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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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何やかやあって、なかなか更新できなかった……(ほぼ自分のせい)
 少しの間はストックがあるので、それちょっとずつ消化しながらいきます。
今回の章はちょい長めなので、小出しで。

第七幕  国防尊 

 

 「さて、最後に防御の仕方の話だが」

 マサはすっかり大人しくなって、床に座りこんでいる三人に目を向ける。

 氷が消えても、まだ肌寒い室内にいるせいか、それとも改めて火影としてのレスの能力を見せつけてしまったからか。おそらくはその両方だろうと、マサは思っていた。少なくとも、今までレスのあの能力を見て、引かなかった者はいない。自分でさえ、本当に初めて見た時は悍ましいと思ったものだ。

 しかし、彼らに話をする上で、レスの能力は見せておかねばならないものだ。

 軽く手を叩き、放心気味になっている三人が顔を上げるのを待った。

「シャンとしろ、お前ら! ここが戦場だったら、そんな状態じゃ、命がいくつあっても足りんぞ?!」

「別にここ戦場じゃないし。 そんなことより今は痛っ?!」

「屁理屈言うな。自分自身のことを守れないようでは、人を助けるなど到底無理な話だぞ? 他人を助けるために、自分が傷ついてもいいというのは、単なる自棄に過ぎん。……正直なことを言うとだ。そうなる奴は結構多い……。俺達の時代もそうだった。それ以前に、今のお前達のように、一から防御の仕方を教わっていなかったからな。 ……戦場で、アニマが枯れるまで技使い続けて、最後にゃ『仲間のために』と特攻して死んでいった奴が、ごまんといたもんだ」

 屁理屈を言ったディアンの頭を軽く小突いたマサは、そう言って少し遠くを見つめる。三人はそんなマサの話に顔を上げると、その顔をまじまじと見つめた。

「……お前達はそうはなるなよ? そうならないように、俺達も全力でお前達を支えはするが、最後は気持ちの問題になってくる。自分自身を守る力は、極論、自身の精神面を鍛えることにもつながる」

 分かったなら立て、と再度マサが手を叩くと、三人はゆっくりと立ち上がった。

「では防御の仕方だが……、特にこれといって難しいことはない。お前達のリミッターが外れた以上、ほぼ自動的に発動はするはずだ」

「自動って?」

「レス」

 キョトンとした三人を無視して、マサがその名を呼ぶと、スッとどこからかレスが現れる。そのまま彼はあの赤い棍棒を三つに分解すると、思い切り三人に投げつけてきた。

 咄嗟のことで反応できなかった三人は顔を腕で守るようにして目を瞑る。カキーンと高い音が廃屋に鳴り響いた。

「?」

「これは……?」

「それが一般的に『シールド』と呼ばれるもんだ」

 三人が目を開けると、それぞれの目の前には赤、茶、青の薄い膜のようなものができており、投げつけられたはずの棍棒は、足もとに転がっていた。

ザラが恐る恐る、膜のようなものを指で突いてみる。コツコツと固い感触がした。

「『シールド』は、お前達の体の中にあるアニマが、危険を察知して壁を作り出すものだ。大抵の打撃、斬撃は防ぐことができる。もちろん、秘術や強い爆発などもな。しかしながら」

 ザラに倣ってディアンがシールドに触れようと手を伸ばすが、あと一歩という所でそれはスゥーと消えていってしまった。

「持続させるには、本人の意思が必要だし、アニマが極端に少ない状況になると発動しなくなる」

「すっげー! 何でこんなすごいのがあるのに、兄ちゃん達今まで教えてくれなかったんだ?!」

「馬鹿め。最初に言ったろう。妖魔共の餌になりたかったのか、お前は」

「うっ」

「ついでにいうと、今のお前らのシールドも完璧ではないぞ?」

「? 完璧って?」

「今はまだお前達の前面を守るだけの形だったろう? しかし、完璧な形というのは、左右や上下だけでなく、全面を守ることも可能になることをさす」

 このように、と言うマサは既に大きな薄い赤紫色の箱の中にいた。ニヤリと笑って見せる様子は、やはり教師には不似合いだったが、今や目を輝かせた三人にはそんなことは関係なかった。

