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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 風邪を引きました。
 胃腸性のものらしいです。一昨日はお腹が苦しくて帰宅後一時間ぐらいうめいていました。昨日職場で具合が悪いのをなんとかごまかし仕事していたら、ごまかせていなかったらしく(まあ昼ご飯がのどを通らなかったのを目撃されてますし)、先輩から帰るように言われました。疲れでもたまっているのかと思っていたのですが、早退した手前、一応と病院に行ってみたらけっこうひどい風邪だったらしい。二度ほどもどして多少はすっきりしたのですが、うつしたらいけないので今日はお休みです。・・・・今日、大学のクラブの人達と飲み会の予定だったのに・・・・。
 くやしいのと、ひさしぶりに時間ができたのとで、眠りあきた夕方からこんなの書いてました。
 ひさしぶりにここに出せます。

 明日はまたお仕事です。溜まった仕事が怖いです。年度末の忙しさときたら。

 つづきからお久しぶりの鬼子流離譚、番外。
 

 病は恐ろしいものだ。生、老い、死と並んで人生の苦しみに数え上げられる。それは人から肉体的な力をうばい、日差しを遠ざけ、心を弱らせる。
 病は恐ろしいものだ。
 架楠の母は、村で鬼病がはやったとき、倒れた村人の看病に村中をまわった。よそ者のおのれを温かく受け容れてくれた村人に、何か返せるものをと、家々を回ってつくした。
 そうはいっても、彼女は何らの医術も薬術も修めたわけではなかったから、ただ病人のもとに赴き、食料をとどけ、声をかけ、身の回りの不自由はないかと気を配っただけだ。だけと言っても、それは充分な慰謝であった。
 そして彼女は病に倒れた。床から起き上がれぬ身となった母親に、今度は架楠が看病をはじめた。水をくみ、火をおこし、母に声をかけ続けた。すべて母親の見よう見まねであった。まだおさない身でありながら、よくやったと言える。流石に調理はできなかったが、保存されていた粉をこねて団子にするぐらいは出来た。調理せずとも食べられる木の実をとってきたりもした。
 始めは母も、床から半身をおこして、架楠に色々と指示をしていた。それもやがて、体をおこすのも苦しくなるまでのこと。
 皮膚はかさつき、体は目に見えて骨張っていく。閉じていたまぶたをふと開いたときの、妙にきろきろとした目玉も、これまで母とまわった先の家で見た病人と同じであった。
 辛くとも架楠の前では優しい言葉やいたわる表情を心がけていた母も、いつしか言葉少なになり、無表情でいることが多くなった。
 架楠は必死に看病しながらも、変わっていく母が恐ろしかった。その頃から、外に出ると村の者から白い目を向けられるようになっていった。
 ある日、石を投げられけがをして帰った。恐ろしくて哀しくて、母にすがりたくて涙をためて帰った家の中は、母の苦しそうな息づかいだけが支配して、ひっそりと薄暗かった。なんにも言えず、架楠は傷口を土間で洗った。涙がこぼれた。
 病は人から笑顔を奪う。
 病は人から言葉を奪う。
 姿も、心も、病が人を変えてしまう。
 優しかった隣人。優しかった母親。優しかった記憶を思って架楠は泣いた。そしてつくづくと思ったのだ。
 病は恐ろしい。

 

鬼子流離譚~幕間・温かい病


「架楠、疲れたかい」
 歩調の遅くなっていた架楠をふりかえり、青蓮が問うた。架楠は跳ね上げた顔を左右に勢いよくふる。
「ううん、大丈夫です」
 ぱらぱらと頭巾にあたって細かい雨が散る。
 頭巾にかくされた顔が見えるわけでもないのに、青蓮は気遣わしげに眉をひそめた。
「すまないね、もう少しがんばっておくれ」
 ぬるい空気に、しとしとと降る雨。体にへばりついた着物が重くて仕様がない。それでも架楠はまるで平気なように見せようとする。体が熱くて、頭が重たい、寒気もする。そのどれをも、架楠は訴えようとしない。
「俺がおぶってやろうか」
 架楠を覗きこみながら、彪がそう提案した。青蓮は唇に指をあて、周りをみまわして誰もいないのを確認してから、うなずいた。
「じゃあ、頼むよ。彪」
「応」
 彪は任せろとうなずく。
「僕、だいじょうぶだよ」
「何言ってんだよ。さっきつまづいてただろ」
 一蹴すると、彪は軽々と架楠を担いだ。ほとんど背丈の変わらない架楠を、子供の彪がそうして担ぎ上げる姿は、よそから見ればやはり異様と言えただろう。実際は、鬼である彪にはたやすいことではあったのだが。しかしそれが知られれば、異様などという言葉では済ませてもらえないだろう。
 だから人目の在るところに近づいてからは、彪は架楠を青蓮の手にあずけたが、その頃には架楠はもうそんなことは分からないぐらいふかく眠っていた。


