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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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みんなそれぞれ仕事始まって大変だねぇ~。ほんとに書く時間ないだろ? これで実感したろ?
自由な時間は確保が難しいのです。 そんな中で、どうにか父の日編、完結させたよ~。
 まぁ、タイトル通り、息抜きにでもどうぞ。

 翌日、戦教校舎西側の平屋の一室となる超音マサの部屋にはピリピリとした空気が流れていた。元凶は部屋の主その人である。彼はいつ誰からも「不機嫌そう」と言われる顔をさらに不機嫌そうに眉根を寄せ、イラつきを隠すかのようにゆっくりとタバコの煙を吐き出した。

 しかし、イラつきは隠せているどころか、さらなるプレッシャーを相手にかけることになっていた。部屋にいたパズとレムの二人は、今そのプレッシャーをまさに全身で受けている最中だった。せっかく座り心地の良い、くつろぎソファに腰掛けているというのに、背筋はピンと伸びたままで、気をつけの姿勢を崩さない。空気は元凶の彼の能力が影響してか、乾燥して二人の体に静電気をため込ませていた。おかげで隣あって座っていた二人は、少し近づくだけでバチッと静電気を喰らう羽目になった。

「……パズよう」
 ちらりと壁の時計に目をやり、さらにイラついたらしい、正面にある書斎机の向こうにいる師に聞こえないよう、レムは隣にいるパズに声をかけた。

「なんだ?」
「いやいや。聞きたいこと、分かるだろ? まぁ一応聞くと、俺達なんでここにいるんだろうな?」
「さぁな」
「冷たいな。……いつまでこうしておけばいいんだろ」
「それは先生の気が済むまでだろう」

 ツンとそれが当たり前と言わんばかりにそう言ったパズに、レムは一度溜め息をついた。もう午後の三時だ。昼前に呼び出されてからずっとこのままなので、もう空腹感は絶頂を通り越して逆に感じなくなっている。が、ピンと張りつめた空気の中、背もたれにさえもたれられない今の状況は、腰と足に非常に悪いことだけは違いない。かと言って逃げられるわけもない。レムはこういうとき、「師の思うがままに」の精神でもって、物事を肯定的に見られるパズが羨ましく思えた。

「貴様等は見たか?」
「はいっ?!」

 唐突に声をかけられて、妙な声をあげてしまったレムは、隣の人物に小さく小突かれて黙り込む。代わりにとばかり、パズが「失礼ですが、何をでしょうか?」とマサに尋ねた。

「貴様等の後輩だ。白髪で、女々しく童顔で、ことあるごとに消極的発言をし、且つすぐに姿を眩ませる逃げ足の速い阿呆のことだ」
 わざと悪口ばかり言って特定の人物を指すのも、彼がいらついている証拠だろう。何にせよ、レムは先生も親バカだなぁとにこやかに苦笑、パズはそれとは逆にまたかとうんざりした顔をすると二人揃って「いいえ」と答えた。

「そう言えば、珍しく今日は見てないですね。いつもなら、少なくとも一回は本読んでるとこを見るんですけど」
「奴が何か問題でも起こしたのですか?」
 暢気に言ったレムの隣で、パズはそうあってほしそうにマサに尋ねる。不機嫌な部屋の主は、ぶっきらぼうに「あぁ大問題をな」と答えた。
「無断欠勤……」
「無断……えっ、無断欠勤?」
「及び一年間、なんか訳分からん状態のまま俺様を放置した罪だ」
「「……??」」

 よく分からないことを言う上司に、二人は大きなクエスチョンマークを浮かべるが、相手にはもうどうでもいいらしい。とりあえず、ほったらかしにされたことで怒っているようだが、その怒りの矛先を向けるべき相手は微妙に違う気もする。

「……にしても、無断欠勤ですか? レスの奴にしては珍しいですね。確かに急に消えることはあっても、仕事に関しての連絡はちゃんとする奴でしょう?」
「……(あまり言いたくはないが、そもそも今日は休日のはず)」
「パズ、あいつは雑用だ。俺様が必要だと思えば、いついかなる時でもあいつは出勤する義務がある」
「……ごもっともで」
 苦々しくパズは呟いて溜め息をつく。雑用などという身分で、それなりに頼りにされていることが分かってさらに苛立ちは募るが、それを言っても仕方ない。

「出勤しろと言ったわけではないが、来なければならんのだ、奴は」
 今日はなとやたら今日を強調する師に、レムはポリポリと頬を掻いた。六月の第三日曜日……、特にこれと言った祭日ではないはずだが、何かあっただろうか。そもそも六月には祭日はないはずだ。だとすれば、マサにとってよほど大事な用がレスにあるのだろう。なんにしろ、自分達には関係なさそうだった。

