デビ、記憶力いいんだから、思い出したら大丈夫だって!」と慰めている。ザラは背を向けて、やはり三人が行った方を睨み付けていた。
「……ザラ、もういいだろ! デビは悪気があってやったわけじゃねぇんだ! まだ間に合うかも知れねぇ! 進もうぜ! ザラ?」
ディアンがそう言うとザラが、顔に手を持って行き、まるで流れた涙を拭うようなしぐさを見せた。まさか、ザラが……泣いているのか?
「……、なんだよぉ、ザラまで泣くなよな! 俺まで泣きそうになるじゃんか」
「誰が泣くか! ちげぇよ!」
再び怒りに顔を歪ませてザラがディアンを振り返る。その顔には泣いた後などない。代わりに盛大に歯軋りをするザラに、ディアンは訳が分からず立ちすくむ。泣いているデビの腕をザラが引っ張るのを見て、ディアンは急いで止めるために大声を上げた。
「な、暴力するな! デビは暴力振るわれるのが嫌いなんだ!」
「ちげぇよ! さっきのやつ等追いかけんだ!」
ディアンは再び訳が分からなくなって立ち尽くし、デビは下に向けていた顔をザラに向けた。「急げ!」と、ザラがそんな二人を急き立てる。
「ちょ、ちょっと待てよ、ザラ! どういうことなのか、説明しろよ!」
「さっきのやつ等、地図を二つもってやがったんだ! 最初、見間違いかとも思ったが違う! 奴ら、もう一つ地図を隠し持ってやがった!」
「え? もしかして……」
「あぁ。あいつらのと、お前が鉛筆でルートなぞった俺らの地図だよ! あいつ等人の地図盗みやがったんだ!」
走るぞ! と号令をかけてザラが先頭に立ち、走り出す。ディアンとデビは急いでその後を追った。一つ目の角に出たところで三人は止まって、先ほどの三人の姿を探すが、やはりその姿はなかった。これでは追いかけることもできない。
「チッ」
「ザラ、もしかしてあいつ等……」
「あぁ。俺達の後つけて、俺等がゴールしそうになったら妨害するか、一緒に入り込むかする気だったんだろうな。 畜生!」
後をつけられてたなんて気づかなかった。とザラは呟くと、デビを見る。今度は遅れることなくついてきていた彼を見て、ザラは頭を下げると「すまん」と謝罪した。
「……、そ、そんなザラいいよ。地図を取られたのは僕のせいなんだから!」
「取られたのと、失くしたのじゃ違うだろ? もしかしたら、お前がこけたのもあいつらのせいだったのかも知れないんだぜ? だとしたら、それはお前の責任じゃなく、やつ等が責任をとるべきだ」
役立たず呼ばわりしてすまなかったとザラが再度謝罪すると、少しの間黙ったデビだったがややあって、僕こそごめんねと言って笑顔をザラに見せた。
「よっしゃー! あいつ等追っかけるぞ!」
仲直りした二人を見て、ディアンが思い切り叫ぶ。チーム崩壊の危機が去って、無償に叫びたくなったのだ。先ほど思った、「合格できないかも」と言う考えが嘘のように消えて、今は「絶対に合格できる、いや、する!」という思いに変わっていた。
「それができないから、こうして止まってんだろ、マヌケ」
その思いを折るようにザラがズビシッと言い放ち、出鼻を挫かれたディアンは、その場に反動で倒れこむ。……やっぱり、ザラのことは好きになれそうにない……。
「最初に曲がる方向は……、右だったか?」
「違うぞ、ザラ。左だ!」
「右だろ?」
「左!」
案の定、口喧嘩になってしまった。
その様子にデビは口元を綻ばせる。元に戻ったのだ……。なんだか、それが無償に嬉しかった。……今はまだ、自分が戦士になりたいかどうかは決められない。けど、僕は――。
「待って、二人とも。僕に……、任せてくれない?」
喧嘩の最中だった二人がデビを見る。分かったと、二人は承諾するとデビが目を閉じて、懸命に思い出そうとする様子を見守っていた。少しでも合っているルートを思い出してもらうために、私語はせず、静かにデビが目を開けるのを待っていた。 そして……
「……たぶんだけど、最初は右だよ」
「その先も思い出せたか?」
「うん。とりあえず……」
とりあえずでもなんでも上出来だとザラは言うと、デビの指示通り右に曲がって歩き出す。「やったな、デビ!」とデビの肩をバンバン叩きながら、ディアンが続く。ニコニコとした笑顔でそう言ってきたディアンに、デビが「ありがとう」と返すと、ディアンはなんで? と言うように首を傾げたのだった。
その後、三人はデビが出す指示通りに角を曲がり、ちゃくちゃくと歩を進めていた。と、不意にゴーン、ゴーンと言う鐘の音が鳴り、三人が何事かと時計台に目をやると、長い針が九を指していた。
「試験終了十五分前を告げる合図ってことか。 本格的にいそがねぇとな」
「デビ、あといくつ角曲がるんだ?」
「あと、三つくらいかな。合ってれば……」
よっしゃー!とその言葉に励まされたのか、ディアンが奇声を上げて走り出す。角に到着すると、「どっち?」とデビを振り返るその様子に、「本当の役立たずはあいつだったな」とザラは呆れたように呟いた。
「ん?」
デビに言われたとおり、左に曲がったディアンは向こうから何かが走ってくるのを見て立ち止まった。あれは……。
「さっきのやつ等だ!」
その声に後から曲がってきた二人も反応する。確かに前方から先ほどの嫌味な三人がすごい勢いで走ってきていた。しかし、その後ろには赤い大きなものが見えた。何かに、追われているようだ。まだ小さいが、何か音も聞こえる。あれは……
「鸚鵡だ!」
ザラが叫ぶと、なんの音か分からなかった音がやっとディアンの耳に鳥の羽音として聞こえてきた。たくさんの赤に囲まれたあの時を思い出す。赤と嘴と、爪しか見えなかった世界……。このままここにいたら、確実にまたあの赤に囲まれてしまう。
「どうしよう、ザラ? 引き返す?」
「いや、あいつ等が同じ方向に来たら同じだ」
「じゃぁ、どうすんだよ! 俺、もう嫌だぜ! 囲まれるの!」
あれはお前が勝手に突っ込んだんだろ! とザラが叫び返すのさえ聞き取りづらくなるほど羽音が近づいてきた。本当に、これはピンチだ。諦めて引き返すか……。その時、ディアンはある物の存在に気がついた。右側の壁に、大きな穴が開いていたのだ。これってもしかして……。
「どうしよう! やっぱ引き返すしか……」
デビが泣き声にも似た声を上げたとき、その服の裾をディアンはひっぱると「こっちだ!」と穴を指差した。ピンと来たのか、ザラもパニックに落ちかけているデビを穴の奥に押し込んだ。羽音が大きくなってきた。その中に、人間の叫び声らしいものも微かに聞こえる。穴を潜り抜けた三人は、穴の両脇から通路の様子を見ていた。だんだんと、近づいてくるのが音の大きさで分かる。そして、ギャーという叫び声が一瞬だけ聞こえた後、バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサババサババサバササッ!!!
鼓膜を破らんばかりの、大きな音だった。バサバサなんて聞こえるのは最初だけ。後は、その音がたくさんかぶって文字じゃ表しきれないような音になっていた。目の前は一瞬にして赤一色となり、また一瞬にしてレンガの赤茶と、土の茶色、そして空の黒色とに戻った。自分たちを追ってきたときの数とは、桁外れに多い鸚鵡が、あの三人を追いかけていたのだ。はっきりと見てはいなくても、音と視界だけでそれが十分に判った。巻き込まれていたら、ただでは済まなかっただろう。
「……助かった……」
「こいつは……、鷲の奴が開けた穴か……」
放心状態になって呟くデビを尻目に、ザラが穴の表面を見てそう呟く。それは北エリアで見た、鷲が開けた穴とよく似ていた。
「もしかして……、鳥が一匹ずつ一つのエリアを守るとか、別に決まってたわけじゃないってのか……」
「ま、とりあえず助かった!」
「ディアン、よくこの穴見つけたね……」
「ま、まぁな! 俺だって、やる時はやるんだぜ!」
誉められて顔を赤くしたディアンは、それよりも早く行こう! と二人を引っ張り、ゴールを目指して歩き始めた。
次に出た角を左へ。そして、その次の角を右へ。曲がりきった三人の眼前には、あの四体の像と行き止まり。ここは迷路が形を変える前と変わっていない。どうにかタイムオーバーする前に、ここまでたどり着けた。問題は、ここからである。鸚鵡を調べるのは先ほどの集団行動を見て不可能に近いと分かった今は、像を調べて答えを見つけ出さなければ合格できない。いや、それ以前に読みが外れていれば不合格だろう。だが今は、これにかけるしかなかった。
三人はゆっくりと像へ歩み寄ると、鸚鵡の像を調べ始めた。ついでに他の鳥の像も調べたが、大きさが違う以外は特に変わった所は見られない。
「ザラー、何も見つからないぞ?」
「……外れだったか……」
「そうだとしたらもう、時間は……」
もっとタイルの方とかもよく見てみるんだとザラが二人に告げ、三人は再び像を調べ始める。ディアンはタイルをじっと見た。黒、青、赤、白をしたタイルは土をかぶったのか、所々茶色い砂で汚れている。黒は特に目立っていないが、白は特に顕著だ。 ……ん? ディアンは白のタイルと赤のタイルをそれぞれ見比べ始めた。何かが違った。汚れ方が……。白のタイルは像の輪郭に沿って、土の線がついている。赤は、その線が微妙に……ずれてるような……。
「ザラ! これ、見てくれよ」
「どうした?」
「これ、土の跡二重になってねぇか?」
「?」
ディアンに言われた箇所を見るため、ザラが座り込む。そして、うーんと唸るとその体を起こした。その様子にデビが「どうしたの?」と尋ねると、ザラはもしかしてと鸚鵡の像を見上げた。
「……動かせんのか、これ……」
「えっ?」
そう呟いたザラにディアンとデビは同時に驚きの声を上げる。試しに、他の像もちょっと見てみるか……と、ザラは隣にあった孔雀の像を押してみた。すると、スッ。ほんの少しだが、像が動いた。
「お、動くんだ。……でも、俺が最初持ち上げようとした時はうんともすんとも」
「それは持ち上げようとしたから余計だったんだろ。いくつかのタイルの淵には、土が少しだが盛り上がってるところがあるし、この中の像のどれかをタイルの上から動かせば、もしかしたら合格できるのかも知れねぇ」
ポンポンと鸚鵡の像をザラが手で軽く叩きながらそう言う。じゃぁ後は、どの像かってことだねとデビが言った。
「もうここまできたら鸚鵡なんじゃない? 像もこれだけ大きいし」
「……俺もそう思いたいが、根拠がねぇだろ?」
「根拠なんか気にせず、やっちまおうぜ。 もう時間ねぇし」
そうディアンは言うと、時計台へと目を向ける。試験終了まであと十分を切っていた。不服そうな顔をザラは一瞬にすると、しゃーないかとばかりため息をついて像に手をかけた。その時だ。バサバサッ。何かが三人の頭上で羽ばたく音が聞こえた。あまり聞きたくはない音だ。バサバサッ。そっと顔を上げた三人は、そこに赤い鸚鵡が一羽いるのを見た。最初に見た、あの一回り小さい鸚鵡である。三人と目があった鸚鵡は、一度空中で一回転すると三人に向かって急降下してきた。鋭くとがった嘴の先を、三人に向け勢いをつけて文字通り飛び掛ってくる鸚鵡を避けるため、三人は像から一度離れる。鸚鵡は避けられたと知るや、また一回転して地面に着地した。
「てめぇ、あの時はよくもやってくれたな! チビオウム!」
ディアンが大声でそう叫ぶと、それに返すように鸚鵡は「アアァ」と声を上げた。それから笑うように「ケケケケケケ」と鳴き声を上げる。バカにしやがってと意気込むディアンの前で、鸚鵡はまた一回転した。そして、またもすごい勢いで三人に向かって飛び掛ってきた。狙いは、真ん中に立っているザラだ。分かっているのにわざわざ当たってやる必要はないとばかり、ザラは横に避けようとパッと移動する。すると、また鸚鵡が空中で一回転したかと思うと、今度は足を突き出して蹴りかかってきたのだ。
突然の方向転換に、ザラは足元をすべらせて仰向けに転倒する。が、そのおかげで鸚鵡の蹴りを回避することができ、鸚鵡はそのまま壁へと突っ込んでいく。
「ラッキー! そのまま壁に激突しやがれ、チビオウム!」
ディアンがそう叫ぶと、一瞬鸚鵡がニヤリと笑ったように見えた。壁がいよいよ迫ってくると、鸚鵡はまたも空中で一回転した。すると、うまい具合に壁に足が着き、そこから足で壁を蹴って飛び上がると、まるで三人をあざ笑うかのように空中に静止した。
「あー! あの野郎、鳥のくせに!」
「むしろ、鳥だからだと思うけどね、身軽なのは……」
「……」
起き上がったザラは鸚鵡を睨み付ける。その様子を見て、ディアンも先ほど思ったことを思い出したのか、鸚鵡を睨み付けて尋ねた。
「おい、さっきの蹴り……」
ディアンがザラを見る。ザラはコクリと頷いた。鳥が蹴りなど入れてくるはずがない。できるはずもないのだ。人間と同じフォーム、ザラと全く同じフォームでとび蹴りしてくるなどありえない。しかし、二人が見た鸚鵡の蹴りは、翼を手に見立てれば、そっくりそのままザラと同じ方だったのだ。デビはザラのとび蹴りを見てはいなかったが、明らかに鳥の動きではないことに気がついたらしい。三人は目を丸くして鸚鵡を見る。鸚鵡は次の攻撃態勢に入っていた。
「アアァー!」
そう鳴いて鸚鵡は、今度は足に引っ掛けていた何かを三人に向かって投げつけてきた。きれいな回転のついた、その何かは鸚鵡が投げたとは思えないスピードでディアンに迫ると、ディアンの腹部に命中した。うわっと声を上げてディアンは後ろにしりもちをつく。その手に握られていたのは、ディアンの履いているものと全く同じ靴の片割れ。しかし、ディアンは靴を両方、きちんと履いているのだ。なぜこんなものが……。
「あっ」
何かを思い出したようにディアンが声を上げる。闘鶏に、そういえば靴を自分が蹴りつけたような……。まさかまさか……。
「アアァー!」
鸚鵡がもう一度泣き声を上げ、像の方へと移動する。そして翼を広げると、そこには何本もの医療器具・メスがギラリと光って並んでいた。どこからあんなものが……。
「やっぱり! あいつ、俺らがやったのと同じことしてくるんだ!」
「道理で道具やフォームまで同じなわけだ!」
「もしかして、鸚鵡返しにって意味で?……」
鸚鵡が翼を一度羽ばたかせる。すると、空中に並んでいたメスは、ちょうど岩山サクラが投げたそれと同じように、ギラリと光りながら三人に一直線に向かってきた。
「曲がり角に逃げろ!」
三人は急いで後戻りすると、迷路の曲がり角に逃げ込んだ。壁にメスが突き刺さる。一本が、ディアンが逃げ込んだちょうどその後に、地面に突き刺さった。
「あぶねぇ!」
「……くそ、最初の時にただ群れになって追っかけてくるだけだったのは、まだ何も俺らがやったこと見てなかったからか!」
「もう爪や嘴だけで十分凶器だと思うんだけどな……。広辞苑、ズタズタにされたし……」
デビが嘆く傍ら、ザラは状況を整理しようと角から鸚鵡の様子を伺った。鸚鵡は鸚鵡の像の上に止まって、あちらもこちらをじっと見つめている。
ザラはその鸚鵡が止まっている鸚鵡の像を睨み付ける。あの像を動かせば、もしかしたらゴールに着けるかもしれない。しかし、なぜなのか、根拠が分からない。
「デビ、鸚鵡返しって怖ぇな!」
「普通は言葉だけだってば……。あんなもの返してこないよ」
「あー、もう! 時間がないって言うのに! どこが出口なのか、いい加減教えやがれ、この真っ赤鳥!」
「まんまだね」
大声でディアンがそう叫んだ時、ザラの頭にあることが浮かんだ。まさか、そんな簡単な……?
