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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 このブログってどの程度放置して大丈夫なのだろう。という心配からか、今のところ一番多く書いている黒巳です。
 他校に遅れて、うちはこの週末が学祭です。というわけで、部誌の学祭号に載っけた話を置いておきます。
 
 ああ、しかしせっかくフォントとか変えて打っても、このブログでは表現できないという…。
 今回のお話は、短く、ファンタジーちっくに、を目指したので、それっぽい普段使わないフォントにしたのだけど。しかしファンタジーとか言いつつ、メルヘンになってしまいました。え?これメルヘンであってますよね?
 とりあえず人魚のお話です。セイレーンとかローレライとかメロウとか…。外国の妖精の本をみてたら水の精の項目に乙姫が載っていて驚いたことがあります。あっちの分類的にはセイレーンとかみたいに男を惑わす異界の精霊で水中に住む、ってなってるみたいですね。魔性の女、乙姫!
 
 話は変わって、昔は人間は道具を使う唯一の動物とか言ってましたが、今ではそれ嘘だよねってことで、人間は道具を使って道具を作る唯一の動物って言ってるそうです。大分苦しい気がする。そもそも何故そこまで必死になって動物とは違うことを証明したいのか。
 それでもあえて言うなら、私は人間は創る生物だと思います。神様だって創っちゃうんですよ。こんなに多くのものを創り出した動物は、地球上では今のところ人間だけじゃないでしょうか。

 さて、前書きはこの辺りにて。

 海面近くまで昇っていくときの、体全体で水の重さを感じるのが好き。広がってゆらゆらしていることの多い、たっぷりの長い髪も、この時は後ろにぐんと引っぱられる。
 尾をぐいぐいと動かして、昇り続ける。
 晴れた日は、海面近くはまぶしく光っていて、わたしの顔から下を覆う鱗も、日に当たってきらきらと光る。わたしはそれが好きなのだけど、残念ながら今日は、海上はさっきまで雨が降っていて、今は曇りだ。
 舟影も見えないし、少し海面に顔を出してみる。見渡す限りの海原が広がっていて、遠くに島が、ぽつりぽつりと浮いている。
 わたしはまぶたを持たないから、ぐるりを見回したら、すぐに、目が乾かないうちに海中にひっこんだ。ちゃぽん、と音を立てて波紋が広がる。
 だけどその間に、目当てのものは見つけていた。
 灰色の海原に、波にゆられてふらふらと浮く、ガラスの瓶。
 泳ぎよって手に取ると、薄緑の瓶の中には、くるりと巻かれた白い紙がある。日に透かすと、文字が、青いインクで書かれているのが見えた。
 ごはんだ。
 近づいてみるとはっきりと分かる、おいしそうな匂い。 人の手による、想いのこもった産物。わたし達人魚は、それを糧にして生きている。
 人は種々様々なものを海に流すけれど、それはものによっては毒で、ものによってはごちそうだ。そこに、想いがあるかないかで、流されてくるものの意味は、全くちがうものになる。
 そっと、手の中の冷たいガラスの瓶に、唇をそわせる。
 ひんやりとした感触と、芳潤な香りに、胸が高鳴る。
 ぱくり。
 ごくん。
 まずはきゅうとしたしょっぱさが、舌にくる。泡のように小さくはじけて、じわじわと染みてくる甘味を飲み下して、最後にくるのはさわやかさ。のどごしもつるりとしている。
 これは切ない想いのこもった手紙。言えなかった言葉を連ねて、だけど出せなくて、海に流した手紙。そして決断のために書かれた手紙。だから最後に残るのはさわやかさ。
 切ない思いに涙が染みる。
 ごちそうさま。
 目からころりと涙が零れる。
 ほろほろころり。
 零れた涙は真珠になる。
 そうしてできた乳白色の珠を、掌に収める。
 食べた想いの分だけ流した、涙を連ねて、わたし達人魚は体を飾る。
 青光りする、滑らかな銀の楯鱗を横切って、水にゆれる、長い巻き毛の中に埋もれて、想いを写した涙の雫は、鈍く輝く。
 わたし達は人間の思いを糧にする。
 なんとなれば、わたし達自身、人間の想いから創られたものだから。
 わたし達の姿は人間にも似て、魚にも似る。
 それはわたし達が、人間に創られ、海に生まれたものだから。
 人は創るもの。
 海は生むもの。
 その双つからできたわたしは、半分は人間で、半分は海のもの。
 腰から下は、泳ぐための長い尾、腰から上は、ほとんど人間と同じ形。違うのは、首から下が軟らかな、鱗に包まれていることと、指が四本で、その間には水かきが、膜になっていること。目は大きいけれど、水中に暮らすから、まぶたは持たない。
 その体に、髪に、掌にたまった珠を絡めていく。
 そうしてその珠の分、すこしだけ重くなった体を、海の深みに沈める。
 この、広く濃い宇宙(うみ)の深いところに、わたしの棲み家がある。
 人間の目では何にも見えない、深海の暗闇に、わたしは還る。途中、小魚の群れとすれちがい、数瞬後に、小魚を食料とする、大きな魚とすれちがった。
 さて、人魚は人間に創られると言った。
 けれど、漠然とした想いだけで創られるということは、さすがにない。
 わたし達が食べる、人の想いのこもったもの。それがわたし達の基。
 強い強い想いのこもったものが、海の胎内にゆっくりと、包まれて、生まれてくるものが、わたし達人魚。
 だから、わたし達人魚は、核となるもの、核となる想いを持つ。
 暗い深い海の底、わたしはわたしの想いのある場所に還る。
 ただいま。
 深い想いの積もる場所。古い残骸の散る所。
 静かに眠るものたち。
 わたしは水かきの張る、四本の指を広げて、手を伸ばす。
 長く海水に晒された、おどろくほど白い骸骨を、手に包み、ほほを寄せる。
 変わることのない想い。
 柔らかく、腕に囲い、胸に抱く。
 ただいま。
 愛しいいとしい、わたしの──。

 

 最後を伏せ字にするかどうかでぎりぎりまで悩みました。

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