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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 夏休み更新第二回目~。 バイトで忙しいけど頑張ります。 今回は最後のほうがちょっと、いやそれどころかかなりグダグダになった可能性あり。 精進します……。

 
第二幕  戦士教育学校 戦士教育部
 
「よしっ。 準備完了!」
 ディアンはピッと背筋を伸ばし、鏡に映った自分の顔を見てそう言った。
 今日はとうとう入学式だ。昨日、ワクワクと同時に不安を覚えながら寝られるずにいたことなど、今のディアンの頭にはない。時計をちらりと見て、ディアンは喜びいさんで家を飛び出した。
 タッタッタッ。胸が躍ってたまらない。 走っている足が自然とスキップになりそうだ。ダメダメ、もっと落ち着け。冷静に。
 それでも足は自然とスキップじみた足取りへと変化していく。タッタンタッ。タタンッ。住宅の立ち並ぶ路地を抜け、大きな通りへ。今日も、朝からたくさんの人が往来している。忙しそうなスーツ姿の人、焼けたパンを店頭に並べている人、店の前を掃除している人。行きかう自転車と、人の波。
周りだけいつもどおりなのに、自分にだけは特別な日だ。
周りに同じような学生がいないようなので、ふと感じた。今ここで、叫んでみようかな。嬉しすぎて、今ならほんとにできそうだ。
どうにかこうにかその気持ちを押し殺し、さらに進むと川に突き当たった。昨日遊んだ川原が、少し下に見える。そこを上流に向かって、少しペースを落として歩いていくことにした。
だって汗だくで学校に着くのは嫌だし……。
「おはよう、ディアン」
 微笑していたところに、後ろから声。振り返ると、茶髪の親友が「すごく嬉しそうだね」と、少し苦笑しながら立っていた。
「おはよう、デビ! だってさ、嬉しすぎるじゃん! 今日だぜ、今日!」
「うんうん、分かった。分かったから少し音のトーン下げてね」
 朝っぱらから大声を出すディアンに、トーンを下げるようしぐさを加えて言いながら、デビはいつも持ち歩いている分厚い、あの深緑の表紙をした本をもう一度持ち直す。
「なんだよぉ~、今日くらい置いてくれば良かったのに……」
「なんかもう、ないと落ち着かないんだよ。大体、なんでディアンは手ぶらなのさ?」
 「広辞苑」と書かれたその本を大事そうに抱えながらそう聞き返すデビに、ディアンは少し黙り込む。 今日って……。
「なんか荷物要ったっけ?」
「……いや、入学式だから要らないと思うけど……。ディアンはさ……」
 「もしかしてまた忘れてたの?」と、デビが苦い顔をしてディアンに言う。再びの沈黙の五分後、ディアンはあることを思い出して大声を上げた。
あー! 上履き忘れた!
そっちかいっ!
 「上履きはもともと要らないでしょうが!」と、突っ込みを入れて、デビは「ほら」とディアンに思い出させるよう優しく話し始める。
「春休みの前、君だけに出されていた奴」
「?」
「宿題……」
「なんの?」
もう、ほんとどこまで忘れてるんだよ
 呆れたようにデビはそう言うと、「理科の宿題だよ」と付け加える。それを聞いたとたんに、ディアンの顔が真っ青になり、「どうしよう……」といった風にデビを見る。が、いまさらどうしようもない。デビが「しょうがないよ、忘れてたんだもの」と、あんまりにも可愛そうなので、少し皮肉っぽくだが言ってやると、当の本人は「うん……」とやけにおとなしくうなづいた。
「しょうがないよな……。……でさぁ、今日何人くらい来るのかな?
ディアン君、ディアン君。反省って言葉知ってる?