「すっげー! それすれば無敵じゃん!」

「こ、これさえできれば怪我も怖い思いもしなくて済むんですね!」

「守りつつ攻撃もできる、理想的だな」

「残念ながら、そう上手くはいかん」

 ザラの言葉にマサはシールドを解くと、空中に向けて右手の指を一本立てた。途端に、どこからともなく小さなホワイトボードとマジックペンが現れてマサの説明に合わせて絵を描き始めた。

「先ほども言ったが、シールドは極端にアニマが少なくなると使えなくなる。さらに、自分達が攻撃をする際には勝手に消えてしまう。体術を使おうが、秘術を使おうがその点だけは一緒だ。あと、持続させる時間も、そう長くはもたん。多少ならこれも訓練次第で伸ばせるが、数時間持続させることが出来る奴は滅多にいない」

 空中に現れていたホワイトボードの絵付きの説明をマサが終えると、不満そうにザラが溜息をつく。デビも「ずっとじゃないんだ」と少し落ち込むその隣で、ディアンはマサの隣に佇むレスを見ていた。そしてふと思った疑問を口にした。

「マサ先生、火影の炎はこれで防げないの?」

「あん? もちろん防げるが……。さっきも言ったように、数時間シールドを維持できる戦士はそういない。さらに、消えてしまったあと、すぐに発動させることもできない。少なくとも発動させていた時間の半分は間隔を空ける必要がある」

「なるほど。シールドを張って最初は防御できたとしても、シールドが切れた時点を狙われてしまうと、逆にピンチになるんですね……」

「うむ。話が出たついでに言うが、火影はシールドを張れない。それが何故かは分からんがな」

「じゃぁ、先生はできねぇのか?」

 ディアンの質問に、レスは少し間をおいて頷く。やはり、一切口を開こうとはしなかった。

「まぁ、最初の導入さえできればあとはお前達の想像力次第だ。お前達が思い描いた形に、シールドは変化するからな。もちろん、自然発動だけでなく、防御したいと貴様らが意識するときに、明確なイメージを持ってやれば発動する。あと、今のお前達がシールドを発動していられる時間は精々二、三分程度だ。忘れるなよ」

 はーいと三人が返事をすると、マサはチラリと時計を見、それからレスを見る。レスは見られただけで、その意図をくみ取ったのかそそくさと一階への階段を下りていく。その後ろ姿を見送りながら、そろそろ話を始めるかと言って、マサは指を鳴らした。

「他に聞いている奴がいると厄介だからな。防音シールドを張ったんだ。さて、貴様らとの約束を果たしてやる。コンクリに座るのも可哀想だから、座布団くらいだしてやろう」

 再度マサが指を鳴らすと、赤い布の座布団が三枚と柔らかそうな大きな一人掛けソファがどこからともなく現れて、ゆっくりと床の上に着地した。まずソファにマサがどっかと座り込み、次に三人に座るよう促した。