「鸚鵡返し……。まんまってことか……」
「? どうした、ザラ? 何か分かったのか?」
「……そうか!」
ザラの唖然とした表情に、デビも何かを感じたのかポンと手を打った。
「鸚鵡返し。『返し』の字を変換すれば、『帰し』になる……」
ザラがそう言うと、ディアンもなーるほどとポンと手を打った。なーんだ、そんな単純なことかとディアンが笑い始めると、それにつられてか他の二人も笑い声を上げる。が、その笑い声が止むと三人はハァと疲れたようなため息をついた。
「……今の今まで迷路を走り回ったのは一体なんだったんだろうな?」
「思い出さすな、タンポポ。 ……とりあえず、この問題作った奴は許さねぇ。ぶん殴りたい……」
「ふ、二人共……、そこまでがっかりしなくても……」
三人が肩を落とす中、ゴーンゴーンと再び鐘が鳴った。見れば、時計台の時計は十二時の五分前を指していた。
鸚鵡は三人が逃げ込んだ角をジッと睨み付けていた。ここを守るのが、彼の仕事である。守ると言っても、ただ生徒を脅かせばいいだけだが、答えを知った生徒の邪魔をすることも仕事の一つである。そうやってじっと角を見つめている鸚鵡に向かって、何かが投げ込まれてきた。鸚鵡が反応して飛び上がる。飛んできたそれを威嚇し、鸚鵡は襲い掛かると地面にたたきつけた。さらにその上に、鋭い爪を食い込ませて押さえ込む。それは息をしていなかった。
「今だ! 走れ!」
三人は脱兎のごとく、角から走り出すと鸚鵡の像に手をつけて力いっぱい押し始めた。思っていたよりもズシリとくる。三人で押しても、なかなか動く気配の見えない像を、三人は力いっぱい押した。そばで先ほどの鸚鵡が、広辞苑を離して騒ぎ始める。とたんに、三人の周りをたくさんの赤が覆い尽くした。
「おい、一匹だけじゃなかったのかよ?」
「あの三人を追っかけてた奴らが帰ってきたんだろ。気にすんな! 押せ!」
「う、わ……」
あまりの赤さに像を押す力が弱まる。最初に出会ったときとは比べ物にならない数の鸚鵡が、三人を取り囲んでいた。それが一斉に鳴き声を上げ、三人に向かって突っ込んできたのだ。凄まじい攻撃に、三人は一度像から手を離して追い払おうと、腕を振り回す。しかし、それは逆効果で鸚鵡達を怒らせるだけだった。
仕方なく、三人は像を押すことに集中することにする。しかし、像を押す手を鸚鵡達が集中的に狙ってくるので、なかなか力が入らない。
「とりあえず押せ! これが鍵なんだ!」
「でも重すぎだろ、これ!」
「タイルの上からずらすんだ! 少しでもずれれば問題ない! はずだ!」
「あと2分切ったよ!」
三人はつつかれて血が出始めた手にグッと力を入れた。鸚鵡達は攻撃を止めない。きっとあちらも躍起になっているのだろう。どうにかしてここを守ることが、彼らの仕事なのだから。
血がさらに激しく出始めたのを見て、デビが一瞬力を緩める。像がタイルの上からやっと半分ずれた時だった。
「……」
「おい、何やってんだよ!?」
「……デビ?」
押し黙ったデビに、ザラが怒号を上げる。ディアンはそれを少しの間見た後、あと少しだぞと呟いた。
「もうちょっとだからさ、一緒に頑張ろうぜ、デビ!!」
「……うん!」
三人そろって、グッと像を押す。像の土台が少しずつ浮かび始めたので、さらに力を込める。
「あと1分!」
「「押せ―!!!」」
グググ……、だんだんとバランスを崩した像がタイルの上を離れ、ガコンと音を立てて倒れた。と同時に、ボコンとタイルが持ち上がる。三人が何だという顔をする中、向こうで行き止まりだったはずの壁が二つに割れるのが見えた。そして……、光が差し込む門がその奥から現れたのだ。
「あ、開いた?」
「急げ!」
三人は急いで走り出す。あと三十秒……。
鸚鵡達が攻撃して来なくなった道を、一目散に駆ける三人。目の前に大きく口を開けた門に向かい、三人は勢い良く飛び込んだ。
ガヤガヤと周りが騒がしいことに気づいて、閉じていた目を開いてみる。前の席にいた女子とたまたま目があって、慌てて反らした。
ディアンは辺りを見回した。試験を開始した時と同じ、教壇の上にはマサ先生が仁王立ちしていて、傍らにユウイ先生がいるのが見えた。兄ちゃんがホッとしたような顔をしているのが見えて、自分もホッとする。
「か、帰ってきたぁ~!! やった~!」
「試験しゅ~りょ~!!」
思わず声を上げたその時、それよりも大きなユウイの声が部屋中に響きわたった。
謎が少し簡単すぎるだろ(汗 と思ったら、作者がバカなんだと思ってください。バカでアホです。下らないことしか考え付きません。辻褄があってないだろ(汗 と思ったら、今回だけは見逃して下さい。とりあえず先進めないと、この話、一生終わらない気がするので。でも、こうした方がいいんじゃないとかあれば教えてね。参考にします。
はい、先日やっやこしい編集した紫陽花です。すいませんでした。今回は、第五幕です。前半少し修正したのと、後半少しプラスしました。 そして、次の第六幕でやっと試験が終わります。スローペースですいません。はい、連日謝ってばかりです。第六幕は明日あたり、ここにupする気です。では、長いですが、第五幕どうぞ。
第五幕 鳥は外見で決めつけてはいけない
真っ白な中に浮かぶ大きな黒い目。時折消えてはまた現れるを繰り返しているその目が、凶暴な猛禽類のもので、それが目の前まで迫ってきていたら、一体どんな反応をするだろう。
「ギャー?! 食べられるっ!!」
「デビ! 急いで下がれ!」
慌てて後ずさりするデビ。ザラとディアンはサッと身構えた。鳥の黒い目が動いているデビを追いかけて、キョロキョロと動いている。どうやら、ちょこまか動くデビを、餌か何かと勘違いしているらしいが、デビがそれを知るはずもない。鳥(鶏冠のようなものがあるところからして、おそらくは闘鶏なのだろう)は、首を伸ばすように体を前のめりにしてデビに迫った。
「ギャー! なんで僕なの!?」
「これが闘鶏か? それっぽく見えないけど」
「全部真っ白だからな。この際、そんなことに構ってられるか」
逃げるデビ。それを追う胸元がとてつもなくふわふわと、そして大きくふくらんだ鳥。ディアンとザラは体当たりを仕掛けるため、鳥に向かって猛然とダッシュしていった。二人そろって、鳥が前へ一歩踏み出した所へ体ごと突っ込んでみる。だが、ふわふわとした体毛のせいか、鳥はあまりダメージを受けなかったようだ。また一歩、踏み出した鳥によって思い切り弾き飛ばされた二人は、白い地面の上にたたき付けられてうめき声を上げた。
「ちっ。失敗か」
「ちっきしょう! なんであいつ、あんなふわふわなんだよ! 触ったら気持ちいいのに、なんかムカつく!」
叫ぶなってんだよ、とザラに突っ込まれたあとディアンは追いかけられて逃げ惑うデビを助けるため、猛然と駆け出す。鳥の足の下を潜り抜け、デビに追いついたディアンは、デビを先に行かせると、片方の靴の踵を踏んだ。
「見てろよ~。体が駄目なら、目だ! 七年間サッカーばっかりやってた俺の強力なシュートを見せてやる!」
そう意気込むと、頭を下げてきた鳥の目めがけ、ディアンは脱いだ靴を蹴り飛ばした。スピンをつけて、靴は見事にまっすぐ飛んでいくと、鳥の目玉にクリーンヒットする。うめき声をあげた鳥は、頭を上げて大きく翼をはためかせた。
「へっへ~ん、どんなもんだい! 驚いたか!」
ハハハハハと高笑いを上げるディアンは、次の瞬間、丸かった鳥の目がギラリと光って鋭くなったのを見た。そして、先ほどとは見違えるほどのスピードで、ディアンに向かって突進してきたのだ。
「ギャー!」
「あの馬鹿、怒らせてどうすんだ」
後ろからそれを追っていたザラは、急にスピードを上げた鳥をみてそう言う。だが、もう遅い。鳥は地響きを上げながら、ディアンに迫っていた。そして……。
「うわーぁ!」
「デビ!」
鶏はディアンをまたいで大きく前進すると、その前を走っていたデビを銜え上げた。どうやら随分とデビがお気に入りらしく、ディアンのことは最初から眼中になかった様子だ。上機嫌な鶏に対し、銜え上げられたデビは顔を青くして「食べないで! 食べないで! 僕なんかおいしくないよ!」と叫び声をあげた。
「鶏って肉食べるの?」
「食べないだろ?」
「悠長にそんなこと議論してないで助けてよ!」
追いついてきたザラとディアンの会話を遮り、デビは大声で助けを求める。体のすべてが真っ白で、最早どこからが頭でどこからが胸でということが全く分からない鳥を見上げ、ザラは「とりあえず、前言撤回だ」と言って構えた。
「これだけこっちに何かしら仕掛けてくるんだ。こいつは何かのヒントを持ってる!」
「っぽいなぁ~。 その前にさ、こいつのことから揚げにしたらどれぐらいの量になるかな?」
「知るか!」という言葉とともに、ザラは鶏に向かってザッと駆け出していくと、ふわふわとした毛に覆われていない、足に向かって思い切りとび蹴りを食らわせた。とび蹴りっ?と目を丸くするディアンだが、ザラはあまり手ごたえがなかったのか険しい表情で鶏を見上げている。案の定、鶏は何事もなかったかのように清ましている。
なら反対側に……とザラが攻撃対象を逆の足に向けようとしたとき、その足に思い切りディアンが突っ込んでくるとガン!としたたかに顔面を打ちつけた。
「お前何やってんだよ?」
「痛てー。失敗した……。 何ってとび蹴りやろうとしたんだよ! 失敗したけどな! お前、そんなのどこで習った?!」
「習ったっていうか、兄貴が……」
「いいな~、いいな~! 俺の兄ちゃんなんかサッカーしか教えてくれたことねぇぞ!」
そんなことやってる場合じゃないだろ? と顔をしかめたザラは、次の瞬間、体が浮く感覚を覚えて思わず鶏の足にしがみついた。どうしたんだ?という顔をしたディアンも思わず足にしがみつく。鶏が一歩前に進むたび、それが繰り返されるので、二人はほぼ同時に鶏が動き出したことと、その足の上に自分たちが乗っていることに気づいた。上がったり下がったりを繰り返しながら、二人はどうしようと顔を見合わせた。
一方、鶏に銜えられてしまったデビは、どうしようと顔を青くしたまま、下の様子を伺っていた。しかし、下の二人の姿は見えない。まさか自分ひとり置いていかれてしまったのだろうか?