 自分の見知った村人が、遠巻きにこちらを眺めている。知っている人たちのはずなのに、何故か誰一人名前を思い出せない。
 ぞわぞわとした敵意だけが感じられる。
 自分のたつ足下がひどく不安定で、いまにも底がぬけてしまいそうだ。落ち着かない、いやな予感に背筋が震えている。
 村人のひとりが、こちらを指さす。びくりとする。向けられた指先が、ひどく攻撃的ななにかに見える。開いた口から意味のある言葉はひろえない。つづけて、ひとり、又ひとりとこちらに指先を突きつけてくる。頭がわんわんとなる。
 脳裏にひびく言葉。
"やまいだ、やまいだ"
 ちがう、ちがうと反射で否定しながら、答えが見えないように目を塞ぎ、耳を塞ぐ。
 心の裏側に、恐れの根源、こたえがある。
 熱があるんじゃないかい。
 ちがいます、ちがいます…。


 目を開けると、どっと世界がなだれこんできた。
 しばし呆然としてから、ようやく認識が追いついてくる。部屋の中のようだった。なんだか目の前が白い。
 体があつい。ぼうっとする。心臓がどきどきしている。
「ああ、目を覚ましたね」
 のぞきこんできたのは、青蓮だった。顔が近いと思って、やっと、架楠は青蓮に抱き込まれていることに気がついた。目の前が白いと思ったのは、たくさんの布と、抱き込まれた青蓮の胸元だった。
「彪、お湯をおくれ」
 青蓮の視線の先をたどって、もぞもぞと体をよじる。襖をたてしきった部屋は広くはなくともきちんとしている。掃除もいきとどいて、良い宿なのだと知れた。
 熱のせいか、天井の梁やら窓の桟やら妙にこまかい所に目がいってふらふらとしていた視線が、近づいてきた彪にとまる。彪の手にした湯飲みからは、湯気がたっている。受け取ろうと手を伸ばした青蓮がすこし前屈みになって、ぐっと架楠の体にひっつく。
 体をおこした青蓮が、架楠の口元に白湯のはいった湯飲みをあてた。
「喉がかわいているだろう。呑みなさい」
 言われるままに、架楠は口をつけた。ちびりちびりと、嘗めるように呑む。口の中がぱさついて、言われたとおり喉はかわいて痛んでいた。
 架楠がもうこれ以上呑まないのを確認して、青蓮は湯飲みを下ろした。
 ぼんやりとしたまま横を見ると、彪が真剣な面持ちで控えている。その脇には火鉢があって、鉄瓶がのせられていた。かんかんとした鉄瓶の口から湯気が上がっている。
「…良いお部屋…、ごめんなさい…」
 思っていた以上にかさついた喉にへばりついて、声は半分も出なかったが、青蓮に意味は通じたらしい。
「構わないさ。寝ていなさい」
 簡素な口ぶりだったが、何故かすっと安心できた。額に汗ではりついた髪の毛を白い指先がよける。
 ぐるぐると持ち合わせた布でいくえにも架楠の体を包み、さらに胸元に抱き寄せている。どれぐらいの間そうしていたのか、じっと架楠を抱き、寄せられる体重を受け止める青蓮の負担はなかなかのものだろうのに、青蓮は笑った。
「少しつかれてしまったんだね。急ぐ旅でもなし、ゆっくりおし。心配しなくて良いから」
「青蓮」
 何か自分にできることはないのかと、じれったげに彪が声をあげる。
「ああ、すこし差し水をもらっておいで」
 青蓮の言葉が終わらないうちに、彪はすっくと立ち上がるとばたばたと部屋を出て行った。
 ゆっくりと青蓮が体を揺らしはじめる。子守歌のようにやさしい揺れに、架楠の瞼がさがってくる。
 頭は重くて、体はだるくて、頬がかっかとする。それなのに架楠は、今ひどくやすらいだ気持ちでいた。 


    了

 まだ三人が旅を初めてそんなにたっていないころのお話でした。
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