「ところで、マサ先生? 俺達に何か用事があるんでしょうか? それともレスの奴を探せってことですか?」
「あん? 用事がなきゃ、呼んじゃいかんのか?」
「……いや、別に」
 眉を顰めたマサに、レムは一瞬にして理解した。つまりは暇つぶしである。正確に言うならば、構ってくれる奴がいないから何か相手しろということである。
「(そういや、今日はウェン先生もユウイ先生もいないな……。お二人はほんとに非番か)」

「先生、ならば近日行われる美術館の展覧会へ、先生が寄贈された作品について、いくつかお伺いしたいことがあるのですが」
「おう、なんだ?」
「今回の作品のテーマは「壮大」ということで、海をイメージされたような青い陶器を多く寄贈されていたようですが、その中にいくつかだけ茶色を入れられたのにはやはり何かしらの意味があると思ったので自分なりにそれを解釈してみたのですが……」
 同じように理解したらしいパズが、ならばとばかり始めた美術論に、マサは少し機嫌を良くしたのかのる。そのまま長々と、お互いの意見を言い始めた。

 それを見て、ひとまずレムはほっと息を吐き出す。マサの機嫌が直ったなら、解放してもらえるのも時間の問題だろう。マサとパズの論議はまだ続いている。もともと、レムは論議をするほど美術が好きなわけでもない。もちろん、布や糸を使って何かを作るのは好きだが、論議に加わる気はさらさらない。仕方なく彼は、作りかけだったぬいぐるみを取り出すと糸できれいに整え始めた。

「(そういえば、リーズとサトが何かお祝いするとか言ってたなー。確か父の日だったっけ。兄貴に、父の日のお祝いは違うだろって言ったら、感謝だからいいんだよって言われたなぁ)」
 もくもくと手を動かしながらレムはさらに思考する。
「(そういや、墓参りも行くって言ってたな。俺もザラちゃん連れて行かなきゃなー。父さんにたまには顔見せてあげないと。父の日なんて、俺達にできることはそれぐらい……)」
 仕上げに入ったレムの手がふと止まる。ちらりとマサの方を見ると、パズとの論議はさらに白熱しているようだ。あぁ、なるほど。
「(父の日か……。先生にしてみたら、初父の日……。レスに用事ってこれのことだったんだな。でも、レスの奴は知ってるのかな……)」

 緑のボタンを目の位置につける作業に戻り、レムはさらに思考する。ほんとに親バカだなぁと微笑ましく思えてくると同時に、もう少し自分達にも丸くなってくれるとありがたいのになとか思っていた彼は、次の瞬間、少し嫌な予感がした。
「(まてよ……。だとしたら先生が俺達を呼び出したのって、ほんとに暇つぶしのためか?)」

 別に普段ならそこまで神経質になることではない。マサが暇つぶしに自分達を呼び出すことはよくあることだし、大概の場合、マサは部屋の掃除やら整頓やらを二人にやらせてさっさと帰すだけである。しかし、今の状況、かわいがっている(こんなことを本人の前で言ったら制裁をくらうだろうが)義息子とは連絡がつかず、父の日だというのにほったらかしにされている。見返りを、自分達に求めてきてもなんら不思議はない。加えて、こういう時のマサは理不尽にさらに拍車がかかるため、自分達が何も用意してないと知れば、たちまち怒号が飛ぶだろう。……これは、やばい。

「(パズの奴は気付いてんのか?)」
 ちらりと論議中の二人を見たレムは、パズがスケッチブックをマサに見せているのを見た。そして
「ほう、確かにいい色使いだ」
「でしょう。この紫と青の色合いが、自分でもうまくいったと」
「で、くれるのか?」
「?! せ、先生がお望みならば喜んで!!」
 ふむと満足そうな顔をしたマサはスケッチブックを取り上げると、ぱらぱらと他のページをめくり始める。普段、あまり歓喜することのない同僚の顔が喜びのあまり赤くなっていた。