 ほんの一瞬しゅんとしたようにうなだれてみせておいて、いきなりいい顔をして話し始めたディアンに、デビはそう切り返してみるが、やはりというか効果はない。結局、学校につくころには、ディアンの頭の中で「理科の宿題」というものは、「始めっからなかったもの」となっていた。
 
 
 戦士教育学校は、コンクリート作りの横に長い、二階建ての建物だ。形としては、上からみると大きな「L」の字の形をしていて、一階に職員室や会議室等、広くて大きな部屋が並び、二階に生徒たちの自教室が並んでいる。 
 それが、初等部の頃の話だ。
 戦士教育部の校舎は、その「L」字型の建物から少し離れた、二階建ての長方形をした風に見える建物二軒からなっていた。 こちらは、コンクリートの冷たい感じではなく、所々にレンガが埋め込まれていてツタが這っており、少し暖かい感じのする建物になっている。正面から見ると、二軒の間には渡り廊下のようなものまであった。
「……なんか豪華になった?」
「そうだね……」
 校門(これも、初等部のとは違う校門があった。実は、初等部と戦士教育部の間には低い塀が建ててあるのだ)を入り、初めて目にした建物に、二人は少し目を見張っていた。ここが、新しい、僕たちの校舎。そう思うと、やっぱり胸は躍る。入り口へと少しずつ近づいていって、学校について十分後、ようやく二人は校舎の中へと足を踏み入れた。
 入るとすぐ手前に二階へと続く階段があった。しかし今は、一階にある第一会議室という所を目指しているので、二階は関係なかったためそのまま通り過ぎる。つぎに二人の目に飛び込んできたのは、大きな窓のある広い廊下だ。いつもきれいに掃除されているのか、床がピカピカと光っていて、歩くのが実におしい……。
「デ、デビ。俺、こんなとこ歩くの初めてだ……」
「ぼ、僕だって。なんで、こんな光ってるんだろ? かえって歩きにくい……」
 二人して目の前の光る廊下にオロオロしてしまい、歩き出そうとしては止め、歩き出そうとしては止めとを繰り返していると、そのうち段々と目が慣れてきたらしい。最初は眩しいほどに光っていた廊下が、今では数段落ちて透明感のあるような床(それでも結構きれいなわけだが)になったので、ソロソロと歩き始める。思っていたよりも奥に長かったため、なかなか第一会議室を探し出せず、最初に遅れた分も手伝って、二人は自然と早足になった。初日から遅刻していては、先生方になんと思われるかわからない。
 少し行くと、二人の進行方向の右側がやけに明るくなった。前面がガラス戸になったその先には、渡り廊下と広い中庭が見える。
「うわ、すっげー。見ろよ、デビ! ちっちゃいけど、噴水まであるぜ!」
 ふと足を止め、外の景色に見入るディアンに、デビは振り向きもせず「遅れちゃうよ」と急かすように呟いた。
「ほら、向こうに人が見えてきた。きっとあれだよ、ディアン」
 ガラス戸からディアンを引っ張るようにして前方を指差し、デビはまたも急かすようにディアンに言った。
 なるほど確かにそこには人がいた。真っ黒な髪をした、薄紫の上着を着た人が。いや、あれは正確には上着というよりもポンチョというものに近いだろう。左右に下ろされた手を覆うほどに長いそのポンチョが、白い明るい廊下で一際目立っていた。
「……」
 とりあえずそこが目的の場所であるかを確認するため、二人がその人物の方へと近づくとその人の黒い瞳がスッとこちらを捕らえた。そして……「ギロリ」。そんな擬音が聞こえてきそうなほどの勢いで、突然睨まれた。
?! えっ、あ、あの……」
 二人してその睨みに思わず竦んでしまい、後ずさる。誰だろう、この人は……。警備員の人なのかな? それにしては小柄な気がするけど……。
「おい」
「「は、はいっ!」」
「貴様らは戦教入学希望者か?」
「はっ?!
「さっさと答えろ」
 そう言ってその人はパチンと指を鳴らした。 ポンッ。どこからともなく空中に小さな箱が現れ、うまいことその人の手の中に収まった。その光景に二人が驚いているのを知ってか知らずか、箱を開け中身を確認しながら「さっさと答えんか」と、その人は少し怒ったような声で言った。
「す、すいません。えーと……、そのまず「戦教」って?」
「「戦教」とは「戦士教育部」の略称だ。入学希望者ならそれくらい知っておけ」
 冷たくデビに言い放つと、「で、どうなんだ?」とあの黒い瞳の浮かぶ目を細めて、その人はまた二人をにらみつけた。
「あの、そうです……」
「僕も……」
「ふん。反応の遅い奴らだ。 まぁいい。名前は?」
「も、守元 ディアン……です」
「砂地……デビです……」
 名前を聞いたとたん、その人が箱に手をかざす。すると、箱の中から二つの小さな袋が浮かび上がってきた。ポワポワと空中に浮かんでいるそれは、再度驚いている二人の前までフワフワと移動すると、ポトリと二人の手の中に収まる。「それが証明章だ」とその人は箱のふたを閉めながら、二人に言った。
「廊下なんぞで立ち往生しおって……。全く、兄弟揃って腑抜けだな」
 不機嫌らしいその人は、またパチンと指を鳴らす。すると、今度は綺麗に箱がその場から消えてうせてしまった。またも驚いて、目がまん丸になる二人の前でその人が上げていた腕を下ろしたとき、胸元に光っていたバッジの字が目に飛び込んできた。
「輪超」? ……りんこえ………?
