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大分前に書き始めて放置していたもの。いい加減にしないと出せなくなると思い、放り込むことにしました。一応季節も今頃だし。
続きを頑張るためにも出します。下書きはできているんだ・・・。
話題にしたことはあるけれど、多分みんな忘れていたみさをさん番外編。
意外に難産でした。
巫女が河原で舞っている。
上は水干着に下は切袴、という出で立ちで腰には太刀を佩き、頭から胸までを覆う透ける薄布をかぶっている。
巫女の袖が揺れ、ゆっくりと扇がかざされる。するすると扇がひらかれる。扇面が巫女の顔をしばし隠す。そしてゆるゆると顔が覗きはじめるうちに、横顔から後ろ姿へと体はまわる。足は一定の空間を踏みだし、踏みしめ、くりかえし地を清める。
いつの間にか一方の手から垂らされた鈴が、ちりん、ちりん、と鳴らされる。鈴の音にあわせてさしまねき、さしかえす、扇のひらめき。
囁く小川のせせらぎのように、留まることを知らないゆったりとした流れそのものが、彼女の舞をかたちづくる。
澱みなく、ゆるやかに、うつろいゆくもの―。
はたりと扇が閉じられた。
息をつく。夢から覚めたような心地がした。
耳に雑多な音が戻ってくる。なんと清らかな舞だったことか。目を奪われて、気づけば一心に歩いてきたこの旅路で、はじめて立ち止まったような気がした。
凪いだ気持ちであたりを見渡す。初夏の風が心地よい。往来の絶えない、浅く広い川にかかる反り橋のたもとで、何の前口上もなくはじめられた舞に足をとめられたのは、わたし一人ではなかった。小銭をにぎった人々の手が、巫女に向けてさしだされる。巫女は首から提げたふくろの口をあけ、ぱらぱらと小銭が投げ入れられた。
観衆から一歩ひいたところでそれを眺める。
よくよく見れば、巫女は頬に丸みを残すまだ若い娘だった。脚絆やわらじは埃にかすれ、この娘もまた旅の途上にあるのだと知れた。こんなにも若い娘がひとり旅の空の下にあるのには、なにか余程の事情があるのだろう。
娘が哀れに思われた。
娘の周りにあった人垣が薄れたので、娘に近づく。
「すてきな舞だったわ」
娘は一度下げた頭をおこし、澄んだ眼を正面からわたしの面(おもて)にあてた。
「おおけに」
こたえる調子は丁寧だけれど、表情はあまり動かない。すっきりとした顔立ちなのに、どこかばんやりとして感情の読みとれない顔だった。耳慣れない言葉とあいまって、とても不思議な雰囲気をかもしている。
「よければ、お昼をごちそうさせて頂戴。―と言っても、このあたりの露店になるけれど」
こうした申し出には慣れているのか、娘はためらわずにうなずいた。幼い子供のようなしぐさだった。
「わたしは奥田みさをというの。あなたは」
「鴉炙言うなやよ」
「アシャ、さん。変わったお名前なのね」
「神さんへ捧げるための名やさけ」
全体にまだあどけなさをのこした少女は、あっさりと告げた。わたしは驚いて、自らを生贄だという鴉炙ちゃんを見る。涼しい顔や曖昧模糊とした表情には、恐れも悲しみも見出せず、どこか浮世離れした風情すらある。
不意に悲しいことを思い出す。
遙かに力の届かないものに願いを届けるためには犠牲がつきもので、犠牲になるのは弱いものと決まっている。
―悲しいきもちになる。捧げるために用意された哀れな少女はまるで無垢なまま、疑うことも知らないのだろう。犠牲にする為子を産む母など、いないのに。
「そう……」
河原をはなれ、水辺の涼から遠ざかるほどに湿った空気は重くなる。それでも、すこし汗ばんだ首筋にそっと触れてくる清らかな風は体の中まで通り抜けるようで、思ったほど嫌な気分にはならなかった。
続く
ひとまず冒頭。別の話に造ったアシャちゃんをすこしキャラ変えて一時的に利用。