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紅露と黒巳と紫陽花のオリジナル小話不定期連載中
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 やっとこ就活が終わりを告げた黒巳です!通知がクリスマスイヴって、親切なのか嫌がらせなのか。
 

 それはともかく、高校の時に書いていた魔法学園ものをすこし設定とか見直して使いたいなー、とずっと思っていて、大学でもちまちまやってたんですけど、とりあえずキャラクターを見直すために習作みたいなのを、クリスマス仕様で打ってみました。
 今ストックないので、とりあえずこれでお茶を濁そうと思います。つづきに。

 いつもの通り生徒会室で、いつも通りの顔ぶれで、冬休み前の整理をしている時だった。
「ねえ!実家に帰っちゃう前にみんなでクリスマスパーティしない?」
 例の如く、提案者は書記の林りんだった。ちなみに彼女自身は、ほとんどが寮生であるこの学園ではめずらしい自宅通いの生徒だ。
「いつやるつもりだ?おれは終業式の日の晩には帰るよ」
 そしていつも通り、真っ先に反対するのは生徒会長の東周(あずま あまね)だ。学園の終業式はクリスマス・イヴにある。
「なんでそんな急いで帰るのよぅ。イヴにみんなでぱーっとさわいでクリスマス当日に帰ればいいじゃない」
「無理だ。クリスマスには家族で出席しないといけない付き合いがあるから」
 門閥貴族の子息である周には、学園を離れている期間を狙って様々な招待が舞い込む。立場上まさかそれらのすべてをないがしろにするわけにもいかず、結局大方の休みが休みにはなっていないのが常態だ。
「なによ。そんなことなの?」
 だがそんなものには縁がなく、理解を示す気もないりんはそう言って一蹴した。
「少なくとも、お前とクリスマスパーティやるよりは意義のあることだ」
「なにそれ、本気で言ってるの?」
「―イヴが無理なら、少し早めですけど、次のお休みはどうでしょう」
 妥協案を出したのは、後輩の柳八束(やなぎ やつか)だった。りんは一度言い出せば簡単にはおさまらないし、用事があるのにりんの言い分を優先したりなど、周は絶対にしない。二人の言い合いは第三者が口を出さない限り、平行線を辿り続けかねないのだ。
「ん~、そこしかないかぁ…」
 可愛い後輩の提案を受けて、やや不満そうに、しかし仕方なしといった感じでりんが呟いた。周が引かないことは、りんだって分かっているのだ。かといって自分が引くこともしないのだけど。
「林、言っとくが午前中は無理だぞ」
 それまで黙々と棚を片づけていた副会長、辻莞爾(つじ かんじ)が、スポーツ選手のように引き締まった体躯を半身、りんに向けて言った。
「え、なんで?莞爾くん何かあるの?」
 頭一つ分上の位置にある顔を見上げて、りんは尋ねた。その面前に紙束が突きつけられる。
「各部からの、冬期休暇中学内施設使用申請の受付日」
 それを見ろ、と示された紙束は、その申請用紙だった。
「―お前、忘れてたな?」
 周の怒気を孕んだ声に、りんは即決で逃亡を選んだ。
「じゃあ、あたしこれ配ってくる!」
 そう言い捨てるや否やスカートを翻す。各顧問に莞爾からひったくった申請書を渡すために職員室へと走っていくりんを、周はため息と共に見送った。

「で、あいつはまた遅刻か?」
 申請書受付日、受付場所に使う理科室にもう向かおうという段で、周が不機嫌そうに言った。わざわざ理科室を使うのは、生徒会室ではクラブ代表全員はさばけないからだ。主に容量の問題で。
「どうしたんでしょう。りん先輩、今日は楽しみにしてらしたのに」
「こっちに参加しなかったらクリスマス会もなしって言っておいたしな。─辻」
「昨日は来てた」
 周に問われて、りんと同じクラスの莞爾は眼鏡の位置を直しながら、簡潔に応えた。
「寝坊してるのか?」
 そう言った周も含めて、ふと皆の頭を心配がかすめた。りんは軽いショートの髪と活気に満ちた鳶色の目と、何よりその言動から受ける活発な印象に反して、体は弱く、冬を苦手としている。
「連絡してみましょうか…」
 気遣わしげに、八束がそう言った時だった。
「おっはよう!」
 大声のあいさつと共にりんが飛び込んできた。走って来たのか、呼吸は荒く、顔も赤い。
「おはようございます。りん先輩、どうしてたんですか?」
「いやちょっと寝坊しちゃって」
 ほっとして八束が声をかけると、りんはマフラーの下でもごもごと答えた。相変わらずの厚着だ。
「…林、言うことはあるか」
 眉を少しひそめて周が言った。
「何よ周ちゃん。間に合ったんだからいいじゃない」
「そうじゃない。お前…」
 うるさそうに反論するりんに周が重ねて言いかけたところで、りんの体がぐらりと傾いだ。傍にいた八束がとっさに手を貸そうとする。自力で持ち直したりんが言い訳するより先に、莞爾の手が伸びていた。
「大分熱があるな」
 りんの額に手を当てて、莞爾はきっぱり言った。
「林…」
「や、やだ!」
「やだじゃない。親御さんに連絡して迎えに来て貰え」
 周が一歩踏み出すと、りんは一歩下がる。
「残念でした。今日は両親とも出かけてるのよ」
「ああ、どうりでそんな状態で出てこられたわけだ」
 体の弱い娘をやや過保護に心配するりんの両親が知っていたら、風邪を引いたりんを外に出したりするはずがない。
 はあ、と周はため息を一つついた。
「おれは林を送ってく。辻、柳、あとを頼めるか」
「はい。任せて下さい。りん先輩をお願いします」
「こっちは大丈夫だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 さっさと話がまとまっていくのを見て、りんは慌てて声を上げた。
「こじらせる前に早く帰って寝ろよ、林」
「パーティーは残念ですけど、ご自愛下さい」
 気遣う言葉をかけられるが、りんはもはや半泣きだ。
「やだ~。クリスマスパーティやる~」
「ばか言うなよ。早く帰るぞ」
 ぐずぐず言っているりんの頭を軽くはたいて、いつの間にかりんの鞄を取り上げた周がドアを開けた。その背中を見送ってりんもこれはもう無理だと悟ったのか、とぼとぼと後を追って出て行った。残された二人も当初の予定通り理科室に向かうべく、戸締まりを始める。
「じゃあ行くか、柳」
「はい」
 声を掛けて先に行く莞爾の後に、お下げを揺らして八束も続いた。こういうときのための副会長は、おのれの職分をよく理解していた。
 一方学園を出た二人は、会話もなく歩いていた。周は二人分の荷物を持って、ゆっくりと前を歩いている。後ろを歩くりんは、マフラーに顔を埋めてしょんぼりしている。
 学園からりんの家まで、徒歩二十分の道のりを半分ほど過ぎた所で、りんは周の背中に向けて声を投げかけた。
「周ちゃん。ごめん」
「何がだ?」
 こうやって送らせていることか、無理に出てきたことか、何に対しての謝罪か分からず、周は聞き返す。
「パーティ、できなかったこと」
「は?いや別に全く気にしてないけど」
 一番やりたがってたのはお前だろ、と全く予想外の返答に周は首を傾げた。
 りんの家に着くと、周はすぐに熱を測らせ、ベッドにむかわせた。そして結局いれかわりに莞爾と八束が見舞いに来るまで、およそ病人の付き添いには向かない仏頂面のまま待機していた。


>ちょっとだけつづくよ!
 

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