「そ、そんなことないよね? だって三人そろってなきゃ意味ないはずだし……」
デビはそう呟いてみるが、言ってから校長のマサがそんなことを言っていたような気がしないことに気がついて、涙目になる。本当に置いていかれたなんてことになったらどうしよう……。兄に合わせる顔がない……。
デビは腕に抱えたままの広辞苑をさらに強く抱え込んだ。ん~と悩む兄の姿が思い浮かぶ。自分を見下ろして、「どうにかならないかな」と考え込むその様子が。しかし、受かったところで自分に戦士になるだけの力がないことは、誰から見ても明らかな気がした。
もしかしたら、今受からないほうがいいのかもしれない……。受かりたくない……。
そう思う自分がいた。
足に死ぬ気でしがみついていた二人は、どうすることもできず足にしがみついたまま鶏が歩くままに、迷路の中を進んでいくさまをみていた。自分達が歩いていた道は、西の方面の本当に始め、中央に近い部分だったのに、だんだんと奥に向かっている。地図がなくても、二人にはなんとなくそれが分かった。
「この鶏どこまで行くんだろうな」
左足と一緒に上がりながらディアンが言う。
「さぁな。でも行くとしたら一番奥だろう」
代わるようにして右足と共に上がりながらザラが言う。
「奥って……。 時間大丈夫なのか?」
再び上がりながらディアン。
「大丈夫じゃないだろうな。だいぶタイムロスだ」
代わるようにしてザラ。
「駄目じゃん!」
「言ったってどうもできねぇだろ?」
もう数十回、同じように会話していた二人は、また互いにため息をついた。別に、この速さじゃ降りられないというわけではないのだ。鶏は比較的ゆっくりと歩いている。だがら、降りようと思えばいつだって飛び降りられたのだ。だが、それではデビがどこにいくか分からない。鶏に銜えられたままの彼が、これからどうなるかも分からない。それではダメだとディアンが主張したのだ。別にザラ本人はそれよりも試験に合格することの方が大事だと思ったのだが、チームを組ませたことからして、チームメンバーそろってゴールするのが試験のルールだと気づいたので反論せず今に至る。降りて鶏の後を歩いてつけていっても良かったが、それよりも乗っている方が楽だった。
「この鶏を止める方法さえ分かればなぁ! そしたらデビのことも助けられるのに!」
「そんなに大事な奴なのか?」
「当たり前だ! 友達だぞ!」
「……。にしても、あいつ本当に戦士になる気あんのか?」
「? なんで?」
「なんでって、あんな運動神経ないのに、これから先どうすんだよ?」
一番必要なことだろとザラはディアンに問いかけると、「俺にはあいつになる気があるようには見えねぇ」と続けた。
「無理にお前についてきてるってわけじゃねぇだろうけど、あるのは知識だけって感じだし、どうも否定的な意見が多い気もするが?」
「それはデビが決めることだろ? 別に俺らがどうこう言ったところでかわんねぇって」
「まぁ、そうだが」
「あいつが決めることなんだから、あいつがここにいる間はなるってことでいいんだよ」
「……」
ザラはどうにも腑に落ちないらしく、顔をしかめるがディアンは気にしてない様子で鶏を止める手がないか、懸命に上を見上げてぶつぶつ言っていた。やがて、何かを思いついたらしく、鶏のふわふわとした羽毛に手を伸ばした。
「おい! 何する気だ?」
「上に行く」
「?」
「上にのって、とりあえずデビを先に助ける」
「はぁ? まさか、上って頭のことじゃ……」
「行くぞ~!」
ザラの静止も気かず、ディアンは鶏の羽毛をグッとつかんだ。そしてそこに力を入れて、自分の体を持ち上げると上に上り始めた。
「たく。おい、待てよ」
追うようにザラも羽毛をつかんで上り始めると、あっという間にディアンに追いついて横に並んだ。
「!」
それに気づいたディアンは負けるかと言わんばかりに上るスピードを速めた。ザラもそれに気づいて速める。二人はほぼ同時に、鶏の背中に手を伸ばすと、ほぼ同時にその背に立った。そして睨み合う。負けたくないという小さな対抗心が、二人の中で大きく燃え上がっていたのだ。
「……」
「……。 !」
睨み合っていた二人は、急に揺れが止まったので同時にガクリとその場に膝をついた。顔を上げると、デビが何やってるの?という呆れた顔をして鶏の嘴からぶら下がっていた。その奥には、真っ白な中に浮かぶ真っ黒な目玉……。
「げっ! 見つかった!」
ギョロンという擬音が似合うだろう、鶏の目が動いてディアンとザラを交互に見る。上から見下ろされているので、そこで何してると言われたような感覚が、二人を襲っていた。と、ゲシッと言う音と共に、ザラが鶏の背を蹴りつけ始めた。「何やってんだよ!」とディアンが小声で声をかけるが、ザラは意に介さない。無心に鶏の背を蹴り続けるのである。
少しの間、何をしているのか分からずボケッと立ち尽くしていたディアンだったが、やがて合点がいったらしく、自身は鶏の羽毛を力いっぱい引っ張り始めた。
「ちょ、ちょっと二人とも何やってるのさ?」
銜えられたままその様子を上から見ていたデビは、その後ろで鶏の目玉が丸くなるのを見ることができなかった。ましてや次の瞬間、大きな叫び声を上げて鶏が暴れ始めるなど、彼には想像もつかなかったことだろう。
ザラの蹴りがわき腹へ決まり、ディアンが一本の羽毛を思い切り引き抜いた時、鶏はやっと体全体に痛みが走ったことに気がついた。そして大きな奇声と共にデビを離すと、痛みから逃れようと思い切り暴れ始めたのである。予想以上の暴れっぷりに、鶏の背で、デビの落下を助けた直後の三人は、床の上へ振り落とされる有様だった。
「痛てぇ」
「うーん……、! でも助かった! うわー、二人共ありがとう!」
「当たり前だろ、デビ! 困った時はお互い様だぜ!」
元気よく親指を立てたディアンに、デビも同じように返す。これが二人の間ではお決まりなのだ。今も、ほんの目の前で巨鳥が一匹暴れていなければ、微笑ましい場面であるはずだったのだが、生憎、その暴れている巨鳥の足が、三人の頭上へと迫っていた。それにいち早くザラが気づくが、もう遅い。三人が逃げる前に、大きな足が下りてきた。
「じっけ~ん!」
高らかな笑い声とともに、無数のメスがどこからともなく飛んでくると、鶏の体に深く突き刺さったのはその時だった。鶏がさらに悲鳴を上げて三人がいる場所とは違う場所に足をつくと、運よく助かった三人は何が起こったのか分からず、目を丸くしていた。
「キャハハ~。また鳥さん、みっけ。今度はすごく大きいね」
誰かが今鶏が歩いてきた方向から顔を出す。
「この声は……。岩山じゃねぇか?」
「あ、そう言われて見れば……」
「岩山?」
ディアンの言葉にデビがそうかも……という顔をし、ザラが誰だそれ?と眉をひそめた時、再度向こうから現れた人物が声を上げた。
「キャハハハ! 実験させて~! 大きな鳥さ~ん! あなたの中はどうなってるの~?」
そこには科学者が羽織る白衣を着、両手にメスを持ったピンク髪の少女・岩山サクラが立っていた。試験開始前の大人しい感じとは打って変わり、その目は目の前の獲物をしっかり捉えていた。にっこりと天使のように微笑む。鶏はそこから何かを感じたのか、一歩後ずさった。
「やっぱり、サクラちゃんだ」
「あいつ、動物見ると性格変わるからな」
「……なんか似たような奴が俺のクラスにもいた気がする」
鶏が恐れをなして、すっかり大人しくなったので三人は立ち上がると、巻き込まれるのはごめんだとばかりに壁側による。ザラには少々よく分からなかったが、彼女がメスを抜いた時には、極力近づかないほうがいいと、他の二人が言うのである。
一歩も動かず、睨み合うサクラと鶏。先に動いたのは鶏の方だった。クルリと後ろを向くと、一目散に逃げ出したのだ。
「あぁ。待ってぇ、鶏さん! あたしのお父さんの実験材料になってよぉ~!」
「おおよそ、十二歳の少女が吐くせりふじゃないな……」
ザラが困ったようにそう言うと、だろ?と言う顔でディアンがその肩に手を置いた。
「ところでサクラちゃん、一人?」
「……鳥さん……」
「サァークーラァー!」
「サクラちゃ~ん!」
鶏に逃げられてがっかりしているのか、デビの質問に応じようとしないサクラに、デビがどうすればいいか迷っていると、彼女が現れた方向から、二人の人影が走ってきた。声からして、一人は男、もう一人は女であるようだ。
「もう、サクラ! あんまり早く走っていかないでくれよ」
「そうよ、サクラちゃん。どれだけ探したことか……って、キャーvv ザラ様vv」
走ってきた黒髪おかっぱの少年と、金髪の少女は二人して息を荒くし、座り込んでいるサクラにそう言う。どうやら、サクラだけがあの鶏の気配をかぎつけて、先走っていたらしい。黒髪おかっぱの少年は、とりあえず誰かと一緒で良かったとため息じみた息を吐き出して安心したようだったが、金髪の少女を見たザラの表情は苦々しい……。
「お前ら誰だ?」
「む? 何よ、あんた? もしかしてザラ様のチームメイト?」
「ザラ様って……。こっちが聞いてんだよ!」
「まぁ、失礼。でもいいわ、教えてあげる。私は火鼠あやめ。 ザラ様の未来の花嫁よ!」
そう言って胸をはる、金髪の少女、火鼠あやめの横でザラがさらに苦々しい顔をする。顔には思いっきり「お断りだ」と出ていた。
「……どうでもいいが、まさかお前等も同じ迷路にいたとはな」
「そうだね。僕もてっきり皆別々なのかと思ってたんだけど……」
「アハハハハ……。会う確立の方が少ないんじゃないかなぁ。これだけ広い迷路だし」
後ろ頭を掻きながら困ったように黒髪のおかっぱ少年は言うと、「あっ、僕は種川ピード。よろしく」と、キョトンとした顔をしているディアンに言った。
「僕は砂地デビ。 よろしくね」
「俺は守元ディアン! にしてもお前、高いなぁ」
「え? 何が?」
「身長だよ。 いいなぁ、俺にくれよ」
「し、身長はあげられないよ、さすがに」
困った顔をしてそう答えるピードをディアンは見上げる。その背には二十センチ近い差があるようで、ディアンの頭は彼のちょうど胸あたりである。
種川ピードは身長は高いが、決して体つきが大きいということはなく、どちらかというとひょろ長いという言葉がぴったりな少年だった。綺麗に切り揃えられた黒髪と、きっちりした服装をしているが本人はいたっておっとりした性格であるらしい。さらに言うと、身長くれ!と叫ぶディアンを見て後ずさりしているところから、喧嘩っぱやい性格でもなさそうだ。そのことを読み取り、「仲良くなれそうだな」と、一人心の中でデビは思っていた。
「サクラちゃん、ほら立って。次行かないと、時間ないでしょ?」
「……鳥さん……」
「鳥なんか放っといていいの! ここから出るのが先!」
座り込んでいたサクラを一喝し、立ち上がらせるとあやめははぁあ、やだやだというように首を振った。ポニーテールにされた長い髪がそれに呼応して大きく揺れている。大きな青い瞳をしたその顔は、とてもとは言わないまでもかわいらしい。典型的なTシャツに七部丈ズボンという格好で、比較的大人しい(動物が絡まなければ)サクラに比べ、フリルのついたチュニックに丈の短い半ズボンに色柄タイツと、あやめは実に女の子らしい服装をしている。だが、性格は気の強い方らしく、やっとディアンから開放されたピードの方を、大きな目を吊り上げて睨み付けると、文句を言い始めた。
「筆記試験だって言うから昨日は頑張って徹夜したのに、お姉ちゃんの予想はいっつも外れるんだから。大体、鳥使う試験ってほんとにありえない! そんなのがあるのは、ヒヨコの性別識別職くらいだと思ってたのに!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ、あやめ。 鳥って言っても、殆ど襲ってこないし(サクラのおかげで)」
「だって、あんたも見たでしょ? 真っ赤な鳥の群れ! あんなの寄ってこられたら、私気絶しちゃうわよ!」
「ちっさくてかわいかったじゃないか(サクラのせいで逃げたけど)」
「もう、ほんとありえない!」
うじうじと文句を言うあやめを、ピードが宥めたり反論したりする横で、つまらなさそうにあくびをするサクラ。どうやら、この班はディアン達三人以上にチームワークがなさそうである。それにプラスして、どうやらまだ試験合格への手がかりも何もつかめていなさそうにも見えるし、正直付き合っていると面倒なことになりそうだ。
「……こいつらに付き合ってる暇はないな……」
ザラがぼそりと呟いたのを聞きつけて、珍しくディアンもコクンと頷いた。
「さっきの鳥がヒントをもってたかもしれないんだし、さっさと追っかけようぜ。時間がもったいない」
「えぇー! ザラ様、もう行っちゃうんですか!」
「……」
「ここで会えたのも何かの縁だしぃ、一緒に行きませんかぁ?」
「……断る」
「あぁ、なんて冷たい……! でも、そんな所がす・て・きv」
ディアン達が立ち去ろうと相談を始めた時、どうやらそれに気付いたらしく、ピードと口論をしていたあやめがパッとザラの前に躍り出ると、目をウルウルさせながらザラを見る。明らかにぶりっ子になったあやめに、周りから、そして彼女が見ている当人からも冷たい視線が送られるが、彼女はそんなことを気にせず、一人でキャーと黄色い声を上げていた。
「お前、頭大丈夫か?」
それを見ていたディアンから、厳しい一言が放たれるが、それは「あんたに言われたくないわよ、タンポポ頭!」と言うあやめの一言で見事に打ち返された。
「誰が、タンポポ頭だ! 俺の頭のどこがタンポポなんだよ!」
「タンポポみたいに大きな花の咲いた頭をしてるのねって言いたいのよ!」
「何をぉ! それってどういう意味だ!」
「おバカさんって意味よ! お・ば・か・さ・ん!」
また喧嘩してる……と、デビが心の中で呆れる中、ザラはそんな二人を無視して「俺達はこっちに行く」と地図を手にピードと話していた。
「班同士、会っちゃいけねぇというルールはないはずだから、これぐらいの接触なら大丈夫なはずだ。互いに精々、次は会わないよう祈ろうじゃねぇか」
「そうだね。それで反則だったら、僕達二班とも不合格だしね」
苦笑いしてピードはそう言うと、デビの仲介でどうにか収まり始めていた喧嘩の片方を呼び寄せた。
「ほら、あやめ。そろそろ行かなきゃ、ほんとに時間がないよ」
「分かったわよぉ! ザラ様! 私、必ず試験に合格して、そのタンポポ頭の代わりに、ザラ様の班員になりますから!」
「タンポポ言うんじゃねぇ!」
大声を上げるディアンを、あやめは鼻で笑うと、行きましょとサクラの手をひいて歩き出した。サクラは今の今までボーとしていたらしく、あやめに手をとられた時、一度ビクリと肩を震わせた。
「じゃぁ、そっちも気をつけてね。 特に鸚鵡に」
「お前も、あんな口うるさい女に負けんなよな! 鸚鵡みたいにうるさい女にな!」
それはお前だろ、というザラの突っ込みが入り、またもやディアンの頭に血が昇るが、それは次のピードの言葉で一瞬にして引っ込む。
「うるさいのもそうだけど……。彼ら、得体の知れない力があるみたいだからさ」
「「「?」」」
キョトンとした顔の三人を残して、ピードは「おーい! 待ってよー! あやめー! さくらー!」と声を上げながら、女子二人が歩いていった方向へと姿を消した。
新たな更新ではなくて、前に言ってた第四幕の修正をしたよっておしらせです。でも修正を大幅にしすぎたのか、続きに書ける分量を大幅にオーバーしてしまい、二つに分けざるを得ない状況に……。で、それと同時に第五幕にも多少の変更が必要になったのでこの一つ前に更新していた分、確か題名は「Walia(6)」だったやつは消去しました。で、ここの続きで第四幕の続きを載せてます。 これの前半は、「Walia(5)」ってやつの続きを見れば見れます。こっちの続き読む前にそちらを優先して読むよう……。 そして、来週には第五幕の修正版を載せるという……。うわー、ややこしいことしてすいません! ごめんなさい! 大体、私が書いた文は多くて読み難いんだよな! すまん! もっとこれからはコンパクトにできるよう、精進します!