「マサ先生、なんで今日、先生しゃべんないの?」

 座布団に座ってまず口を開いたのはディアンだった。ずっと、気になっていたのだ。明らかにレスの表情は昨日より暗い。

「まぁ、昨日いろいろあってな。今はあんまり詮索してやらないでくれ。下手するとヒステリーを起こすからな」

「?」

 困ったようにそう言ったマサは、次にさて何から聞きたいと言わんばかりに三人を見た。
「じゃ、にね」
「あいつは何なんだ? 氷を操るなんて、ただの火影じゃないだろ?」
 二年前のことを聞こうとしたディアンの声をさえぎり、ザラがずいと前に身を乗り出しながら訊いた。その必死の形相に驚いて、ディアンは文句も言えなかった。
「あいつは普通の火影と大差ないぞ」
「そんなわけあるかっ! 最初からあんな能力を持った火影が普通なわけ」
「あの氷の能力は、ほんの一年前ほどにこの国内で発現した覚醒能力だ。七年前、拾った頃の奴にそんな能力はなかったし、今現在、そもそもの奴の火影の能力は封印されて使えないことになっている」
「……、最初からじゃねぇのか……?」
「ふーん……、ん? 待てよ……、拾ったって?」
「七年前の景山の戦の後、氾濫した川の近くで俺様が拾った」
 マサが咥えたタバコにライターで火をつける音が廃墟に響いた。一息タバコを吸ってから、なんだこの沈黙はと不満げに煙を吐き出した彼に、三人は戸惑ったような顔を向けた。
「「「マサ先生が?」」」
「どういう意味だ、コラ」
「いや、ユウイ先生ならともかく、マサ先生は人拾う顔じゃない」
 そう素直に言ったディアンの頭に、強烈な拳骨が飛んだ。「児童虐待っ!!」とディアンが叫ぶが、マサは知らん顔でタバコを吸うと、不機嫌そうに一気に煙を吐き出した。
「そのくそ生意気な口を閉じないと、拳骨なんかじゃ済まん仕置をかますぞ、タンポポ頭」
「悪口っ! それ、悪口だっ!!」
「貴様が言ったことも悪口だろうが! 俺様が今、どれだけ傷ついたかっ!」
「「(傷ついてたのか……)」」
「貴様らも覚えとけよ……!」
「「!!」」
 ギロリと睨まれ、後ろで傍観していた二人は、余計なこと思わなきゃ良かったとひどく後悔した。
「ゴホン。まぁともかく。火影について、お前らにはもう少し詳しく話してやろう。火影は俗に、影の兵器と言われることが多い。起因しているのは、奴らがある一定の条件を超えると、妖魔になる可能性があるということが分かったからだ」
「?! 妖魔っ?!」
「ど、どういうことですか?」
「火影が使う能力は、負の感情に起因する。憎しみや怒り、悲しみの感情で、奴らはアニマを放出する。負のアニマ、正のアニマ、双方ともより強い方に弱い方が吸収、または消滅させられる性質を持つ」
「……確か、妖魔は負のアニマの集合体だったよな? てことは…‥」
「ほう、理解が早いじゃないか? そうやって負のアニマを大量に持った火影に、妖魔が取り憑く。そうすると、妖魔が強い場合であれ、火影の方が強い場合であれ、より強い妖魔が出来上がるわけだ」
「あの……、それってもしかしなくてもレス先生も」
「さぁな。取り憑いているかは分からんが、可能性はなくもない。今のまま放置すれば、近いうちにそうなるかもな」
「まさか、放置する気かよ、マサ先生っ!」
「それをあいつが望むなら」
 吸い終えたタバコを携帯灰皿に捨て、次の一本を取り出しながらマサは続ける。
「あいつをここの担当にした理由、まだ言ってなかったな。この国で制御が可能な、生きている火影はあいつだけだ。貴様らの世代が、火影を知る上でこれ以上に必要な存在はない。だからこそ、戦教で担当を持たせることにしたんだ。制御が完全にできる以上、罪人でも有効活用しない手はない」
「いつ妖魔になるかもわからねぇ、化物をわざわざ呼び出したってのかよっ?!」
「化物? 聞くが、あいつが貴様らに何か危害を加えたか? 愛想がないだけで、基本は無害だったはずだ。それどころか、貴様らを助けたはず。そんな相手のことを、貴様は化物と言うか?」
 ザラが言葉をつまらせる。さすがに言い過ぎたと気づいたのだろう。
「で、でも、いつそうなるか、分からないんですよね?」
 次にそう切り出したデビの顔は蒼白で、声も震えていた。
「実際のところ、なるかもしれんという仮定の話だ。実際に火影が妖魔に変わる瞬間を見たものは誰もいない。例えなったとしても、貴様らの前でそうなることはないだろう」
「なんで?」
「鈍い奴らだな。先月の入学式から今日まで、やつがお前らと任務に出たのは何日だ? 数えるほどもないだろう? 全部あいつが跳ね除けたんだ。貴様らといる時間を減らせば、必然的に、巻き込むこともないからな」
 三人が一斉に黙り込むと、マサは困ったように頭を掻いた。火をつけていないタバコを咥えたまま、「正直、俺様としても頭が痛い」と続ける。
「個人的には物事の過程を重視する俺様だが、組織としてはそうはいかん。奴が担当を持つことによって、それなりの教育結果が出るなら、今後もこちらで預かり置いても良しとされることになっていたんだが……。物事は何事も、上手くはいかんものだな。奴自身が、周りのプレッシャーに負けて、辞めると言い出した」
「……それで先生、自分は教師じゃないって言ってたのか……」
「ま、待ってください! そもそも、僕達やっぱりまだ二年前の事件の全容が飲み込めてないんです。ただ、事件の犯人として、先生は幽閉されてたってことが分かってるくらいで」

