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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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その2です




 
「……」
 サトに呼ばれてリビングを出て行ったディアンを見送りつつ、デビはすごいなぁと思った。自分にはあんな怪しい人について、詳しく知ろうという勇気はない。そもそも、知りたいと思う以前に、怖くて近づけもしないのだ。
ただ、気になるのは、ディアンが以前にもレスに会ったことがあるらしいということだった。幼いころから、常に一緒にいたと言っても過言ではないのに、自分はレスに会った記憶がない。ただ思い出せないだけなのか、それともディアンの思い違いか……。
「……、世話焼きはやめろって言ったのに……」
 苦々しい顔をして、リーズがキッチンから出てくる。納得がいかない様子で、何故サトはあんな奴の話をするんだと言わんばかりだ。もしかしたら、ただ単に、朝食まで作らされたことが不満なのかもしれないが……。
「あの、リーズさん。すいません、急に迷惑でしたよね?」
「あー、全然。気にするなよ、デビ。前々からよくあることだし、お前には手伝ってもらったし。マサキ……じゃなかった、もうレスって呼んでもいいよな? あいつのこと、どうしてディアンはそんなに庇うんだろうなぁ。別に、ダメなことじゃないんだが、あいつは昔から他人に対して警戒心が無さすぎるんだよ」
 ため息交じりにそう言ったリーズに、デビは頷いた。ディアンには確かに、昔からそういう所があった。他人のいうことを、ついつい鵜呑みにしてしまうことである。対して自分は、他人に対して警戒しすぎだと言われるので、二人いてちょうどいいという感じなのだが、今回に関してはそれが適用されないように感じた。ディアンは、一人、何か確信でもあるかのようにレスを信じる方向に進んでいるように思えた。それは助けてもらった時の、すごいと言っていた蹴りに憧れてなのか。しかし、いくらディアンでも、さすがに過去に三十二人を殺した人物だと分かれば、少しくらい警戒するはずだろう。
「……他人を、見た目で判断するなって、少し厳しく躾すぎたのかな……。ちょっと変わってるくらいなら動じないからな、あいつ。兄さんのこともあるし……」
「それは、そうかもしれませんね」
 デビは大きな獣の耳をした、白髪の人物のことを思い浮かべながら返した。自分にとっても、あの人はディアンにとってと同じくらい大事な人だ。
「……今思ったんですけど、れ、す先生って、あの人に似ていませんか? 雰囲気じゃなくて、単純に顔とか……。ディアンがなついてるのって、もしかしたらそれがあるのかも……」
「いや、それはない。っていうか、あいつなんかと兄さんが似てるなんて、俺が許さん!」
「……」
 鼻息も荒く言い切ったリーズに、デビがなんと返していいか分からずにいると、隣の部屋から二人が帰ってきた。ディアンは、頬を膨らませて怒っており、サトはというとなぜか楽しそうな笑みを浮かべて上機嫌だ。
「二人で何話してたんだ?」
 リーズがそう尋ねる。
「さぁ」
 サトは、はぐらかすようにそう言って、席についた。不服そうな顔をするリーズを無視して、サトが嬉しそうな顔で目玉焼きにかぶりついている正面では、ディアンがひどく不機嫌そうにサトを睨み付けた。
「ディアン、どうした?」
「なんでもない!」
 サトの方は見ずに、ディアンは怒ったように目玉焼きに箸を突き刺した。その様子に、デビが何話したの?という非難の顔でサトを見るが、サトは知らん顔だ。朝から気まずい空気が流れる。はあーと、大きなため息をリーズがついた時だった。
 大音量で、二人の兄達の携帯が鳴る。その音に兄二人は顔を真っ青にして、携帯に飛びついた。それから、画面を見て苦々しい顔をすると、それぞれ弟を見た。
「「??」」
「「今すぐ支度して」」
「「えっ??」」
「急げ。五分で行かなきゃ殺されるぞ」
「マサ先生にね」
 二人の兄の焦ったような声と、出てきた名前にディアンとデビは急いで二階に上がった。
 