ほんと、ややこしいことしてすいませんでした。
ほんと、ややこしいことしてすいませんでした。
北側の出口があると思われる場所に着いたのは、その三十分後である。この角を曲がれば出口だと、三人は意気揚々と最後の角を曲がったのだが、目の前は再び行き止まりで、南の時と同様、四体の像がその前に並んでいるのみだった。がっくりときたディアンは、地べたに座り込むと「もうなんなんだよ!」と大声を上げた。
「出口はここなんだろ?! なのになんで行き止まりなんだよ? これじゃぁ進めないじゃん!」
「確かに妙だな……。出口は行き止まりで、またこの像が置いてあるだけ。もしかしたら、この迷路内で何かしないと開かない仕組みなのかもな」
「そうなのかもしれないね。でも、まだ僕たちがここに来てから鳥には一羽も遭遇してないから、そのせいかも知れない」
「出口はどこだー!!」
躍起になったのか、ディアンがそう叫ぶ。だが、それで出口があくはずもなく、ディアンはがっくりと肩を落とすと、しぶしぶ立ち上がった。デビがあることに気づいたのは、その直後である。彼は置かれた四体の像をじっと見ていたが、南の時と同様鸚鵡の像だけがほかの三体の像と比べて大きいことに気がついた。
「(……北と南で特に違いが見られないのはいいとして、なんで鸚鵡だけあんなに大きいんだろう……)」
実際のサイズから言えば、鷲が一番大きいんじゃないだろうか、と思案を続けていたデビだが、「デビ、早く来いよー!」と言う声に、彼が振り向くとすでにザラとディアンが来た道を戻ろうとしているところだった。
「何やってんだよ~。早く行かないと時間なくなっちゃうだろ?」
「東を諦めるにしても、時間がねぇんだぞ」
「うん。ごめん、何だがあの像が不思議だなぁと思って」
地図を広げて先頭を歩き始めたザラの後に続き、三人はとりあえず来た道を逆戻りし始めた。地図とにらみ合いを始めたザラに代わり、ディアンが「何が不思議なんだよ?」とデビに尋ねた。
「別に南の奴と変わんなかったじゃん?」
「うん、そうなんだけど。だから不思議だなって。ほら、鸚鵡の像だけなぜか大きいでしょ? あれ、なんでなんだろうと思ってさ。だって普通、大きさからいえば鷲が一番大きくなるんじゃない?」
すると話を半分聞いていたらしいザラが地図から目を離して「確かに妙だな」と呟いた。
「実際にいた鸚鵡は、あの像よりかなり小さかった。ならなんで大きくなんか……」
「もしかしてあの像に何か秘密があったり……」
「そうは言っても、鸚鵡に何かあるっていう確証がないんじゃ、調べたって時間のロスだ。今はとりあえず西に向かってみよう。鷲の奴も出てきてないから、鷲と闘鶏、両方いっぺんに出てきてくれれば楽なんだが……」
「それなんか面白そうだな。挟み撃ち! みたいによ」
「止めようよ、そんな想像!」
雑談をしながら三人は迷路を進んでいく。ここからだと時計台が左側に見える位置だ。時計の下には「S」の代わりに「N」の文字が彫ってあるのが見えた。
「(南がサウスで「S」だったから、北がノウスで「N」なわけか。なるほどなぁ)」
グリグリグリ……
のんびりとじゃぁ、東と西は何になるんだっけと一人で考え始めたディアンの耳に、聞きなれない音が聞こえてきた。
グリグリグリグリグリグリ……、ガラガラガラ……。
何かが岩を擦るような、嫌な音が聞こえてくるのに混じって、瓦礫が落ちるようなそんな音も聞こえてくる。ディアンはそんな気がした。まだ距離が遠いのか、はっきりとはしていないが、明らかにこの迷路を形作っている壁を擦る音だ。いや、むしろ削ってる……?
「何の音かな?」
デビもその音に気づいたらしい。あたりをキョロキョロと見ていることからもそれが分かる。三人はふと足を止めて、辺りを見回してみた。相変わらず黒い息がつまるような壁が両サイドにあるだけで、ほかには何も見えない。しかし、確実に壁を削る音だけは、こちらに近づいてきている。
「……。こっちの方じゃねぇか?」
ザラが三人の左側を指して言った。三人が何だろうと、思案を巡らせながら壁を見つめていると、壁がペキッを小さな音を立てた。続いてペキペキと、ひびが走っていく。
「危ない!!」
ベキベキと壁が鳴り出した時、ディアンはそう思いっきり叫んだ。
次の瞬間、ひびが走っていた壁に大きな音をたてて、何かが突き刺さってきた。黄色い、やけに太いドリルのような奴だ。それがちょうどデビとディアンのいたあたりにまで突き出てきたので、慌てて二人は脇に避けた。一体こいつはなんなんだ!? 二人はそれぞれドリルを避けた先でそう思った。
「なんだこりゃ……」
飛んできた瓦礫をヒョイと避けて、ザラは土煙をあげている壁の方をみる。土煙が収まっていく中、黄色いドリル(?)はピクリと動いた。
「動いた……。ってえ? 開くの!?」
クパァとまるで鳥の嘴のようにドリルが二つに割れて、開き始める。所々に突起が突き出たドリルは、徐々に開いていき……と、途中で動きを止めた。
キギャー!
きちんとした音に直すとこんな音だろうか。甲高い声が、次の瞬間辺り一面に響いた。まるで叫び声のような、鳥の鳴き声のような、耳をつんざく音が、開いたドリルから発せられたのである。思わず耳をふさぐ三人の前で、ドリルがゆっくりと持ち上げられて、持ち主が姿を表した。
バサバサッ。
羽音とともに現れたのは巨大な嘴を持った鳥……。耳をふさいでいた手を離し、代わりに三人はあんぐりと口を開けた。そうあのドリルは、その鳥の嘴だったのだ。
「な、なんだよこいつ!? 気色悪ッ!!」
「鷲……なのかな?」
「それ以前にこいつは鳥なのか?」
三人はそれぞれそう述べると、広げた翼をしまう鷲(?)を凝視した。その体は確かに鷲だった。翼や足など、よく図鑑に出ている鳥と大差ない。問題は……嘴だった。そいつはなんと顔の大部分が嘴ではないかと思われるほどの嘴をしていたのである。しかもドリルのように突起や、溝が入っているし、やけに太いのだ。
「……マサ先生が言ってた、変わった姿ってこのことなのかな?」
「……確かに気に入るかどうかは、別だな……」
デビとザラは呆れたようにそう言い、ディアンは一人黙って鷲を見続けていた。最初は気色悪いと思ったのだが、こうしてみるとなかなかかっこいいのである。ディアンはヒョイと、鷲の後ろ側を見てみた。壁に開いた大きな穴の先には、同じようにして掘られたのだと見られる穴が、延々と続いていた。
「こいつすっげ―! 今度こそ、こいつ連れてこう! 壁に穴開けて楽々進めるぜ!」
大声を上げて喜ぶディアンを無視し、立ち上がったザラはなんにしろ、攻撃してみるかと呟いて構えた。
「ちょっ、なんでだよ! こいつ、おもしろいから連れてこーぜ? なぁ、デビ?」
「えぇ!?」
「馬鹿か。鳥共と戦ってみなきゃ、出口がわかんねぇってさっきも言ったろ? 能無しか、お前は」
「出口に案内してくれるかも……」
「それもねぇってさっき言ったろうが。たく、なんも頭に入ってねぇんだな、このタンポポ頭!」
「誰がタンポポだ! バカ蜥蜴!」
「蜥蜴じゃねぇ! 「と」にアクセントつけろっつってんだろ!」
「分かりません―! 俺バカだから―」
その時、言い合いをする二人の声も、それを止めようとするデビの声さえかき消す高い声が、再び辺りに響きわたる。鷲が今一度あの太い嘴を開いて鳴いたのだ。翼をはためかせ、鷲は嘴を閉じると壁に押し当てた。とたんに嘴がドリルのように回転を始め、グリグリペキペキと音を立てて、鷲は来た方向とは逆の壁の中へと消えていってしまった。
「あの像の大きさとは逆サイズで出てくるってことだな」
「? どういうことだよ、ザラ」
「鳥の大きさだよ」
鷲が行ってしまった方向に開いた大きな穴を見つめ、ザラがそうディアンに返すと、デビもそれに加わる。
「確かにそう考えることもできるけど、断定するのは早いんじゃないかな?」
「確かに断定はできねぇが、後の「闘鶏」も、「孔雀」も、大きい可能性は十分に高い」
だとすればと、ザラは立ち上がると壁を指差した。
「壁をよじ登って、そこから鳥共を捜した方が早いんじゃないか?」
でかい奴らなら、簡単に見つかるはずだと、ザラが指差した方にある黒い壁を、しばしの間ディアンは見つめる。確かに、それができればどこに鳥がいるのかが分かってもっと楽に進めるかも知れない。しかし、壁の高さは最初の頃と同じ、三人が肩車しても届くか届かないかくらいの高さである。
「どうやってだよ? 俺達三人で、肩車してもこの高さじゃ届きそうもねぇし」
「それに、もし反則だったらどうするの?」
「……。じゃぁ、歩くか? またこの何の変哲もない迷路を? そんなもん、なんの面白みもねぇ。それに、反則があるんなら、始まる前にそう言うだろ?」
始まってから反則だのなんだの言うなら、逆に先に言わなかったことを責めてやればいい。と、ザラは得意げに言うと、後はどうやって上るかだなと腕を組んだ。
「確かに、こりゃ三人で肩車しても届かないかもな」
「だろ? 他に上れそうなとこなんてねぇしよ」
「……、全員上れなくていいんだ。一人上れりゃそれで……。 !」
ふとデビの方を見たザラは、その手の中の広辞苑を見て前の時と同じようにニヤリとした。
デビは一つため息をついた。今日は本当に……、本当に広辞苑を持ってこなければ良かったと後悔していた。いつも、大事なら学校には持っていかない方がいいなんじゃない?と兄に言われ続けてきたことが、今になって当たったらしい。当の広辞苑は、今ザラの手の中にあった。
「心配するな。今回は、ボロボロにしたりしねぇから」
「当たり前だよぉ。それ以上ボロボロになったりしたら壊れちゃうよぉ!」
泣き声交じりに声を上げるデビだが、ザラはそれを無視して準備を続行する。先ほど使った紐を取り出すと、それをまた硬く広辞苑に結びつける。
「そういや、なんでお前そんな紐持ってるんだ?」
「なんだっていいだろうがよ」
「それって、独楽買うとついてくる紐みたいだね? ザラって独楽まわしたりするの?」
「なんだぁ、お前もまだまだ子供だなぁ」
「うるせぇ!」
周りで囃し立てる二人を一喝して、ザラは紐がきつく絞られているかを確認すると、紐を手に立ち上がった。
ザラの考え付いた策は至極簡単である。まず、壁に広辞苑を錘にして紐を投げ、向こう岸に渡す。そして鷲が壁に開けてくれた穴を通って二人が壁の向こう側へ向かう。残った一人が、紐を伝って上り始めたら、向こう側へ回った二人が紐が引っ張られすぎないよう抑えて、上に登らせ、辺りを伺う。
とまぁ、こういう策を思い立って実行に移すことになったわけである。ディアン達が独楽回しに使う紐のようだといった紐は、見た目以上に丈夫で多少なら伸縮するという変わった紐らしくおまけに長い。ザラはそれを二人に説明すると、広辞苑を壁の向こうへ投げ込んだ。ドスンと広辞苑が、壁の向こうの道に落ちた音が響く。
「というわけだから、安心して登れ。途中で切れたりはしないはずだから」
「はずだからとか付け足すなよな。 不安になるだろうがよ」
上に登る役になったディアンは、苦々しい顔でザラを見る。この高い壁をよじ登っている途中で紐が切れることなど、考えたくもなかった。
「やっぱり止めるとか言うなよ? お前がやりたいって言ったんだからな」
「分かってるよ! 気に障る言い方すんな!」
「まぁまぁ、ディアン。ほら、僕も向こうで頑張って引っ張るからさ」
ディアンを宥めるようにデビが言う。自分が危険な役目をしなくて済むと分かって少し機嫌がよくなったのだろう。 壁から垂れた紐をザラがディアンに手渡すと、二人は鷲が壁に開けた穴を通って向こう側へ。やがて、準備が整ったらしく、「いいぞー」というザラの声が聞こえてきた。
それに対して、ディアンは「おーう」と返事をして、紐を握りしめた。別に怖いというわけではない。これぐらいの高さの木登りなら、楽々とやってのけるのだ。そう、木登りなら。でも、木登りと垂直の壁は違う。落ちて、大怪我したらどうしよう……。ディアンは、生唾を飲み込むと、紐を握る手に力を込め、そして登り始めた。始めはゆっくりと、やがて早く。
「よい……しょと」
頂上についた頃には、すっかり掌が熱くなっていた。壁で擦った第一関節辺りがヒリヒリするし、腕もジンジン痛む。でも、登りきれた。まずはホッと胸を撫で下ろし、下にいる二人にも登れたと合図を送る。二人も安心したようだった。
「ディアン! そんじゃ、西の方を見てみてくれ! なんか見えねぇか?」
「西だな。 よし!」
そう言ってディアンは壁の上にバランスをとりながら立つと、まずは真正面を見た。えーと、北から引き返してたから、今向いてるのは南……、だよな。じゃぁ、西は……
「こっちだな!」
ディアンは意気揚々と左に顔を向ける。特に何も見えなかった。
「ディアン! それ、東だよ! 逆、逆!」
「え? あぁ、そっか!」
デビの言葉に、ディアンは慌てて逆を見る。しかし、こちらも特に何も見えるものはなかった。途中から黒から白へと、壁の色が変わっているくらいである。……?
