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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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  調子に乗ってまた更新に来ました。夏休みは間近だ。とりあえずポニョ見に行きたい。
 見直して、相変わらずのタイトルセンスのなさに自分自身絶望しながら、しかし無題というわけにもいかないのでこのまま行かせて貰います第二話。地元の祭りなんか私がテストにあえいでいる間にもう終わりましたよ。

 元来鈍い小夜子には、探し物をしつつ、人にぶつからないように来た道を戻るのは、なかなか難しかった。
 下駄とサンダルと靴がひしめく地面を、見落としのないように努めながら進んで行く内に、とうとう社まで戻ってきてしまった。
「何故ですか」
 暗闇の中、かすかに浮き上がって聞こえた声は、先程小夜子がぶつかった青年のものだった。
「嫌だからだ」
 答える声は初めて聞く声だが、こちらも青年のようだ。すねた少年のような、それでいてやけにはっきりとした意志の通った、頑なな口調をしている。
 そのやり取りを耳にしつつ、小夜子の目
はようやく目的のものを見つけた。立ち止まって(もり)を見つめていた辺りに、蝶のかんざしは落ちている。拾い上げようと、やや小走りに近づいた。
「だから何故嫌なのかを訊いているのです」
「それは…」
 糾弾するような語調に、相手の青年が言いよどんだ。
 かんざしを手にした小夜子はふいと顔を上げ、さっきは社の影になって見えなかった場所に、声の主である二人の青年を見つけた。
 相手の視線から逃げるように顔をそらしていた薄茶の髪の青年が、小夜子の姿を見て、目を見開いた。開いた一重の目も薄茶で、闇の中でやけに光った
 その背格好と髪から判断するに、それは先刻小夜子が杜の中を行くのを見かけた青年であるようだった。和装のようだが、袴ではなくズボンに近いものを穿いて、足下は靴を履いているように見えて、なんだか不思議な格好だと思った。
「……興風(おきかぜ)様?」
 突然在らぬ方向を向いたまま黙してしまった相手に、長髪の青年はやや眉をひそめて声をかけた。
 声をかけられた方は、一瞬痛みをこらえるような顔をした。しかしすぐにそれは消え、彼は小夜子を指さしながら言った。
見ろ緒嗣(おつぐ)混ざりすぎている」 
 緒嗣と呼ばれた青年も、小夜子を見て、あ、という形に口を開けた。
 夜と提灯の作り出す薄暗闇。影のように全ての像が不安定に揺らめいて、なんだか現実味を失わせる。
 人工的に生み出された逢魔が時に、二人の青年が立っている。
「あなたは先程の…。どうしました?先刻はこちらから戻られる途中のように見受けられましたが、何か?」
 近づきながら話しかけてきた青年の声で、小夜子は現実に地面に足をつけていることを思い出す。世界が不安定だと、自分まで不安定になってしまう。錯覚だと分かっていても。
「あ、の…。かんざしを、落としてしまって」
 まだ少しぼんやりしながら、小夜子は口を開く。
「でも、もう見つかったので……」
「そうですか。それなら早くお帰りになった方が良い。ここは今、少し危ないですから」
「はあ…」
 青年の意図するところが読み取れず、小夜子は首を傾げた。この時間の女性の一人歩きは危ない、という意味ではなさそうだ。静かな神社の何が危ないのか、小夜子には理解しかねる。
 

 静かな神社?
 
 違和感に小夜子が気付いたとき、二人の青年が同時に反応した。
「女、ここから去れ!急げ!」
「興風様!」
 叫び声は、ほとんど重なるように発せられた。一つは茶髪の青年から小夜子に。もう一つは、小夜子と話していた青年から、彼に。
 名を呼ばれた直後に、茶髪の青年は身をかがめ、きらめく白刃を避けた。
 何が起きているのか分からず、小夜子は立ち尽くす。
 二人の青年と同じような、着物によく似た服に身を包んだ、突然の襲撃者は、かわされた直後に再び体勢を立て直し、向き直った青年と対峙した。
 かち、と構え直された、所有者の腕の長さほどある剣を見て、遅まきながら小夜子は怖いという感情を思い出した。
 目の前で展開される事態に、小夜子の脳は説明を付けられないでいる。その、眼球から送られる映像の単なる受容器となった頭が、何とか絞り出したのが、先刻の興風と呼ばれる青年からの言葉だった。
 ─ここから去れ。
 逃げなければいけない。
 小夜子はぎくしゃくとした動きで、元来た道を振り返り、そして愕然とした。
 道は消えていた。鳥居の先の石段や、社務所もない。いつの間にか社の後方の杜が広がって、小夜子達がいる、社と鳥居の間の空間をぐるりと囲んでいた。
 慌てて目を戻した先では、茶髪の青年が二度目の斬撃をかわしている。
 その間に、もう一人の青年が割り込むように飛び込んだ。
 振り切った剣の軌道を変え、障害物を排除しようとした襲撃者が重心を移動するより前に、その懐に入り、剣の柄頭を抑える。襲撃者が動きを封じられた一瞬に、勝負はついていた。
 突き上げられた掌底は正確に相手のあごに叩き込まれた。
「興風様!お怪我は?!」
 倒れた男が白目を剥いて気絶しているのを確認してから、長髪の青年は勢いよく背後に振り向いた。
「なんともない」
 それには短く答えて、かばわれた形になる茶髪の青年は、未だ立ちすくむばかりの小夜子に向き直って言った。
「おい女。巻き込んだ責任があるし、なんとか戻してやるから、今はここを離れるぞ。いつそこの奴が目覚めるか分からんからな。ついて来い」
 呆けているところに、おい分かるか?と問われ、小夜子は何となく頷いた。
 実のところ何も分かっていなかった。けれど何故かその言葉に逆らえない自分がいたのだ。
 ついて来いと言っておいて、後を確かめもせず歩き出した男を追って、小夜子も歩を進めた。
「大丈夫でしたか?落ち着ける所まで行ったら事情を説明しますから、少し急ぎましょう」
 やや遅れて追いついてきた青年は、小夜子の横に並びながら、そう言った。
 見るとその手には、先程の襲撃者のものに似た剣が握られている。幅広の両刃の剣だ。鞘は革製だった。
 小夜子の視線に気付き、青年は軽くその剣を掲げてみせた。
「やぶに隠しておいたんです。貴方の世界ではこれは持ち歩けませんから」
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