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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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もう題名に関しては諦めた。 あと、載せきれないからまたしても二回に分けることに……。
どうも私は、短くまとめられないらしい。
 それはともかく、下からその1の続きです。

 最初、感じたのは恐怖だった。何かは分からない。けれど、とても怖くて冷たいものが、自分を責めたてている気がした。と、すぐに何か温かいものに抱かれる感触があった。どこか懐かしい気もする、温かいぬくもりだ。けれど、それもすぐに消えてまた先ほどと同じ恐怖が目の前に迫っていた。

 目に映ったのは、ひどく冷たい目をした細面の男の顔だった。憎しみを持った目で、自分を見下ろしている。振り上げていたその手には、長い鞭が握られていた。

「火影の小僧め」

 ひどい憎悪と嫌悪の詰まった声が言った。

 場面が変わって、今度はどこかの茂みの中だった。感じるのは、先ほどとは違う種類の恐怖。好奇心と一緒に、軽蔑が含まれた無数の視線。「火影なんて追い出しちまおうぜ」赤毛の誰かがそう言うのに、みんな賛成だった。見つかったらどんな目に合うだろう。怖くて息を殺して震えていると、近くの茂みが揺れた。ひょっこり顔を出したのは、若葉色の髪に薄い藤紫色の目をした少女。焦って声を上げそうになる僕に、彼女――ライクは優しい目でいたずらっぽく笑いながら、口元に立てた人差し指を当てた。

 また場面が変わる。目隠しをされたまま、まっすぐ手を引かれるままに歩いていく。足元に、たくさんの植物がある感触がした。

誰かの声と共に、目隠しが外される。そっと開けた目に飛び込んできたのは、たくさんの木々が立ち並ぶ中、一面に咲く黄色い花だった。まだ肌寒いのに、満開の花が足元に広がっている。あまりの景色に唖然としたまま振り返ると、皆が、微笑を浮かべて僕を見ていた。皆一様に、同じ服を着ている。僕も同じ服を着ていた。それが仲間の印だった。それだけが。

 一人の女性、紺の髪に優しそうな笑みを浮かべた彼女は、一歩前に進み出ると、何かを僕に差し出した。黄色い花――足元に咲くのと同じ花が描かれた栞だった。横に「福寿草 幸福をあなたに」と書かれていた。そしてもう一枚。大きな色紙に「お誕生日おめでとう」とカラフルな文字が躍っていた。驚いて顔を上げる。彼女――ナツネさんは、僕をギュッと抱きしめて小さな声で「おめでとう」と囁いた。次にその隣に厳格そうな、目の下に赤い縁取りをした男が現れる。ここまで、僕の手を引いてきてくれた人だ。彼――ヤクは、握手を求めるように手を差し出した。戸惑いながらもその手を握る。途端に大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でられた。

「おめでとう」

 その言葉はあまりにも新鮮で、嬉しいはずなのに涙が溢れて止まらなくなった。情けなく涙を流す僕に、皆が駆け寄ってくれる。あぁ、すごく温かい。僕は十分に幸福だった。

 

また場面が変わる。今度は森の中だ。真っ赤な炎に包まれて、黒い影が踊っている。野獣のように吠えながら、浅黒い肌の男が暴れまわっていた。火を噴き、遺体を蹴散らしながら、僕に迫ってくる。それを止めようと、ヤクが血まみれになってその男の前に立ちふさがる。必至で抗戦し、僕に何かを伝えようとするが、その前に野獣の男に倒されてしまった。真っ赤に充血した黄色い目。その目がまっすぐ僕を見下ろすと、いい気味だと言わんばかりににやりと笑った。

「お前のせいで皆死んだな♪」

 悲しい。大事な仲間が死んでいる。ナツネさんや仲間だと信じていた皆が、剣に貫かれ、炎に焼かれ、辺りに転がっている。怖い。眼の前にいるこの男が。このまま、生き残ってしまうことが。これから先に起こることほど、簡単で逃げ場のない未来もない。悲しい。どうしてライクが死んだのか。どうしてライクがここに来たのか。決まってる、そんなの。僕を助けに来たに決まってるじゃないか。いや、そもそも……僕を守る? 何から? 怖い。 最後の最後、なんで皆、僕に向かって『出ていけ』なんて言ったの? 問いかけても、もう誰も答えられない。

 炎の赤と、踊り狂う影の黒、目まぐるしく変わっていく景色の中で、頭の中はぐちゃぐちゃになっていった。光る刀身、火を噴く銃口。背中を走る激痛と、切り捨てられる誰かの体。助けたくて手を伸ばしても、逆にぐんぐんと遠ざかっていく。痛みに耐えながら走る荒い息遣いの向こうで、冷たい嘲笑が響いていた。

無数の憎悪を抱いた瞳が、一人残された僕に注がれている。投げかけられるのは、重なり意味の掴めなくなる言葉と、その中で一際目立つ野次。何が起こったのか、一切理解できない中で、唯一分かったのは仲間が消えたこと。友達がいなくなったこと。世界のすべてが自分を敵と認識したこと。冷たい雨の中、動かない体を引きずられながら、遥か頭上から冷たい恐怖が呟く声を僕はきいていた。

火影の君に生きる価値はない。誰もが君を嫌い、憎み、遠ざけている今の状況で、純粋に生きるなど無理な話だ」

 