「……あれ、なんだ……?」
白い壁の一点に、壁とは違うようなものが見えた。しかし、それも白いため、それが何なのかは分からない。特に移動しているわけでもないようだが……。ほんの少し、他の壁よりは高いようにも見える……。
「どうした? なんかあったのか?!」
下でザラが叫んでいる。これは……伝えるべきだろうか?
「……、なんか変なもんが見える……」
「はぁ?」
「なんなのかはわかんねぇけど、壁っぽくはないものが」
「……それ、どこにあるのか分かる、ディアン?」
「ここから……、えーと大体通路六つ分くらい……」
「六つってどういうことだよ?」
「ちょっと待って、ザラ。ディアンの目から見てる景色と、地図をリンクさせれば……」
デビは筆記用具を取り出すと、紐にくくりつけた。
「ディアン! 紐引っ張って!」
「え? なんで?」
「地図と筆記用具だよ! それで、どこら辺にそれが見えるのか、印できるでしょ?!」
おおそうか、とディアンは納得したらしく、紐を手繰り寄せて筆記用具と地図を広げた。そしてその何か分からない物がある方向だと思われる所にマークを入れる。
「できたぞ! デビ!」
「ちゃんと方向間違えないで書いた?」
「失礼だな! 二回も間違えないよ!」
ディアンはそう怒声を上げると、行くぞと行って筆箱の中に地図を入れ込み、デビに向かってそれを投げた。
「よし、ディアン、降りて来い!」
デビがそれを受け取ったのを確認し、ザラが上にいるディアンにそう言うと、ディアンは「分かったよ」とつまらなさそうな顔を一瞬して、紐を手に取った。
その時だ。何かがディアン目掛けて物凄いスピードで飛んできていた。真っ赤な色をしたそれは、紐を握り降りようとしていたディアンの頭上すれすれを、ピュッと通り過ぎると、手の届かない空中でストップする。
「何だ! 何かが頭の上こすった!」
あまりの速さに何が起こったのかわからず、ディアンがそう叫ぶ。下から様子を見ていた二人にも、何か赤いものが通り過ぎたように見えた以外は何が起きたのかよく分からない。分かっていることは、急いでディアンをおろさなければ危ないということだけだった。
「何でもいい! ディアン、早く降りろ!」
「お、おう」
「見て、ザラ。 あれ、さっきのオウムだよ!」
再び紐を手に取るディアンの遥か上空を指差し、デビがそう言うと、鸚鵡はそれに気付いたのか、止まっていた空中から急降下を仕掛けてきた。
「なんで、鸚鵡がここにいるんだよ!」
慌てた様子でディアンは、壁に向かって四つん這いになってそれを避ける。
急降下していた鸚鵡は、避けられたと知ると、今度は急旋回し、再び遥か上空へと逃れた。
「広辞苑が投げ込まれても安全なとこまで逃げてやがるな、あいつ。ちゃんと学習してやがんだ」
「ディアン、急いで!」
ディアンが先ほど上ったときのように、紐が持っていかれないよう引っ張りながら、デビはそう叫ぶ。鸚鵡は今度は、二人に狙いを定めたらしい。空中から再び急降下する姿勢をとった。
「下りた! 下りたぞ!」
ディアンが叫んだその瞬間、鸚鵡は一気に急降下し、二人に迫った。紐を手放し、二人が素早く地面に伏せると、鸚鵡はそのまま真っ直ぐ飛んで行き、通路の向こうへと消えていった。
南に出るはずの鸚鵡が、どうしてこの北エリアに現れたのか……。最初の見当が外れたのだろうか……。三人にそんな不安が過ぎるが、今は時間がない。とりあえず、何かが見えた西の方へ行き、そこの像で何かを調べることした三人は、ディアンが地図にマークした場所に向かっていた。どうやら、さすがのディアンでも何度も「西」と「東」をとり間違えることはなかったらしく、そのマークの場所へときちんとたどり着くことができた。
そして今、その場所にいるわけだが……。
「なぁなぁ、見ろよこれ。ふわふわだぞ」
「得体の知れないものによく触れるね、ディアン」
「ふわふわ気持ちぃ~」
ふわふわとした、得体の知れない部分を気兼ねもなく触っていたディアンを、ほかの二人は心配半分、呆れ半分に見ていた。好奇心旺盛なことはまぁ、確かに良い事ではあるがもう少し慎重になることも、ディアンには知ってほしいものだと二人が思っていたことはさておき、確かにこれはまた妙なものである。壁の一部のようだが、なぜかふわふわとしていて、しかも妙に盛り上がっている。言うならば、通路の真ん中に小山ができたような状態で、完全な通行止めである。しかし、肝心なことはそこでもない。地図に、こんなものが存在していないことが一番の問題である。地図によれば、この先はT字路になっているはずで、行き止まりではない。とすれば、これはなんなのか……。
「さっぱり分からないね……」
「わからねぇものに一々悩んでも、時間の無駄だ」
「全くだな! 別のルート探すか?」
「悩んでもねぇ奴に言われても説得力に欠けるが、まぁそうなるな」
出口でもないところで立ち止まっていても意味がない。折角の作戦は水の泡になってしまったが、それも仕方ないだろう。三人は、もう一度だけその妙な壁を見上げた後、背を向けて歩き出した。
ズシリ……。
背後で何かが動いたような気配を感じ、デビが振り返ってみる。が、そこには白い壁が見えているだけだ。首を傾げながらも、デビは前を向いて歩き出す。前を歩いている二人に追いつこうと、足を早めた時だった。
ズシ……。
もう一度、サッと振り向いてみる。心なしか、壁がこちらに近づいているような気がした。
「どうした、デビ?」
「な、なんだかあの壁がこっちに近づいてきている気がして……」
気のせいかなと首を傾げたデビは、壁を見上げてみる。見間違いだって~と、ディアンはけだるげに言った。
「もう早く行こうぜ~。時間ないし、早く出たいしさ」
「いや、待てよ。……あんなとこに、模様なんてあったっけか?」
急かすように言ったディアンに、ザラはある一点を指さした。ディアンがそちらに目を向けると、白いだけだったはずの、ちょうど天辺あたりに目玉模様のような、黒い点がみえた。それがこっちを睨んでいるようにも見える。
「……さっきまで真っ白だったよね?」
デビも同じ方を見て、そう思ったらしい。確かに……。あんなところに黒い点などなかったはずだ。しかし、なぜ右側だけに……。そう思っていた矢先、三人の前でもう一つ、黒い点が先ほどのとは反対の、左側に現れたのだ。それはもう、人の目が瞬きをするような、ほんの一瞬にである。
パチリ。
無言で考えていた三人の前で、黒い点は一度消えてまた現れた。
パチリ。パチリ。
「壁に……、目?」
「馬鹿だな、デビ。壁に目なんてあるわけないじゃん」
「そうだけど……」
デビが不満げにディアンに返した時、黒い点が現れた壁の天辺辺りがもこもこと動き……、いや、壁全体が動き出したかと思うと、大きくてたくましくて太い幹のようなものが壁の下から二本、飛び出してきた。続いて、鋭い爪のついた指がしっかりと地面をつかむ。真っ白な壁は今や、壁ではなかった。これは生き物だ。おそらくあの足と思われるものから考えるに、羽毛だろうと思われるふわふわした部分を逆立て、先ほどよりも大きく見えるようになったその生物は、真っ白な中、一際目立つ黒い目で三人を見下ろした。
「壁じゃねぇ……。 こいつは、鳥なんだ!」
ザラが叫ぶと、その鳥はもう一度パチリ、と瞬きした。
これは第四幕の後半です。前半は「Walia(5)」って題名のものを見れば読めます。ややこしいことしてほんとすいませんでした。
これは第四幕の後半です。前半は「Walia(5)」って題名のものを見れば読めます。ややこしいことしてほんとすいませんでした。
お久しぶりです~。やっとね、ここにupできるだけ書けたんで出しますよ~。ごめんね~、待たせて。なんかクリスマス前に会って以降、色々と災難が続きまして。風邪ひくとか、成人式とか、テストとか、成人式とか、テストとかテストとかテストとか……。(つまりは嫌なことが続いたと言いたい) 春休みになっても、次はバイト探しだよ~。まだ何も見つけてないよ~、やばいよね~。
そんなやばい子が書いた続きです~。なんか、とりあえず書き終わった!あげるぞ!って感じなんで、いろいろおかしいとこありまくると思う。正直。 でもいいよね、あとで書き直せばいいもんね。ね?
長いので注意……。
そんなやばい子が書いた続きです~。なんか、とりあえず書き終わった!あげるぞ!って感じなんで、いろいろおかしいとこありまくると思う。正直。 でもいいよね、あとで書き直せばいいもんね。ね?