「なんだ、サトの奴に聞いたんじゃなかったのか?」

「聞いたんですけど……、結局お兄ちゃんにも分からないことだらけで」

「……、ならそこで不機嫌な顔してる顔面傷男君に聞け。そいつなら知ってる」

「おいっ! 教師が堂々と人の悪口言ってんじゃ」

「先生は本当に犯人じゃないんですか?」
 我慢できなくなったかのように声を上げたデビに、マサは真剣な眼差しで彼を見返した。
「おそらくは……な。だが、貴様らに教えるにはまだ早いな。確たる証拠が見つかっていない今の現状では、偏見を植え付けかねん」
「待って、マサ先生っ! ってことは、やっぱりレス先生は、本当は悪い人なんかじゃないんだよな?! 少なくともマサ先生はそう信じてるんだよなっ?!」

「……そうだな」

ディアンの言葉に少し間をおいて答えたマサの、少し緩められた顔を見てディアンは今度こそ味方ができたと、目を輝かせた。だが、次に口を開いたマサは厳しい目をしていた。

「だが、例え俺が奴を信じていようといまいと、事実は事実。奴があの日、自らが仲間の命を奪った裏切り者だと自白した事実は揺るがない。悪い奴か、良い奴かなど、そんなものは端から関係ないことだ」
「……えっ?」

「言ったはずだ。貴様らが火影を知るうえで必要な人材だからこそ、罪人であろうと有効活用することにしたとな。そうでなければ、監獄島から逃げ出したあいつを、戦教におくことなどしない」

サトが言ったのと、ほぼほぼ同じようなセリフだった。

「――っ! どうしてだよっ! マサ先生がレス先生を助けたんだろ?! 信じてるんなら、どうして助けてあげないんだよ! 先生はいい人だから、きっと二年前のも先生がやったんじゃな」

「俺とて、そう思っていた。だが、奴は自白した。認めちまったんだよ。自分が……火影のスパイだってな。何を血迷ったかは知らねぇがよ。あいつ自身がそうなる未来を作っちまった。一度張られたレッテルってもんは、簡単には外せねぇ。例え、あいつが無実だったと、分かったとしてもな」

「だから救えないって言うのか?! そんなの」

「一言も俺は救えないとは言っていないが?」

 怒って声を荒げたディアンに、マサはニヤリとして言った。

「奴を救うには長い年月を要するだろう。そして何より、あいつ自身が閉ざしてしまった心を開いてやらない限り、奴の罪は消えないし、救えない。だからこそ、俺様はレスをこの戦教におくことにした。火影のことをよく知らない貴様らのような世代は、逆に好都合だからな」

「……(ポカーン)」

「どうしよう、僕、全然話についていけてない……」

「……」

「貴様らは何も知らなくていいのだから、それでいいんだ。ただ貴様らは普通に、ごく普通に今まで通り、よく学び、遊んで、世界を知っていけばいい。お前達の未来を、なによりも優先しろ。そのための戦教だ」

「……、で、でも俺は先生を」

「奴を助けたいと思うなら、尚更そうしろ。最初に言ったはずだ。 自分を守れないようでは、他人を助けることなど到底無理だと。まだ貴様らには自分を守る力すらないのだ。そもそも、俺様はそんな大層なことまで貴様に求めない。気張らず、普通に振る舞え。奴に長くここに居てほしいなら。分かったな?」

ビッと指をさされ、ディアンは黙ってマサを見上げる。その目にほんの少し優しさがにじみ出ている気がして、困惑しつつも、「うん」と呟いた。
 その答えに満足げな笑みを浮かべていたマサが、突然目を見開いて壁の方を見た。三人がなんだ?と困惑した表情を浮かべた時、外で何かを壁に強く叩き付ける音が聞こえてきた。
「チッ。しつこい奴らめ」
 マサが舌打ちを打って、階段から一瞬で玄関ホールへと移動する。そのまま外へと飛び出していった彼の後を、残された三人は当惑したまま追った。


 久しぶりすぎて、何の話かよく分からなくなってんね(汗 気合で読んでくださいな。そしてブログの使い方もほぼ忘れかけているという……。

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