 寒い、寒い、寒い。あぁ、まだ寒い、寒い。どうしてこんなに寒いの。僕は独りで生きなきゃいけないのに。こんなに寒いんじゃ、生きていけないよ。皆はどこ? 皆を探そう。そうすれば、温かい。……ダメ。皆が見つかるわけない。皆、死んでしまったから。

あの時、何があったのか、分からないって言ったって、誰も信じてくれなかった。みんな言うんだ。僕が火影だからって。火影の言うことは信じないって。みんなが言うんだ。お前がいたから皆死んだんだって。きっと、皆もお前を恨んでるって。あぁ、そうだ。皆が僕に「出ていけ」って言ってたな。あれはきっと、もう僕のことなんか面倒みきれないから、いなくなれってことだったんだ。そうだ、誰も、僕を信じちゃいない。僕だって、僕のこと、信じない。だって、僕は火影だから……。

 

「……火影って何?」

 目から涙が零れてきた。「火影」という言葉がどこまでも僕を苦しめている。でも、僕はそれがなんなのか、分からない。分からない状態の僕は、自分を信じることさえできない。そんな僕を、それでも愛してくれる人はいた。何も言わないで、優しくしてくれた。でも、その半分以上が僕の所為で死んでしまった。分かってる。皆がいてくれたことは幸福なことだったって。分かってる。まだ、僕を愛してくれる人はいる。けど、僕は僕自身さえ信じられないから。そんな僕が誰かに信じてもらえるはずはないんだ。誰にも……。

「……死んだっていい……、もう一度会いたい……。会いたいよ、ヤク。僕を……独りにしないで!」

 涙が止まらない。大声で泣きたい気持ちはあるのに、何かが邪魔して泣くことができない。大声で泣いたらいけないんだと思っていた。泣くまいとすると、さらに涙が溢れてくる。ダメだ、止まらない。止まらない、止まらない。

 

「呑み込まれるなと言ったはずじゃ」

 遠くで声がした。

 目を開けると、目の前にはあのオレンジのような靄があった。両手は、びっしょりと、先ほどから止まらない涙で濡れている。その涙も、今は止まろうとしていた。

「全く。あれほど呑まれるな、と言ったのに。真正面から行きおって」

 どうしようもないなと言いたげにため息をつくジャコールの声が聞こえた。しかし、姿は見えない。黄色の靄だけが、ふわふわと動いていた。

「残念じゃが、ディアン。今日はここまでじゃ。あまり長居すると、お前さんのアニマがなくなってしまう。今日、見たことは他言無用じゃ。分かったな?」

「うん……。ジャコール……、さっきのは先生の……、記憶?」

「アニマは体を循環し、それまで感じた感情のすべてを記憶しておる。脳の記憶よりもさらに鮮明に、且つ永久的にな。故に、アニマからは簡単に個人の情報が分かる。先ほどお前が見たのは、記憶なんぞよりさらに鮮明な、あやつの感情そのものなのじゃ」

「……」

「言ったはずじゃ。感情のない人間なんぞ、この世におらん。押さえ込むことはできても、完全に消し去ることはできんのじゃよ。

……それで、どうじゃ? これでもまだ助けたいと思うのか?」

「……、先生はやっぱり寂しいんだな。なら、俺でも助けられるかもしれない」

 にっこり笑いながらディアンが言うと、ジャコールは焦ったようだった。近づくなと強く言っていたのだから、それも当然だった。しかし、ディアンに心変わりする様子はない。むしろ、より一層決意を強めた様子に、さすがのジャコールもやれやれとため息をついた。

「全く……、親子そろって考えは甘いは、そのくせ世話焼きじゃ、ほんにむちゃくちゃじゃ」

「えっ?」

「ふん。まぁ、よかろう。そこまで言うなら、儂も力を貸してやる」

「ほんと、ジャコール?」

「ほんの少しじゃ。今のお前さんにできることは限られておる。そこをちょいとだけいじってやろう。どう考えても、今のお前さんの考えでは奴は助けられんからの。 ……ただ、二つだけ約束がある」

「約束?」

「一つは、手遅れじゃと儂が判断したら、文句は言わず引くことじゃ。先ほども言ったが、火影は黒龍にとっては兵器と同じなのじゃ。本来、近づかんに限るのだからな。二つ目は、翡翠じゃ。儂は今までは、確かにお前さんの心におった。しかし、そう全て覗いてはお前さんにも悪いと思うのでな。首から下げとる翡翠の宝石に住むことにしたのじゃ。じゃからして、絶対外すでないぞ? 分かったな?」

「……お、おう。そんな早口に一変に言わなくたって」

「時間切れなんじゃ! 分かったら、また次回じゃ。近いうちに会おうぞ」

ジャコールがそう言うと同時に、少しずつ景色が変わり始めた。ディアンは、先ほどまで濡れていた両手へ目をやった。それから咽び泣いていた誰かのことを思って、ゆっくり目を閉じた。真っ白な世界がゆっくりと、色を付け始める。それからスッと、体が軽くなった気がした。

「……」

 誰もいなくなった空間で、黄色のモヤはまだゆらゆらと揺れていた。彼の主は、帰るべき所に帰れたが、触れてしまったものの影響は、必ずどこかで出てくるだろう。

「……すでに八割方手遅れの中古品のアニマ、か。果たして、黄央の守りがどこまで持つか……」

  徐々に黒く変色していく白い世界を背に、彼は主が消えた辺りを睨み付けていた。 

 
  ここを出すか出さないかでかなり迷ってた。でも、出してもどうにか最後にはまとめられそうなので、出すことにしたよ。最悪な場合、最後の最後で消すかもね。 

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