「(……抜け駆けされた)」
 どうやら偶然のことらしいが、うまく窮地を脱したらしいパズに、レムは小さく舌打ちをした。さて、マサからすれば当然のこと、次は自分の所に来るだろう。レムはただただ手を早く動かすことに集中した。
「して、レム。貴様はさっきから何を作ってるんだ?」
「はやっ!!」
「はやっ!!てなんなんだ。貴様、今日はやたらと挙動不審だぞ。何をそんなに慌ててる」
「いえいえ、別にそんなんじゃ……。それよか、ほら。俺はこれを作ってたんですよ。猫のぬいぐるみ」
「……貴様、ほんとにその趣味どうにかならんのか?」
「い、いいじゃないですか。好きなんすから」
「ん? いつもの派手な配色ではないんだな」
「え、えぇ。ちょっとは実物っぽいもんを作れってザラちゃんに怒られて。アメショっぽくしようと」
「アメショ?」
「猫の種類っすよ」
「……」
 大して興味もないのか、マサはそこで口をつぐむ。元来、ぬいぐるみなんて女が持つものと考えている師からすれば、当然だろう。だが、今日だけは興味を持ってもらわなければ、自分が困る。

「で、ちょっと出来心で。この猫、なんか見てるとレスに似てるなぁって思えてきて、どうせならもう少し似せてやろうかと」
「……そうか?」
「……そうでもないですかね?」
「……」
「……」
 どうも、この作戦は失敗したらしいとレムが悟った時だった。コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえ、部屋にいた三人はそちらに目を向ける。ぎぃと音を立てて扉が開き、ある人物が顔を出した。
「……やっと見つけた」
 いつも通り眠たげな顔をしたレスは、部屋にいた三人に挨拶をする前にそう呟くと、疲れたと言うように溜め息をついた。
「溜め息をついている所悪いが……、今までどこで何してた、童顔!」
「……そんなに怒んないでよ。俺だってマサのこと探して、町中うろうろしてたんだから。……不審者って誤解されそうになるし」

 べそを掻きそうになりながらそう言い訳するレス。マサの方は、そんな様子などお構いなく、つかつかとレスに近寄るとその頭を一度ペしっと叩きつけた。
「いたっ!」
「このバカが! なんで連絡をよこさないんだ!」
「連絡なんか、何回もしたよ。メールも送ったし、電話もしたよ。ちょっと携帯かして」
 不機嫌そうなマサに、レスは不満そうに手を差し出す。マサが乱暴に携帯を突き出すと、レスはその携帯を開いてマサの目の前に突きつけた。画面は真っ暗だ。

「……なんも映ってねぇぞ」
「マサ先生、それ充電切れてませんか?」
 画面が見えたレムがそういうと、マサの顔がひどく赤くなった。追撃どばかり、レスが口を開く。
「……自分はテレパシー使えるからって、携帯の充電切らすの、いい加減やめようよ。こっちから連絡しようがない」
「うるさい! ならバッジを頼りにすりゃいいだろう!」
「……たぶんだけど、バッジまた壊してない? あっちこっちにマサの印が現れたり消えたりして、すごく大変だった」
「?! えぇい、うるさい! 俺様がいる所ぐらい、感で分かれ!」
「……むちゃ言わないでよ。まさか休みの日に学校にいるなんて誰も思わないよ」

 まさに理不尽の応酬、これぞマサの必殺業である。しかしながら、それさえも軽く受け流すこのできるスルースキルを持つレスにはあまり効果はないようだ。まぁ普段からハリトーやらたくみやらゼノやら、自分に不必要にからんでくる相手が多いため、これくらいは拾得しないと身が持たないのだろう。

「(なぁ、パズ。今のうちに帰っちゃだめかな、俺達)」
「俺はあの雑用に文句の一つも言わずに帰る気はさらさらない」
「声にだすなよ。俺だって言いたいことは山ほどあるが、それは後日になってもいいだろ」
 ごにょごにょとレムはパズにそう言うが、パズは言葉通り動く気はないらしく、頑として立ちレスを睨みつける。そんな様子にレムは参ったなと言いたげに頭を掻いた。
 
「……先輩方にはご迷惑おかけしました。すいません」
 パズの刺すような視線を感じたのか、レスがこちらに向かって深々と頭を下げた。それでも不服そうに顔を背けるパズとさっさと帰りたそうにしているレムに、謝るのを諦めたのかレスは相変わらずふくれっ面をしているマサの方へと向き直った。

「……とりあえず、ちゃんと贈り物は用意したから機嫌なおしてよ。はい、これ」
 小さなリボン付の箱を取り出したレスは、照れくさいのか少し顔を赤くしつつ、マサに差し出した。
「…………」
「……早く受け取ってよ。差し出してる俺が馬鹿みたいじゃないか」
「…………」
「……どうぞ、貰って下さい」
「ん。そこまで言うなら貰ってやる」
 満足そうに頷いたマサは箱を受け取ると、しげしげと眺め回す。