長いので注意……。
第四幕 とりあえず、――。
試験開始から三十分が過ぎようとしていた。
三人は最初いた場所から移動し、目の前に大きな壁が立ちふさがる通路に佇んでいた。そう、行き止まりである。褐色から、レンガのように赤い色に変わった壁を見つめ、三人は顔を見合わせるとハァとため息を吐いた。
「地図通りに来たはずなのに、なんで行き止まりなんだろう?」
「道間違えたんじゃねぇか、デビ?」
「お前があっちへこっちへ、勝手に行くから迷ったんだろ」
地図を片手に首を傾げるデビの隣で、ザラを睨んだディアンは続けて壁を睨みつける。この先に行けないことはわかっているが、前へと早く進めないのが悔しくてたまらない。 こんな試験さっさと終わらせて、早く戦士になりたいのに……。
「でもやっぱりここだよ、出口。確かに行き止まりだけど……。地図ではここで合ってるし、壁の前に像が飾ってある。こんなの今までなかったでしょ?」
地図から目を離したデビはそう言って、壁の前にある四つの像を指差した。確かに壁の前には四つの像が飾ってあった。四つの大きなタイルの上に、それぞれ飾られたそれは、まちまちの大きさをした鳥の像のようだ。しかし、肝心の出口は行き止まりであり、それはつまり前に進めないことを表していた。
「確かに今までとは違うが……。行き止まりじゃ意味がねぇ。それに、その手前に像が飾ってあるから出口とはかぎらねぇだろ? なんらかの手がかりにはなるんだろうが……、にしたってな」
「んー。結構重い。……不細工な顔してるな、この鳥」
像をあちこち触ってみていたディアンは、そのうち一体の顔を見てそう呟いた。ディアンの触っている像を覗き込んだデビは、これ鸚鵡だよと言って広辞苑を開いた。
「けど、なんだか変わった色をしてるね。確かに真っ赤な色の種類はいるけど、それだとインコだし……。それにこれだけ異様に大きいや」
「真っ赤だなー、この鳥。デビ、この青いのは?」
「孔雀じゃないかな。尾羽がそうだもの」
「そういや、超音の奴が言ってたな。鷲、闘鶏、孔雀、鸚鵡の四種類の鳥がこの世界にはいるって。それに関係してんのか?」
「さぁ。でも、よく見ればディアンの触ってる鸚鵡の像の真後ろにある黒いのは鷲で、孔雀の隣にあるのは闘鶏に見えなくもないよ。……、これってもしかして方位を表してるんじゃ……」
「ありえるな。色と置き方は一致してる」
「?」
二人の言っている意味が分からず、ディアンは首を傾げた。だが、二人は無視して話しこんでいて、ディアンには気づいてくれていない。しょうがないので、ディアンは再び像を眺めることにした。赤い色をした鸚鵡は、両翼を広げて鳴き声をあげているような姿をしている。羽の先から嘴の先まで真っ赤だ。ただ頭の先、飾りのような羽だけが薄い黄色をしていて、黒目の部分がやたらと大きく見える。そのななめ右隣にある闘鶏と呼ばれる鳥らしい像は、巣のようなものに座り込んでいる姿だ。もともと真っ白な上に、目を閉じているために一見すると、これがなんなのか分かり難い。ただ、とさかと嘴の下の飾りから、鶏らしいことが唯一分かる。続いてちょうど鸚鵡の像の真後ろにあった黒い鷲の像を見てみる。これは、木の枝に止まってどこかを睨みつけている姿だ。太い嘴と、枝をしっかりつかんだ足がかっこいい。
最後にディアンは鷲の像のななめ左隣にあった青い孔雀の像を見た。図鑑でよく見る、尾羽を目いっぱい広げたあの姿だ。確かに綺麗だが、ディアンの関心はすぐに薄れた。像を見ていてもつまらない。まだあの二人は自分には分からないことで話しているし、前にも壁があるので進めない。
「ふぁ~」
像を背に座り込んだディアンはひとつあくびをした。つまらない。試験で迷路を抜けるなんて、もっと面白いことがあるのかと思っていたが、いきなり立ち往生になるなんて。もともと謎解きは嫌いなのだ。よく読んでた武勇伝や絵本の戦士達は謎解きなんてしていなかったのに……。
「ふぁ~」
誰かがあくびをした。ディアンは二人を振り返る。ザラとデビはディアンを見ていた。
「? なんだよ、今のは俺じゃないぞ?」
「え? でもそっちから聞こえてきたよ?」
「見るからに暇そうにしてる奴が言うなよな、大体」
「ふあ~」
ディアンのすぐ後ろでもう一度あくびの音が聞こえた。顔を見合わせた三人は、ディアンのもたれ掛かっていた鸚鵡の像を見る。まさか、像が動いたのでは……。ディアンは跳ね起きると、急いで二人の近くへと近寄る。じっと像をにらみつける三人だったが、何もないまま三分が過ぎた。
「……なんだよ、何もないじゃん」
ディアンがそう言うと、ザラは呆れたように「怖がってたくせに……」と小声で呟いた。ディアンがキッとそちらを睨み付けていた時、疑わしげに像を見つめていたデビは何かが像の影で動くのを見た。
「ふ、二人共! 像の影に何かいる!」
二人がそれに反応したとき、像の影から何かがヒョイと顔を出した。
「ピィ」
そこにいたのは一匹の小さな赤い鸚鵡だった。大きな鸚鵡の像の影からピョコンと飛び出し、「ピィ」と鳴き声を発したそれは、ピョコピョコと歩き出した。像と色も姿も置いてある像と瓜二つだ。ただ決定的に違ったのは、大きさだった。
「ちっさ……。像がこんな大きいんだから、てっきりでっかいのかと思ってたのに」
「まぁ、これぐらいが普通サイズじゃないかな? この像が大きいだけで」
それに小さい方がいいよと小声でデビはそう言うと、ちなみにと言って広辞苑をめくる。
「さっきのあくびの音は、ディアンのあくびを真似したんだよ。インコとかが、人の言葉を覚えたとか聞いたことない?」
「つまり、一瞬で音を覚えて真似したってことか?」
そうなるね、とデビは笑って答えると、それって結構すごい事なんだよとどうでもよさそうな顔をするザラに力説する。
「音を真似できるようになるには、何度もその音を聞かせなきゃだめなんだ。それを一回で覚えるんだから」
「じゃ、こいつはすんごい鸚鵡ってことか? デビ!」
「うん」
「おお! よし、こいつ連れて行こう! そんで持って帰ろう!」
「意味わからねぇこと言ってんじゃねぇよ!」
歩いていく小さな鸚鵡を捕まえて満足そうな顔をするディアンを、厳しい声とともにこづいたザラは「鳥共とは戦わなくちゃいけないんだぞ?」とすごんだ声で言った。
「戦う対象を連れて行ってどうすんだよ? 第一持って帰るなんてできるわけがねぇだろうが!」
「いってぇな! だからって殴るなよな! 痛ってぇ!」
突っかかってきたザラに、ディアンが怒り声を上げると、それに驚いたのか彼の腕の中にいた鸚鵡が鋭い嘴でディアンの指をつつくと、その腕を思い切り蹴って、腕の中から抜け出した。そしてディアンの方を見ると、「捕まるか」とでも言わんばかりに一声鳴いた。
「このぉー、鳥のくせに! お前なんかいるかっての! もうどっか行っちまえ!」
生意気な鸚鵡を見たディアンは、大げさに蹴りを入れる真似をして鸚鵡を追い払う。鸚鵡はそんなディアンを後目に、空中へと飛び立つと迷路の奥へと飛んでいってしまった。清々したという顔をしたディアンは、一つため息をついて「さっさと前に進もうぜ?」と、二人を振り返った。
「謎解きなんていいからさ~。早く出口探して、外にでないと時間切れになるじゃねぇの?」
「出口は一つだって、超音の奴が言ってたろうが。間違った出口に出たら不合格なんだぞ? こういうのは慎重にやらなきゃならねぇんだよ」
「だからって、出口でも無さそうなこの場所にいつまでも立ち往生してなんになるってんだよ!」
「まぁまぁ、二人共落ち着いて。ここが出口じゃないってことは分かったんだから、とりあえず次にどこに行くかを決め……。ん?」
口喧嘩を始める二人の声が迷路に響く中、デビは迷路の奥から何かの羽音が聞こえた気がした。いや、だんだんとこちらに近づいてきているような……。
「ねぇ、ちょっと……。二人共……」
「大体、立ち往生したのは誰のせいだか分かってんのか? お前が、あんな鸚鵡なんかにちょっかいだしてるから」
「んだよ、そっちだってデビとグダグダしゃべってたくせに! ん?」
大分大きくなってきた羽音に、やっと二人も気づいて迷路、つい先ほど自分たちが歩いてきた道の方を見た。羽音がさらに近づく。その音は、とても鳥一羽が発する音とは思えないほど大きいものだった。
バサバサ、バサバサバサバサバサバサバサバサバサッ!
曲がり角を曲がり、姿を現したのは真っ赤な鸚鵡の群れだった。一見すると、一匹の違う生物のように見えなくもないそれが、三人に向かって鳴き声を上げながら飛行してきたのである。その先頭にいるのは、先ほどの小さな鸚鵡だ。その他の鸚鵡よりも、さらに一回り小さいのでよく分かる。
「あいつ、さっきの奴だ!」
「見ろ、お前がちょっかいだすからこんなことになんだよ!」
「なんだよっ!」
「どうでもいいから、逃げようよ!」
半ば泣きそうになりながら言うデビの声に、三人は来た道とは違う、真っ直ぐに見える道を選んで走り出した。鸚鵡達はなおも追いかけてくる。しかもかなりのスピードだ。これでは追いつかれてしまう。
「……くっ、戦っていいんだよな、あの鳥共と」
「あぁ? 戦うって、どうやって?」
「……どうにかして」
「何もないんじゃねぇかよ!」
さすがにあんな大群の鳥を一発で追い払えるようなものは、今手元にない。三人はがむしゃらに走った。羽音が近づいてくるのと同時に、徐々に三人のスピードが落ち始める。特にピンチなのはデビである。重たい広辞苑をかかえているうえに、見た目どおり運動音痴な彼は、息も切れ切れに二人についてくるのがやっとな状態だった。
「デビ!」
遅れて始めたデビを見、ディアンは走るのを止めるとデビの背後に迫ってきた鸚鵡の群れに頭から突っ込んだ。途端に鸚鵡がディアンの周りを囲みこむ。
「あのバカ」
「ハァハァ、もう、ハァ、駄目」
その場に倒れこんだデビを呆れたような目で見た後、ある物に目が留まったザラは鳥の群れを見て、ニヤリと笑った。
辺りが一瞬で真っ赤になった。バサバサと耳元で羽音がする以外は何も聞こえない。何十羽という赤い鸚鵡に囲まれたディアンは、嘴や爪から顔を守るようにして腕を組んでいた。その隙間から見えるのは、真っ赤な世界と嘴と、爪だけだ。耳元をこするように飛んでいく鸚鵡達の羽音と鳴き声は、耳の鼓膜が破けるんじゃないかと思われるぐらいの大音量だった。
躍起になって片方の腕を振り回してみる。が、そうなると空いたところを狙うようにして鸚鵡達が一斉につついてくるし、振り回している腕を思い切り引っかかれてしまうのである。おかげで、服がボロボロになり、さらに悪いことに頬が切れて、血が流れ出した。
「このぉー! !」
大声を上げようとするのだが、たくさんの鸚鵡達がぶつかり合いながら飛行するために、抜けた羽が空中を舞っていて、口を開ければ入ってきそうになる。実際、何度か口に入ってきた羽をぺペッと吐き出したぐらいだ。抵抗する手段が何も思いつかない。……それでもディアンは腕を振った。時々、うまい具合に腕が鸚鵡に当たる感触があったので、交互に足も繰り出してみる。その様子に、鸚鵡達も少し距離を置くようになった。
息がし易くなってきたと思ったその時、鸚鵡の群れがパッと散ったのが見えた。そして
「ディアン、しゃがめ!」
言われるがままにしゃがんだディアンの深緑色をした何かが、通り過ぎていった。そのまままた固まり始めた鸚鵡の群れに、その何かが突っ込むと、鸚鵡達は先ほどの鳴き声とが違う、悲鳴にも似た声を上げてまたパッと散った。
ブンッと振り回された深緑の広辞苑は、鸚鵡にぶつかってペシャリと床の上に落ちる。デビの抱えていたあの深緑の広辞苑である。よく見ると、広辞苑には独楽回し用ぐらいの太さをした紐が、堅く結びつけられてあった。それを、投げたというわけである。誰が……。
「もう一発! 頭は下げとけよ」
グッ。
ザラが持っていた紐を引くと、ずりずりと広辞苑が動きだし、さらにグッと引いて腕を回すと宙に浮いた。そして先ほどと同じ要領で、まだなおディアンの頭上にいた鸚鵡の群に、広辞苑を投げ入れてやる。また鸚鵡の群れがパッと二つに分かれると、「広辞苑」という、彼らにとっては正体不明の怪物に甲高い声を上げながら、元きた迷路の奥へと逃げ出していった。
「サンキュー、ザラ。助かったぜ!」
「礼ならいい。ただな、一人で突っ込んでいくとか馬鹿としか言い様がねぇぞ。これ以後気をつけろ」
鸚鵡の群れが去り、三人の回りが静かになった頃、広辞苑と紐を回収したザラは、傷だらけなのに笑顔を浮かべるディアンにそう言った。しかし、なおもディアンは嬉しそうな笑顔を浮かべたまま、ザラを見る。何か嬉しい発見をした、そんな風な笑顔であることにザラは気づいたが、何がそんなに嬉しかったというのだろうかと首をかしげた。すると
「お前、意外にいい奴だなー。見直したぜ」
ディアンが笑顔でそうザラに言った。
少しの間、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう、ザラは驚いたようにディアンは見ていたが、ややあって一度フッと笑った。
「……俺も、お前の根性だけは見直した」
「でも、馬鹿は余計だからな」
「馬鹿以外に表す言葉がねぇんだよ」
二人そろってニヤリと笑った後、二人はそのまま下へと目線を向ける。そこには疲れきって床に伸びているデビの姿があった。全力疾走後、あえなく撃沈した彼は、自分の大切にしている広辞苑が、二人のチームメイトと鸚鵡の群れによって、ボロボロになってしまったことをまだ知らないままだ。
さすがに、大切な広辞苑がボロボロになった事を知ったときのデビの怒りは、尋常なものではなかった……。 怒りと言っても、大泣きして喚くだけなのだが、その泣き声は日頃大声で叫びまくるディアンのそれを遥かに上回るほどの泣き声であった。これにより尋常ではないという、ザラの認定を受けたわけである。試験が終わった後に、修復作業を手伝うという約束をして、やっとどうにか収めることができたときには、ディアンもザラも、ホッと胸を撫で下ろした。
再び褐色の壁でできた迷路を進みながら、ディアンは遠くの方へと目をやる。前方の中央には、時計台がドンと立っていて、それ以外には黒い空だけがディアンの目に写る。時計はすでに十時を指していた。
「なぁなぁ。これからどこ行くんだよ?」
どうやら次の行き先を決めて歩いているらしいザラに向かって、ディアンはそう問いかける。先ほどの騒動で、結局二人が話していることが分からなかったディアンには、また意味もなく歩いているだけのように感じたのだ。
「今は北を目指して歩いているとこだ。どんな馬鹿でも、南の逆が北だってことぐらい分かるだろ?」
「ぬ……。だから馬鹿って言うな! それぐらい分かるよ!」
「まぁまぁ、喧嘩しないで。 あのね、ディアン。さっき僕らが話してたこと分かった?」
「全然」
喧嘩の仲裁に入ったデビは、そのままディアンに説明をするため表紙がボロボロになった広辞苑を広げた。まだ何も書かれていないページを開いて、シャーペンを取り出す。なんでお前は書くものまで持ってんだよ? と小声でザラが呟くが、意に介さずデビはそのページに十字を書いた。
「あのね、ディアン。東西南北がどう並んでるかは知ってるでしょ? じゃぁ、東西南北にはそれぞれ色が振り分けられてるってことは知ってる?」
「色?」
「そう。北が黒で、東が青、南が赤で、西が白。さっきの鳥の像も、そう並んでいただろ?」
「んー、言われればそうだったような……」
「で、南を表す赤い壁のところで、赤い鸚鵡が出た」
「?」
「つまり、北に黒い鷲、東に青い孔雀、西に白い闘鶏が出るってことだよ」
「なーるほど」
ポンと手を打ったディアンは、じゃぁなんで北に行くんだ?と尋ねた。
「別にどこから行っても同じだろ? 何が出るかは分かったんだし」
「何が出るかはっきり分かったからこそだろ? 超音の奴が言ってたこと思い出せ。「鳥と一戦交えろ」。鳥と戦うっていうのはよくわからねぇが、攻防しろっていうなら、ここは猛禽類である「鷲」か、「闘鶏」がヒントを持ってる可能性が高い。「鸚鵡」と「孔雀」は論外といってもいいかもな」
「それなら闘鶏でもかまわねぇじゃんか」
「まっすぐ突き抜けたほうが楽だろ? 時間かからねぇし」
「お前、北選んだのそれが理由だろ?」
鳥がどうのとか方位がどうのとか関係ねぇじゃんと、のんきにディアンは呟くとふとザラを見た。
「さっきから思ってたけどな、ザラ。マサ先生のことをなんで呼び捨てにすんだよ? 三珠樹だぞ、三珠樹!」
「ふん。なんと呼ぼうが俺の勝手だろ?」
そっぽを向いたザラを、ディアンは睨みつける。三珠樹とは、この国で一番強い戦士三人を指す称号だ。代々代わるもので、現在の三珠樹は今までの三珠樹の中でもトップクラスだと言われている。戦士を目指すものならば、誰でもこの三珠樹には敬意を表するものだと兄ちゃんだって言ってたのに、どうしてその三珠樹に、ザラは敬意を表さないのだろう。
「俺の目標は、そんなものじゃない」
ザラがボソリと呟いた一言に、なら何なんだよ?と尋ねてみる。そんなことお前が知ったことじゃないと、ザラは再びそっぽを向いて、それ以上は何も話そうとしなかった。
紫陽花です。とうとう12月入っちゃったね。一年って早いね。もう嫌になるよ、いろいろと。
昨日、バイトの面接に行きました。某ショッピングモールの本屋さんに。結果は水曜日か、木曜日に通知が届くらしいです。合格だと書類がぶっといらしいです。 受験地獄が終わったというのに、さらにあのドキドキなんか味わいたくねぇ!! 少なくとも、あと一年は味わいたくねぇよ!