****
 「……五分四十八秒、遅刻か。俺様を五分も待たせるとは、いい度胸だな」
「そんな急に集まれるわけないだろっ!! マサ先生、絶対頭おかしいよ!!」
 ガツン!!
 痛そうな音が、閑静な高級住宅地に響きわたる。微妙に中指立てて、落とされた拳骨はディアンの頭頂部に大きなたんこぶを作っていた。
「さて。では、今日の予定を馬鹿なお前達にも分かるよう、簡潔に述べてやろう」
 マサは背後にある古びた洋館を見上げ、「今日は任務演習だ」と三人を振り返った。マサと同時に洋館を見上げていた三人はその言葉に「ここで?」というような顔をした。
「理論と実践、両方一緒にやった方が貴様らくらいの年には理解しやすかろう。それを考えてやっての配慮だ。洋館の所有者には、予め許可を貰っている」
 「入るぞ」とマサが軋むドアを開け、中に入っていくのに、三人も続いた。
「そう言えばさ、マサ先生。俺らの代わりの先生ってまだ来ないの? ってか、もしかしてこれからはマサ先生が俺達の担当するのか?」
「? 代わりとはなんのことだ?」
 ほんの少し嬉しそうな声を出したディアンに、マサは首を傾げると、少しして「あぁ、なるほどな」と溜息混じりに言った。
「レスの奴め、下らん嘘をつきやがって。貴様らの先生は、レスの奴が行うはずだった。代行なんてのは奴の嘘だ。尤も、奴が辞めると言い出して、結局そうなってしまったがな」
「じゃ、じゃぁ僕達の担当ってレス先生がやるはずだったんですか?」
「その通りだ」
「ど、どうしてマサ先生は、あの人を採用したんですか? だってあの人……」
「その理由は演習後に教えてやる。まずは演習内容を説明するぞ」
 デビの台詞を遮ると、マサは埃だらけになっている玄関ホールの真ん中辺りまで三人を誘導して、三つの砂時計のようなものを取り出した。それをまずは一つずつ三人に配ると、「さっさとしまえ」と指示した。
「今はまだそれは使わん。後で必要になるから、大事に持っておけ。で、演習内容だが、妖魔退治の任務を想定した演習をする」
「妖魔?! ここに妖魔いるのか?」
「本物でやるわけじゃぁねぇ。俺の操る擬似妖魔を使って、まずは防御の仕方を学んでもらう。貴様等はどうも、まだアニマを制御するためのリミッターが掛かったままのようだからな」
「……リミッターがあるのか?」
「なに、貴様等は特別だ。親の代が戦士の家庭は子供にその年齢にそぐわぬ量のアニマを持っている場合が多い。アニマを制御できない子供が、大量のアニマを持っているってのは、妖魔に餌をやってるのと同じだからな。それを隠して妖魔共から守るために、保護の呪文をやってリミッターを設けるわけだ」
「でも、どうやったらそんなリミッター外れるんだ?」
「単純な話だ。死に直面する危機に出会えばいい」
 恐ろしい言葉に、三人が呆気に取られたような顔をする間に、マサが指を一つパチンと鳴らした。
 一瞬の内に辺りがシンと静まりかえる。古ぼけた洋館のどこかで耳障りな家鳴りが聞こえた。
「貴様等全員のリミッターが外れるまで、今日の演習は終わらんぞ」
 上から聞こえた声に三人はハッとして上を見上げる。つい先ほどまで目の前にいたはずのマサは、玄関ホールから階段を上がった先で悠々とタバコに火をつけていた。
「いつのまに? そう思っているな。これぐらいの距離、数多の超能力を操る俺からすれば、一歩歩くのと大差変わらん。さて、俺はこれからこの瞬間移動で、屋敷の中を散策するとしよう。貴様等は先ほども言ったように、擬似妖魔の相手をするんだな」
「さ、散策って! 僕らのこと、見ててくれないんですかっ?!」
「甘いこと言うな。リミッターが外れたら、いずれは妖魔と一人で対峙しなきゃならんことも多々起こるんだ。いつでも兄貴共や教師共が助けてくれるなんて甘い考えは、今この瞬間、捨てていけ。安心しろ、貴様等が立ち上がれんほどにボロボロになったら帰ってきてやる。あと、汚したくないと思うもんは極力訓練や任務に持ってくるな。常識だぞ。広辞苑は終わるまで預かっておくからな」
 泣きそうな顔をするデビに、マサはぴしゃりと言うと、不安げな三人に珍しく笑みを見せた。
「ちなみに、俺様が貴様等生徒に怪我をさせないようにだとか、手を抜いてくれるかもという砂糖菓子のような考えも捨てておけよ。俺様は、貴様等を殺す気でやる」
「追い討ちっ?!!」
「ふー。世の中というのは、理不尽なことの方が多いのだよ」
 煙草の煙を吐き、ニヤニヤしながらマサは言う。意地悪いその顔は、教師というにはひどく不似合いだった。
「生徒を守るのが教師の仕事じゃないのかよーっ」
「生徒を育てるのが教師の仕事だ。三十分後に襲われるようにしといてやるから、しっかり準備運動しておけ。まぁ精々頑張るんだな」
 煙草を口にくわえ直し、軽く手を降ってマサが散策へ向かおうとした時だった。
「あいつのことを話すって言ったな?」
 それまで黙っていたザラがそう言って、マサを睨みつけていた。マサが煙を吐いて、「そうだな」と答えるのを待ってザラは再び口を開く。
「この際だ。あいつを採用した理由だけじゃなくて、あいつが一体何者なのか、はっきりさせてもらおうじゃねぇか。ただの火影じゃねぇんだろ?」
 ザラの台詞にクエスチョンマークを浮かべるディアンとデビは、マサがどういう対応をするのかと階段の上へと目をやる。煙草を再びくわえていた本人は、ザラの心を読んでいるかのように、じっと自分を睨みつける瞳を見つめていた。
「あいつが、二年前、竜の国を裏切っていようがいまいが、そんなことは俺にはどうでもいい。俺はただ、あいつが本当に火影なのか、死にたがっているくせにどうして死なないのか、それを知れればそれでいい」
 マサが自分の意図を読もうとしていることを察して、ザラはそう続けた。
「……いいだろう。どうせ、貴様等にも近々話さなければならなかったことだ。本当は、貴様等自身の目で見て、奴のことを判断してもらいたかったんだがな。……奴にはもう話す気もなさそうだし、仕方あるまい」
 それじゃぁな。
 今度こそ、マサは軽く手を振って薄暗い屋敷の奥へと消えていった。


 とりあえず次は演習が始まります。時間があれば明日辺りにでもあげようかな。マサ先生は本当に教師らしからぬ、むしろ悪者といっても良いくらいのわっるい顔をしていると思ってくださいな(笑) 最凶先生ですので。
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