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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 明日から暫くどろんするので、その前にも一つ。
 戦闘描写が、直接的ではありませんが軽くあるので、苦手な方は回避して下さい。
 主人公現実に気付く、な第四話。

「あの時って、どうして緒嗣さんはわたし達の世界に来てたんですか?」

 他にも訊きたいことはあるが、まずはそう尋ねてみる。

「興風様を捜していたのです。場が出来ていたのでもしやと思って…」

「はぐれたんですか?」

「いえ……」

 と、言いにくそうに緒嗣は言葉を濁した。

 お忍びか何かかと考えていた小夜子は、すぐに自分でそれを否定した。それなら今更言葉を濁す必要はないだろう。

 そもそも何故次代の王が一人で出歩いているのか。事実さっきは危ない目に遭っていたではないか。

 その襲撃者にしても、一体何だったのか。やはり王子とはそう言う地位に伴うしがらみがあるのだろうか。しかしそれではなおさら、一人でいる意味が分からない。

 そういった諸々(もろもろ)が頭の中で飛び交ったが、果たしてそれは質問して良いことなのか、小夜子には判断がつかなかった。

 緒嗣は小夜子が黙ったことを勘違いしたようで、同情的な目を向けてくる。

「すみません。とりあえず今は安全に気をつけて動かなくてはならないので、もう少し─」

 と、そこで緒嗣は言葉を止めた。興風が、どうした、というような顔を向けてくるのに対して、険しくなった顔で、左手にあった剣を少し持ち上げて応えた。

 興風がもたれた木から背を離そうとするのを手振りで押しとどめる。

「少し様子を見てきます。二人共ここにいて下さい」

 そう言って、緒嗣はそのまますいと元来た森に入っていった。止める間もなかった。

 興風は不機嫌そうな顔で木にもたれ直したきり、黙っている。

 小夜子は所在なく立ったまま、気まずさを感じていた。 

 さっきまでは気にならなかった、風で木の葉が揺れる音や、虫の声がやたら耳につく。そのくせ、自分たちの間はひどく静かだ。

「あの…」

 沈黙に耐えかねて小夜子が出した声は、一度目は小さかったせいか興風には届かなかったようで、目線を動かすことすらしない。

「あの、興風さん…は、何をしてらしたんですか。ここら辺ってあまり何もない感じですけど…」

 尻すぼみにだんだん声は小さくなって、最後は何を言っているのか、正直自分でも分からない有様だった。ちら、と上目遣いで興風の様子をうかがう。

「お前には関係ない」

 相変わらず、目線を固定したまま、ばっさりと、一言で切って捨てられた。

 愛想の無い人だ、と小夜子は思ったが、同時に王子ってこんなものかな、とも思う。

 しかしそこで諦めるには本気で空気が重い。

 少しは話を繋げないと自分が耐えられない。気弱な小夜子は、多少苦しくとも沈黙よりは会話の方がまし、と決めた。

「王様ってどういう人なんですか?」

 父親に当たる人間のことを問われた興風の顔が、忌忌しそうに歪められた。

「血に縛られた独裁者だ」

 吐き捨てられた言葉はひどくとげとげしく、そして返答と言うよりは独白に近かった。

「お父様なんでしょう。そんな言い方…」

「王は誰であれ変わらない。父もだ」

「あなたも王になるんでしょう」

「俺は、王にはならない」

 決意とか、誓いのような、ひどく強いそれを目前に見せられて、その深さに小夜子は息を呑んだ。

 地に向けられた興風の両眼は、ぎらぎらと光りながら小揺るぎもしなかった。

 そして同時に、そこに屈折した光があることに小夜子が気付いたのは、それに見覚えがあったからだろうか。

 それが何か、小夜子が見極める前に、森にきいん、という金属音が響いた。

 小夜子も興風も、思わず身を固くして、緒嗣の消えた方向に目を向ける。

 程なくして、また金属音。

 緊張に汗がにじみ、小夜子は手を握りしめた。

 三度目、四度目と連続した金属音が続いた直後に、興風は見つめていた方角に向け、地を蹴っていた。

 少し迷ったが、小夜子もそれに続くことにする。こんな所に一人で残されるのは、耐えられない。

 危険を承知で赴くなんて、普段では考えられないことではあったが、今の小夜子にそれが出来たのはひとえに、異世界という現実感の無さからだったろう。

 引き離されはしたが、移動する影と音で、方角の見当はついたので、小夜子はひたすらそちらに向けて走った。

 森、森、暗い森。

影、影、木の影、自分の影。

木々の密生度はそんなに高くないとはいえ、やはり森。小夜子は何度もぶつかったし、つまずいた。けれども転ぶ前に体勢を立て直し、また走る。

 置いて行かれないように必死で興風の背中を追った。

 浴衣が着崩れるな、と少し思った。下駄は走りにくかった。おまけにからから音がするので、興風が小夜子の存在に気付いていないはずもないのだが、彼は一度も振り向かなかった。

 突然、小夜子は何か堅いものを踏みつけて、今度こそ転んだ。

足の下で、ごりっという感触がした、という認識がその直後やってきた。とっさに体を支えようと突き出した両手が地面と接触してざりりっとすべる。

 興風を見失ったかと、小夜子が顔を上げた先には、複数の影が居た。

 地面に同時に倒れ込んだらしい、もつれて動く影が二つ。その傍に立つ影が一つと、最後の影は興風で、走ってきた勢いのままつっこんで、前者の持っていた剣らしきものを蹴り上げ、小夜子が目を(みは)っている間に、相手を地面に引き倒していた。

 掌がじんじんと熱くて、かなり派手にすりむいただろうと推測できて、小夜子は顔を歪めた。

それから、左足の下駄が脱げてしまっていたので、拾おうと興風達に背を向ける。

 ひっくり返った下駄を手にとって、その脇に無造作に転がるものに目がいった。

 腕。

「え………」

 手の甲が地面に着いている。やや曲がって肘、それから肩、そして、

 影に埋もれる仰向けの、男。

 ざしゅり、という音が、背後で響いた。

自分がつまずいたものが何か、答えは出ているのに、頭の表面までそれは浮かんでこず、頭の中はただ真っ白だった。

 座り込んだ姿勢のまま、立ち上がることも出来ずに小夜子は茫然としていた。

 じりじりと後ろに下がって、五、六センチで動けなくなる。

 背後の音は、また金属音となって続いていたから。

 そしてその意味するところが今は分かるから。

 目をそらしたい。振り向きたくない。

 硬直して動けない。

 しばらくすると音が止んだ。

 小夜子はおそるおそる背後をうかがった。

 結果はそこにあった。

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