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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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その2ですよー。




***

 

『アニマは確かにエネルギーではあるが、「感情の」とは違う。飽くまで単なる生命エネルギーであり、感情はそのエネルギーを動かす一つの起爆剤でしかない』

 ディアンは走りながら、知っていると心の中で呟いていた。昨日、ジャコールに聞いた通りだ。ただ、やはりその存在を感じることは、ディアンにはどうしてもできなかった。

『今は感じることはできなくて当たり前だな。リミッターが外れれば分かる』

 心を見透かすようにマサが言った。

「人の心勝手に読むなよ! デリバリーないな!」

デリカシーだろが。俺様はどこかのお得で便利なお弁当屋さんではないぞ。まぁ、それはともかく。良いのか? 貴様の親友、今ピンチだぞ?』

 マサにそう言われ、ディアンはふと立ち止まる。階段を登りきって見えたすぐ目の前の部屋。苦しそうに歪むデビの顔。そんな顔の親友の首を締め上げている火影……。 躊躇いなどない。一目散に、大声をあげ、ディアンは火影に突進していった。背後から腰の辺りを狙って、全身でタックルを食らわせる。ちょうど同じ時に、右方向から跳び蹴りを食らわせていたザラと目があった。ザラの蹴りが肩に当たり、デビから手を離した火影の体を、ディアンはタックルを食らわした状態でがっしりと掴む。蹴りで重心が傾いた体は、ディアンの体より三倍近くも大きかったが、投げ飛ばすのは案外簡単だった。

「うおぉぁぁあっ!!」

 頭から床に落ちる形で火影は投げ飛ばされ、転がっている小さな瓦礫にぶつかりながら二回転すると、壁に大きな音を立てて激突した。

『ほう』

 感嘆するマサの呟きが聞こえたが、三人に余裕はない。ディアンとザラをそれぞれ追っていた火影が、間近に迫っていた。

「デビ、行けるか?」

「ゲホッ。何とか……」

「急げ。挟み打ちにされるぞ」

 部屋の出口を見たザラがこっちだと手招きする。咳き込むデビの手を引き、ディアンが後を追おうと歩き出そうとした時だった。

「! 僕の砂時計がない……!」

 手元を見たデビは、部屋の真ん中辺りにまで飛ばされていた砂時計へと目をやる。ディアンの手を振り払い、「馬鹿!」と叫ぶザラの声も振り切って砂時計に突進すると、しっかりと握りしめた。が、その頭上には、立ち上がってきた火影の拳が迫っていた。

「止めろっ!」

 そう叫んでデビの前に飛び込んできたのは他ならぬディアンだった。しかしながら、建物の壁を軽々と破壊する腕力をディアンが受けきれるはずもない。それどころか、当たり所が悪ければ……

「(ディアンが死んじゃう!!!!)」

 デビは後悔していた。もうこれ以上足を引っ張りたくなくて、落とした砂時計を拾うことばかり思っていたが、それが余計に足を引っ張る結果になってしまった。ディアンには、試験の時から助けられてばかりだ。別に僕は、戦士になりたいわけじゃない。それでも、いつも信じてディアンは僕を助けてくれる。だから、今度は僕が守る番だ!

 拳がディアンに振り落されるその瞬間、デビは足元の埃混じりの砂を両手で払いあげた。理由も、根拠もない。ただ、そうすれば次にどうなるかを、彼は知っていた。

 ボキッ。

 骨の折れるような、鈍い音がした。ディアンは目の前で起きたことが信じられずにその場で突っ立っていた。ザラも驚いたようだ。骨が折れた火影は表情こそないが、痛みに顔を歪めているらしく、腕を抑え悶絶している。

「できた……」

 デビが小さく呟く。ディアンに向かって振り落された拳は、ディアンに届く前に、突如として現れた砂の壁に防がれたのだ。もちろん、デビが意図してやったことだが、今それを説明することは、デビにはできなかった。

一言、「できた」と呟くしか、力が残っていなかった。

 

「おい、デビ! 大丈夫か? デビ!」

 ぐったりしてしまったデビの肩をディアンが揺さぶる。しかし、顔を青くしたままで、デビは気絶してしまっているようだった。

『無駄に体を揺らしてやるな。急にアニマを使ったんで、制御が利かずに大量に使用しちまったんだろう。放っておけばすぐ治る』

 再び聞こえたマサの声に手を止めたディアンは、続けてマサが『砂地は合格だな』と呟くのを聞いた。

『あとの二人、気を付けろよ。そろそろ、疑似妖魔どももしびれを切らして使ってくるぞ。 火影の能力をな』

 ザラがビクリと肩を震わせる。背後から迫っていた火影が、今まさにその技を使おうとしていた。空気が今までと違い、熱くなったことを、ディアンは気付いているだろうか。いや、分かるわけない。これは、火影が放つ独特のものだ。技を見たこともない奴が、気付くはずない。脳裏に、苦々しい思いが蘇ってきた。今度は、以前の時のようには済まない。向こうも本気だ。本気で、俺達に火傷を負わせるつもりで打ってくる。ならどうするか……、デビのように壁を作るしかない。だが、一つ問題があった。

「(……防御するのは、性に合わねぇ)」

 火を消すと同時に、攻撃できる術……、今できなければ確実に大怪我を負う。ただでさえ、他の班より遅れている自分達が、さらに遅れをくう。そうなれば、強くなることも、どんどん遅れていく。自分も、そして……目の前の二人も。