話はだいぶ変わりまして、本編のね、続きを今日ね、載せるはずだったんだが、やっぱ一週間じゃ無理でした(すいませんした) 次回からは二週間とかにします。自分の力量とかスケジュールとか考えずにやるもんじゃないよね、こういうことは。ほんとに。 で、じゃ今回はどうしたんだと言いますと、今回は小話曝露です。好きなだけ笑うがいいさ、バカな妄想をしている俺を! ってな感じの話。ちなみに登場人物は三珠樹。 はいはい、またかよ~っ感じですね。 それでもいいっていうなら読んでね。
昨日、バイトの面接に行きました。某ショッピングモールの本屋さんに。結果は水曜日か、木曜日に通知が届くらしいです。合格だと書類がぶっといらしいです。 受験地獄が終わったというのに、さらにあのドキドキなんか味わいたくねぇ!! 少なくとも、あと一年は味わいたくねぇよ!
話はだいぶ変わりまして、本編のね、続きを今日ね、載せるはずだったんだが、やっぱ一週間じゃ無理でした(すいませんした) 次回からは二週間とかにします。自分の力量とかスケジュールとか考えずにやるもんじゃないよね、こういうことは。ほんとに。 で、じゃ今回はどうしたんだと言いますと、今回は小話曝露です。好きなだけ笑うがいいさ、バカな妄想をしている俺を! ってな感じの話。ちなみに登場人物は三珠樹。 はいはい、またかよ~っ感じですね。 それでもいいっていうなら読んでね。
それはいつもと少し違う午後だった。
ある冬の日の午後
冬が終わり、少しずつ暖かくなり始めた頃のこと。冬休みも終わり、新学期真っ只中。今日も忙しい戦教でそれは起こっていた。
「兄さん、この書類書き直しときました」
「あぁそう。じゃマサに回して」
リーズの声に、いつもの笑顔も見せずぶっきらぼうに答えたウェンはそう言って隣の部屋を指さした。その指差された隣の部屋には、彼の親友であるはずの人物がいるはずだが……。顔をチラリとも上げない義兄を見ながら、リーズはなんとなく嫌な予感がするのを感じた。
一方、その隣の部屋では溜まった書類が整理されている所だった。しかし、当の部屋の主はただ椅子に座っているだけで、書類には見向きもせずどこか遠くの方向を向いたまま。その様子に修行という名目で整理にかり出されていた弟子二人と養子一人は、ただただ呆れながらも、慣れた様子で書類の山を片づけていく。が、書類は一行に減っていかない。むしろ、壁中の棚を陶器で埋め尽くされたこの部屋のどこに、これだけの枚数の書類が置いてあったのか不思議に思うほどの量である。まだまだ終わりそうにない書類の山を見上げて、六人衆中二番目に長身のレムは、はぁとひとつため息をついた。
「先生、さすがに俺たちだけじゃぁ、どうにもなりませんよ、この量」
「レム、マサ先生はきっと今瞑想中なのだ。声をかけるんじゃない」
「なんでそうお前は……。まぁいいか……」
同僚の台詞に後ろ頭を掻きながら苦笑したレムは、もくもくと整理を続けるパズに渡された書類をパラパラとめくる。その傍らチラリと恩師の方に目を向けてみるが、やはり恩師は明後日の方向を向いたままでこちらには見向きもしない。
仕方がないかと再び苦笑をもらし、レムはパズとは反対方向の部屋の隅で作業をしているレスの方へと歩み始めた。彼の恩師はよくこういうことがあるのだ。特に機嫌が悪い時には大体こんな感じに、その日一日ふてくされて何もしようとしなくなるのである。唯一することといえば、八つ当たりをすることぐらいだろうか。
「ほらよ、レス」
ファイルを持ち上げ、歩みだそうとするレスにもう一冊追加とばかり、レムは持っていたファイルを突き出した。それを見て、うんざりそうな顔をした後輩は「上に乗っけてください」と、いつもどおりそっけなく返してくる。
「お前、さすがにそれは止めとけよ。 俺と同じくらいの高さにまでファイル積み上げて運べるのか?」
横着にも自分の身長より高く積み上げられたファイルを持っていたレスにそう言ってやる。レムより頭ひとつ以上は低いレスからしてみれば、前も見えない状態だ。
「やばくないです。これでも毎日毎日、先輩方に雑用としてこき使われてる身ですからね。こんなの慣れてます。ですからどいてください」
「先生が機嫌悪いと、お前も機嫌悪くなるんだな……」
いつもなら自分にそんな風に愚痴をこぼしたりしない後輩の冷たい態度に、再びレムは苦笑する。怒りだとか、そういう気分が伝染することを十分に熟知している彼にとって、苦笑することはその輪に巻き込まれないための一番効果的な表情だった。
「レス、これ頼む」
レスがしかめっ面をしてファイルを持ち上げたちょうどその時だった。ドアが開いて隣の部屋からリーズが現れると、ふらふらとしながら運ぼうとしているレスの荷物の上に、手にしていた大きめのファイルをさらに積み上げた。
「はー……、い!」
急に重くなったせいか、中途半端に返事をするレス。どうやら今ので耐え切れる重さの限界が来たらしく、さらにふらふらと抱えていた書類とともに部屋中をおぼつかない足取りで歩いていく。
「お前何やってんだよ! それで書類全部こぼしたらパーだぞ?!」
「んなこと言われても……。その前に助けてください!」
「だから言ったのに……。! おい、レス! 足元、足元!」
「え?」
振り向いたその瞬間、レスは足元に一枚落ちていた書類で足を滑らせ、両手に抱えていた書類とファイルを盛大に空中の放り出して、大転倒する。そのままレスは床に後頭部を殴打しうめき声を上げた。そして空中に放り出された書類はというと……。 「ギャー!!拾え、拾え! 急げ、ひまわり!!」「ひまわりじゃねぇっつってんだろ!」と騒ぐ先輩二人を差し置き、書類は空中できれいにそろえられると、転倒して頭を抱えていたレスの横に、きっちりと下ろされた。 それを見て、レムとリーズは安堵の表情を浮かべる。
「危なかった……。サンキューな、パズ」
「俺はなにもしていないぞ?」
不意に話をふられた、今までの間ずっと無視を決め込んでいたパズはそう言って、整理したファイルを棚に納めた。 そして「これだから雑用は」と言いたげな顔で、ギロリとレスをにらみつける。
「じゃぁ、マサ先生? ……!」
パズの様子に、背後にいる師へと視線を移した二人は、明らかに怒りの表情を浮かべている師を見つけて固まった。後から、後ろにいたパズとレスも、それを見つけて黙り込む。だが、彼らにその表情が向けられていたからではない。師、マサの顔は、リーズによって開け放たれたドアの向こうで作業をする白髪の人物に向けられていた。向こうは向こうで同じく、普段は滅多に見せることのない怒りの表情で、マサの方を睨み付けていた。なんともいえない緊張感が少しの間、部屋を支配し、四人は普段ないこの異常な空間に、動くこともできずにその場で息を潜めるしかなかった。そんな四人のことなど、さもいないような沈黙が続いた後、ドアは向こう側からバン!と大きな音を立てて閉められた。
「……お前達、もういいから自分の持ち場に戻れ」
「? まだ終わってないよ?」
「誰のせいだと思ってる」
「……ごめんなさい……」
ドアが閉められた後、やっと自分たちの方へと椅子を向けたマサは、淡々と四人に言い放った。
怒りの表情のまま、言葉をかけられたレスは一度ビクッと肩を震わせた後、小さくなりながら謝罪する。それを見ていた先輩三人は、これは今すぐ部屋を出て行くべきだな、と悟った。問いかけたのがレスであったからこそ、たったの一言で済んだが、もし自分たちがあんなことを言っていたらと思うと、三人は背筋が凍るような思いだった。
とりあえず、彼らは何も言わずにその部屋を出ることにした。暖かくされたこの部屋を出て、寒い風の吹く外に出るのは嫌には違いないが、自分の身の方が大切である。 四人はマサからみてちょうど正面に設置されたドアへ向かって歩き出した。
三珠樹の部屋には多数のドアが設置されている。お互いの移動がスムーズになるよう、三つの壁越しに繋がっている部屋をすべてつなげてあるのだ。マサの部屋は、中心ということもあってか、合計で四つものドアが設置されている。一つが、今三人が外へ出ようとしている、所謂玄関。そして非常口になる裏口と、左右の部屋へ通じる扉。例えるなら、部屋を仕切る襖のような役割である。
「レス、忘れ物だ」
ドアを開け、出て行こうとする四人の背後から、いかにも不機嫌な声がかけられた。そして超能力でもって投げつけられた文庫は、ちょうど振り向いたところだったレスの顔にクリーンヒットし、慌てて本を拾い上げたレスの前でバタンとドアは閉められた。
「なんか朝から当たられてるなぁ、レス。養子ってのは大変だな」
「……まったくです」
「ま、そのおかげで俺らは助かるわけだけどな」
「……怒りますよ、リーズ先輩」
投げつけられた文庫から埃を払いながら、レスはリーズを睨み付ける。誰だって怒られるのは嫌である。そう言いたげに、レスはムスッとしていた顔をさらにしかめて文庫をポーチへと収納する。「本当のことだろ?」とのんきな顔を浮かべたリーズは、隣で腕組みしたまま何も言わないパズに賛同を求めるかのように視線を向けた。
「……俺にふるな、ひまわり頭」
「カッチーン! んだよ、てめぇがしゃべれてねぇからわざわざふってやったのに!!」
「まぁ、騒ぐなよひまわり」
「そうですよ、ひまわり先輩」
「うっせー!! 裁縫バカ!! 後、どさくさに紛れて先輩になんてこと言ってんだぁ、レス!!」
「いいじゃないですか。一日に一回くらい」
「よかねぇだろ!?」
「朝から派手に突っ込みよって。いじられて嬉しいのは分かるが、少し黙れ、リーズ」
「リーズじゃねぇ! ひまわりだ! ってえ? あれ? しまった、逆だ!」
「やーい、やーい。ヒマワリー」
「とうとう認めましたね、ヒマワリ先輩」
「違うわ!! あんまりにも突っ込みすぎて間違えたんだよ! あと、誰が弄られて嬉しいか! 嬉しいわけあるか!! ……どう収拾つけんだ、これ!」
一人で混乱に陥っているリーズはさて置き、マサの弟子三人は、どうしたものかと珍しく三人そろってため息をついた。(「置き去りか!?」byリーズ)
超音マサと風野ウェン、そして今は帰省中でいない鳥海ユウイの三人は、おそらくこの竜の国一強い者達であり、一番の仲良しだということは誰もが知るところである。それは、日常生活からして明らかで、傍目から見れば非常に仲の良い兄弟に見える。そんな彼らだが、今現在戦教に残っている二人は、とてもそんなことを人前で言える状態ではなさそうだ。普段から多少の口喧嘩はある二人だったが、ここまでひどいことは類をみない。 何が原因かはさておいたとしても、これは戦教の存続にも関わる重大な事態だ。なんとか収めなければならない。
「どうすりゃ収まると思うよ、リーズ? お前、昔から馴染みなんだろ?」
「馴染みって言っても俺だってあんま知らないんだからな! あの人達のことは!」
「相変わらず使えない奴だ」
「何ぃ?!」
「……やっぱりユウイ先生がいないとダメなんですかね……」
思案に暮れていた三人の先輩にレスがぼそりと呟く。そう言われれば、今はユウイがいない。そういう時というのは、いつにも増してあの二人の口喧嘩が多かったような気がしないでもない。三人はそれぞれ顔を見合わせると、やっぱ三人じゃないと駄目なのかもなと、黙り込む。自分達が口を出しても、容易く跳ね除けられてしまうに決まっている。 そういう間柄なのだ、あの三人は。
四人はただ、ユウイは予定よりも早く帰ってくるようにと願うばかりだった。
書類の山の中に埋もれるように横になっていたマサは、不意に立ち上がると椅子の所にまで歩いていって、そこに腰を降ろした。と今度は意味もなく立ち上がり、床の上にゴロリと寝転がる。しかしどこか落ち着かない。その後も落ち着きなく、立ったり座ったり寝てみたりをしばらくの間続けていた。いつも部屋に一人でいる時、彼はそんなことはしない。寝ているか、音楽を聴いているか、土をいじくっているか……。そして稀に仕事をしている。どれにせよ、部屋の中を落ち着きなくうろうろすることは滅多にない。しかも、一定の距離を長時間ぐるぐると歩き回り続けることは初めてのことだった。
