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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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私にしてみればかなり短いはずの章だったのに、入りませんでした(涙
 ので連続して二個目




「二つ目は秘術」

 マサがそう言うと同時に、レスはあの赤い棍棒を取り出していた。

「秘術?」

「そうだ。貴様らがアニマを使えなくてはならない、最大の要因が秘術を使えなければ、妖魔を倒すことなど不可能だということにある」

「えっ? でも、先生、倒しちゃったじゃん?」

「いや、気絶させただけで、まだちゃんと壊れたわけじゃねぇぞ、あれは」

 蹴り飛ばされた内の一匹が舞いあがっていた砂煙の中から現れる。怒り狂ったように奇声を上げ、瓦礫を壊しつつレスに向かっていった。

「本来、妖魔はアニマの集合体だと教えたな。その妖魔を壊す方法は一つだ。妖魔にも心臓のようなものがあってな。そこを破壊すればいい」

「えらくシンプルだが、普通に壊せないのか?」

「秘術でなければダメだと言ったはずだ。妖魔は基本、負のアニマが具現化した集合体。負のアニマを消すためには、正のアニマで浄化するしかないのだ。しかし、そのためには我々人間も、正のアニマをできるだけ具現化せねばならん。そのための方法を秘術という」

「「「?」」」

「まぁ、やり方は聞くよりは見る方が早いだろう」

 四人は再び目線を下へと移した。

 怒り狂って突進してくる疑似妖魔に、レスは棍棒を振り上げる。十分に近づいてきた所で振り下ろすが、さすがに避けられてしまった。続けて棘のついた腕を振り回し、攻撃してくる妖魔の攻撃を棍棒で弾いて、レスは相手と距離を置いた。途端に辺りの空気が熱くなる。火影の能力の前触れだ。レスはその状況にも顔色一つ変えず棍棒を静かに床に立てた。

 火影の足元から勢いよく炎が上がる。徐々に広がっていき、レス目掛けて一直線に突き進んでいく。その時、レスが棍棒を立てた部分から、うっすらと何かが光り始めた。

「〈水竜 水神防壁〉!」

 レスが言い終えると、うっすらとした光は一気に広がり、レスの足元の床に大きな模様となって青く光りを放ち始める。そしてレスが火に飲まれそうになったその瞬間、模様の部分から噴水のように水がわき出し、大きな壁を作って向かってくる火を消し去ってしまった。

 

「あれは防御用の技だな。秘術は今のように、技の名の詠唱で、空中や地面に模様を呼び出し、アニマを具現化させる。ここでいう模様はパターンと呼ばれ、数千種以上もの種類が……、貴様ら聞いているのか?」

「スゲーっ……」

 マサの説明は残念ながら、三人の耳には届いていなかった。三人共、下で行われている戦いに夢中だったのだ。火を消され、狼狽えている妖魔をゆっくりとレスが追い詰める。相変わらず無表情だったが、真剣なことだけはとても伝わってきていた。

「……まぁいい。話を続けるが、パターンには数千種以上とも言われる種類が存在し、さらに今でもその数を増やし続けている。戦士の数だけ種類があるとも言えるな。そして、その種類は細かく、攻撃系、防御系、捕縛攪乱系と分かれている。レスが今使った〈水神防壁〉は、防御技だな」

 マサはそこまで話すと、夢中になって下を見ている三人と同じように下を見た。

 

「〈風竜 颯〉」

 狼狽えている妖魔を前にレスは一度しゃがみこむと、両足の脛を軽く触った。それをチャンスとでも思ったのだろう。妖魔が全速力で突っ込んできた。棘着きの腕を振り上げ、今や牙の生えた口を大きく開けてまるで大きなトカゲのようだ。自分に十分近づいてきたところで、レスは不意に持っていた棍棒を、相手の顔目掛けて突き出した。妖魔がすんでの所でのけ反り、棍棒をかわす。次の瞬間、妖魔の顔は上からの衝撃で、醜く歪むことになった。いつの間にか後ろに回っていたレスが、かかと落としを食らわせたのだ。その両足は脛の部分に青緑の光を纏っていた。一か月前、ディアン達が見た、火影を倒した時の光そのものだった。

 

「秘術は必ずしも、その場に模様を呼び出す必要はない。体に刺青として彫っておけば、身体能力を上げ、体術にのせてアニマを相手に流すことも可能だ」

「あの光……」

「見ろ。妖魔が核を破壊されて、形を崩していくだろ?」

 