「あと十五分。遅れていれば部屋には入れてやらなかったものを……。とにかく、入れ。この部屋で、試験が始まるのを待つんだな」
 
 会議室は大勢の生徒で埋まっていた。これだと裕に百人くらいいるように聞こえるだろうか。じゃぁ、訂正。正確には会議室が約三十人の生徒によって埋め尽くされていた。ようは、会議室が想像よりも小さかったのである。
 ディアンは何故だかそんな文章が頭に思い浮かんだ。なぜ、普段から雑誌以外の本といったものを読まないような自分の頭に、そんな文章が浮かんだのかさっぱり思いつかないが、とにかく会議室の中は先ほどの文章で言い表されたものそのものであったことは確かだった。男子も女子も半々と言ったくらいで、あちこちで大小のグループを作ってしゃべりあっているため、会議室の中はいささか騒がしいものだった。
「もしかして、これ全員……、新入生?」
「だろうなぁ。 ほら、見ろよ。知ってる顔が何人かいるぜ、デビ。 おーい、ゆう!」
 向こうに見えた友人に挨拶として手を振りながら、ディアンはデビの質問に答える。友人からそれに答えるように振られた手を見てから、デビは再度ディアンに尋ねる。
「そうみたいだけど……。今年の入学者って、十五人くらいまでじゃなかったっけ?」
「マジで?!
「ったく。去年の終わりに、プス先生がそのことについてのプリントを配ってただろ?」
「おぉ、そういえば」
 今思い出したといった表情のディアンに、デビはいささか呆れた風にため息をついた。もう十二年の付き合いであり、ディアンの物忘れにはいつも振り回されているため、デビにとっては慣れたことではあるのだが、いい加減直らないものか……。
「……。で、それによると、今年教える先生は六人だけらしいよ」
 先を聞きたそうな顔をしてくるディアンに、デビはそう告げると「その紙には、先生の名前まで書いてなかったけどね」と付け加えた。
「誰だろうなぁ。まぁ、すでに二人は分かってるんだけど」
「兄さん達だもんね……。もしかして、さっきの人、、「りんこえ」……?その人も先生の一人なのかな?」
「さぁなぁ~。なんか怖い人だったけど。あの人が先生だとしても、俺は正直当たりたくないな~」
「正直すぎるよ、それ」
 苦笑いをしてデビが返すと、ディアンはその答えに返しながら空いている席を探し始めた。 
 先ほどの「りんこえ」(?)さんの言葉から察するに、もうすぐ試験が始まるらしいが、それまでずっと立っているわけにもいかない。 
 ん? まてよ……
「デビィ? さっきの人、試験がどうとか言ってた?
「ん? 何を今更……。そりゃ、予定人数より希望者数が多けりゃ試験もするよ」
「なんで?! それで落ちたらどうなんの?!
「僕に聞かれても……」
「そんなの、戦教に入学できないに決まってるでしょ?」
 慌てた様にデビに突っかかるディアンの後ろから、二人には聞きなれた明るい声が聞こえた。ディアンが振り返ると、そこには赤毛で、両耳に青いイヤリングをした女の子が、ピンク髪で白衣を着た女の子を従えるようにして立っていた。
「全く。休みボケのせいで、何もかも忘れてるみたいね、ディアン? 私が一から教えてあげようか?」
「ベーっ! お前なんかに教えてもらいたくないねっ」
「ひどいわね! それが幼馴染に対する態度なの?!