椅子に座って、マサは少し考え込む。弟子達(一人余計だが)を追い出したはいいが、書類を片付ける気にはとてもならない。だからといって、何か別のことをする気にもならないのは、今朝あいつに言われたことを自分が引きずっているからだろうか。
ふと傍の窓から外を眺めてみた。窓の外には椿が植えてあった。ある人の名前と同じ花をつける木には、まだ花は咲いてない。良くて早咲きの蕾が、小さく開きかけてあるくらいだ。
「椿か……」
いつの日か……、言われた気がする。 『マサが落ち着いてない時は、いつも何かを後悔してる時よね』と。冷たい風にさらされて、紅潮した顔に小さく笑みを浮かべて。
『後悔しているんなら、逆に落ち着かなきゃ。自分のしたことを、ゆっくり考え直すの。花の蕾みたいにね』
『そりゃそうかも知れんが……。なんでまた花の蕾なんだよ? ゆっくりしろってんなら、亀とかに例えるのが普通だろ?』
『だって亀じゃぁ、結果が分かりにくいじゃない。亀が歩いていった先に何があるかなんて、不特定でしょ? 蕾の方は結果なんて言うまでもない。開きかけた蕾は、花になる。時間をかけて、ゆっくりと。ね?』
それに亀じゃぁ、のろまなイメージの方が強いしね。彼女はそう言って、再び小さく笑った。
「ハァ~」
そう言われたって落ち着いていられるか。今のこのむしゃくしゃした状態で、どうやって物事を考えろというんだ。しかも、自分がしたことを? バカバカしい。あれはあいつが悪いのだ。人の物を壊して、謝りもしないあいつが。 自分は何もしていない。後悔なんてしているものか。
マサはもう一度椿へと目をやる。開きかけた蕾に変化はない。まだまだ時間が経たなければ、咲きそうになかった。
「……ハァ。考え直せばいいんだろ? 考え直せば」
ぶっきらぼうに独り言を呟くと、窓から視線をはずし、マサは椅子にもたれかかる。そのままただ天井を見つめて、低く唸った。書類の積まれた部屋で、一人落ち着かない自分。原因も分からないままに、ただ時間だけが過ぎていく……。
「ただいま~」
昼を少し過ぎた頃、不意にドアが開いて、聞き慣れた高い声が室内に響いた。ユウイがたくさんの大きな荷物と共に帰ってきたのである。しかし、ユウイはドアを開け放したまま、何も言うことなくマサの方を見た。いや、正確には目の前の光景に、何も言えなかったというのが正しい。
「……何やってんの?」
「い、いや……」
回転椅子に座り、クルクル回っていた三十路近いいとこに、ユウイは目を丸くして尋ねる。口を濁したマサは、「早かったな」と話を反らした。
「帰りは今週末じゃなかったのか?」
「うん。けど、なんかいやな予感して帰って来ちゃった♪」
嫌な予感がしたと言うのになぜか楽しそうなユウイに、マサは「そうか」と呆れ半分、安心半分で呟いた。落ち着きなく貧乏ゆすりをする足を机で隠し、「おみやげv」と言って渡された物を受け取る。携帯だった。
「俺はもう持ってるぞ。 あんなややこしいものは二つもいらん」
「だ・か・ら買ってきてあげたんだよ。おじいちゃんおばあちゃんが使う超簡易携帯! うれしい?」
机で隠れていた貧乏ゆすりする足が、怒りでピタリと止まった。
まだ落ち着かない……。
1時間ほどが経ち、今度こそちゃんと椅子に座り、書類に目を通していたマサは、まだ貧乏揺すりしている自分の足を押さえた。少しの間止まったと思っても、また揺れが始まる。先ほどよりいくらかむしゃくしゃする気分は治ったが、まだ何時も通りの落ち着きは戻ってきていない。あれから少しの間、落ち着かないのは何故か、さらに思案してみた。糖分でも足りないのかと思って、買いだめしてあったチョコレートを(板チョコで)二枚ほど食べたが、効果は見られない。ならば運動不足かとも思ったが、こんな寒い中、外に出る気は自分にはない。もちろん考え直してもみたのだ。しかし、どう考えても自分も悪いという結果になるのだ。そんなはずはない。そう思いたかった。
マサの部屋を出て行ったユウイは今隣の部屋だ。どうやら帰省中の様子を風野に報告しているらしい。壁越しに小さく聞こえる声の感じからして、さぞ盛り上がっているのだろう。
つまらなくなって持っていたペンをポイッと机の上に投げ出してしまう。あの輪の中に入りたい。一人で仕事なんぞ、まっぴらごめんだ。だが、ウェンとは喧嘩中だし、無論、自分から謝るなんてプライドの高い自分がするわけがない。いや、むしろ謝れないと言った方が正しいかもしれない。何かあれば、すぐ怒鳴るようになったせいか、子供の時のように素直に謝れないのである。謝り方をすっかり忘れたと言った方がいい。喧嘩なんてしなければよかった……、あんな些細なことで。
マサは悔し紛れに普段からくしゃくしゃの髪を、さらにくしゃくしゃとかき回した。もちろん、髪がくしゃくしゃになるだけで何の効果もない。
「マサぁ、午後ティーしよっ」
突然隣に続くドアが大きな音を立てて開き、ユウイが喜びいさんで飛び込んできた。急に飛び込んできたユウイに、ポカンとするマサの腕をグイグイと引っ張り、「お茶会、お茶会♪」と楽しげに呟く。
「ちょっ、ユウイ待て。俺はだな」
「大丈夫! コーヒー飲んだらマサの落ち着きも戻ってくるから!」
「なんで知ってんだ!?」
「ついでにウェンとも仲直りできるから!」
「な、お前分かっててっ? !」
三珠樹一小さいが、三珠樹一力の強いユウイに腕を引かれては、マサでは到底かなわない。あれよあれよと言う間に腕を引かれ、マサは隣の部屋へと足を踏み入れた。自分のとは違い、綺麗に整頓された部屋を見渡す。書斎机の上も、そして小さなお茶会用のテーブルも掃除が施されていてピカピカだ。もちろん、書類の山なんてあるわけがない。
見慣れたその部屋を見渡したマサは、あるものに気づく。書斎机に見慣れないものが乗っていた。ひびの入った、お椀もどきのようなものが大量の破片と一緒に置かれている。今朝、割られたマサ作のお椀だ。
「お、……」
「マサはいつもみたくドアに一番近いとこ。僕はその隣!」
ユウイの声に、マサの驚きの声はかき消された。 茶会用のテーブルの前にすでに座っていたユウイは、ドアに一番近い椅子を引きながらそう言った。そして「ウェンはマサの正面ね~!」と、向こうの給湯室にいるウェンに向かってやはり楽しげに言うのだった。
久しぶりに三人そろうのがうれしいのか、ユウイの声はとてもワクワクしていた。とりあえず椅子には座ったマサだが、浮かない顔をしてユウイを見つめる。やはりユウイにはばれていたようだ。自分とウェンが喧嘩したことも、自分に落ち着きがないことも。全部お見通しということだろう。だからと言って、こんな無茶なことをするか。 いや、無茶なことをするからこそユウイなのだ。
マサは呆れたようなため息をつくと、向こうで作業しているウェンを見た。ウェンは何時も通りお湯を沸かして、カップを用意してと変わらない様子だ。が、ちらりと見えた表情はやはり苦々しい。大方、つい口を滑らせて喧嘩したことを話してしまい、ユウイの剣幕に負けたって所だろう。
やがて用意ができたのか、ウェンがお盆を片手にこちらにやってきた。お盆の上に乗っているのは、三つのカップ。ユウイには紅茶、マサにはコーヒー、ウェンには……。
「お前もコーヒーか……」
「悪いかい?」
ふと口からでた言葉に反応して、ウェンから低い声が返ってきた。 日頃笑っていることが多い奴だからか、眉を顰めて言われると本気で怒っているということがひしひしと伝わってくる。
「……いいや。ただ珍しいと思ってな」
怒っている相手を刺激しないよう、できるだけ当たり障りのない返答をしたマサは、手前に置かれたカップを見つめた。
「……しまった」
カップや砂糖入れなどを盆から降ろしていたウェンの手がふと止まる。
「どうしたの?」
「いや、お菓子用意するの忘れてた。何にも作ってない」
確か、下の棚にビスケットの缶があったはずだし、取って来るとウェンが言うと、お菓子大好きなユウイはパッと目を光らせて取りに走っていった。あっと言う間もなく飛んで行ったユウイに、ウェンは苦い顔を浮かべる。マサもどうするか……と言いたげな顔で後ろ頭を掻いた。静まり返るテーブルの周り……。二人の間には重苦しい空気が流れていた。一触即発というよりは、お互いにどうしたものかという息苦しい空気だ。こんな空気さえ流れていなければ、ここで二言三言くらいは話すだろう。だが喧嘩の最中では、それがいくら日常と同じ茶会だからと言っても、どうしても言葉が見つからない。
お互いに、椅子に座ったままただ目の前のカップを見つめる二人。このまま沈黙が続くかと思われたが、次の瞬間、何かを決心したかのように二人は同時に口を開いた。
「「今朝はごめん」」
ユウイには聞こえないような小声で、まるで息を合わせたかのように二人同時に発せられたその言葉に、マサとウェンは目をまん丸にして黙り込む。ややあってからフッとまた二人同時に吹き出し、終には二人して大声を出して笑った。
「どしたの、二人揃って笑って? もしかして仲直りしたの?」
ビスケットの缶を片手に戻ってきたユウイは、自分がいなかった間に何があったのか分からなくてそう尋ねる。二人して大声をだして笑うなんて、仲直りするときよっぽど面白いことがあったに違いない。
「まぁね」
「まぁな」
ユウイの意図とは裏腹に、二人はありきたりな返事を返してきた。顔に笑みを浮かべたまま、なんでもないよと言いたげな二人の様子に、一瞬ユウイはつまらなさそうな顔をしたが、やがて「良かったね」というようににっこりと笑った。
「マサ、砂糖はいくつ入れるかい?」
「……10個」
「入れすぎだよ~、マサ。さっきもチョコ食べてたくせに~」
「だからなんでお前は知ってるんだ? 俺のこと見てたのか?」
「ううん。でもマサのことなら分かるよ」
そしていつも通りのお茶会が始まる。角砂糖とミルクの淹れられたコーヒーを一口、口に含んだマサは、いつの間にか貧乏ゆすりが止まっていることに気づいた。
「……。謝るってのもたまにはいいもんだ」
急にそんなことを言うマサに、ウェンとユウイは少し驚いた風だったが、
「それはお前さんが普段謝る立場にいないからこそ言えるんだよ」
「そうだよ~。マサは謝ることが少ないだけだよ~」
と、不平を言って苦笑いした。
「なんとでも好きに言え。どうせ今回だけだからな」
マサは何時も通り愛想なくそう言い返す。そしてもう一口、コーヒーを口に含んだ。
窓の外の椿の蕾は真っ赤な花になっていた。カラッとした冬の空に笑い声の響く中、その花は風に小さく揺れた。 完
はぁ、恥ずかしい。書き終えてから何回見直しても、恥ずかしい。なんだ、これ。三人のいっつもこんな感じかなってのを書いてみたんだが。三人の思考織り交ぜようと思ってたのに、見事にマサ一色だね。なんでだろうね? 私とマサが似てるから? あぁ、そうですか。 やっぱ似ていると書きやすいのかなぁ、心理描写。 この話、書き終えてからテーマみたいなもの、というか、マサの落ち着かない原因を考えていろいろと加筆したんだけど、理由分かった? そこんとこ何かあったら教えてね。今後の参考にするんで。そしてまたもや長くなりました。あとがきもだいぶ長いんで、今回はこれで。次回は12月14日(日)ぐらいには載せます。読んでくれてありがとね~。
はぁ、恥ずかしい。書き終えてから何回見直しても、恥ずかしい。なんだ、これ。三人のいっつもこんな感じかなってのを書いてみたんだが。三人の思考織り交ぜようと思ってたのに、見事にマサ一色だね。なんでだろうね? 私とマサが似てるから? あぁ、そうですか。 やっぱ似ていると書きやすいのかなぁ、心理描写。 この話、書き終えてからテーマみたいなもの、というか、マサの落ち着かない原因を考えていろいろと加筆したんだけど、理由分かった? そこんとこ何かあったら教えてね。今後の参考にするんで。そしてまたもや長くなりました。あとがきもだいぶ長いんで、今回はこれで。次回は12月14日(日)ぐらいには載せます。読んでくれてありがとね~。
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