 クルリと向き直って火影と向き合う。一か八かでも、やる。ザラの心は決まっていた。

 大声を上げて、火影に突進した。火影が突然のことに、少し同様するがやはりあまり通じないようだ。火影の足元から炎が上がった。空気が熱い。目の前に炎が迫ってくる。

「ザラっ!!」

 ディアンの声が上がる。 

 あいつみたいには、上手くいかねぇな。試験の時を思い出して、ザラは目を瞑った。途端に、体の中から湧き上がってくるものがあった。火とは正反対のものの存在を感じた。

 

 火に飛び込んでいくザラを、ディアンは為すすべなく見ていた。何してるんだ、自分は。デビに寄り添ってただ呆然と見ているだけなんて。いや、こんなことを思っている場合でもない。急いで、ザラを助けにいかないと。

「でも、まだあと二人火影いるし、どうしたら……!」

 ジュッと火が消えるような音がしたのはその時だった。ザラがびしょ濡れで、水浸しの床の上に立っていた。その前では、火影が腹部を抑え、屈みこんでいる。ザラはしてやったりと、笑みを浮かべた。

「ヘッ。ざまぁねぇな……」

 顔を伝う水を手で拭い、そう呟くが、カクンと力が抜けたように膝をつくと、やはり顔を真っ青にしてその場に倒れこんだ。

 

「ザラも……」

 ディアンは倒れこんだザラの所までデビを連れて移動する。腹部を抑えて悶絶する火影からも少し離れ、考える。二人のおかげで、あちらにもダメージを受けた者が二人になった。しかし、まだピンピンしている奴が一人いる。苦悶している仲間には目もくれずに、その一人はじっとディアンを見ていた。

「……サトさんの、言った通りだ」

 朝の会話を思い出した。まさかここまで妖魔が真似るとは思いもよらなかったが、サトが言っていた火影の本性は全くの嘘でもないことを思い知った。やがて、苦悶していた二人もショックから立ち直り、こちらへと目を向ける。ディアン以外は気絶している。砂時計を奪うのは簡単だ。どう考えたって、今の自分が二人を庇いながら三人と戦うのは無理なことだった。

「……無理とか、言ってられるかぁ!!!!」 

 大声でそう叫んだ。自分に言い聞かせるためだったが、急なことに火影の三人はビックリしたようだ。有難いことに、先ほどのザラの特攻が利いたらしく、一歩後ずさった。

 しかし、だからと言って勝機ができたわけでもない。ディアンにできることはほぼないに等しいのだ。

《儂の出番じゃな》

 聞き覚えのある声がした。名前を呼ぶ前に、《呼ばんで良い。儂の存在はまだ秘密じゃ》と答えが帰ってきた。

《黙って、儂の言う通りにやってみよ。お前さんが一回で成功するとは思えんが、この状況、やってみるだけの価値がある》

 ついでに言うておくと、とジャコールは笑うように言った。

《お前のリミッターは既になくなっておる。儂がおるのがその証拠じゃ》

「えっ?!」

《声を出すな。ほれ、相手が攻撃してくるぞ。言う通りにせい!》

 火影の三人が突進してくる。攻撃をかわすことは絶対に不可能だ。

《翡翠を外せ》

「でも」

《外すなとは言った。だが、今は外す時じゃ。外せば分かる。お前さんのアニマは覚えておるはずじゃ》

 わけが分からないまま、服の中に隠していた翡翠を取り出し、紐を引きちぎる。朝とは違い、翡翠が妙に温かくなっていた。自分の体温以上だ。それでも何故か握っていられた。そっと左手をかざす。不思議なことに、そうすればいいことを分かっていた。翡翠に手をかざせば、好きな形に変形させられると。そして、頭の中にはすでに、変形させるものの形がありありと思い浮かんでいた。

 火影達が立ち止まっている。急に現れた、緑の光を放つ大剣を前に、皆目を奪われているようだった。実際に光を放っているのは大剣の中央、刃の中心部分に埋め込まれている宝石だが、その光が大剣全体を包み込み、まるで全体が光っているように見える。その光が強弱をつけて瞬くと、その度火影達は身をよじり、後ずさった。

 

「……これは、妖魔の嫌う退魔光の一種か……」

 その様子を透視で見ていたマサはそう呟く。なるほど、しっかり血は受け継がれているようだ。まさか、これほどとは思わなかったが。マサは何かを感じ取ると、その場から急いで瞬間移動した。

 

 大きな大剣を持っているのに、全く重いと感じない。

 ディアンは右手を見た。大きな刃の、真ん中に宝石のある大剣だ。リーズがたまに使用しているものに似ている。長さは劣るが自分にはこれで十分だった。火影達も尻込みしている。今これを振れば、少しでもダメージを与えられるかもしれない。柄をしっかりと両手で掴む。左から右へ、思い切り振り切ろうとした。

 パーン。

 あまりにも突飛だった。急に大剣が消え、元の翡翠に戻った時、今度はディアンが驚く番だった。火影達は光が消えた途端、元気を取り戻し、ディアンに顔のない顔を向けた。表情がないのに、その顔がニヤリと嘲笑っているかのように感じた。火影の足元から炎が上がる。三人分の炎は、防御の姿勢も取れないでいるディアンと、気絶したままの二人を勢いよく飲み込んだ。


ちょっとスピード重視でトントン進みすぎたかもねぇ。 分かりにくいとこあれば、ご指摘お願いします。

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