「幼馴染に対する態度ってなんだよっ! そんなの知らないね!」
「ちょっとさぁ、二人共~」
「ハァ~。だから嫌だって言ったのにぃ~。 れいちゃん、守元君と会うとすぐ喧嘩するんだから……」
 火花を散らすようににらみ合う二人を、呆れた顔でデビと、ピンクの短髪をした少女は見つめた。れいちゃんと呼ばれた、ディアンをにらみ付けている少女は、少し自分よりも背の低いディアンに合わせるように屈めていた背中をまっすぐに戻すと、ピンク髪の少女に顔を向けた。
「悪かったわね、サクラ。いつも喧嘩ばかりで。私の優しさを受け入れないディアンが悪いのよっ」
「お前がいつ、俺に優しくしてくれたよ?」
「何よっ」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……。ほら、前の席空いたよ。あそこに座ろうよ」
 二人の険悪なムードにデビはそう言って二人を引っ張っていく。その後ろからついてくるサクラはどうやらもう諦めたのか、遠く窓の方を見て「あ、小鳥さんが飛んでるぅ」などと、呆けたことを呟いていた。
「大体昔からお前のその高飛車な態度が気にくわねぇんだよ!」
「私だってあんたのその、子供じみた態度が気に食わないわ」
「なんだよっ! 真似すんな!」
「それはこっちの台詞よ!」
「(あぁあ。もうやだ……)」
 やっと座れて二人の喧嘩は収まるかと思われたが、それ以前よりもさらにヒートアップしている様子をみて、デビはため息をついてそう思った。
 この二人はいつもこうなのだ。会えばいつも口喧嘩。まるで本当の姉弟のように喧嘩するのである。口喧嘩以上に発展しないのが、デビにとっては唯一の救いだった。
「(まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うし、放っておけば収まるけど……。それよりも、周りの目が全部こっちに向いてるのが恥ずかしいよ)」
 ディアンとれいの口喧嘩の騒ぎに、会場中に人間の目がこちらに向いているのをデビは背中で感じていた。主に呆れた視線を向けられているわけだが、どうして当の本人たちじゃなくて、被害者の僕がこんな恥ずかしいめに合わなきゃしけないんだろう……とかデビは思っているわけだが、横で喧嘩を続行している二人はそんな気持ちなんぞ完全に無視である。
 「お前が」「あんたが」と罵り合う声は止む様子がなく、そのさらに隣に座っているサクラはやはり明後日の方を向いていて、「あっ、鳩さんが飛んでるぅ」などとやはり呆けたことを呟いていた。
 
 その頃の職員室では、これから生徒達を迎える六人の教師達がずらりと立ち並んでいた。その前で、偉そうに椅子に座っていた人物がゆっくりと立ち上がり、隣のソファで音楽を聴いてた人物のヘッドホンを乱暴に取り上げる。
「ユウイ、行くぞ」
「ほーい」
 鮮やかな青い服を翻し、ソファから立ち上がった人物は、先ほど彼からヘッドホンを取り上げ、今は教師達の先頭を歩き始めた人物の横にピタリとついた。
 クリクリした大きな赤い瞳で隣にいる人物を見上げ、楽しそうに鼻歌を歌いながら歩く。どうやらとても嬉しいようである。
「久々だねぇ、この感じ。 今年はどんな生徒達が来てるのかなぁ、マサ?」
「さぁな」
 銜えていたタバコを携帯灰皿に捨て、そう返した人物は「いい奴がいれば上出来だが……」とその先を続ける。
「うまく育つかどうかは、お前ら次第だ。しっかりやれよ、教師共」
「「「「「はい!」」」」」
「……」
 カツカツカツ。
廊下に響くのは人数分の足跡。そして床に写るのは彼らの影。
会議室で待つ生徒達は、彼らにどんな教師がつくのかを知らない。そして彼ら教師達も、自分たちがこれから担当する生徒達が誰か、知らない。互いが互いを知らない。それが出会う時、一番初めに大事なのはきっと第一印象だろう。だからこそ、身なりと心を整える。来るべき出会いのときに備えて、満面の笑みができるよう。
そして教師達は、生徒達の待つ会議室の前へと到着した。


次回は入学試験編。 まだまだ始まったばかりだな、これ。がんばります。
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