 顔が潰れても辛うじて立っていた妖魔の体は、やがて足元から崩れるように倒れながら、小さな赤い光の球に分裂して消えていった。 それを看取った後、レスはすぐさま残った妖魔の方へと目を向ける。蹴り飛ばされていたもう一匹が顔を出し、先ほど気絶させた一匹も起き出してきていた。

 

「妖魔はアニマの集合体。核さえ壊せば、自然消滅して細かなアニマとなり、空中に消える。貴様らは、これをせんといかんわけだ」

「核がある場所って、決まっているんですか?」

「いや、妖魔によってまちまちだが、見極めるのは簡単だ。妖魔は怒るとそこが光るからな。まぁ、レスが先ほどの奴を消せたのは、長年の経験則だな」

「……でも、わざわざ怒らせないといけないんですね……」

「なに、悪口を言えばすぐだ」

「次は三つ目だよな! 今度も、すっげーかっこいい奴か?!」

「いや……、三つ目は今の貴様らに説明してもどうせ分からんだろうから、今は説明せん。 最初に言ったろうが」

「「「えぇー?!」」」

 期待して目を輝かせていたディアンと、他の二人も少しがっかりしたように声を上げる。ここまで来たら、三つ目が見たいのは当たり前だろう。

「代わりに、……火影としてのレスの能力を見せる」

「!」

「え? 炎出すんじゃないの?」

 ザラがその言葉に珍しく動揺した隣で、ディアンはのんきにそうマサに尋ねた。火影といえば、炎を使う人間であることは教科書にすら載っている事実だ。

「奴は少し特別でな……。繰り出すのは、炎じゃない」

 

 マサが上から自分を見て、一度コクリと頷いた。レスは最終的に恐竜のようになってきた妖魔と向かい合い、目を閉じて大きく深呼吸した。じりじりと妖魔が距離を詰めてくる。が、そんな距離など関係ない。目さえ開けば、それで全てが終わる。レスはゆっくりと目を開く。黄緑の瞳が、二匹の妖魔を見据えた。

 

 一瞬過ぎて、何が起きたのかを理解するのに数分はかかった。ディアンは真っ白になった辺りを見渡す。壁一面が、霜で真っ白になっていた。手摺には氷が張り、シャンデリアに至っては氷の彫刻そのものになっていた。 

 息が白くなるのを見、ディアンは一階を見下ろした。床一面、スケートリンクのごとくに氷漬けになっている。妖魔は腰から下を氷漬けにされ、動けずに大声で吠えているだけだ。そしてレスはと言えば、その妖魔にコツコツとゆっくり近づいていく。形勢が逆転していることは、目に見えて明らかだった。

「……先生……、なんか悲しそうだ」

 冷たい何かを感じ取ってディアンはそう呟いた。ただ、辺りが冷えているせいで冷たいと思ったわけではない。つい先日、感じた寒気を今も感じていた。そして孤独感も……。今見ている景色も、よく見れば、昨日の夢の真っ白な場所にそっくりなように感じた。

 

「感情出 氷刃雹装」

 手にした棍棒を縦にし、右手でゆっくりと上へ撫で上げながらレスがそう呟く。少しずつ赤い棍棒が氷に包まれながら、右手の動きに合わせて形を変形させていく。右手が棍棒の先まで来たとき、レスはその右手を勢いよく払った。

「大鎌(デスサイズ)」

 鋭い氷でできた鎌が棍棒の先に出来上がっていた。それを後ろに大きく引きつつ、レスは両手でその柄をしっかりと握りしめた。妖魔達が騒めき始める。自分達がこれからどうなるかを、どうやら悟ったようだった。

 トン。

 レスが床を蹴って飛び出すのと、反対側の床へと着地するのはほんの少しの差しか感じなかった。いつ振りぬかれたかも分からない大鎌をレスが持ち直した時、二匹の妖魔は完全に氷漬けになったと同時に二つに割れて、赤い光の球になって消えていった。

 

「火影は俺達と違い、模様を介さずとも、アニマを直接物体に変化させることができる。それを普通は『感情炎出』と言う。だが、レスの奴は見ての通り、氷を出現させる能力から『感情氷出』と言って使っている。ただし、範囲調整が少し下手でな。辺り一面、氷漬けにしちまう」

 これが火影の力だ。

 マサは唖然として固まっている三人にそう告げた。

 上手いこと戦ってる時の感じが伝わっていればいいんだけどなぁ
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