 少しレスの顔がうんざりしたような呆れたような表情になるが、綺麗に包装紙を取り中身を取り出した彼に「なんだこれは?」という顔を向けられて慌てていつもの表情に戻った。
「……見た通り、指輪だけど?」
「なぜに指輪なのかと聞いている」
 マサに凄まれて、レスはぼそぼそと「……その、おそろいで」と呟いた。
「お揃い?」
「ゆ、ユウイ先生の案で、何かお揃いのものでも上げれば?って言われたから」
「……」
「ゆ、指輪にしたのはなんとなくで、別に深い意味はないし……、邪魔だったらつけなくていいし」

 おどおどと説明をするレス。対してマサは不審そうな表情を崩さず、黙ってレスを見下ろしている。少しの沈黙。やがて耐えきれなくなったのか、レスは小声で「だって何あげたらいいか、見当もつかなかったんだもの」と涙目で呟いた。

「ユウイ先生に当てがあるって引っ張って行かれた先がアクセサリーショップで、そこで俺の所持金で買えそうなものは指輪くらいしか……」
「お前、お揃いってことは、同じもの二つ買ったのか?」
「? ……買ったけど?」
「……そうか」
「???」
 呟いたマサの顔には、何故か微かに笑みが浮かんでいる。レスが首を傾げるのには目もくれず、マサは指輪を満足そうにはめると、すっかりほったらかしにされていた弟子二人を振り返った。
「さて、では全員で飯でも食いに行くか」
「「えっ??」」
 突然の発言に、豆鉄砲を喰らったかのような顔をした二人に、マサが「なんだ行かんのか?」という顔を向ける。

「いや、その、行きます! 行きますけど……」
「正直それほど所持金は……」
「……俺も。もう使い果たして所持金0だし……」
「貴様らという奴は……。俺様が、人に何も奢らん奴だと思っているのかっ?! 極めて心外だ」
 赤く光る小さな宝石のついた指輪を光らせ、驚いた顔をする三人を指さしたマサは「祝いの日は、大勢で食事するに限るっ!!」と断言した。
「パズ! ヒビキを呼び出せ! レムも弟を呼んでこい。たまには俺様がいいものを食わせてやろうじゃないか」
 すっかり機嫌を良くしたらしい最凶先生は、意気揚々と外へ出た。

「……お前すげぇな、レス。最凶先生の機嫌の手綱握ってるなんて」
「……そんな手綱、握りたくないですよ、レム先輩」
「……ともあれ、急いだ方がいいな。また機嫌を損ねたら、全額支払わされてもおかしくはない……」
 珍しく弟子三人は、揃って一度身震いすると、上機嫌の師の後を追う。梅雨時にしては、珍しく、すっきり晴れたある夕方のことだった。

 完

 
ってことで、終わらせました。(ドーン) 後のことはご想像にお任せします。みんなでほんとに食べに行ったのかとかね。ちなみにの後日談で一つだけ。

後日・・・・・・
レム 「そういえば、レス。お前、お揃いで指輪買ったんだよな? どんなのか見せてくれよ」
レス 「・・・・・・? いいですよ?」
 
 首元からペンダントを引っ張り出したレスは、そこにプレートと一緒に鎖に通されている指輪を取り出す。
レム 「・・・・・・はめないのか?」
レス 「え? だって邪魔じゃないですか」
レム 「・・・・・・。へ、へぇ。お前のはついてる石は黄色なんだなぁ」
レス 「・・・・・・はい。好きな色が選べたので。あと、はめる話ですけど、ユウイ先生に「はめるならマサと出かける時に。左手の薬指にはめなきゃだめだよvv」って言われたので・・・・・・」
レム 「・・・・・・悪いことは言わない。変な誤解されたくなかったら、絶対するなよ?」
レス 「????」
パズ 「・・・・・・くだらん」(実は聞いてたパズさん)

 指輪ネタは、ほんとは話中に入れたかったけど、長いし、めんどくなったのでやめた。 なんでこいつらこんなに「・・・・・・」が多いんだ。ほぼ、小さいLの方のせいだけど。
 マサも、たぶん何も考えずに左手の薬指につけてそうなので。一応調べたけど、愛情を表す指が薬指か親指だったので、「親指には絶対しないだろう」と思ったんだ。ってか、贈り物に指輪選んだ時点で、はめるのは親指か小指以外の太さが大体同じな指になるんだけどさ。親指、小指なんて狙って贈らないよな。
まぁ、マサさんがどこに指輪をはめたのかも、ご自由にご想像ください。

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