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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 お久しぶりになってしまいました黒巳です。文藝部でなくなった途端このざまとは、私はやはり締切がないと書けないタイプなのだろうか。夏のうちには何か一つ…と思っていたのに、気がつけば晩夏、というか、もう初秋?台風過ぎてから涼しくなりました。夜には随分虫の声が響くようになって、秋来ぬと目には清かに見えねども…という風情です。

 
 
 なんか一応色々動いてはいるんですけど、特に報告できるようなことがないです。ので近況というより最近あったこと。
 
 少し遠出して帰りに喫茶店に寄ったときのこと。店のおじさんが注文をとりにきて、私の近くにいたおばさんに話しかけていました。
「ご注文は?」「え~と、そうね、なんにしようかしら……」

なんかやけにゆったりしたテンポのおばさん。
「じゃあカツサンドを」「かしこまりました。以上でよろしいですか?」「ええ」
しかしお店の方、何かに引っかかったのか、他の人にはそんなことしないのにあえて重ねて、
「お飲み物はよろしいですか?」
するとおばさん、
「あら、もちろんいりますよ」
ここで即座に「何になさいますか」と聞いたたお店の人の前でさらにゆっくり悩んでアイスティーを注文していらっしゃいました。
 随分ゆったりした、というか、普段言わなくても飲み物が出てきて当たり前の環境にいるということですかね?物腰の柔らかいご婦人でしたが、なんか独特の空気でした。

 
 ここで更に話題を転じて、実は今日病院行ってきました。家族に「お前ヤバイ。病院行ってこい」と言われたもので。
 
 で、診察室でなんかこんななってて…と患部を見せたらお医者さん
「大分ひどいことになってますね」
 ほっといたら治るかと思ってたんですけど…と言うと、
「あなたは慣れてるから大したことないと思うのかもしれないけど、初めてなった人なら病院に飛んでくるレベルですよ」
???いや、痛いなーとは、思ってましたけど。指が曲がったまんま伸ばせないなーとか、首さわったら皮膚がはがれ落ちてくるなーとか今までもあったんで。
 
 自分は痛みには敏感な方だと思っていただけに、言われたことにびっくりしました。お薬もらってきたので、これでおさまるといいな。


 前置きが長くなりましたが、とりあえず以下に短編一つ。オマージュって言えば許されるのだろうか。パロディとかパクリとか違いがよく分からないのですが。元ネタは教科書にも載ってるし有名すぎるので、知っている前提で書いてます。


 床の中に横たわって、枕元に感じる存在にむけて、もう死にますと女は言った。言ってから、そうか死ぬのかと我が身を思う。ぱっちりと目を開けて見ると、なんとなく困った風に、ぼんやりと男が覗き込んでくる。おい、どうしても死ぬのか、大丈夫だろう、と言う。でも、死ぬんですもの、と返答しながら、女はおかしさがこみあげてくるのを感じる。どうにも呑気なやりとりだ。男は拗ねたようにむっつりと黙り込む。その途方に暮れた様が、またおかしい。
 このかあいらしい人をここに置いていくのかと、ふと冷えた心の隅で思う。すると自然に、言葉が女の口をついて出る。
 わたしが死んだら―男が身じろぐ。死んだら埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って、星の破片を目印に置いて、そうして待っていて下さい、また逢いに来ますから。いつ逢いに来るかねと男が尋ねる。日が昇るでしょう、それから日が沈むでしょう、そしてまた昇でしょう―……それを繰り返して、ねえ、あなた、待っていられますか。男は黙って頷く。一瞬間女の息が詰まる。布団につつまれた胸が押し上げられて、一際高い声で女が言う。百年待って下さい。きっと逢いに来ますから。女は細い息を吐く。男の姿がだんだんとおくに感ぜられる。瞼を閉じれば枕元にぽつねんと佇む男の姿が浮かぶ。男がそうして待っていてくれるなら女は辿り着ける。きっと逢いに行きますから、と呟く女の言葉はもう声にならなかった。

 

 我が身さえ定かに見えない闇に女は浸っている。男が穴を掘る真珠貝が月の光を掬っては投げる。光が女に注がれる。ちらちらと夢とも現ともつかないゆらめきが、女の瞼の裏にかかる。忘れてはいけない約束が女を呼ぶ。男は星の破片を女の墓に置く。女と約束したとおり。金縛りにあったように指一本動かない。けれども女はもがく。微睡みに身を任せていては逢えないのだ。
 赤い日が東の空に昇る。そして沈む。声一つ挙げられず女はもがく。又日が昇る。逢いたい逢いたいと、女は夢に呼ばれる。逢いに行きます、逢いに行きますと、女は約束に呼ばれる。そうして漸く、女は指を動かすことに成功する。始めは引き攣るようにぴくりと、それから徐々に指、手、腕、肩が動くようになる。そうして女は真っ直ぐに、光に向かって手を伸ばす。
 もう何度日は昇り、沈んだだろう。男は只黙然と座り込み、女を待つ。只待っている男の姿が、女には光のように見える。男はふと天を振り仰ぎ、哀しそうな顔をする。待ち過ぎただろうかというように。女はもう、最期の力を振り絞り、闇の中から手を伸ばす。
 ついと持ち上がった芽はみるみる男にむかって伸びていく。そうしてふっくらとした蕾を綻ばせた。
 もう百年が経っていた。


 

                                           終


 
 星の破片は「星のかけ」と読みます。好きなんですよ。元ネタ好きなんです。ここでは語りませんけども。
 しかし夏と言えばいつか書いた「過ぎゆく夏」を、書き直したいなあ、と夏になる度思います。島崎藤村の「酔歌」のイメージで書きたい。古本市で若菜集購入して、やっぱり藤村いいよなあ、と思い始めました。押さえがちに情熱的で!

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